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虐められていた僕はクラスごと転移した異世界で最強の能力を手に入れたので復讐することにした

白兎

32・西願寺皐月

 
「今回の依頼は護衛ということでよろしいですか?」


 一通り話を聞いた西願寺は最後に依頼の簡潔な内容を確認。
 彼女の解釈に優希は「えぇ」と頷いてから、


「本当にすいませんね。本来なら魔界に収集に行くのは眷属に任せるのですが、自分で行かないといけないものでして」


「構いませんよ。低級魔界ならあなたを護衛しながら行くことは可能ですし、それに恩恵者なら護衛の手間も少なくて済みますから」


 やはり優希が恩恵者であることは分かっているようで、何気なくそのことを伝えてきたが、深い意味は持ち合わせていないようだ。
 弓兵以外に漏れるマナを抑えることはできないのだろうか。
 心中でそんなことを考えながら、優希は再び落ち着かせるように紅茶をすする。


「因みにですが、あなたの練度を教えてもらっていいですか?」


「恩恵は魔導士、練度は4754になります。もうすぐ天恵が宿るので頑張らないと」


 恩恵や練度だけでなく、意気込みまでも語ってくれた西願寺。
 優希が眷属試験をやっている間も、終わってからダラダラと過ごしている間も、彼女らは熱心に練度上げしていたのだろう。
 もうすぐ天恵が使えるようになるなら、今回低級魔界に言った時点で練度5000は超えるだろう。
 優希の練度はいまだ四千足らず。果たしてこの差を権能で埋めることは可能なのだろうか。


「失礼でなければジークさんの恩恵も教えてもらってよろしいですか?」


 優希が眷属プレートを持っていることは知らないので、練度は聞いてこなかった西願寺。
 ここで優希はどの恩恵を答えるか考えた。
 眷属資格試験では敵を攪乱、警戒させるために剣士ということにしたが、今回は剣士で通す意味はあまりない。普通に鑑定士とした方が商人という立場や、今後の振舞いからしても楽だ。
 しかし、鑑定士としているときに、クラッドやクラリス、亜梨沙など優希を剣士と思っている人物に出会すと厄介だ。
 ルミナスの方は剣士でないことはレクラムに天恵が発動した時点で別の恩恵だと認識されているので、出会ってもあまり問題はないのだが、彼女の場合眷属であることは知られているのでやはり出会いたくない。


「僕の恩恵は鑑定士です。まだまだ未熟ですので天恵などは使えないです」


 優希は本当の恩恵を明かすことにした。亜梨沙達に出会う可能性は低いだろうし、たとえバレても彼女らなら敵になる可能性は低いので問題ないだろう。
 自嘲気に笑う優希に、西願寺は口元を隠して笑いながら、


「ご謙遜を。低級魔界に行くということは少なくとも練度3000はありますよね。私たちと然程変わりませんよ」


「いえいえそんな。二千の差は大きいですよ。練度は二千から上がりにくいと聞きますし、銀色のプレートが金に代わるだけで、眷属の方にとっては一流と認められたようなもの。自分にはとても……」


「そ、そんなことないですよ。鑑定士の方が練度3000を超えるのはとても難しいですよ。私たちなんかかよりジークさんの方が……」


 お互いお互いを立てる様にやり取りをした後、それを中断したのは一人の少女。


「ん、なんだその女は」


 銀色に輝く前髪から覗く寝ぼけ眼をこすりながら、寝ぼけているのか覇気の感じられない声でメアリーは言った。
 着崩れた部屋着から白皙の肩が見え、西願寺は少し頬を赤らめて、


「あの……こちらの方は?」


「彼女は商売仲間のメアリーです。見てわかる様に少し人目を気にしないところがありますので」


 苦笑いを交えながら、優希は着崩れたメアリーの部屋着を直し、彼女にしか聞こえないように、


「詳しいことは記憶を覗いて話を合わせろ」


 小声でささやく優希の言葉を、その寝ぼけた脳はすぐに覚醒し、不敵な笑みを浮かべる。
 優希に言われてすぐにメアリーは優希の数分前からの記憶を覗く。
 そして、すべてを把握したメアリーは、先ほどの失態を打ち消すかのように咳ばらいをした後、


「これは恥ずかしいところを見せたな。私は商売仲間のメアリーだ。よろしくな」


 親し気な口調に優希は表情を曇らせるが、意外にも西願寺の評価は悪くないようで、


「私は西願寺皐月。よろしくねメアリー」


 こちらも合わせるように親し気に対応する西願寺。
 折角好印象を持たれようと頑張っていたのが水の泡になると思ったが、意外にも大丈夫なようで安心の吐息を零す優希。
 その反応が見たかったのか、メアリーは楽し気に笑い、先ほどまで優希が座っていた椅子に座る。


「おい、私にも紅茶を淹れろ。あと、サンドイッチが食べたい」


 命令口調のメアリー。
 普段なら「自分でやれ」と一蹴するのだが、西願寺の手前、せっかく作り上げたジークという人格を崩すわけにもいかず、


「はいはい……すいません西願寺さん。少し外します」


 目が全く笑っていない笑みをメアリーに向けつつ、優希はメアリーにも紅茶を出して、西願寺に一言言ってから部屋を出る。
 二人きりになった部屋は静けさが続く。 
 メアリーは昼過ぎだが目覚めの紅茶を楽しみ、静寂の時間を断つように潤した口を開く。


「一ついいか?」


 唐突な言葉に西願寺は「何?」と首を傾ける。
 その反応に、メアリーは再び湯気の立つ紅茶をすすってから、


「何故眷属に? 皐月くらいの歳なら戦う道など選ばないだろう」


 眷属の平均年齢は三十歳を超える。
 若すぎると恩恵者である以前に命を懸ける覚悟など持ち合わせていない。確かに二十歳以下で眷属になる人は少なくないが、やはり理由が気になるのも事実。
 そして、優希の記憶を覗いたメアリーは、西願寺が召喚者であることを知っている。
 眷属になった理由は成り行きや渋々など、いろいと予想はできるが、それにしては今の生活を受け入れているように感じられた。


 メアリーの記憶を覗く権能は、〖純白の園ヴァイスガルテン〗に招待された者にのみ使用できる。 西願寺の心の内を調べるには直接聞くしかないのだ。


 メアリーの質問に西願寺は嫌な記憶を掘り起こしたのか、顔を俯かせる。
 ティーカップに残っている紅茶に自分の顔を反射させ、今どんな表情をしているのか、その目で確認した後、その奥に呼び覚まされる記憶を吐き出す。


「眷属になった理由は無理やりだったの。最初は怖かった。見たこともない化け物が襲い掛かって来て、感じたことのない痛みを体験して、なんでこんなことになったんだろうって何度も思った」


 俯いたままだが、声のトーンから表情は暗いことは見なくても分かった。
 そして、メアリーは肩肘をつきながら、西願寺の話に耳を傾ける。


「でも落ち込んでいるだけじゃ現状は変わらない。戦うしかない……そう思った」


「だが、その覚悟を持つことは難しい。皐月の言う現状を打破したとき、皐月は何を望むんだ?」


 彼女が召喚者であることは知っている。
 現状打破というのは元の世に帰ることだろう。なら彼女は何の理由があって帰りたいと思うのだろうか。


「謝りたい、助けたい人がいるの」


「助けたい人?」


 メアリーが聞き返すと、西願寺は誰を思っているのか曇りの中に笑みを浮かべた。


「真面目で優しくて、自分の意見が強く言えないのが玉に瑕だけど、誰でも平等に接してくれるそんな人。けど、その人は今苦しんでる。助けてほしいと願ってるのは知ってる。けど、私はそれを知っていながら知らない振りをし続けた」


 庇うつもりはないが、メアリーは彼女が感じている罪悪感に異議を唱える。


「それは皐月が悪いのか? ただ助けを求めてる奴に救いの手は伸ばされない。そいつがどんな奴かは知らないが、そいつはその現状を受け入れてたんじゃないのか? 運命に抗うことをやめた人間ほど救えない者はいない」


「厳しいね。けど、それだけじゃないの。彼は私を救ってくれたのに、私は自分の身を守るために……その人を見捨てたの」


「見捨てた……か」


 何に罪悪感を感じているのかメアリーには理解できなかった。
 この世界は弱肉強食、人間は他者を蹴落として生きている。保身のために他者を切り捨てるのは当たり前ではないだろうか。
 そんな考えが、メアリーを構成していたからだ。


 思いを吐露した皐月は、心中を支配されたように黙り込む。
 その姿を見ながらメアリーは残った紅茶を完全に飲み干し、ソーサーにカップを置いて席を立つ。
 そして、ベッドに腰かけながら、 


「そいつのことが好きなんだな」


「うん……え、い、いやそそ、そんなんじゃなくて!」


 無意識か一度肯定しながらも、顔を赤くして慌しく否定した。
 その反応を楽しんだメアリーは、


「なら頑張らないとな。他の連中はともかく、皐月のことは気に入った。その望み、私は応援するぞ」


 メアリーの言葉に、西願寺は少し心が落ち着いたようで、表情を和ませながら、


「ありがと。じゃあ逆に質問していい?」


「あぁ、なんでも聞いていいぞ。生い立ち、趣味、性癖、スリーサイズなんでも言うぞ」


「いや、そんな恥ずかしいことは逆に聞きたくない気もする。そうじゃなくて、ぶっちゃけメアリーとジークさんはどういう関係?」


 コイバナを求める女子はどうしてこう生き生きとしているのだろうか。
 前屈みになって瞳を輝かせる西願寺。
 メアリーはその質問に天井を見ながら考える。
 以前亜梨沙達にその質問をされた時は、利用し利用される関係と言った。それについては変わらないが、いい加減文で説明するのもめんどくさくなってきた。
 短く簡潔で的を得ている関係。


「あいつは私の玩具だ」


 メアリー自身は納得しているが、彼女の説明に異議を唱える者が一人。


「誰が玩具だ」


「ヒャァ!?」


 いきなり背後から声がして、驚きのあまり間抜けな声を出した西願寺。
 優希は皿に盛り付けたサンドイッチを片手にジト目でメアリーを見ていた。


「間違ってはいないだろう? 基本的にお前は私に遊ばれてるんだから」


「馬鹿な事言ってないで早く食えよ」


 西願寺の手前いつものように対応できず、内心イラつきを覚えながらも、優希はベッドの上に座るメアリーにサンドイッチを渡す。


 そしてついさっきまでメアリーが座っていた椅子に腰掛け、


「まぁ話の内容はともかくとして、彼女と打ち解けているようで何よりです」


 感情を押し殺す、友好的な笑みを浮かべる事に慣れてきた優希。
 そして、その笑顔を保ったまま、


「では、待ち合わせは明日の昼前、場所は南区の外門でお願いします」


「分かりました。ではよろしくお願いしますね。じゃあねメアリーまた明日」


 優希に一礼、メアリーに手を振って挨拶した後、彼女は優希の瞳に強い面影を残して退室した。


 そして沈黙が数秒部屋を支配して、


「……ふぅ〜疲れたぁ」


 背もたれに寄りかかり大きい溜息をつく。
 その様子にサンドイッチを完食したメアリーは、ベッドの上に皿を置き、人差し指と中指を一舐め。


「そんな調子で今後どうするんだ? 今回は皐月一人だったから良かったが、明日からは連中も一緒だぞ」


 この短時間で随分仲良くなったなと、メアリーの対人コミュニケーションに感心しながら、優希は正しく座り直し、


「そもそもお前がもう少し寝ていれば、彼女はとっくに帰ってたんだ。俺が言い返せないのをいいことに、楽しみやがって」


「やっぱり私に遊ばれてるじゃないか」


 何故か言い返せない優希。
 一瞬でも確かに遊ばれてると思ってしまった自分に呆れながら、疲れをほぐすように肩を揉む。


「演技し続けるのも疲れるな。〖思考命令マインドプログラム〗でも使うかな」


 確かに〖思考命令マインドプログラム〗を使い自分を洗脳すれば、ジークを演じるのではなく、完全にジークとして行動できる。


 しかし、〖思考命令マインドプログラム〗は、長時間使用出来ない弱点がある。
 条件を満たすと権能を解除出来るようにすることは出来る。
 優希も何時間も先の未来を見通せるわけはなく、下手をすれば永遠に洗脳されたままになる可能性もあるのだ。


「そればかりは耐えるしかないな。権能は有能だが――」


「万能じゃないだろ? だからこうして先行きの疲れを感じてるんじゃないか」


 メアリーは移動し、先ほどまで西願寺が座っていた椅子に腰掛ける。
 銀色の髪を耳にかけ、肩肘をついて優希を見る。


 突き刺さるような視線を感じ、優希はメアリーに視線を合わせる。
 黒真珠の瞳に映る優希の姿。
 彼女はその綺麗な瞳で優希を捉えたまま、


「本当にやるんだな?」


 何を今更と返答するのに時間はいらなかった。だが、メアリーの後悔しないんだな? とでも言いたげな表情が、優希の返答を遅らせる。


 だが、その遅れた時間は優希の決意をより強固なものにして、


「……あぁもちろん」


 不敵な笑みを浮かべ、優希は空いた食器を片付けた。

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