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生意気な義弟ができました。

鈴木ソラ

生意気な義弟ができました。13話





一体全体、最近の俺の周囲はどうなってるんだ。



同じ学部の先輩は俺の親友に片想い状態だし、その当人は義理の弟とくっつくし、バイト先のマスターに関しては、仕事中に男とキスって。


「……はー………なんなんだマジで…」

出来すぎてないか?このままじゃ俺も……。

「…いやいやないって」

"誠くんは、性別はやっぱり気にするかな?"

マスターの、あの言葉を思い出した。

「………………」

今思うと、あれはどういう心境での問いだったのだろう。もし俺があそこで、男とかありえない、なんて言ってたらどうなってたのだろう。マスターは傷ついてしまっていただろうか。

…………いや……そもそも…男とかそういう以前に、マスターが色恋とか、想像もしてなかった。暇があればコーヒーを淹れてるような人だ、彼女でも彼氏でも、あの人にそんなような相手がいること自体考えてなかった。


「兄貴ぃ?なに神妙な顔つきしてんの」
「成樹、おまえそんな言葉知ってたんだな」
「はぁ?馬鹿にすんなよな!」

弟は俺と違って少しは男前な容姿に生まれたというのに、騒げば騒ぐほどバカ丸出しでもったいないにも程がある。

成樹は、冷蔵庫から牛乳を取り出してコップに注ぐ。それを一瞬で飲み干して、2杯目を注いだ。

「昔から好きだよなーそれ」
「まだまだ成長期だぜ?これからもっと伸びるからな!」

そう言ってまた牛乳を飲み干した。

「ってかさ兄貴、聞いてよ。うちのクラスに女の子が転校してくるっていうから期待してたのに、ただのデマカセでさ。今日転校してきたの男だったんだよ!マジでありえなくね!?期待してたのに!」
「元気だなーおまえはほんと」

悔しそうにする成樹を見て、俺は自分が一層歳を取ったような気になった。

……こいつみたいなのがまぁ普通なのかもしれないな…俺は結構なにがあっても動じないんだけど…。

個性の強すぎる姉と弟に挟まれて育ったせいか、何事にも冷静でいられるし、言わばこの姉弟の緩衝材的な役割を担ってきた俺だ。メンタルはそこそこ強い方だし、真澄みたいに多少のことでクヨクヨするようなタイプではない。

……………明日のバイトで、ちょっと話してみるかー……、このままぎこちないってのも何だしな。

結局あれから、マスターとは業務的な会話しか出来ていない。あの人の顔を見ると、どうしてもあの裏口から見たものが頭をよぎるのだ。





























「………ぁ"ー…………つれぇー……」


ベッドの上で、生きた屍のように這いつくばった。テーブルの上にあるスマホになんとか手を伸ばす。すると、ノックも無しに扉がガチャッと開けられた。

「ちょっと誠、バイトあるんじゃないの?いつまでも寝て……って、あんた何してんの」
「……見てわかんないですかね…超絶体調悪いんです俺……」
「えっなになに、兄貴体調不良!?いーなー俺も体調崩して学校休みてぇ〜!」
「馬鹿あんたはいいから早く学校行きなさい遅刻するわよ!」

そう言って、姉貴は成樹の背中を叩いて学校へ無理矢理送り出した。

「もう何してんのよ、熱じゃないの」
「…姉貴この前まで風邪だったし……絶対移ったんじゃん……」
「は?いいから大人しく寝てなさい。私はもちろん仕事あるけど、辛かったら電話して友達でもなんでも呼びなさい」
「…へーい……」

姉貴は、そう言って部屋を出て行った。家の中には珍しく静けさというものがやってくる。

…………マスターに、連絡しねぇと…。

体はだる重いし、頭も痛い。あんなことがあったし、今日はバイトに行きたかったのに。

電話をかけると、すぐにマスターが出た。

『どうしたの誠くん?』
「…すんません…熱、で……休んでもいいですか」
『熱?大丈夫なの?もちろん休んでくれて構わないよ』
「すんません、ありがとうございます…」

そう言って、あっさりと電話は終わった。俺はベッドから起きる気にはなれなくて、また眠ろうと瞼を閉じた。





それから一週間ほど、俺は熱で寝込んだ。

滅多に体調は崩さないが、崩すと本当に治りが悪い俺は、風邪菌と闘って一週間後、ようやく勝利を果たした。


「よっしゃバイト、俺はバイトに行く」

俺は、リビングでそう断言した。

「そんな嬉しそうにバイト行くやつ兄貴くらいだな」
「病み上がりのくせして元気ね」

やっとマスターのコーヒーが飲めるんだ。熱のせいで、ほぼ毎日入ってたバイトも全部休んでしまった。マスターひとりで大丈夫だっただろうか。きっと大変だったに違いない、ちゃんと謝らなきゃな。

そう思って、少し急ぎ足でバイト先への向かう。

そんな日に限って電車は満員で、停車した駅で人の波に流され押し出され、全く降りるつもりのない駅で降りるハメになるし。電車に乗り直したはいいけど、痴漢被害の現場に遭遇して、なぜか全力で犯人のおっさんを追いかけ回さなきゃならなくなるし。お礼をしたいとか言った女性にはしつこく連絡先を聞かれて、バイトが始まる時間はもう過ぎている。

自分のアンラッキーさをここまで自覚したのは初めてかもしれない。

……くっそー…人助けだ人助け。

そう思うことにした。



なんとかコーヒー店に着くと、俺は店の扉を開けた時点でピタリと立ち止まった。それは俺にとっては十分目を疑うような光景で。

「いらっしゃいませ、お一人ですか?」

そう言って、笑顔でこちらに接客する同年代の女の子。

「……ぇ……あ、いや……」

俺は何も言えずに突っ立ったままいた。

「あ、誠くん、熱は下がったんだね?」
「ま、マスター、あの、これはどういう…」

誰だ、この女は。新しいバイト?まさか、だって俺がいれば十分だろこの店。マスターだってこの前そう言ってたし、そもそも俺を雇った時だって自分ひとりでやってくつもりだったって言ってたじゃないか。だったら尚更、俺以外のバイトなんて……。

「あぁ、新しくバイトで入ってもらった、高坂こうさかさん。実はちょっと前にバイトしたいって言ってくれててね、誠くんがお休みの間、入ってもらってたんだ」
「あっ、あの、ここでバイトしてる方だったんですね…!すみません私、てっきりお客さんだと…」
「……あ…いや…えっと…」

なんだか、複雑な気持ちだ。なんの相談も無しに新しいバイトを雇うなんて、なんだかマスターらしくないような気もする。

…いや……考えすぎか。そもそもこの店はマスターの店であって、俺はただのバイトだしな…相談も何もない。

「高坂さん、そろそろ上がりの時間だよね?もういいよ、お疲れ様」
「は、はい!」

そう言って、その新人の高坂さんはスタッフルームへ入っていく。店内を見る限り、今はお客さんは来てないようだ。

「…あの…しばらく休んじゃってて、すみませんでした」
「ううん、体調良くなったなら安心したよ」

マスターは、コーヒーを淹れながらいつもの調子でそう言った。

……なんだか、マスターと話すのも久しぶりだよな。

「……俺…新しいバイトがいるとか、全然考えてなくて…びっくりしました」
「ごめんね、なんの相談もしないで。ちょっと前まで考えてて、ほら、誠くんほぼ毎日来てくれてるでしょ?さすがに誠くんひとりに頼りきりじゃまずいかなって思ってね。ちょうどバイトしたいって言う子もいたから、どうかなって思って。高坂さん、真面目に働いてくれるし、接客も上手で助かってるよ」

マスターが喋るたび、なぜか俺の心の中には黒い感情が渦巻いていく。こんなの俺らしくない。

俺が何も言えないでいると、スタッフルームから高坂さんが出てきた。

「お、お疲れ様でした」

そう言って、ぺこりと頭を下げて店を出ていく。

…………それに、あの子………絶対マスターに気あるだろ……。

そういうところ、この人は何も気にかけていない。どうせあの子がバイトしたいって言い出したのも、マスターに近づくために決まってる。

「誠くん?どうしたの、もしかしてまだ体調悪い?」

マスターは、心配そうな顔してこちらを見る。

「…あ…いや…。へーきです、ちょっとぼーっとしただけっす」

俺は、遠ざけられているのだろうか、この人に。やっぱり、あの日俺が見ていたのもバレてて、無理に遠ざけようとしているのだろうか。

「誠くんも、これからはシフト少し減らして大丈夫だよ。大変だったでしょ?毎日働くの」

そりゃ、毎日働くのは大変だったけど、別に苦痛じゃなかった。この店が好きだったし、何よりマスターとふたりで働くのは楽しかった。

「…はい…そっすね、でも…俺、…………いや、なんでもないっす。着替えてきますね」

俺は何を、こんなに憤っているのだろうか、本当に、俺らしくない。


















「今のが最後のお客さんかな、そろそろお店閉めようか」
「看板、しまってきますね」

店の外に出ると、帰宅ラッシュの時間か駅とは反対の方向に歩いていく人が何人かいた。俺はテキパキと看板をしまう。

「お疲れ様、病み上がりなのにごめんね」
「いえ、あの………ちょっと話いいっすか」

俺はじっとマスターを見つめて言った。

……モヤモヤしたままは、好きじゃない。

「…うん、コーヒー淹れようか」

俺がカウンターチェアに腰掛けると、マスターはいつものようにコーヒーを淹れてくれた。俺はそのコーヒーをひとくち飲んで息をつく。そこで、心を落ち着かせて、俺はゆっくりと口を開いた。

「俺、見たんすよ。マスターが男とキスしてるの」

俺が率直にそう言うと、マスターは一瞬だけ手を止めて、こちらを見た。なぜたか、目を逸らしたら負けだと思った。この人に聞きたいことは、たくさんあるのだ。

「…やっぱり、そうだったんだね。さすがの誠くんも、引いたかな」

マスターは、こんなときでもいつもの優しい笑顔で笑う。

「…驚きましたよ、そりゃ…でも、そんなことで嫌いになったりはしないです」
「そっか、誠くんだもんね、いらない心配だったよ」

そう言って、また笑った。マスターは、いつも笑ってる。

「…ゲイなんだ。別に隠してたわけじゃないんだけど、なぜだか誠くんには言い出せなくてね」
「男が、好きなんすか」

俺が聞くと、マスターはコクリとうなづいた。

「この前の男とも、付き合ってるんすか」
「あれは…違うよ、恋人じゃないかな」
「でも、キスしてましたよね」

問い詰めると、マスターは少し黙り込んだ。なにか考えるようにしてから、スっとこちらに、視線が戻る。

「あのときの電話は彼からだったんだけど、前に付き合ってた人でね。まだ向こうが諦めきれてないみたいで、たまにここに押しかけて来たりね」
「それで、キス」
「正直ちょっと幻滅したでしょ?こんなにいい加減な奴だとは思ってなかった?」

…………まぁ……意外といえば意外だ。

「最後にキスしてくれたら諦めるって言うから、ちょっとだけね」
「…何がちょっとだけっすか、それ絶対諦めないやつですって」
「そうかな?」
「そうっす」

俺がティーカップに口をつけようとすると、突然、チャリンとベルのなるような軽い音がした。何度も聞いてきた、店の扉が開けられる音だ。俺とマスターは店の入口の方を見る。

「……マスター、あの人…」

そこに立ってこちらを見ていたのは、確かに、あの日マスターとキスしていた男だった。

……噂をすればなんとやら……。

「諦めてくれるんじゃ、なかったんだ?」

マスターがそう問いかけると、その男はフラリとこちらに寄ってきた。俺よりも小さくて、小柄で細くて、髪も長めで、どこか女性的な容姿をしている。

「恵太、酷いよ…なんで俺じゃダメなの?もしかして、俺よりもこっちの子がよくなった…?」

そう言って、その人は座る俺の後ろに立って、俺の肩に手を置いた。俺はその異様な雰囲気にビクリと悪寒が走った。

「…いや……あの、俺は関係無いと思いますけど…」
「なくないよ、恵太の周りにいる男はみんな危ないんだから。もう恵太に抱かれたの?どんなふうに?」

俺の体に後ろから手を這わせて、耳元でそう囁く。

「ちょ…あの、」

俺が抵抗しようとすると、その前にマスターがカウンターから出てきて、その人の手を俺の体から引き離した。

「…ナオ、この子から離れてくれる?」

ナオ、と呼ばれた男の細い手首を掴んだマスターは、これまでに見たことないくらいの、冷たい目をしていた。いつも優しげに笑っていたマスターは、今はいない。

「…恵太…まるで、汚いものでも見るみたいな目してる…。そんなにこの子が大切?全然、恵太のタイプじゃない」
「先に離れたのはそっちだよ、ナオ。言ったよね、諦めてくれるって」
「恵太が俺のことちゃんと見てくれなかったからだよ。他の男と遊んだら、怒ってくれるかなって…」

マスターは、その男の腕から手を離した。こんな冷たい雰囲気のマスターは、初めて見る。

「もう、君に恋愛感情はないよ」

そう言われると、彼は静かに泣き出した。その嗚咽が店の中に響く。

「…あ、あの、あなたならきっと、新しい恋、ありますよ」

…男が好きそうな容姿してるし…狙ってるんだろうけど…。

俺は、その空気の中で苦し紛れにその人を励ました。

……頼むから、この居づらい状況をどうにかしたい…。

「誠くん…」

マスターは、少し呆れたような顔でこちらを見た。

「……誠くんって、言うんだね…すごく、優しいんだ…?」

優しい…というか、とりあえずその涙を引っ込めてこの店から早く出て行って欲しい、って言うのが、正直なところ俺の願いだ。

「……わかった…恵太のことは諦める…。また、来るね?」

そう言って、案外あっさりと店を出ていった。俺は、まるで嵐が過ぎ去ったみたいな気になって、溜息を吐いた。

「……ごめんね、誠くん、巻き込んじゃって」
「いえ、巻き込まれるのには慣れてるんで。諦めるって言ってましたけど、大丈夫ですかねあの人」
「…どうだか…標的ターゲット、変えたのかもね」
「え?」
「…ううん、なんでもない」

マスターは、今度は俺の隣に腰掛けた。どうやら何か考え事をしてるみたいで、いつもの笑顔が消えている。

「なんの話、してましたっけ。あぁ、そう、あとまだ言いたいことがあって」
「なにかな」
「新しいバイトの子。俺、かなり、根に持ってますよ」

俺は笑い混じりで言ってやった。マスターは、笑い返して来ると思いきや、また真剣な顔をしてどこかを見つめている。

「俺、ここでマスターと働くのすげー楽しいのに、シフト減らされたら困ります。そんなに人手足りてないなら、俺もっと働くし」

俺がそう言っても、マスターはただ聞くだけで、しばらく沈黙が続いた。ゆっくりと口を開いて、その沈黙を破る。

「…誠くんは、分かってないね。何も気にしないの?僕は男が好きなんだよ。もしかしたら、自分もそういう目で見られてるとか、思わないの?」

マスターは、こちらをじっと見つめてそう言った。俺は何も言えずにフリーズして、マスターの顔を見た。そうすると、マスターは席を立ってカウンターに戻ろうとする。

「…なんてね。ごめん、ちょっとからかっちゃった」
「ちょ、ま、待ってください!」

俺は行こうとするマスターの腕を、ガシッと掴んで引き留めた。マスターは、少し驚いたような顔をしてこちらを振り向いた。

「今の、本気ですか?」
「………………さぁ、誠くんの想像に、お任せするよ」
「ずるいっす、今マジな目してましたよマスター」

俺がそう言うと、マスターはまた少し呆れたような顔をしてこちらを見た。

「じゃあ、どうするの?僕と付き合ってくれる?」
「なに、怒ってんすかマスター」
「…怒ってないよ、呆れてるだけ」

また沈黙が続いて、マスターの溜息が店に響いた。俺は、マスターが何か言おうとするよりも先に、声を出した。

「あの、俺と、付き合ってみますか」

俺が自分でも予想外なその言葉を言うと、マスターは驚いたような顔をしてこちらをじっと見つめた。

「……本気で言ってるの、誠くん」
「…まぁ…ほら、俺、偏見とか無いし。マスターが俺のことそういう目で見てるんだったら、どうかなって」
「そんな軽いノリで…。変な目で見られたら誠くんが困ると思って、新しいバイトの子も雇ったのに」
「えっ、そんなん気にしてたんですか。だったら早くあの高坂さん、バイト辞めるように言ってください、俺だけで十分ですよねここ」

俺が強気でそう言うと、マスターはやっと笑った。

「誠くんさ、なんでそんなにここのバイトにこだわるの?こんなお店、時給も低いのに」
「好きなんすよ、この店の全部が。コーヒーもそうだけど、コーヒー淹れるマスターも。全部が全部ちょうどよく調和してるっていうか」
「そんなに褒められたら、勘違いしちゃうな」
「いいっすよ、勘違いしてください」

俺はマスターのコーヒーを飲み干して、笑う。そうするとマスターは、ずるいね、とひとこと言って。俺に、触れるだけのキスをした。

「付き合うって、こういうこともするんだよ?」
「……………………そ、っすね」
「そっすね、じゃなくてさ。もうちょっと他に何かあるでしょ?」
「ですかね?」




どうやら俺も、周りの変な波に、自ら乗っちゃったようです。





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コメント

  • きつね

    はぁ~みんな可愛い、この作品に
    出会えて本当によかった~(*´ω`*)

    4
  • 砂糖漬け

    真澄と零央も最高にかわいいけど、誠とマスターも凄くいいですね

    3
  • あんこ、

    誠くん可愛い(―人―)˜˜˜ナムナム今日もいい夢見れそうですわ( ˘ω˘ ) スヤァ…

    4
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