雑学部!!

白兎

好感の心理学(後編)



「話とはなんだ?」
「え~おそらくなんだが、久賀の恋は実らない」
「根拠は?」
「まず、今回の合コン、あの天草って奴は乗り気じゃないだろ。あと、あいつって心理学とか詳しい?」


 俺の言っている「あいつ」が天草を指すことを理解した哲司は、コクリと頷いた。
 そして、俺は確証を持つ。


「多分、天草はこの合コンを友達のために受け入れたんだと思う」
「だから、その理由は何だと聞いてるんだ」


 答えを急がせる津樂に、俺は思い出してみろと言って、津樂は合コン中の記憶を脳裏に浮かばせる。


「まず、あの今井ちゃんってこは、おそらくお前のことが好きだ」
「ほぅ、で?」
「で、ってなんだよ、もうちょっと反応してやれよ。まぁいいや、今井ちゃんについてお前どういう印象持ってる?」
「印象……元気で活発な子だと思っている」
「それ、おそらく無理してる。『初頭効果』って言ってな最初に出会ったイメージは良くも悪くもある程度親しくなった後でもついてくるんだ。次に、今井ちゃんはお前と同じタイミングで飲食してた。これは『ミラーリング』って言って、人は好きな人の行動を無意識に真似る傾向があって、相手は真似ている人に好感を抱きやすいんだ」


 俺の言っていることと、記憶の中の今井ちゃんの姿を比べて「なるほど」と相槌を打つ。


「つまり、久賀が天草に合コンを持ちかけて、本人は乗り気じゃないけど今井ちゃんがお前を好きだから、お前を連れてくることを要求したってわけ。この合コンは今井ちゃんの為と言ってもいい。あくまで憶測だけど、今回の合コンは『天草プロデュース、今井ちゃんの恋叶えちゃお』って企画だな。現に友達思いなのか、天草は今井ちゃんに付きっきりで、久賀の話適当に受け答えしてたし」
「なるほどな。ならば俺が今井君を振って、天草の目を無理やり久賀に向けてやればいいんだな。あいつが久賀を見ていないのは、今井君が心配だからと」
「心配かどうかは知らんけど、いいのか? お前みたいな奴に恋してる物好きはそうはいないぞ。嘘でも今井ちゃんと仲良くなっても。天草が今井ちゃんをサポートする心配がなければ多少は久賀の方にも気が行くと思う、なんなら――」


 俺の助言を遮るように哲司は、


「俺にはまだ愛だの恋だのよくわからん。フランスの小説家、アベ・プレヴォも言っていた。『恋の力は身をもって恋を経験する時でなければ分からない』と。おそらく俺が今井君を好きになることは無いと思う。ならば早めに答えを出して、彼女には別の恋を見つけてもらう方が彼女の時間を奪わなくて済むんじゃないのか」


 意外と考えていた話ていた哲司に、俺はそれ以上何も言わなかった。







コメント

コメントを書く

「その他」の人気作品

書籍化作品