雑学部!!

白兎

愛の哲学

「さ~て始まりました。哲司さん対津楽さんのデート対決!! 実況は私、放送部の矢敷やしき 舞子まいこがお送りします!」


「誰あなた?」


 どこからか噂を聞きつけ、唐突に表れた矢敷に霧崎は言う。
 矢敷、霧崎は物陰に隠れながら、一ノ瀬たちを見張っていた。
 先行は哲司。待ち合わせのカフェの前で待っている。




「お待たせ~」




「お~っと、ここで一ノ瀬さんの登場です! 果たして、哲司 真也はどういうデートを披露するのでしょうか?」


「騒がしいわね……」


 霧崎と矢敷が隠れていると、後ろから話しかける人がいた。


「お前ら……何やってんだ?」


「雪代先生こそこんなところで何を?」


 雪代が電柱に隠れてここそしている二人に声をかける。
 矢敷は雪代に事情を説明すると、


「何それ! めっちゃ面白そうじゃん!」


 この場にいるメンバーで一番の食いつきを見せた。もうどっちが生徒か分かったものではない。




「それでは行こうか」


「うん」


 哲司と一ノ瀬は移動する。
 霧崎、矢敷、雪代も二人の後を追う。はたから見れば完全に不審者だ。


「遅れてごめんね。もしかして待ってた?」


「いやいや。男がレディより先に来るのは当たり前。君の遅刻ではないよ。はっはっは!」


 紳士的な対応の後に高らかに笑う哲司に一ノ瀬は反応を困らせる。


「着いたよ。ここが君を連れてきたかったところだ!」


 哲司はその店に手を刺し伸ばす。
 見た感じ普通のカフェのようだが、中に入ると違った。
 レトロな雰囲気に包まれて、たくさんの本が置いてある。客は、それをコーヒーでもすすりながら楽しんでいる。


「ここは書店と喫茶店を兼ね備えた、僕にとっては楽園のようなところだ」


「へぇ~マンガも置いてあるんだ」




「これは意外! あの哲司さんが一ノ瀬さんも楽しめるところをチョイス! これは勝負がついたかもしれないぞ!」


「意外って、あなたの彼に対する評価ってかなり低いわね」


「そんなことありませんよ。ただ、普段の彼から予想もできなかったので……」




「どうだい? 結構居心地良いだろう」


「そうですね。難しい本ばかりじゃなくて雑誌や漫画もあるし、メニューも豊富だし、一人で来ても目立たないし、気に入ったよ」




「これは高評価! 一ノ瀬さんの好感度がグンっと上がったかー?」




「そういえばなんで私なの?」


 手元の雑誌を閉じて、一ノ瀬が気になっていたことを尋ねる。哲司はコーヒーを少量口に流し込んで答えた。


「最初は一目惚れ。でも、今日はっきりと分かった。君は良い人だと」


「そ、そんなことないよ! 成績は良くないし、人にはすぐ流されるし、私に好意を持っても哲司君に良いことなんて……」


「日本の芸術家、岡崎 太朗は言った。“愛の前で自分の損得を考えること自体ナンセンスだ。そんな男は女を愛する資格はない”と。僕はこう見えて心で行動するんだよ」


 一ノ瀬は哲司 真也という男が少しだけわかった。
 哲司のデートタイムはここで終了した。





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