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生意気な義弟ができました。

鈴木ソラ

生意気な義弟ができました。23話




『2年春日かすが、至急職員室へ来なさい。繰り返す───』


穏やかな昼休み、ガヤガヤとした教室に響いたのは自分を呼び出す放送だった。


「…やべ、俺なんかしたっけ」

姉貴の作った弁当を開きかけて、俺は心当たりのない悪事について、胸に手を当てて考える。

「あはは成樹、そんなことしてる暇あったらさっさと職員室行ってきたら?」

クラスの女子に笑いながら正論を突きつけられ、俺は大人しく教室を出た。

2年に春日は俺だけだし、どう考えても俺のことだ。しかも俺を呼び出した先生は、クラス担任であり部活の顧問であり生活指導の担当でもある。

つまりだ、心当たりがありすぎてどれが呼び出しを食らう理由として最も相応しいのかが分からない。




「オカちゃぁん…なんだよ俺なんかしたっけ?」
「言い出したらキリがないけど全部聞くか?」

俺を呼び出した岡島おかじま先生、通称オカちゃんは、職員室に入るなり俺を待ち構えて立っていた。

「うぇぇ…聞きたくねーよそんなん…」
「まぁいい。呼び出したのはあれだ、一昨日提出の課題、まだ出てないな?」
「えっ、それで昼休みにわざわざ呼び出しかよ!腹減ってんのに!」

俺がそう声を荒らげると、バチッとおでこにデコピンが飛んできた。

「ったく、俺はおまえの腹より成績の方が心配だ…来年受験生だぞ?自覚はあるのか」

オカちゃんは呆れたような顔でため息をついてこちらを見た。俺は弾かれてジンジンと痛むおでこを抑える。

「……まだ来年の話だろー…その話は3年になってからたっぷり聞くっつーの」
「じゃあとりあえずおまえは課題くらいちゃんと提出しろ。じゃなきゃ部活もやらせん」
「えっ!一応サッカー部エースなんだけど!いいのかよそれで!?」
「おまえなぁ…そう思うならしっかりやれ」

オカちゃんは疲れた顔でまた大きなため息をついた。すると、誰かがオカちゃんを呼ぶ声がした。どうやら、クラス担任に生活指導、サッカー部顧問を務めるオカちゃんは忙しいらしく、他の予定があるようだ。

「あぁ悪い、説教はまた今度だな…」

……た、助かった。

ホッと胸を撫で下ろす俺に背を向けて、呼ばれた方へ向かうオカちゃん。

「あ、あともうひとつ。その髪色をどうにかしろ、ピアスも開けたら耳ごと引き抜いてやるからな」

去り際にゾワッとさせるような言葉を吐いて行った。それに俺は背筋を凍らせる。

ちなみにピアスを開けるかはまだ検討中だ。綺麗に染まった赤茶髪は戻す気ないけど。

鬼教師のオカちゃんに目をつけられたからにはきっと、卒業まで言われ続けるのだろう。


















最近変わったことと言えば、兄貴に恋人ができたことくらいだろうか。本人に聞いたわけじゃないけど、たぶんそう、俺の勘だ。


「兄貴、最近帰り遅いよな」

呑気にソファでくつろいでスマホをいじる兄貴に、俺は投げかけた。

「…んー、まぁ、そうな」
「彼女でもできた?」
「…んーどうだろ」
「じゃあ彼氏?」
「…は?何言ってんのおまえ」

兄貴は眉をひそめてスマホから俺へと視線を移す。


やっぱり彼氏か。


兄貴は何があっても大抵のことはなんてことない顔してスルーする。けど俺はそれに騙されない。

わざわざ車で家まで送りに来てくれるらしい、背の高いあの眼鏡の男は、兄貴のことが好きなのだろうか。兄貴はいつから男が好きなんだろう、大学入りたての頃は彼女いたけどな。

「俺、彼女作ろーかな」
「……無駄に男前なおまえはいつでも彼女作れていいよな…早くその赤髪姉貴に刈り上げられればいい」
「…さらっと怖いこと言うなよな兄貴」

真顔でそんなことを言われ、思わず想像してゾクリと背筋が凍った。

するとポケットの中でスマホが震えて、何かメッセージを受信したようだった。スマホを開けばクラスメイトからのくだらない話題でトークルームは盛り上がっているようだった。

………そうだ、明日転校生来るんだっけ…。

話している話題が、近々来るとかいう転校生の話になっていて思い出した。クラスメイトのひとりが転校生の性別を問うが、それはまだ誰も知らないようだった。

可愛い子だったらラッキーだな。




















「転校生だ、仲良くしてやれ」


担任のオカちゃんが簡潔にそう言って、黒板を背にして立つ人物に自己紹介をするよう促した。


浦部うらべ 夏向かなたです…よろしくお願いします…」


そう名乗ってぺこりと頭を下げるのは、なんだか地味そうな男子生徒だった。その瞬間、クラス内の男子全員が落胆する。

前髪の長い黒髪に、男子高校生らしくない色白の肌が印象的だ。初対面の人の前で緊張しているのか、どこかオドオドとしていて情けなさを感じる。

「なんか地味なやつだなー」

隣の友人が小声でそう呟く。

「じゃあ浦部の席はー…そうだ、今日の日直誰だっけ?」

オカちゃんが突然そう問うと、すかさず教室の向こう側の席から俺の名前が飛んだ。

まずい、オカちゃんは何かと面倒事をその日の日直に押し付けることが多い。別に俺は日直でもないのに、悪ふざけで俺の名前なんか出すからよく被害を被る。

「そうか春日か、ちょうどいい。おまえの後ろに浦部の席作って、とりあえず今日一日いろいろ教えてやれ。移動教室もちゃんと連れてってやれよ」
「ちょ、えっ、………………へーい…」

なんだか断れる雰囲気でもなくて、俺は仕方なくやる気のない返事をする。首謀の友人やクラスメイトはクスクスと俺の不幸を笑っているようだ。

ちょうど俺が一番後ろの席だったこともあって、オカちゃんは上機嫌で俺ににこりと笑いかける。俺はふいっと目を逸らして、言われた通り隣の空き教室から使っていない机と椅子を持ってきて転校生の席を作る。

「…ありがとう、えっと…」

俺の設置した席に座ると、小さな声で俯き気味に喋った。

「春日 成樹、…よろしく」

俺がそう言うと、転校生はさらさらの黒髪を揺らしてこちらを見上げた。

「…………春日くん、よろしく」

何か気が緩んだように、幼くはにかむような笑顔が長い前髪の隙間から覗く。

その瞬間、どきんと鼓動が早くなって考えていたことが一気にどこかへ飛んで行った。頭の中が真っ白になって、俺は少し紅潮した浦部の顔を見て立ち尽くしてしまった。


………………………これってもしかして、一目惚れってやつ。



俺は朝のSHRが終わるまでずっと、魂が抜けたようにただぼーっとしているだけだった。妙に背後の気配が気になってしまって落ち着かなくなる。














「浦部、次体育。更衣室行こ」
「あ、うん」

声を掛ければ浦部は素直にうなづいて後をついてくるように席から立ち上がる。更衣室まで来て扉を開けると、中にクラスメイトの姿は見えなかった。

「みんなもう着替えて外行ったっぽい。時間ギリギリなのかも」

時計を見て来なかったので授業が始まるまでどのくらいあるのか分からない。

そう考えてる間に、誰もいない更衣室に本鈴が鳴り響いた。

「……あ、鳴った」
「えっ、急がないと…」
「いーよ、どうせ遅れて怒られんだし。だったらゆっくり着替えよーぜ」

体育教師のねちっこい説教を思い出して、一気にテンションが下がる。浦部は苦笑いしながらもセーターを脱ぎ始めた。俺もワイシャツを脱いで体操服に着替える。隣で着替えてはいるものの、特に何を話すわけでもなく無言だった。

浦部がワイシャツを脱ぎ始めたその隙間から、想像通りの白い肌が見えた。思っていたより華奢で、腕も女子みたいに細い。すると、体操服を着ようとした浦部の動きが止まった。

「…………か、春日くん…そんな見られると、着替えにくい…」

小さい背中をこちらに向けて、小さな声で呟いた。黒髪から覗く浦部の頬は赤くなっている。

俺はそう言われハッと我に返った。そこでやっと、ドクドクと忙しなく心臓が脈打っていることに気づく。

「…わ、わりぃ……」

……………やっべ…見すぎた。

同じ男子高校生だと思えないほど華奢で、思わず凝視してしまった。

「……う、ううん…俺、春日くんみたく筋肉とかついてないし、恥ずかしい」

恥ずかしがるその表情に、またしてもドキリとする。

前髪は長いしいつも俯いてるしでよく見えないけど、よく見るとすごく綺麗な顔立ちをしている。顔まで女みたいだ。

本当は女なんじゃないかって思うけど、もちろんそんなことなくて。体操服の襟から覗く骨ばった鎖骨があくまで男であるということを物語っている。

…………男相手に一目惚れとか、マジかよ俺。

俺はこれ以上見ていたら変な気を起こしてしまいそうで、ふいっと目を逸らした。

「……浦部、俺のジャージ着る?今日天気悪いし、たぶん外寒ぃよ」
「…え、でも、春日くんは…?」
「いい、俺はへーき」

俺が押し付けるようにジャージを渡すと、浦部は少し考えるようにしてから、ありがとうとひとこと言って微笑んだ。

たぶん今、俺の方が恥ずかしい。

























「ちょっと外出てくる」


俺はそう言って、夜に家を出た。何か姉貴の叱りつけるような声がしたがそれは無視する。


一目惚れとか、本当にあんだな。

なんて、呑気なことを考えた。

しかも相手は男だし、会ったばっかの奴で。男相手に恋なんてしたこともなければ、どうしていいかも分からない。

可愛い女の子がいれば、とりあえずたくさん話して、連絡先交換して、遊んで、下の名前で呼べば大抵の女子は向こうから告白してきた。

けど今回はそうはいかない。そう簡単にはいくはずない。

「………………夏向………なんて…な…」

誰もいない夜道で静かにそう呟いてから、俺はぐわっと頭を抱えた。

…勝手に名前呼んどいて、今やっぱすげー後悔した…………恥っず……。

どっかの少女漫画の乙女かよ、とツッコミを入れたくなるような気持ちを、俺は振り切るように走り出した。

どうしても、俺に考えるのは向いていないようだ。


































「…浦部、俺と付き合って」


そういうわけで、俺は帰り際に浦部を引き止めた。


「…………………え……?」


浦部はポカンとして、こちらを見つめたまま固まる。




頼むから、うなづいてくれ。



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