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虐められていた僕はクラスごと転移した異世界で最強の能力を手に入れたので復讐することにした

白兎

20・眷属資格試験



「皆さま、本日はよくぞお集まりいただきました。今回の試験官をさせていただく、アルと申します」


 試験官のアルは洒落た服を着て、特に目立った武器はなく、気になるのは右手の人差し指にはめた指輪ぐらいか。パット見の印象で言えばアルの恩恵は魔導士、武闘家、獣使、あとは支援系恩恵の三つ。


 深々と礼儀正しくお辞儀するアルの首には、黒い眷属プレート。つまり、練度は1万を超えている。今ここで集まる恩恵者の中では圧倒的な実力を持っているのだろう。
 威嚇のつもりか、アルはマナを周囲に放ち、ヒリヒリとした感覚が優希を襲う。
 だが、アルのマナはとても落ち着いていて、周囲の空気に溶け込んでいる。つまり、現時点でアルに警戒心を抱いていない奴、即ちアルが威嚇したことに気付いていない奴は、間違いなく敵ではない。


「では、試験内容を説明させていただく前に注意事項を一つ。本試験は毎年多くの死者を出しますが、騎士団、衛兵ともに一切関知しませんので、受けられる方は自己責任でお願い致します。今ならまだ間に合いますので、受験を拒否する方はあちらの扉からおかえりください」


 アルは会場で唯一の扉を指さす。だが、出ていく人は見受けられない。
 眷属の資格試験は多数の死者が出るようだ。試験内容にもよるが、去年は千五百人の受験者がいて、三百人の死傷者が出たそうだ。それほどまでに過酷ということなのだろう。一応試験官は死者を少なくするべく配慮しているらしいが、あまり期待は出来そうにない。


「では、皆さま受験されるということで、試験内容を説明させていただきます」


 アルは懐からペンを取り出す。
 そのペンはエアペンシル、略してエアペンという魔道具だ。ペン先から光を放ち、人の視覚に残像をはっきり長時間残すというもの。紙などを必要としないためその場で書くだけなら非常に便利だ。一本銀貨300枚。
 エアペンを使い宙に何かを描き始める。それはどうやら地図のようで。


「今回の試験は単純。皆様にはこちらを奪い合ってもらいます」


 そう言って取り出したのは、糸で吊るされた木で作られたプレート。眷属プレートを模したそれを、ここにいる全員に配る。優希もそれをもらい、【鑑定】をしてみるが、特に仕掛けはない。ただの木と糸だ。優希は周囲に従ってそれを首にかける。


「皆さまにお配りしたのは、眷属プレートを模したものです。皆さまにはこちらを奪い合ってもらいます。エリアは帝都の庸人街全域、集めるプレートは最低百枚。百枚以上集めて再びこの会場に戻ってきてください」


 ここにいるのは約二千人。つまり今回の試験で合格するのは二十人ほど。庸人街全域というのはかなり広い。百枚集めるだけでも相当大変だろう。


「ですが一般人に危害を加えるのは絶対してはいけません。したら即失格、内容によればこちらで対処する可能性もございます」


 そう言ったアルの目はさっきまでと違いとても鋭い。一般人に危害を加えれば最悪アル達試験官に殺されるのだろう。どうやら今回は空気に溶け込ませずに殺気を放ち、全員の表情が固く曇りだしていた。どうなるか自分なりに想像したのだろう。


「では試験開始は十分後。打ち上げられた花火がスタートの合図です。それでは皆さま健闘を祈ります」


 にっこりと笑いアルは指を鳴らす。
 すると会場を埋め尽くすほどの魔法陣が展開される。味わったことのある感覚、この感覚はまさにクラスでアルカトラに召喚された時のような感覚。
 だが、あの時とは違いとても落ち着いている。危害を加えるつもりが無いからか、はたまた一度体験したからか、それとも恐怖心が無いからか、どの理由が適応するかは分からないが、とても落ち着いていた。


 瞳を閉じると魔法陣の光が瞼を通り抜けて少し明るい。
 だが、その明るさも収まると、今度は冷たい風が頬を撫でる。


「おい、いつまでそうしているつもりだ?」


 隣から聞こえた声に反応し、優希は瞼を上げる。
 そこは薄暗い会場ではなく、数十分前まで歩いていた庸人街。アルが使ったのは練度8000を超えると使用できる魔導士専用恵術【移空】、平たく言えば転移魔法。


「人がいないな」


 優希たちがいた時は、それはもう多くの人で賑わっていた。だが今は、人一人いないどころか気配も感じない。都民が消滅したかのような異様な空間。人だけでなく動物も存在しない。


「試験だから避難したんじゃないのか?」


 考え込む優希に、隣のメアリーは一番現実的なことを言ってみる。だが、それはそれでかなりの力の入れよう。何せ数万という人が避難しているのだから、二千人のために数万が動くのはかなり異様だろう。
 それに、避難したのならアルが言っていた一般人に危害を加えないというルールは何だったのか気になる。だが、優希の思考が追い付く前に、試験開始の花火が鳴る。昼間の花火はあまり綺麗ではなかった。


「んじゃ、集めま――ッ!?」


 行動開始と足を進めようとした途端、優希の〖行動命令アクションプログラム〗が始動した。とっさに顔を後ろに引いた優希の視界には鋭い切っ先が通り抜ける。
 優希は瞬く間に視界を移動させ現状を把握する。優希の脳天を貫こうとした男は、近くの民家から出てきたらしく、木の扉は粉々になっている。後ろのメアリーは目の前で襲撃されたというのに、心配どころか楽しそうだ。
 現時点での敵は一人、今尚勢いが消えずに優希の前に飛び出る男のみ。


 優希は頭を後ろに引いたため、重心が後ろに傾く。だが、優希はそれを利用する。後ろに掛かった重心はそのままに、バク転の要領で手をつくと、目前を通り抜ける男の腹に、強烈な蹴りを決める。


「ぐゅばぇッ!」


 胃液を吐き散らして男は宙を舞う。
 手加減せずに蹴り込んだので、マナで多少防御しているといっても、かなりのダメージを与えたらしく、一瞬で気を失った。
 とりあえず一つは木製プレートを取得したも同然だ。


「この分だと二百枚などすぐに集められるな」


 微笑みながら言うメアリー。
 なぜかメアリーの分も優希が集めることになっている。


「それはどうだろうな」


 優希はメアリーの予想に異議を唱える。
 メアリーは「どうしてだ?」と聞き返し、優希は今やっと落下してきた男から木製プレートをはぎ取る。


「一応この試験、受験者が死んでも騎士団や衛兵は関知しないって言ってただろ? つまり、殺人が合法化されてるわけだ。そうなれば一部狂った奴が出てきても不思議じゃない」


 それはつまり、わざと試験をクリアしない奴が現れるというもの。
 この試験はプレートを集めるだけでは合格にはならない。再び受付会場に戻って初めて合格なのだ。
 ならば、百枚集めてもわざと会場に向かわず、他の受験者を襲うことを楽しむ奴が一人や二人いても不思議ではない。そうなれば話は変わる。恩恵者の練度にもよるが、いくら高くても一人で何百という敵を作ればさすがに安全ではないだろう。ならば、同じような考えを持つ者同士で集まり楽しむ方という策も生まれてくる。


 最高二十人のチームを作ればかなりの勢力だろう。それ以上は不合格者が出るため、最高でも二十人だろう。


「それでも、そんな奴らが二十人のチームが作れると思うか?」


「別にチームを作る奴は狂人だけじゃないだろ。二十人は合格できるんだ。徒党を組んで突破するって手も当然ある」


 二十人の百チーム。とまではいかなくてもその規模のチームは五つぐらい出来るだろう。さすがの優希もそんな大人数相手にはできない。ならば、こちらもチームを作るほかないだろう。


「と言ってもめんどくさいなぁ。適当に捕まえて〖思考命令マインドプログラム〗仕掛けようか」


 〖思考命令マインドプログラム〗を使えば、簡単に下僕へと変わる。仕掛けるまでが苦労するのだが。


「最悪それでいいだろう。今は集められるだけプレートを集めることが優先だな」


 チームを作っていない内に、出来るだけ多くのプレートを奪う。そうすれば、例え〖思考命令マインドプログラム〗が失敗しても交渉材料として使える。なんせ集めるのはプレート百枚、誰が誰のを取ろうが、最終的に百枚持って会場に向かえばいいのだから、プレートは多く持っていて損はない。


「なら行動開始だ。もしかしたらチームが出来始めてるかもしれないし、三十枚は集めておきたいな」


 優希は屋根の上に飛び乗り周囲を見渡す。あちこちで戦闘が始まっているのか、とても騒がしく、誰も彼も損害など気にもせず、思う存分力を出し合っている。
 爆発や建物の崩壊などで立ち上る砂ぼこりと黒煙。


「過激だなぁ、こいつら遠慮って言葉知らんのか」


 毎年これほどの損害が出ていれば帝国もかなりの出費だろうに。
 そんな同情の言葉を思いながら、優希は騒がしい戦闘真っ盛りの方に走る。
 思えば力を理解してのまともな戦闘はこれが初めてだ。ガノンの時は明らかな不意打ちだったし、弾丸鼠の時は力技だった。権能を理解しての戦闘はこれが初めてだ。


 最初に目を付けたのは五人の男女。それもどうやら構図的には三対二。三人組は全員男、所有している武器から剣士、槍兵、弓兵とバランスが取れている。対するは優希と同い年くらいの少女と若い青年。一人は華麗な衣服を身に纏い、煌びやかな桃色の髪は動きやすいように後ろでくくられ、澄み切った青い瞳は強い意志が感じられる。


 そんな彼女の前にいるのは、赤みのある黒髪をした青年。手にしているのは鍔の無い刀。短ランのような服装に、赤いバンダナを額に巻いた青年。鋭い目に宿るは緋色の瞳。そうとう鍛えられているのか、肘までまくり上げられた袖から見える腕はとても固そうで、立ち振る舞いからも戦闘経験値が滲み出ている。


 とりあえず優希とメアリーは様子を伺うことにした。
 近くの屋根上から座って観戦。今ここで乱入してもいいのだが、お互いに潰し合ってくれるならそれでいい。だが、どうやらこの二組は資格試験とは別のことで争っている様だ。


「この方はもう戦う意思はございません。これ以上の暴力は無意味です」


 桃色の髪をした少女の綺麗な声には嫌悪感のようなものが混じっている。
 彼女と青年に庇われるように倒れている手負いの男性。どうやら、三人組の男が手負いの男からプレートを奪ったにもかかわらず、負傷していることをいいことに、さらなる乱暴を振るっていたのだろう。それを見捨てることができなかった二人が、今こうして三人組の前に立っている、ということなのだろう。


「はぁ? なに甘っちょろいこと言ってんの? そいつは死ぬ覚悟でこの試験受けてんだぞ。だったらどうなろうがそいつ自身の責任だろうが」


 三人組の剣士の男がそう言った。その意見には優希も同意。
 受験者はすべて死を覚悟でここにいる。そんな奴がいくら不当で過剰な暴力を受けようがすべては自己責任。弱い方が悪いのだ。


「確かに彼もそれは覚悟の上でしょう。この方一人に対してあなた方三人が襲いかかろうとわたくしは特に何も言いません。ですが、彼のプレートはあなた方の手の中、加えて彼は降参と言っていました。これ以上彼を傷つける理由はないはず」


 互いの意見をぶつける。
 高飛車なのか気が強いのか、決して負けない信念を持った彼女もそうだが、黙っていないのはもう一人も同じ。


「俺もただの喧嘩なら全然やってもらって結構だが、一方的な暴力となれば話は別だ。それに嬢ちゃん一人に男三人って言うのも気に食わねぇ」


「な、馬鹿にしないでください! わたくしは一人でも大丈夫です!」


「あれぇっ、そこ怒るとこ!?」


 二人のやり取りから、どうやらもともと仲間ではなく、ただ成り行きと意見の一致で一時的に共闘している様だ。
 緊迫する空気。




「どっちが勝つと思う?」


 メアリーが対立する二チームを楽しむように見ながら、優希の見立てを聞く。
 優希は退屈そうに溜息をつき、未来でも見透かしているかのような、憂鬱の瞳を向けながら、


「ん、普通に考えてあの二人だろ。感じるマナだけの判断だが、練度だけで言えば両方俺と大差ないだろうし、対する三人は練度1000っていったところか。弓兵の奴がマナを抑えていなければの話だけど、どのみち警戒すべきは弓兵だけ」


 ならば可能性だけでも結果的に二対一の構図になる。もちろん、三人組のチームワークや武器など現状では計り知れない情報を加えれば、三人組にも可能性はある。
 優希がこっそり【鑑定】を仕掛けてみるが、武器は全員普通だ。もちろん武器としてのランクは申し分ないのだが、神器や魔道具のような特殊な力があるものではない。


「ならお前らのプレートも頂くとするか」


 剣士の男の言葉に全員武器を構える。剣、槍、弓を構える三人。それに反応するようにバンダナの青年は刀を構え、桃髪の少女は鞭を取り出し地面を叩く。するとどこから現れたのか一匹の猫が現れた。
 ボンベイのような黒い猫は、少女の肩に乗り、敵である三人を睨みつける。


「全く気が強いのも困りものだにゃ。勇ましいのはボクとしても好きにゃけど、あまり勇ましすぎると嫁の貰い手がにゃくなるよ」


「もうっ、フォルテがそんな心配しなくてもいいの。いいから集中して!」


 ピリつく空気、整う戦闘態勢。マナが放たれ衝突し、空気が激しく振動する。他の場所でも戦いは行われているが、ここはまだ戦いが始まっていないのにも関わらず、他の場所と負けず劣らずのマナの衝突。


 誰が勝つのか、どう戦うのか、少し興味の沸いた優希はただ黙然とその光景を見つめていた。



「虐められていた僕はクラスごと転移した異世界で最強の能力を手に入れたので復讐することにした」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

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コメント

  • ノベルバユーザー27545

    20話
    >試験管のアルは洒落た服を着て
    なかなか珍しい擬人化。
    肩がないずん胴で服が着られるのか?

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