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生意気な義弟ができました。

鈴木ソラ

生意気な義弟ができました。10話



「あ〜疲れた…」
「おにーさん見てただけじゃん」

零央は、風呂から上がって濡れた髪をかきあげて笑った。母さんたちは仕事で今日も帰りが遅いらしい。

「…………おまえさぁ…なんで、よりにもよって俺なの…」
「……それどういうつもりで言ってんの?俺今からフラれんの?」
「えっ…?いや、そうじゃなくて、………………………やっぱ、いい…」

俺がそう言って俯くと、零央は怪訝な顔をした。

「なに?なんなの、何が言いたいわけ?」
「…………別に……」

俺だって自分で何が言いたいのかよく分かってない。俺はなんだか晴れないモヤモヤとした感情に、少しイライラしてるような気もする。

ソファの上でクッションに顔を埋めていると、隣に零央が座った。

「おにーさんさ、なんでも難しく考えすぎじゃないの」
「………それは昔からの性格…」
「何をそんなに考えてんのか、俺はわかんないんだけど」

零央は俺の顔を覗き込んできたので、俺は思わずふいっと顔を逸らした。

「…なんで顔逸らすの」
「…………いやわかんない……けど、今はなんかおまえの顔見れない…」
「なにそれ」
「……わかんない……」

目を瞑ると、今日の体育祭での零央の姿が思い浮かぶ。

俺とはまるで正反対で、共通点のひとつもないこいつが、どうして俺のことなんか…。

「…そういえばおまえさ…元カノ、引きずってたんじゃないの…」

俺はクッションに顔を埋めたまま、ふと思い出したことを問いかけた。

「別に、引きずってたってわけじゃないし。ただ、なんでいつも同じ理由でフラれんだろうなって」
「意外だよな、零央がフラれるって」
「そう?なんか、俺って人を好きになったことないんだってさ」

零央はいつと同じ調子で、元カノにそう言われた、と呟いた。

「…………なにそれ」
「さあね。でもいつもそう、"私のこと本当に好きなの"って泣きながら言われる」
「………それは……ちょっと、わかるかも…」

俺は、クッションから少しだけ顔を上げて言った。零央は平坦な声で、どういうこと、と聞いてくる。

「おまえって気分屋だし…何考えてるのかよく分かんないんだよな。…好きとか、テキトーに言ってるだろ…って」
「は?俺、あんたのことは割と本気なんだけど」

零央は、俺の抱えてたクッションをバッと取り上げて言った。俺は、手持ち無沙汰になったので自分の膝を抱える。

「好きでもないのに男にキスとかできないでしょ、ムリムリ」
「俺も無理だっつの…」
「でもおにーさんキス好きじゃん、勃っちゃうくらい」
「っ…………生理現象だバカ…」

ほんとに、義兄としてのメンツが立たない……。

「てかさ、おにーさんあの人はフったんだよね」

あの人、っていうのは、たぶん麻海さんのことだろう。

「…だったらなんだよ」
「じゃあなんで俺のことはフらないのかなって。俺と付き合う気ないんだったらすぐフるでしょ、男だし」
「……………………まぁ…………そうだな」

すると、変な空気が流れて無言になる。しばらく間を置くと、零央が静かに口を開いた。

「ってことはやっぱり、おにーさん俺のこと、」
「ち、ちょっと待って」
「…………なに」

俺は、零央の言おうとしてることが手に取るように分かって、慌てて制止した。

「…そこは…ちゃんと、考える、考えてるから……もうちょっと待って…」

まだ、答えを出すには早い気がするんだ。

すると、零央は静かに溜息を吐いた。

「…そう。なら、待ってる」

零央は素直にそう言ってくれた。





























昨日は…あまり眠れなかった。

俺は誰もいなくなった塾の教室で、ホワイトボードを消しながら溜息を吐いた。

…集中力も最悪だ…同じ問題3回も出題しちゃうし、数学教えてるのに全然関係ない教材開いちゃうし…めちゃくちゃ笑われるし…。

俺はまた溜息を吐いた。

「おつかれ、橋場はしばくん。……あ、名字変わったんだったね」
「塾長、お疲れさまです。はい、鴨野かものになりました」

鴨野は巧さんの方の名前で、橋場は母さんの方の旧姓になる。

「鴨野くん、ずいぶん疲れてるみたいだね」

塾長はニコリと優しい笑顔で微笑んでくれた。確か50代の塾長は、ほんわかした物腰柔らかい雰囲気で、生徒からも好かれている。高校時代から馴染みの俺に、とても良くしてくれる。

「最近アルバイト入れすぎなんじゃないかい?出てくれるのはとてもありがたいけど、体調には気をつけてね」
「なんか集中力欠けてて、今日はすごい生徒の笑いものになっちゃいました」

塾長にも心配させてしまった……ちゃんとしないとな…。

「悩み事かな?」
「まぁちょっと…周りの環境が変化したのもあるんですかね」
「新しく家族が増えたんだったね、いい人かい?」
「いい人ですよ、義弟の方はめちゃくちゃ生意気ですけどね。いつも振り回されてて、疲れてるといえば、疲れてるのかも」

俺が、あはは、と笑いながら言うと、塾長も笑った。

「楽しそうだね、まぁ悩み事はあまり考えすぎないように、考えてばかりじゃ疲れちゃうしね」

それだけ言うと、塾長は教室から出て行った。

……考えすぎないように、か………しかも楽しそうって言われたな、確かに零央といるとき、ムカつくけど退屈はしないよな。…………俺って、零央のことどう思ってんだろ……。

ホワイトボードにコツンと頭をつけてもたれた。どうしても考えてしまう、悪い癖だ。

生意気な奴だけど、別に嫌いなわけじゃない。たぶんホントは良い奴だし、ちゃんと自分を持ってるとこはアイツらしくてすごいと思うし、臆病な俺とは違ってかっこいいとも思う。

……零央は、俺がアイツのこと好きなんじゃないかとか、そんなことばかり言うけど………………、勝手に自惚れてるだけなのか、それともほんとに……。

……俺が……零央を好き……………?もし、もしそうだったらどうなるんだ?だって、好きって、ドキドキしたりキュンとしたり、そういうもんだよな…?

俺はそこで、零央とのこれまでを思い出してみる。短い時間だけどいろいろあって長かったようにも感じる。

…いろいろやらかしてるし、恥ずかしい思いは嫌ってほどしてる…。最初酔った勢いで襲われかけたときはマジでビビったし、やばいと思った。キスだって、なんでか知らないけど何回かしてるし、いつも流されてばっかだ俺…。…………でも不思議と。

「………………嫌ってわけじゃ…………ないんだよな…………」

麻海さんにキスされたときはどうしても、敬意とか困惑とか余計なものがいろいろ出てきて、恋愛の好きにはなれないって、すぐにわかった。けど零央にキスされると、ただ頭が真っ白になって何も考えられなくて、だから、流されてしまう。

俺は、ゴツンッとホワイトボードに頭突きをした。

………………これじゃ……ほんとに、零央のこと好きみたいになってんじゃん…………。































「…ってことでさ、どうしたらいいかな誠クン」
「なにが"ってことで"だよおい」

俺が真剣に話を切り出すと、誠は華麗にツッコミを入れた。

「ってかおまえこの喫茶店通いつめすぎじゃね?」
「おまえこそいつでもここでバイトしてるよな」
「俺は好きでやってんだよ」

店のスタッフな癖に誰よりも客のようにコーヒーを味わってる誠は、ティーカップをコトリと置いてこちらへ視線を移した。

「要するに、真澄は認めたくないのな。零央くんが好きだって」
「…………は?なんでそうなった?」

俺は眉をひそめて誠の顔を見つめた。

「そうだろ、好きじゃなかったら何も考えずフると思うけど。少なくとも俺だったらそうするな、相手男なわけだし…悩む理由もなくね?」

誠は表情一つ変えず言う。俺はそれを聞いてしばらく黙り込んだ。

………………たしかに…言われてみれば、それもそうだ。じゃあなんで、俺はこんなに考えてしまっているのか。

「この前の体育祭で思ったけど、相当モテるだろ零央くんは。モタモタしてると他の女の子に取られるぜ」
「別に俺はそんな……」

そこで俺は、体育祭で女の子と走ってた零央の後ろ姿を思い出した。

「…………………もしさ…もし、ほんとに俺が零央のこと好きだったんなら……、全部…辻褄合うのかな」
「…合うんじゃねえの、真澄って頭良いのに鈍感でバカだよな」
「…褒めるのか貶すのかどっちかにしろよな」

誠はじっと俺を見つめてから、喫茶店の外に視線を移した。外には駅の方へ歩いてく人が何人かいたり、犬の散歩をする人もいる。

「お悩み相談中かな?」
「あ、マスターこんにちは」

マスターはいつもの優しそうな顔でニコリと笑って、俺と誠の前にクッキーの乗ったお皿を置いた。

「悩める大学生にほんのちょっとサービスだよ、どうぞ」
「マスター優しすぎっすよ」

誠は、そんなこと言いながら真っ先にクッキーを口へ運んだ。マスターは誰よりも人を甘やかすのが上手い。

「いっそのことお悩み相談でもやってみようか誠くん」
「えーそれで客増えますかね」
「ダメですよマスター、こいつ大抵の事はなんとかなるで片付ける超ポジティブ野郎ですから。やるなら、アンラッキーの乗り越え方教室とかどうですかね」

俺が笑って言ってやると、誠はテーブルの下でガコッと俺の脚を蹴った。

「でもまぁ、誠くんが言うと本当になんとかなるから不思議だよ」
「たしかにそうかもですね。アンラッキーの癖してたまにミラクル起こしますよね誠」
「アンラッキーアンラッキー言うんじゃねえ」

誠はマスターのクッキーを頬張って俺を睨みつけた。

「でも真澄、おまえはほんとに悩み癖あるからな。なんとかなるぐらいの軽い気持ちでいてみたら?」
「そうだね、何事も一度シンプルに考え直してみるのがいいこともあるよ」

誠とマスターはふたりして俺を見た。俺は、うーんと唸ってから、静かにうなづく事にした。

「…よし誠、今日の夜空いてるよな、飲むぞ」
「おいおい、大丈夫かよ酒強くないのに」
「そういう気分なんだよ。久々の気分転換にちょっとくらいいいだろ」

俺がそう言うと誠は、しょうがねーな付き合ってやるよ、と言った。

短い間での環境の変化もあって、たぶん俺の心は疲れてるんだろう。リフレッシュすることも大切だ。

































「ったくなぁおまえ……」

誠は、疲れた顔してこちらを見る。

「だーかーら!俺だって真面目に考えてんの、考えてんのに!アイツはい〜っつもふざけた態度で、ほんとムカつく!」

既に、テーブルの上には缶チューハイの空き缶がいくつか転がっている。

「なんかペース早いと思ったら、やっぱ飲みすぎだろおまえ…さっきから零央くんのことばっかだし」
「あっ酒ない!誠コンビニ行こー!」
「ばーかもう終わりにするぞ」

誠はそう言って、テーブルの上の空き缶をビニール袋に入れていく。俺はラグの上に仰向けになって寝っ転がった。

「…すぐそこまで答え来てるはずなのに〜…」
「数学の問題は解けても恋の問題は解けないってやつな」

誠は笑いながらそんなこと言った。

「そんなとこで寝んなよ、真澄絶対潰れると思って家飲みにしてよかったな。じゃあ俺は帰るから」
「ん〜……」

俺がテキトーに返事をすると、じゃあな、と言って誠は部屋を出て行った。しばらくすると、また部屋のドアがガチャリと開いて誰か入ってくる。

「誠〜?忘れ物でもしたのかよ〜」

酔いのせいで眠くて瞼は開かない。

「おにーさん、飲みすぎなんじゃない」
「なんだよ誠おまえそればっかだなぁ今日くらい俺の話聞いてくれてもいいだろ〜」
「誠さんじゃないけど。出際に介抱してやってくれって言われたから…うわ、酒くさ」

俺は聞こえる誰かの声を無視して寝返りを打った。その誰かは、俺に近づいて顔を覗き込んできたようだった。

「起きてよ、起きないと襲うけど」
「……んー…」

テキトーに返事をすると、宣言通り唇に生暖かい感触がした。俺が驚いて目を開けると、視界には見覚えのある顔が写った。

「……なんだ零央かぁ…誠かと思ってビビったわぁ」
「何ヘラヘラしてんの、キスされてんのに…てかなにそれ、俺だったらキスされてもいいの」

零央は、無愛想に寝っ転がる俺を見下ろした。

「誠さんはダメで、麻海さんもダメで、なんで俺はいいの」
「なんでだろうなぁ…なんでなんだろぉ、家族だから?」
「じゃあ父さんにキスされてもいいの」
「巧さん…?あはは想像できないなぁ…でもきっと無理だろ〜零央だけかも〜」

俺が、あはは、と笑いながら言うと、零央は俺の顔の横に手をついて、組み敷くようにこちらを見つめてきた。

「あんた、俺のこと好きなんじゃん」
「…………………そう…なのかなぁ」

俺は零央の顔をじっと見上げた。


「…………俺……おまえのこと、好きなのかなぁ」


なんだか、全て辻褄が合ったような気がした。埋まるべきピースが、ピッタリとはまったようなそんな気になった。どこか心が軽くなったようなスッキリとした感覚に満たされる。

すると、零央は再び唇を重ねてきた。

「ん、ぅ………は、…」

俺は縋るように零央の背中に腕をまわしてぎゅっと服を握った。祭りのときと同じ、痺れるようなキスにまだ慣れない。味わうように俺の口の中に零央の舌が侵入して遊ぶ。

「っ、ん…」

唇が離れると、少し口寂しいような感覚に襲われる。

「すっげー嬉しい…おにーさん真面目だから、絶対フラれると思ってた」

零央は俺の胸あたりに頭をコツンと当てて、幸せを噛み締めるみたいにして言った。俺は、零央の頭に手を置いて髪を撫でる。

「可愛いとこもあるのなぁ、いつもそれくらい可愛げあればいいのに」
「十分可愛いでしょ。ってか、かっこいいって言って」

俺おにーさんの彼氏だから、と得意げに笑って言った。

「…おまえはいつでもかっこいいよ、度胸も勇気も俺よりずっとあって強い」
「………………なにそれ誘ってる?」
「んなわけあるか」

俺は臆病で踏み切れなくて、ずっと悩んだけど。こいつは自分勝手で傲慢で貪欲で、きっと即決だった。どこまでも俺とは正反対だ。だからか、その強さに少し惹かれてしまうのかもしれない。

「好きって言ってよ、せっかくだしちゃんとさ」
「えーなんで」
「酒入ってないと言わないでしょ」
「もう酔いも冷めてきてるんだけど…」
「なんでもいいよ、好きって聞いて実感したい」

俺の言うことなんか無視して、零央はねだる。

…………さっきは酔いもあってすんなり言えたけど、ちょっと緊張する……。

俺は、ドクドクと高鳴る胸をぎゅっと押し込めて、ゆっくりと口を開く。


「……零央が、好き…」


俺が小さな声でそう言うと、零央はじっとこちらを見つめて口角を上げた。

「俺も好き」

そう言ってまたキスをする。


………………あれ……なんかすごい、幸せじゃん。





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コメント

  • Coro

    さっいこー!!!待ってたから凄く嬉しいです!((^o^)) 続きお願いしますドキ(((*〃゚艸゚))ドキ

    4
  • きつね

    真澄君が酔っている カワイスギ
    続き待ってます!o(`ω´ )o

    7
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