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虐められていた僕はクラスごと転移した異世界で最強の能力を手に入れたので復讐することにした

白兎

75・神の拳

「うぉおおおおおおおおお!!!!」

「てゃぁああああああああ!!!!」

 それは繊細さなど微塵もない力の戦い。
 一人はクマでさえも愛らしく思えるほどの巨漢。巨木のような腕、大砲ですら弾きそうな程分厚い胸板。それほどの体躯を持ちながらも存在感を出す厳顔は、さながら鬼のような気迫を醸し出している。

 そんな近づき難い男を相手にしているのは細身の少女。
 揺れる緋色の髪は艶やかに輝き、美しい顔は挑み顔に固められている。
 
 相反する二人が対等に戦えている光景は、異様なものであった。
 大男――ゲルムの一撃は凄まじく、触れるものは破壊、躱せば空気が揺れる。
 それを相手に反撃するのは、純粋に彼女――マリンの実力である。

「うおぉ――っぁお!?」

 激しさを増す殴打の雨。
 防御すら意味を無くすような、生み出される衝撃で周囲の家屋を次々と破壊していく。
 そんな中、マリンはゲルムの拳をいなして、足元を刈り取るように払う。
 力の抜けた顔を発しながら、男の巨躯は横に倒れ、

「てぇやッ!」

 マリンの拳がゲルムの腹部を打ち抜く。
 衝撃が弾けて男は吹き飛ぶ。

「どうだ!」

 マリンのしたり顔が決まる。しかし、内心にあるのは焦り。
 マリンの全力の一撃。拳から伝わったのは破壊の感触ではなく吸収された感覚。
 ゲルムの肉体は見掛け倒しではなく、しっかりと衝撃を逃がしていた。

「びっくりしたぜぇ! 急にバランスが崩れたからよぉ!!」

「私もビックリだよ。 全力で殴ったのに!」

「あぁんだってぇ!? 聞こえねぇよ!!」

 男が手を耳に当てるが、マリンは同じ台詞を吐くつまりは無い。
 勢いよく駆け足たのはマリンだ。
 緋色の髪が横に靡く。

「こいよぉ!!」

 二人の距離が縮まる。
 男の方がリーチが長く、動き出しが早かったのはマリンでも、仕掛けるのはゲルムのが先だ。
 男の巨拳がマリンを襲う。空気を砕く勢いは虚空を打ち抜く。

「おぁっとぁ!?」

 ゲルムは前のめりにバランスを崩す。
 視界に映ったのは、一人の少女ではなく、地面に突き刺さり天に上る棒。
 ゲルムは見上げる。天高く伸びる棒の先には、さっきまで自分に向かっていたはずの少女がいた。

「てぇやぁあああ!!」

 縮む棒は天空の少女に見合ったサイズへと変わる。
 その棒で彼女は振り下ろすように、ゲルムの脳天を叩き割ろうとする。
 
「危ねぇなぁ!!」

 それを後ろに飛び退き回避する。
 だが、それを予見していたように、マリンは地面を叩いた反動で棒先を浮かしてゲルムに標準を合わせると、

「伸びろ!!」

 棒は勢いよく伸びて、ゲルムの肉体を貫く。
 衝撃は例によって吸収されるが、勢いを弱めない棒は延々と伸びて、ゲルムの肉体を幾つもの家屋に打ち付ける。

 男は崩れた瓦礫の中から平気な顔で立ち上がる。
 その様子にマリンは、地団太を踏むながら、

「もう何なの! 打撃が効かないってずるくない!!」

「ぁんだって!? おめぇ声ちっせえよぉ!」
 
「アンタがうるさいの。 この肉達磨!!」

「あぁんだって!?」

 話が通じないとマリンは呆れる。
 打撃は効かない。実力差は同じ。
 ゲルムはパワー一筋だが、マリンは足りないパワーを速さと手数で補う。

 なので攻撃力は五分五分と言ったところだ。
 しかし、防御力が違いすぎる。
 マリンの場合は、しっかりと防ぐことが出来れば痛みは感じても大したダメージは負わない。
 対してゲルムは、防御すら必要ない。彼の肉体において打撃は有効打にならない。

 そこに絶対的自信を持つからこそ、ゲルムは攻撃に集中できる。その分荒っぽく隙も多いが、攻撃が効かないとなると、マリンはどうすることも出来ない。
 マリンの武器――神器“如意金棍棒”は完全に打撃武器。ゲルムの肉体には効かない。

「じゃあ行くぜぇい!!」

「ッく――って嘘っ!?」

 ゲルムは叫び跳躍した。
 もはやそれは跳躍ではなく飛行。
 彼女がその異様さに目を奪われて驚嘆の声を漏らしてしまう。

 百メートルは跳んでいる。
 マナで強化されているとはいえ、その高さは人間かどうかを疑うレベルだ。
 そして、男はその巨拳を引き、肉体に宿るマナが徐々に拳に集まっていく。

 彼女ですら冷や汗を掻く程に緊張を与える。
 空気がゲルムを中心に流れて、これから起こるであろう攻撃にすべての感覚が警笛を鳴らしている。

「【神の拳ボーフ・クゥラーク】ッ」

 男は拳を振り落とす。
 マナの輝きは隕石と見紛う程に圧迫感を与えて――――

「やっばッ――――」

 

 ――――――――ッッッッッ!!!!



 激しい衝撃と轟音を響かせて、マリンを中心として周囲の建物全てを消し飛ばした。
 巨大なクレーターは本当に隕石の落下を思う程のものだった。



 ********************



 身体が痛い。血が足りない。

「こりゃ……まずい…………かも」

 全力の【堅護】で衝撃に備えたが、それでも彼女の骨は折れ、血は吹き出し、気力だけで生命線を維持しているほどの重態。もし、【堅護】で防御していなかったら彼女の身体は抉れる大地の一部となっていただろう。

 あまり考えることをしない彼女だが、この状況では思考を巡らさずを得ない。
 出血多量の状況でも、体中が痛くても、考えなければ死ぬ。
 ここまで相対してゲルムの恩恵は武闘家。実力差が同じくらいなら使える恵術も似通ってくる。
 これほどまでの威力を持った恵術は、少なくともマリンは知らない。
 なら、これがゲルムの天恵と考えるのが普通だ。

 彼は戦闘を楽しむというよりも、常に全力と言った印象が強い。
 もしその印象が事実なら、彼は天恵を隠していたんじゃない。使えなかった。
 単純明快にしてこの破壊力。隠す理由は無い。それでも彼は今の今まで使わなかった。
 つまり、彼の天恵には条件が必要。

「おぉ爽快だぜぇ! アイツは死んだかァ!!」

 天恵を仕掛ける際のモーション。
 雲をつかむような跳躍。この威力、ため込んだマナ量は彼だけの物とは考えられない。
 ゲルムとマリンを結んだ直線延長上に、傷付けてはいけないものがあるとすれば、彼の跳躍は天恵発動に必須。

 もし必要なのが高さだとしたら、単純に考えて使用者の位置が高くなればなるほど攻撃の威力が増す能力。
 それに加えてマナを集める能力。何らかの条件でマナを集めて、尚且つ高さが必要というのは天恵が求める条件としては関連性が小さい。
 ならマナを集めているのは、素質か神器。勿論、素質や神器の能力が高さを必要としている可能性もあるが、どちらにせよ能力発動条件が揃えば危険なのは確かだ。

「次は……ない。ここで……ケリをつけないと……」

 マリンは天恵を持っている。こちらも発動には条件が必要だ。
 今、その条件はクリアされている。だが、条件を通り越してしまっている。
 気力を振り絞り立ち上がるが、膝は揺れ、意識も揺れ、立っているのがやっと、否、立てているのが不思議なほどだ。

「おっ、まだ生きてやがったかァ! 凄んげぇ丈夫だなァ!!」

 ゲルムの気楽そうな顔。
 瀕死のマリンでも感じる。ゲルムのマナもかなり減少している。
 まだ立つマリンを見てもゲルムは一切表情を変えない。これほど派手にやっておきながらだ。
 援軍が来る可能性はある。最早穏便に済ませられる規模を超えている。今頃、他三区でも不思議に思っていることだろう。

 援軍が来る可能性は高いのだ。
 それに加えてマナが減っているのにこの落ち着き用。彼にとってマナの減少は問題ならない。
 自慢の肉体、天恵と素質か神器の力。
 この三柱が彼の自信を不動にしている。

「はぁ……くっぁ、はぁはぁ」

 一歩ずつ、マリンは距離を詰める。
 あと一撃。全力で打てる息力があれば勝機はある。
 あれほどの高さを得ても、今のゲルムではさっきの威力は出せない。
 条件をクリアされる前に、先に仕掛けなければ。
 この戦い、先に攻撃を当てた方が勝利する。

「くっ……」

 あと一歩、そこまで近づいてマリンは膝をつく。
 互いの攻撃範囲に侵入しあっている。だが、膝をつき息を荒げるマリンに対し、ゲルムは平然としている。
 今のゲルムでもマナを振り絞ればマリンを殺すことは可能だ。今のマリンには身を守るマナもない。

「残念だったなァァ!! あと少しダメージが軽かったらァ! この俺を倒せたのになァ!!」

「はぁはぁ……」

「オレの天恵【神の拳ボーフ・クゥラーク】は高さがあればあるほど威力を発揮する! そして俺は“闘士の素質”の持ち主! お前が俺を殴れば殴る程俺のマナ量は増えていく! 最強の組み合わせ! つまり俺は最強ってことだよォ!」

 男が振りかざす拳に、マナが集められていく。
 貯め切るのに時間はかからない。勝ちを確信したゲルムから笑顔が零れる。
 
「私の……」

「……ェ、ぁんだって!」

「私の神器は……伸縮自在の棍棒……豆粒みたいに、小さくすることも……さっきみたいに伸ばせことも出来る。そして天恵は……【強化体質ド根性】。ダメージを食らえば食らうほど……一撃が強くなる……」

「ァア!? だから聞こえねぇよォ!」

「そうだった。聞こえないんだったね……」

 マリンは呼吸を整えて、息を大きく吸う。
 肺の中に埃っぽい空気が取り込まれて、気力と肺を振りしぼり、


「アンタの負けだって言ったんだよ!!」


 疑問に首を傾けるよりも先に、天を見上げていた。
 脳を揺さぶられる感覚と、視界に映る天を貫く一本の棍棒。
 身体が言うことをきかない。それでも分かる。
 目の前の少女に多量のマナが集まっていることに。

 マリンが膝をついた時、極限までに小さくした“如意金棍棒”を地面に突き刺していた。
 ゲルムが勝利を確信し、最後の一撃に踏み出した時、身体を守るマナさえも拳に宿していた。
 だからこそ、如意棒を弾丸の如き勢いで伸ばした時、ゲルムの下顎を簡単に砕いた。

 そしてとどめの一撃。
 マリンの今の状態なら、攻撃できれば最強の一撃になる。
 ゲルムは未だ動けない。だからこそマリンは全力に意識を注げる。

 防御は考えるな。先の事も今は考えるな。
 全てをこの一撃に捧げろ。例えこの後倒れたとしても、ここで勝てば問題ない。
 
「はぁあぁぁああああ!!」

 空気が震えた。
 マリンに集まったマナは、過去最大の威力を得た。
 空気を強引に砕きながら、マリンの拳が狙うのは一つ。
 砕いて弱った一点のみ。

「――ッァがごぁ!?」

 その巨漢が天高く舞い上がった。 
 吐き出す鮮血で宙を彩りながら。

 マリンは昔、ブラウンにこんな事を言われたのを思い出す。


「馬鹿な奴ほど高いとこが好き。ってね!」


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