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虐められていた僕はクラスごと転移した異世界で最強の能力を手に入れたので復讐することにした

白兎

26・ルミナスという女

 
 優希は建物内で時間が過ぎるのを待っていた。優希の手元には十四枚のプレート。あの後他の受験者からプレートを奪い、ついでに〖思考命令マインドプログラム〗を掛けて奴隷化しておいた。優希の命令通りに動くなら彼らは他の受験者のプレートを持って優希の所に来るだろう。あまり期待していないが。


「退屈そうね♡私と遊ばない?」


 突然の声に優希は声のする方に素早く足を振り抜く。しかし、優希の足は虚空に弧を描いて、地面へと戻る。


「とてつもなく早い反応と攻撃。だけど戦い慣れしてないのは分かりやすいのね♡攻撃が単調すぎるわよ♡」


 彼女は優希の蹴りを難なくかわし、笑みを浮かべて優希を考察する。
 露出度の高い服は今の一瞬で少しだけずれて、谷間部分が更に見える。本来その姿に鼻の下を伸ばす場面だが、今の優希はそういった感情ではなく、明らかに敵意を持った目で見つめていた。
 その殺気立った瞳に女は体を疼かせながら、


「いいわぁ♡あなた最高よ。ねぇ、私と取引しない?」


「取引?」


 女の提案に優希は驚くと同時に疑問に思う。優希はこの女と初めて知り合った。お互い存在は知っていたが、こうして直接話したのは今が初めてだ。そんな相手がいきなり取引を持ちかけるなど警戒しないわけがない。


「私の名前はルミナス。私はねぇ正直眷属の資格なんかどうでもいいの♡強い人と戦えればそれで。なんならこの取引で私の見返りは無しでもいいわ」


 ルミナスが自分の目的を話している時、とても興奮しており舌舐めずりしていた。
 そして優希も薄々感じていた。彼女にはまだ勝てないと。なら、彼女の取引には応じた方がいい。


「で、そんな奴が俺になんの取引をしたいんだ?」


「簡単よ♡私はあなたの知らない事を教えるわ♡代わりにあなたの能力について教えて♡」


 優希の能力、つまり権能について教えて欲しいのだ。優希にとってはかなりの痛手。だが、優希が敵の情報を欲しがっているのもまた事実。死ぬ心配は少ないとはいえ、敵の力が分からないと勝てる保証もない。


「……分かった。だが、あんたのくれた情報が嘘でない根拠はあるのか?」


「それもそうねぇ……なら、信じないなら信じなくていいわ。あなたも嘘をつくならつけばいい」


 ルミナスの諦めの早さに優希は逆に警戒する。


「どう言う事だ。お前は何がしたい?」


「さっきから言ってるじゃない♡私は強い人と戦いたいの♡つまり私はあなたと……いずれのあなたと戦いたいの♡ここであなたを失うわけにはいかないの♡」


 もはや取引と言っていいのか分からないが、優希としてもヒントとして彼女の情報は欲しい。それに彼女の言い分だと優希が嘘をついても何ら問題はない。
 それに彼女は味方に引き込もうとしていた人物。ここで話をしても損はない。


「分かった……で、俺の知らない事って?」


 優希が受け入れたのを見て、彼女は優希の周りを回るように歩きながら、


「あなたは一つ勘違いしている。あなたの敵、レクラムの目的も試験の合格じゃない♡」


「合格じゃない? この試験で合格以外ならあんたと同じ戦闘狂か快楽殺人者くらいだろ」


「戦闘狂なんて言い方されると少し凹むわぁ♡けど、そのどちらでもない。違和感に気付かない? あなたのチームについて」


 彼女の言っていることが本当かどうかは置いといて、優希は自分のチームについて考える。
 優希のチームはクラッド、クラリス、亜梨沙、メアリーの五人。プレートは今優希が所持しているので合計百枚。
 違和感……違和感とはなんだ?
 優希は考える。考えて考えてようやく気付く。行動している優希と待機していたクラッド達の交戦率の差に。


 行動している優希が今までの襲撃パターンは死角をつく不意打ち。それはまさに優希の居場所が分かっているかのように。
 対してクラッドたちは待機中交戦した気配は無い。敵が巡回しているなら、場所はすぐにバレているはず。優希が戻ってきたらそれこそ場所は確定される。
 なら何故優希たちのチームが打ち合わせしている時に襲撃しなかったのか。優希達のチームに敵が襲えない理由があるから。


「だとして、その理由って何だ?」


「あなた……彼女の正体知らないの?」


「彼女? ぁあ、亜梨沙か。勿論知ってるさ。何で召喚者のあいつがこの試験を受けているかは知らないけど」


 亜梨沙は召喚者な為、眷属プレートはあるはず。なのにこの試験を受けている理由が気になるは気になるのだが、それがレクラムが襲撃してこない理由になるのだろか。
 確かに彼女の天恵は脅威だが、彼女は元々レクラムのチームにいた。能力を使うタイミングなどいくらでもあっただろうに。


「いやその子じゃないわよ♡」


「……は?」


「桃色の髪をした女の子♡」


 そう言われて浮かぶのはクラリスだ。だが、彼女は獣使で天恵は使えない。敵にとって何ら脅威では無い……はずだ。
 いや、ルミナスは正体を問うていた。つまりクラリスの正体が襲撃出来ない理由。


「そう言うことなら知らないな。俺はアイツに今日初めて会ったんだ」


「そう? 結構有名よ彼女♡シルヴェール帝国第一皇女クラリス・シルヴェール。これが彼女の正体よ♡」


 優希はあまりの存在に言葉を失う。大陸を支配する大帝国の皇族なのだから。


「……なるほどな。そんな奴が何でこの試験に参加してるのかは知らねぇけど、正体知ってりゃ確かにそんな奴襲えねぇよな。下手すりゃ処刑ものだ」


 貴族を殺すことは如何なる理由があっても判決は死刑だ。この帝国の法は貴族が住みやすいように作られている。


「レクラムの目的は彼女……王妃を誘拐すること」


「誘拐? そうなれば矛盾する。彼女に危害を加える気があるなら襲撃してくるはずだ。何故そうしない? レクラムは何故彼女を狙ってるんだ?」


 理由が知りたい。それを利用できるかもしれないからだ。


「彼はね、帝国に復讐する気なの♡理由は知らない。けど、この試験中に彼女を無傷で拉致するしか彼には方法が無いの♡」


「……目的は分かった。何がしたいのかも。だが、それなら誰かとチームを組まれる前に拉致ればいいだろ? 何故待つ必要があった?」


「それはこの世界で拉致しても意味がないから」


「意味がない?」


 彼女を復讐に使うなら、これほどのチャンスはない。何故なら普段の彼女は厳重な警備網の中だからだ。おそらく彼女は誰にも言わずこの試験に参加している。なら、今は彼女を守るものが無いのだ。これほどのチャンスは無いだろう。


 ルミナスが言ったこの世界。それがどういうことか、すぐには分からなかった。
 だが、推測だけど言葉にしてみる。


「ここは現実じゃないのか?」


 ここが現実ではないのなら、ここで拉致しても意味がない。
 試験官のアルが一般人に危害を加えないように言ったのは、この世界が現実のものであると思わせるためだろうか。


「あの試験官の天恵は他人の魂を自分の仮装世界に送り込むもの♡今でも私たちは受付会場で眠ってるのよ♡けれど、この世界でのダメージは現実にも反映される」


 アルの天恵は、メアリーの〖純白の園ヴァイスガルテン〗と似たような力だ。
 つまりこの世界で死ねば、現実でも死んでしまうのだ。それはつまり天恵の能力も同じ。レクラムの天恵は人を服従させ奴隷化させる。即ち、この世界でクラリスを服従させるのが、レクラムの目的。


「姫の契約獣は、最強クラスのもの♡彼女自身練度が高くないから、最高の力は出せないけれど、それでも脅威よ♡」


 クラリスの契約獣――フォルテの実力は優希も自分の目で見た。レクラムが警戒するのも分かる。


「レクラム自身は戦闘の腕にあまり自信がない♡だから彼は他の全員を取り込むことに決めた♡そして敵が彼女一人になった時、彼女を服従させる。それが目的♡」


 フォルテのお陰で、レクラムはすぐに手が出せなかった。だから準備を整えて動くことに決めた。なら、彼女を使えば取引は可能だ。


「で、そっちのメンバーの恩恵と能力は?」


「こちらの攻撃力であるセフォントは剣士で天恵は【破壊神の一撃ザ・デストロイ】♡攻撃した物を確実に粉砕する能力。あなたの居場所を監視していた子はルイス♡彼に天恵はないけれど、主に恩恵を生かして監視役ね♡」


 そう言ってルミナスはある方向を指差した。それは窓で優希は窓の外を慎重に覗く。
 だが、そこには何もなかった。瞳を動かしながら、何か不自然な点がないか探るが、見つかる前にルミナスが答えた。


「無駄よ。あの子が【共感】を使っているのは擬態蝶、透明な蝶よ。見つけるには【感索】を使わないと」


 そうなるとお手上げだ。優希の練度では【感索】効果範囲は全力でも五十センチ程度。ここからでは分からない。


「それならここでお前と話をしているのもバレてんじゃないのか?」


「でしょうね♡けれど、何を話しているかまでは分からない♡なら、私が裏切ったことにはならないの♡」


「と言うと?」


「レクラムの天恵は【出来損ないの兵隊達エシェッカーエスクラヴ】♡彼が命令したことを遂行しようとして失敗すれば、絶対に逆らう事の出来ない奴隷になるの♡今私が命令されているのはあなたの情報を持ってくること。この状況もその為と思っているでしょうね♡」


「その天恵の解釈はどれくらい広いんだ? 実際に行動した時か、行動しようと思った時か」


「全て♡実際に命令に従えば任務を遂行するしかない。自分や他者が任務を遂行していると認識した時点で能力が発動するの♡私はここであなたに最初に取引を持ちかけて、見返りにあなたの事を教えてと言った。仮に聞く気がなくても、教えてと言った時点で命令を遂行しているの♡」


 ならば、何故彼女は優希に接触したのか。遂行しようとしなければリスクは背負わない筈なのに。
 それに優希が本当の事を言わず、そのまま彼女がレクラムに情報を渡せば、虚偽の情報な為レクラムの命令を遂行出来ず奴隷になる。
 彼女の行動理由がイマイチ分からない。


「つまり、私が助かるにはあなたが本当の事を教えてくれるしかないの♡どう? 教えてくれる?」


 彼女はどうやら優希達の味方。だが、優希がここで嘘を言った場合、本人の意思に限らず彼女は敵となる。出会った時の一瞬のやりとりで、彼女が優希より強いのは明らか。
 なら、本当の事を話した方がいいのでは?


 嘘を言うか真実を言うか。この二択は今後大きく影響するだろう。
 しばらく潜考する。
 そして優希が選んだのは――






 ********************






「……あ、おかえりなさい。どうでしたか?」


 移動した拠点に戻った優希に、最初に声をかけたのはクラリスだった。改めて見ると気品のあるたたずまいや言葉遣い。皇族と言われても納得がいく。


「微妙な反応だったな。周辺の奴らも俺を警戒しているだろうから、チームに引き入れてくれる確率は低いと思う」


 実際優希はチーム入りの交渉などしていない。ルミナスと話した後、優希は適当に時間を潰していた。
 レクラム達の目的が目前の少女なら、プレートの枚数を気にする必要はない。
 もう奴らは受験者全員味方にしているのだろう。つまり現状は五対他全受験者。あまりに無謀。


「俺たちもそろそろ動こう。敵の拠点は分かってる。俺とクラリスで敵の拠点に乗り込むから、亜梨沙とクラッド、メアリーは邪魔者が出ないよう、周囲の注意を引いてくれ」


「おいおい、敵の拠点に二人で乗り込むとか正気か? 護衛にアリサを連れて言行った方がいいだろ」


 それではダメだった。確かに敵の拠点に乗り込むのなら、彼女の天恵は必要不可欠だ。だが、優希は敵のところに殴り込むのではない。あくまで交渉する為だった。
 優希の作戦には亜梨沙を近くに置いておくわけにはいかない。


「大丈夫、秘策はある。だけどそれには途中で誰かに乱入されたら終わりなんだ」


「理由があるならそれでもいいけどよぅ、ジークの言う秘策ってなんなんだ? それを聞く権利くらいはあるだろ?」


 優希の言う秘策。それを言わずただ信じろと言って聞いてくれるほど、優希達は信頼関係を築いていない。


「……残念だけど言えない。言ったら敵にバレるから」


 話せないなら話せない理由を言えばいい。幸い亜梨沙が敵――レクラム達について知っているのは容姿とレクラムの天恵の効果のみ。なら、言い訳などいくらでも思いつくわけで。


「敵にはとてつもなく耳が良い奴がいる。この会話も聞かれてるんだ」


「それなら秘策って言ったこと自体やばいんじゃないの?」


 亜梨沙が言っていることもそうだが、そこは別に問題ではない。秘策の存在がバレても秘策の内容がバレなければ、何ら問題ないのだ。
 それにその問題を気にしているのは、優希とメアリーを除く三人だけだ。メアリーはそもそも気にしていないし、優希に関しては全て知っているのだ。
 そもそも敵にそんな耳を持った奴などいない。全てはクラリスと二人になる為。


「分かった。俺ァ信じるぜ、ジーク」


「……あたしもそれでいい」


 亜梨沙とクラッドは優希を信じた。残りはクラリスのみ。正直クラリスは敵の拠点に乗り込むのだ。一番危険と言える。


 だが、彼女の答えは決まっていた。なぜなら敵の存在が身近になった時、心の中で憤りを思い出していたからだ。


 人を奴隷化する能力。何人かは命を落としている。いくら法に触れないとはいえ、これを許せるほど彼女の心は広くない。


「わたくしももそれで構いません。わたくしも相手チームのリーダーさんには話があります」


 全員の合意を得たところで、優希達は行動に移した。



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コメント

  • ノベルバユーザー232154

    名乗る会話の前に、文章でルミナスの名前が出て来るのは矛盾があります。

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