生意気な義弟ができました。
生意気な義弟ができました。〈年越し編 その2〉
「恵太さん、年越し蕎麦は?」
俺は対面キッチンで鍋の前に立つ恵太さんに、リビングから顔を覗かせた。
「もうできるよ、そっちでお酒飲んで待ってていいのに」
優しく微笑んでそう言ってくれる恵太さんはやはり、いつ見ても大人の包容力そのもので、一緒にいて落ち着く。
「一人で飲んでても楽しくないでしょ。早く一緒に飲みましょ」
「はいはい、じゃあちょっと待っててね」
蕎麦を茹でて年を越す支度を進める恵太さんを、俺はただ眺めていた。
「恵太さん」
名前を呼ぶと、手元を動かしながらどうしたのと尋ねてくる。
「俺ら付き合って、結構経ったよね。もう5年?」
「そうだね、もうそんなに経ったんだ」
早いな、と恵太さんは一言こぼす。
確かに、そう考えると案外、恵太さんとの恋人歴は長いものだ。それでもなぜか、付き合いたての頃から俺らの関係性は大きく変わっていないような気もする。今でも恵太さんはあの珈琲店でマスターをしているし、教職に就いてバイトは辞めたものの、俺は未だにあの店に通いつめている。
「もし俺らが普通のカップルだったら、もう結婚とかしてたのかなーって」
俺がそう言うと、恵太さんは一瞬手元を止めてこちらを見た。
「…結婚?」
「そう、結婚してそのうち子ども作って、親になってさ。恵太さんだったらきっと、良いパパになるんだろうなーって」
俺は恵太さんが子どもとじゃれているところを想像して、ふふ、と気持ち悪くニヤけてしまった。
「結婚願望とかあるの?誠くんは」
「んー、全く無いとは言わないけど、俺は今が一番楽しいし。逆に恵太さんは、結婚したいとか思わないの?」
俺がそう問うと、恵太さんはうーんと唸って考えた。
「僕はもともと同性愛者なわけだし、したいとは思ったことないかな。誠くんと同じように、今が一番幸せだよ」
恵太さんはそう言って優しく微笑む。
「じゃあやっぱ、俺らはこの先もまだまだずっと一緒っすね」
俺がそう言うと、恵太さんはもちろんと頷いた。
「あっ、恵太さん、もうあと数分で年越しますよ」
何気なく聞こえてきたテレビのカウントダウンが、年明けまでの時間を刻んでいる。
「はいはい、お蕎麦もできたよ」
二人でテレビの前のテーブルに座って、蕎麦をすする。何年目かの恵太さんとの年越し、いつもこうして隣でその瞬間を過ごすのだ。
「恵太さん、蕎麦美味い」
「うん、美味しいね」
目の前のテレビ番組が、年明けまであと数秒をカウントする。年が変わる瞬間に、俺は隣に座る恵太さんの服の袖を引っ張って、頬に口付けた。
「今年もよろしくね、恵太さん」
俺がそう笑うと、恵太さんは少し目を丸くしてからすぐに、にこりと笑い返してくれた。
「うん、今年もよろしく、誠くん」
そう言ってから、恵太さんは今度は唇に軽く口付けてきた。
「ちょっと、誘ってんですか」
「先にしたのはそっちでしょ?」
悪戯な笑みを浮かべて楽しそうにする恵太さん。俺はなんだか悔しくて、片手のひらをすぐ隣にある恵太さんの足に擦り寄せた。
「お蕎麦食べ終わったら、あとでしましょーね」
それを聞いた恵太さんの眼差しが、一瞬だけ色を変えた気がして、俺はすぐに手を引っ込めようとした。がしかし、それはすかさず恵太さんの手のひらが追いかけてきて捕えられる。
「食べ終えるまで我慢できたらね」
もう既にスイッチが入ったのか、不敵な笑みでそう微笑まれる。
俺はそのあと、変に対抗したことを後悔するのだった。
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