天才の天才による天才のための異世界
第六話 誓約の儀
「あんた、これをどこで手に入れたんだ?」
和也とリリは武器屋で剣の鑑定をしてもらっている。
こちらの武器屋は余り目立たない場所にあり、知っているものは少ないが、通っている人からの評判は良く、まさに隠れた名店という感じだ。
店主のイオンは、まだ若いがその腕は一級品で、彼の神通力「目利きの力」は、あらゆるものを見ただけで名称、特性、値打ちを鑑定し、導き出せることができる。それ故に彼の証言は、例えその業界で世界に名を連ねた人が偽物と言っても覆すことが可能だ。
そんな彼が剣を見るなり机に前のめりになりながら和也に顔を近づける。
和也は興奮しているイオンから離れるように後ずさりをする。和也の行動にイオン冷静さを取り戻し、和也から離れて、咳払いをして鑑定結果を伝える。
「間違いなく本物のクラネデアの宝剣だ。マジで凄ぇ。売ったら一生働かなくて済むな」
「え? マジで? 売る売る!」
「即決!?」
和也の速攻の売却宣言に、隣で見ていたリリは思わず驚嘆する。
「よっしゃぁぁ! これで俺も勝ち組だー!!」
「ちょ、ちょっと、あれだけ苦労したのにそんなに簡単に売っていいの!?」
「は? 何言ってんだ? 一日の苦労で一生の楽が手に入るんだぞ! こんなに良い取引はないだろ!」
大金を得るチャンスに和也の目は完全にイッていた。
すると、イオンが頭を掻きながら口を挟む。
「お二人さん。盛り上がってるとこ悪いけど、この宝剣はそれだけの価値はあるが売る場所も限られてくるのわかってるか?俺みたいなところで売っても宝剣に見合う分の金は無いし、どっかの貴族にでも売らないと」
イオンの忠告に和也は先ほどまでのテンションが嘘のようにへこみだす。
「証明書ぐらいは書いといてやるから、どっかの金持ちにでも見せるといい」
そう言ってイオンはサイン入りの証明書を手渡す。
和也は証明書を受け取り、にっこりと笑みを浮かべ「サンキューな」と一言言って店を出る。リリも後に続くように一礼してから店を出た。
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「さーて、あとはこれを誰に売りつけるかなー」
和也は証明書を団扇代わりにしながら歩いていた。
リリは証明書を失くさないか不安がりながら和也の隣を歩いている。
そんな二人の前にフードを被った男が現れた。
その男は不敵な笑みを浮かべながら二人に近づいてくる。
「そこのお二人さん。ちょっといいですか?」
いきなり話しかけて来るその男を二人は完全に冷たい視線を向ける。
「ちょっとちょっと、そんな不審者を見るような目で見ないでくださいよ」
「いやだって不審者じゃんお前」
「断定!? 初対面ですよね! ひどくないですか!?」
えらくハイテンションなその男はフランと名乗った。
本人が言うには情報屋をしているらしい。
「いや~何やらいいものを持っているじゃないですか。何ならいい取引相手紹介しましょうか?報酬は二割ほどもらいますがね」
「ほぉー確かにそれは良い条件だ。イオンが言う額なら二割ほどやっても問題ないしな」
「では――」
「だが断る!!」
――一度言ってみたかった
和也の返答にフランはしょんぼりする。だが、和也たちはそんなフランに目も向けることなく隣を通りすぎ、「じゃあな」と振り向かずに手をふってその場を去る。
和也たちがその場を去るとフランのしょぼくれた顔は一変。狡猾な笑みを浮かべた……
先ほどのやり取りから数分。リリは疑問に思ってたことを尋ねた。
「なんで断っちゃたの?」
リリの質問に和也は少し間を置き――
「……うざかったから」
和也にしては内容の薄い理由にリリは言葉を失った。
「それに、いきなり出てきたやつを信用する馬鹿はいないだろ。あと、うざい」
「二回言った!?」
和也って友達少なそうと思うリリだった。
********************
とりあえず、和也たちは図書館で今後の行動について話し合っていた。
「さて、これからどうするかだが……」
たまに見る和也の真剣な眼差し。大金がかかっているのだから仕方がないとリリは思った。
緊迫した空気が漂い、リリも、じっと真剣な目で見つめ返す。
そして和也の口が開き、リリは思わずつばを飲んだ。
「家を……買いたいと思います」
「……へ?」
予想もしてなかった言葉にリリは思わず、変な声が出てしまう。
和也は笑いながら続けた。
「いや〜色々あって気にしてなかったけど、俺はこれからどこに住んだらいいのかな〜と思って。さすがに図書館に居座るわけにもいかないし」
「あんだけ緊張感出しててそんなこと?」
「そんなこととは失礼な!俺にとっては死活問題なんだよ。金なら手に入るんだ。先に買う家を決めとかないと保管する場所がない。というわけで、オススメの物件とかある?」
「そういうことなら僕が相談に乗りましょう。あなたに最適な物件を紹介しますよ」
その男は突然現れた。
いきなりの登場に和也達は声を上げるが、その男を見た瞬間、二人の目付きは悪くなる。
「何でお前がここにいんだよ。えっと……フアンだっけ?」
「ウランじゃなかった?」
「フランですよ!!」
フードの男、フランは自分の名前を叫ぶと、二人は「あーそれそれ」と適当に返す。
「で、何でここにいんの?」
「僕の勘がビビっと来たんでね。金のあるところ私ありですよ。」
「やっぱウゼェ。それに信用出来ないな」
「そんなこと言わないでくださいよ!確かに僕の目的は金です。そしてあなたは大金と同等の物を持っている。なので今必要なのは信頼!もちろん物件探しのお題は入りません。なんなら誓約の儀をしてもいいですよ」
「誓約の儀?」
「誓約の儀というのは互いの血を使って約束を守らせる儀式です」
「やり方は?」
「魔法陣を書いた紙に約束を書き、互いの血でサインすると完了です。ただし、双方の同意がないと成り立たないので、安心してもらっていいですよ」
「で、約束を守らなかったらどうなるんだ?」
「基本的には死にますね。まぁ約束を破った場合の誓約もかけられるんで、死ぬ以外の罰が下ることもありますが」
説明を受けた和也は顎に手を当て、頭の中で納得する。和也にとって誓約の儀は、武器になる可能性を秘めている。今後どう活かすか和也は思考を巡らせる。
フランは和也の気が向いているうちに話を進めようとする。
「それでどうします?」
「……いいぜ。誓約の儀ってのを体験したいし、なんせタダだからな。今回は乗ってやる」
「――かかった」
「なんか言ったか?」
「いえいえ、なんも言ってないですよ!それじゃ始めましょう」
慌てふためくフランは、流れるような手際で誓約の儀の準備をする。
紙とペンを用意しそこに魔法陣を書いて互いに机を挟むように座る。
準備が終わるとフランは儀を進め出す。
「それでは確認させてもらいます。
私はあなたの納得のいく物件を紹介する。今回はそのお代はいただきません。ただし、気に入った物件が見つかった場合は宝剣の取り引きに参加させてもらいます。これでいいですか?」
「ああいいぜ。この紙に誓約を書いたらいいのか?」
「はい。こちらに誓約を記入し血でサインすれば完了です」
着々と話を進める和也をリリは少し不安に思っていた。だが、ここまでやると今更引き止めることはできず、心配しながらも和也を見守っていた。
和也はペンを取り、記載していく。
誓約
フランは和也に物件を紹介する。お代は全額免除。
和也は今回の件で納得のいく結果の場合、次の取り引きにフランを参加させる。
この誓約を破った場合、そのものは相手に自分の全権利を与える。
ハイド カズヤ フラン・ストワール
「これでいいのか?」
「はい。これで完了です。誓約を破った場合、宝剣は僕のものですよ」
「はいはい。誓約を守ればいいんだろ」
「それでは行きましょう!!」
こうして和也の家探しは始まった――
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