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生意気な義弟ができました。

鈴木ソラ

生意気な義弟ができました。32話




おにーさんが逃げた。

勝手にしろ、と一方的に叫んで家から出ていった。どういう訳か、おにーさんは俺にコイツの、相良の言うことを信じて欲しいらしい。だがそれは無理だ。どんな天変地異が起ころうと、俺はこんなふざけた奴の言うことなんか信じない。

「で?なんでお前はまだ居るわけ」

俺は一方的に切られたスマホを片手に、にっこりと貼り付けただけの笑顔をこちらに向けるそいつを睨みつけた。

「なんでって、俺は零央の見舞いに来てるんだけど…」

平然と答えるそいつに、俺は手元にあった枕をバンッと投げつけた。相良は顔面に飛んできた枕を掴んでブツブツと愚痴をこぼす。

「ふざけた嘘ついてないで早く本当のこと言え、気色悪い。何企んでる」
「ほんと酷い言い様だなぁ。まぁでも相変わらず、俺に疑心しか向けないよな零央は」

相良はさっきまで貼り付けていたような愛想のいい笑顔をやめて、こちらをじっと見つめる。

「別に企んでるって程じゃないけど、ほら、好きな人を自分のものにしたい、それだけでしょ?零央」
「……前も言ってたけど、それ、まさかおにーさんを俺から略奪しようって話?」

俺がギロリと睨みつけると、相良はまた気持ち悪い笑顔を貼り付けて笑った。

「御明答、さすが俺の親友」

ほら見ろ、やっぱり全部嘘だ。どうせろくでもないことを企んでる。

「お前の親友になんかなった覚えはないってば。ってか何、やっぱ相良って俺に恨み持ってるの?」
「別にそんなのない。言ったじゃん、俺と零央はよく好みが合うんだって。お兄さん、俺の言動一つ一つにビクビク警戒して、意地は張るけどホントは何にもできないうさぎちゃんってとこかな。無垢で従順、鈍感で騙されやすい、零央が好きそうなタイプ」
「……ふざけんな、お前にあの人はやらない」
「くれなくても奪うんだよ。きっとお兄さん、そのうち零央より俺のとこに来るね」

何の根拠があって言ってるのか知らないが、相良は余裕そうに言い切った。間違いない、おそらくコイツは既に何か別の手を打っている。

「…何考えてる、あの人に何した」
 
掴みかかりそうになるのを我慢して、俺は相良をじっと見つめた。

「殺気立っちゃって怖い怖い。別に大したことはしてないって」

俺はヘラヘラとそう言う相良にイラついて舌打ちする。

「じゃあ俺は帰るけど、お大事に」
「…うるさい早く帰れ」

俺が強く言うと、相良はまたヘラヘラと笑って部屋を出て行った。今日一日で何度アイツを睨みつけただろうか。

おにーさんはいつも要らない意地ばかり張る。鈍感で純粋だから、相良の言うこと間に受けて騙されて、きっと今でも本当に相良が俺を好きだって勘違いしてる。電話は繋がらないし、体調は悪くて追いかけることも出来ないし、散々だ。

「……ちっ」

ズキズキと痛む頭を抱えて俺は何度目かの舌打ちを打つ。相良は見舞いと称して訪ねてくるものの、アイツのせいでまったく体調は悪化するばかりだ。大したことはしてないとか言うけど、相良の事だ、どうせろくなことしてない。おにーさんは、いつかの麻海さんとかいう爽やか王子よりも数倍は厄介な奴に捕まってくれた。

俺はしばらくベッドの上で俯いて、手元のスマホを見つめた。何度も掛けたおにーさんへの電話の履歴が目につく。

「………っくそ……ほんと手がかかる……!」

俺は最悪なコンディションのまま、パーカーを羽織って家を出た。空は雲一つない、今の俺とはそぐわない晴天だ。家で寝ていてさっきまでは気にならなかった体調不良も、さすがに外に出れば嫌でも不調を思い知らされる。体は熱く重いし、走ろうと思ってもふらついてうまく走れない。

おにーさんが行くとこ、大学やバイト先の塾…はさすがに無いか。だとしたらいつもの喫茶店か、誠さんの家に押しかけたか、もしくは麻海さんの…。

「っ、最後のは一番嫌…」

俺は一人でイラついて、なりふり構わず喫茶店へ向かった。


喫茶店へ着くと、入るなりカウンターに立っていたマスターに酷く驚かれた。コーヒーの小洒落た香りが俺の焦燥を包み込む。けれどそこに俺の探してる人物の姿はない。

「…零央くん?どうしたの、なんだか…すごく体調悪そうだけど…」

マスターは驚いてから、次は心配そうな顔をしてこちらを見た。俺はゼーゼーと息を切らしながら、カウンター越しにマスターに詰め寄った。

「……はぁ、っ…………おにーさん、来ませんでしたか」
「…え?真澄くんは来てないけど…何かあったの?」
「…いや、まあちょっといろいろ…」

ここで一から説明している訳にもいかない。ここに居ないとしたら、次は誠さんの家か。

「…マスター、誠さんの家の住所教えてもらえますか、緊急です」
「えっ?い、いいけど…真澄くんと喧嘩でもしたの?」

マスターは胸元から手帳を取り出して、手早く住所を書き記していく。

「喧嘩…っていうか、まぁ、そうなんですかね。逃げられたっていうか、迎えに行かないと帰ってこないと思って」
「…そっか、それは迎えに行かなくちゃだね。でもすごく体調悪そうだよ?平気なの?」
「……正直しんどいですけど…そんなこと言ってる暇ないんで、大人しく家で待ってる訳にもいかないし」

俺がそう言うと、マスターはやや不安そうにしながらも止めることは無く、住所をメモした紙をこちらに手渡してきた。俺はそれを、ありがとうございますと一言礼を言って受け取る。去り際に、マスターは倒れないようにね、と念を押すようにして俺を見送った。

今頃おにーさんが何してるのか分からない。もし麻海さんに泣きついてでもしたらきっと、俺はおにーさんを許せなくなる。俺から逃げるなと、早くあの人を怒ってやりたい。早く、俺のところへ戻ってきて欲しい。

自分でも引くくらい、こんな女々しい感情抱いたのはいつぶりだろうか。いや、もしかしたら初めてかもしれない。たぶんそれくらい今の俺は、恥ずかしいほどあの人に惚れてる。



教えられた住所に着いて、やっと誠さんの家らしき一軒家を見つける。春日の表札が飾られているのを見て、俺はすぐさまインターホンを押した。しばらくして、玄関から誠さんがでてきた。

「あ、零央くん?」
「…おにーさん、来てませんか」

少し驚いたようにする誠さんに、俺は早速おにーさんの所在を問いた。すると、少し気まずそうにしてから誠さんは答える。

「来てたんだけどさ、ちょっと前に出てったんだよ…なんか行かなきゃいけない所があるって言って。…てっきり零央くんの所かと思ってたんだけど…違ったんだ」
「それって、どれくらい前ですか…どこに行くとか、言ってました?」
「3、40分前かな。どこに行くとは言ってなかったけど、誰かと電話で話してからすげー深刻そうな顔して出てった」

一歩遅かった。電話って、俺の電話には出ないくせに、誰と連絡してたって言うんだ。まさか、相良…なのか。何を企んでるのか分かったものじゃない。

「……わかりました…ありがとうございます」

俺がそう言って去ろうとすると、誠さんが後ろから呼び止めた。

「零央くん、俺は詳しくは話聞いてないんだけど、あいつ自分ができないことでも平気で無理しようとするから、ちゃんと見ててやって」
「……はい、任せといてください」

きっとまた、おにーさんは何か一人で無理しようとしてる。そんなことさせる前に、俺が迎えに行かなくちゃならないんだ。

誠さんの家を出ると、パーカーのポケットの中でスマホがブーッと震えた。




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コメント

  • 鈴木ソラ

    ご指摘ありがとうございます!修正しておきます。

    1
  • きつね

    今回も面白かったです!!!!!
    最後の 喫茶店を出ると、 は誠くんの家じゃないんですか?勘違いだったらごめんなさい!次の話も楽しみにしてます!

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