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虐められていた僕はクラスごと転移した異世界で最強の能力を手に入れたので復讐することにした

白兎

36・作戦通り



「……ください……きてください……起きてください、ジークさん!」


 途切れ途切れだった声が次第に鮮明になっていく。
 優希はその声に言われるがまま、目を開き身体を起こして状況を把握する。
 先ほどと変わらない、いや、変わってはいるだろうがその変化に気付けるほど、景色に特徴がなかった。
 湿っぽい空気に苔と腐りかけた木々が、視界を覆いつくす。


 倒れていたのか、背中は水分を多く含んだ土によって濡れて、肌に張り付く気持ち悪い感覚を覚える。
 優希以外は全員現在地を把握しようといろいろ試していた。
 何故なら包帯の男が使った恵術を知っていれば、ここが安全ルートから外れていることは分かり切っていたからだ。
 現状を打破するためにも、いち早く現在地を把握し、安全ルートに戻ってくるしかない。
 もちろん安全ルートもいくつか選択肢があるため、適当に歩いていれば戻れるかもしれない。
 だが、それは初めて買った宝くじで一等を引き当て、その金で土地を買ったら石油が出てきたみたいな天文学的数値の確立だ。本来ならそれはあり得ない。むしろ、下手に移動すればそれこそ戻れない可能性がある。


「ダメだ。四方八方同じ光景しか見えない。多分、ノマルドの瘴気が幻覚でも見せてるんだと思う。ははは……どうするよまったく」


 片目を閉じて【共感】を使って空中にいるテイミーの眼を通じて広範囲を見渡す最上は、無力なことを思い知らされ、そして絶望的なこの状況にもう笑うしかない。
 テイミーは契約主の最上からあまり離れることはできない。たとえ出来たとしてもノマルドの瘴気が方向感覚を狂わせ、気付けば元の場所に戻っている始末だ。


 安全ルートから外れ無事帰還することは不可能に近い。
 それは周囲に散らばる人間の骨が物語っていた。本来なら悲鳴の一つでも上げる状況だが、全員至って冷静だ。
 もちろん居心地の悪さは感じているようだが、彼女らも人の骨を見るのは慣れてしまったのだろう。


「なぁメアリーの【感索】でなにか感知できない?」


 柑奈は背伸びして少しでも遠く見ようとしながら、メアリーに聞いてみる。
 メアリーの【感索】なら何か引っかかるかもしれない。そして人の気配が感知できればそこが安全ルートの確率は高い。少なくともまだ包帯男はノマルドにいるはず。


「無理だな。私の【感索】も上手く機能しない。幻惑作用のある瘴気が邪魔をしてるせいだろう」


 最上とテイミーもダメ、メアリーもダメ,感知能力を持つ二人がダメとなると、他の方法の模索には時間がかかる。
 それでも全員冷静だ。ここで慌てても状況が変わらないのを理解しているから。


「とりあえず雨風が凌げるところを探しましょ。何日かはここで過ごすことになりそうだし」


「じゃあ皆これを身に着けて」


 最上が全員に配ったのは、草で編み込んだミサンガだ。
 優希も手渡され【観察】を使ってみる。【鑑定】は無機物だけだが、【観察】は有機物に使用できる。
 対象の名称、種類、解説などが脳裏に焼き記されていく。
 最上からもらったミサンガは普通の草で作られているが、そこから感じる多少のマナが、このミサンガのを教えてくれた。


魄信はくしん】――物体にマナを込め、相手に身に着けさせることで何処にいるのか把握できる恵術だ。本来は契約獣に使用するのだが、こうして迷いやすい場所には仲間に使うことでお互い逸れることはない。
 身に着けている間は相手も最上の場所を把握できるからだ。全員散り散りになっても、最終的には最上のいる場所に集まる。
 これで固まらずとも手分けして行動できる。


「じゃぁ洞窟とか見つけたら信号送ってね。最上がその場所に行ったら全員集まるから」


 そう言って柑奈は腐った木々の奥に消えていった。
 他のメンバーも迅速な行動を心掛けているのか、気付いた時にはもういない。
 取り残された三人は、西願寺とメアリー、そして優希。


「……行かないんですか?」


 何故かその場にいる西願寺に優希は問いかける。
 彼女は何を言っているのとでも言いたげな表情を浮かべ、


「依頼人を放置するわけにはいきませんから。ささ、私たちも行きましょう」


「あ、こっちに行きませんか?」


 自分たちも移動しようと足を進めた西願寺を優希は引き止める。
 その声に彼女は振り返り、とある方向に指さす白髪の少年を見た。


「そっちに何かあるんですか?」


「いや、特に何かあるわけではないんですが、こっちの方がいいと僕の勘が言ってるんですよ」


 もちろんそんな勘など一切働いていないし、そんなものに頼ることほど危ないものはない。だが、どの方向に進んでもそれほど変わらない状況なら、勘という不確定なものでも理由としては十分だ。
 優希としてはこの意見を通したかった。むしろ通さなければ帰れなくなるからだ。
 彼女は優希の勘というものを一切疑うことはしなかった。


「商人の勘なら信用できそうですね。分かりました、ジークさんについていきます」


 笑いながら踵を返して優希の元に戻る。
 そんな彼女に優希は一言礼を述べて足を進めた。
 メアリーはただ黙って優希のしたい様に行動させる。それが一番楽しめると判断したから。






 ********************






「凄い……ジークさんって本当に勘が働くんですね」


 その場所を見つけるまでそう時間はかからなかった。
 まるで隕石でも落ちたかのように、直径十メートルほどは地肌が露出し、その範囲の樹は根っこから吹き飛ばされて粉々になっているか、他の樹にもたれかかるようになっている。
 その中央に建つ小さな小屋。高床式の構造で九畳ほどの部屋に続く階段が、湿地に突き刺さる。材料も悪く建築技術も皆無な人が作ったのか、今にでも壊れそうなそれはまだ形を保ったまま辛うじて建っていた。


 近くには濁ってはいるものの川が流れ、周囲の樹は吹き飛ばされて平地な為、見通しも良い。
 小屋は補強すれば十人くらいなら暮らせそうだ。まさかこんな場所に人の住んでいた形跡があるとは思わなかった、西願寺は嬉しそうに小屋を調べる。
 高床式の小屋は西願寺が歩くたびに軋み、一歩歩くたびにそこが抜け落ちるビジョンが再生される。


「これを作った人は魔導士ですかね。恵術で乾かされた木を材料に【創成】でこの小屋を作ってますね。角が不自然な形で癒着してますし」


 【創成】は魔導士が使う恵術だ。材料や媒体さへあれば思うように物体を構築できる。簡単に言えばただ単に材料の形状を変化させるだけだ。だが、こういった簡易的な拠点を作るのには適している。
 それに【創成】は高練度の恵術になる。これを作った人物はなぜ安全ルートから外れたのか疑問に思うくらいに練度は高い。


「作った魔導士は死んでしまったのでしょうか?」


 小屋の中は血が滲んだ包帯や、埃をかぶった瓶や鍋などが散乱しており、生活していた形跡は残っている。
 だが、肝心の建設者の遺体はなく、作った本人が生きているのか死んでしまったのかはわからない。少なくとも小屋の状況から一年はこの場所に誰も立ち入っていない。


「まぁその辺はおいおい調べるとして、まずはみんなと合流しないと」


 そういって西願寺は小屋の扉を開けて階段を下りて、天にその綺麗な手を掲げる。樹は吹き飛ばされている為、重なる葉や枝がなく、空の景色が一望できる。
 西願寺は掲げた手にマナを込めて、上空へと撃ち放つ。
 恵術でも何でもない、ただマナを放出しただけ。もちろん殺傷性など一切ないし、恩恵者が信号として使う以外に特に使用方法はない。




「……あの男か」


 唐突にメアリーが小屋の軋む音を聞きながら呟いた。
 西願寺は小屋の外、他の皆が合流するまで外に待機するつもりだろう。小屋の中は優希とメアリーの二人きりだ。


「気付いてたのか。まぁ状況を考えれば必然的に導き出せるか」


 二人の脳裏には共通の人物が思い浮かぶ。
 優希は既知で、メアリーは憶測。だが、お互いがお互い共通の人物を言っていることは理解できた。
 メアリーは屈んで血の滲んだ包帯を、親指と人差し指で摘まみ上げた。


「お前が頑なにこの場所に行こうとしてたし、あの包帯男が【標転】を使ったということは、転送先に一度行っていたことになる」


 彼女は包帯を捨て立ち上がり、銀髪を少し整える。


「包帯男がこの小屋を作り、生き永らえ、お前はそれを知ってあの男に協力してもらったんだろ?」


「あぁ。ノマルドに関してはあの男が一番知っている。そして俺もこの辺の地図は教えてもらったからな。どこに何があり、どっちに進めば安全ルートに戻れるかは知っている。思考命令マインドプログラムで洗脳して吐かせたから嘘の心配はない」


「にしてもあの包帯男は途轍もない強運だったんだな。安全ルートに戻れるとは。ま、二度と治らない怪我は負っているようだが」


 優希はコートのポケットに手を入れて壁にもたれる。
 優希の体重が背中越しに壁に伝い、甲高い音とともに少し凹む。


「あの男はノマルドでマナ切れになってな、魔族に追われて安全ルートを無視した結果、この場所にたどり着いた。奴が応用力の高い魔導士でなければこの小屋の建設は難しいだろうし、十年かかったとはいえ偶然にも安全ルートに戻れたんだ。強運どころか超運……むしろ天恵の域だと思うけどな」


「ふ~ん……で、私はどうすればいい? 先に帰っておけばいいか?」


「帰るな、何もするな、空気を読んでじっとしていろ」


 メアリーがいきなりいなくなれば、当然全員探すことになる。そうなれば予想外な状況になってもおかしくはない。彼女には手伝いもさせず、じっとしてもらおう。


「ジークさん、健君が来たんでもうすぐ皆もここに集まると思います」


「こりゃ凄ぇ、よく見つけたな」


「いやぁ僕の勘も捨てたもんじゃないですね」


 ポケットに入れていた手は後ろに回し、壁にもたれるのを止めて姿勢の良い直立、不敵な笑みから愛想の良い笑みへ。
 変わり身の早さにメアリーは粘り付くような視線をぶつけた。




 柑奈達が合流したのは優希が小屋を見つけてから一時間ほどだった。
 小屋は補強したおかげで軽く飛び跳ねる程度では壊れないほどになった。さすがに、九人では少し狭い気もするが、全員身体を伸ばして寝ころべるくらいは広い。




「これを……」


「食べるのか……」


 卒倒しそうになるのを必死に耐えながら最上とメアリーは葉の皿に盛りつけられた食料に目をやる。
 アカメガシワのような大葉に乗せられたそれは、今もなおうねうねとその身体をねじらせて、皿である葉に粘液を付着させる。


「携帯食料はここぞって時に置いておかないとな。幸運なことに鍋も瓶もある。近くに川もあるし、魔導士もいる。調理器具、環境は十分に揃ってるからな。数分後にはこいつらも食欲をそそる物に変化させてやるぞ」


 場所は小屋の外。湿地に仁王立ちするはオールバックの少年と、取り巻きの少年少女。
 魔道具によって浄化した水を瓶に入れ、洗った鍋と持参した調味料の数々を手に取る。
 西願寺の恵術によって、乾いた木材で簡易的な調理場を作り、火を準備して春樹は不敵に笑う。


「さぁ食材たちよ! その肉体に宿る食味をオレに見せてくれ! フハハハハハ」


「誰だあいつ? あんな奴いたか?」


 業火によって灼熱と化した鉄板のステージ上を食材《昆虫幼虫》たちが華麗に舞い、塩コショウなどの調味料が、香ばしい匂いを醸し、虫たちの演舞に花を添える。
 慣れた手つきはさながらプロの料理人のようで、今までの大人びた性格は消え去り、難敵を相手にした戦士のような雰囲気をその背中から訴えかける。


 完全に別人になった春樹にメアリーは元の春樹を思い出せないでいた。
 そんな彼女に柑奈は苦笑いしながら、


「春樹は料理する時、性格が熱血漢に変わるから。でも味は保証するわよ。あんな虫たちでも美味しく仕上げるから」


 ノマルドには兎や猪などの動物はいない。そういった類では土臭い魚だけだ。あとタンパク源になるとすれば木や土の中に生息する虫たち。
 どういう訳か元の世界と違ってノマルドはいろんな虫が環境に適応し生息している。
 カブトムシの幼虫のようにぷりぷりとした白い肉体を持つ幼虫、揚げればカリッといい音を鳴らしてくれそうなカマキリのような虫、その他小石を除ければゴキブリのように素早く且つ集団で動くアリやワラジムシ。


 拠点散策のついでに春樹はその食材《昆虫幼虫》をかき集めていたのだ。魚などはまた明日にでも取ってこればいい。とりあえずは食材があるうちはこれでしのぐしかないのだ。
 だがいくら美味しく仕上がるとはいえ、材料が虫と知って生きるためと思いながらも身体が拒絶している人が一人。
 優希がその人物がいないことに気が付き、


「そういえば最上さんはどうしたんですか?」


「健君なら気分が悪くなったとかで小屋に戻りましたけど」


 西願寺が小屋を指さしそちらを見ると、補強され見た目こそ悪いが強固さを感じさせる小屋から最上の声が響き渡る。
 一人二役、人格の分裂、一方は生きるためと言い聞かせ、もう一方が自分が最も苦手なものだと現実をたたきつける。
 本気の葛藤を垣間見た優希は、もう一人拒絶していた銀髪少女を思い出す。


「お前は平気なのか? 最上と一緒で軽く引いていただろ」


「私か? 確かに最初はふざけるなと思ったが、あの男中々やるな。いくらゲテモノでもあの男が作り出す香りに私の胃が疼いているのを感じるぞ」


(こいつ……食べれればなんでもいいんじゃないのか?)


 そんな疑問を心の中で押し殺し、優希は香ばしい香りと最上の分裂した人格による言葉の二重奏、題して『葛藤』で、料理が出来上がるまでの時間を十分に楽しんだ。



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