観測者と失われた記憶たち(メモリーズ)
エピローグ4
私が帰ることには空は茜色に染まっていた。連絡先は交換して、休み時間は遊びに行くよなんて約束も交わして。よかった、ここに来て。私はすっごい充実感と共に家を後にした。
そして帰りのバス停が見えてくる。全体的に赤味がかった街の中、しかし、そこに白い男が立っていた。
「ホワイト!?」
なんでここに? 驚きすぐさに駆け寄る。ポケットに両手を突っ込んだまま、微動だにせず、まるで私を待っていたかのよう。そんな彼が私を見るなり口を開く。
「六年ぶりに突然現れ、なにを言うかと思えば殴ってください、か。迷惑だな」
「うっさいわねー、仕方がないじゃない、それくらいしないと駄目だと思ったんだから。なによ、わざわざそれを言うために出てきたの?」
「そうだ」
こいつ……。なんであんたはそんなに嫌な奴なの?
「だが」
けれど、ホワイトはいつもの表情のまま私を見下ろし、意外な言葉を送ってくれた。
「良かったな」
「え?」
なにが良かったのか、そこまでは語らない。けれど分かる、彼の気持ち。
「ええ」
清々しい笑顔で、私は彼の言葉に応えた。けじめをつけられたこと。仲直りできたこと。過去を清算して、私は新しい明日を進んで行く。
私は笑顔で、ホワイトはいつものつまらなそうな顔をして、夕日に照らされる。地面には二人の長い影が伸びていた。二つの影が、重なるように。
そこへ、ちょうどやって来たバスが見えてきた。
「それじゃ私は帰るけど、あんたはどうするの? てか、まさかあんたもバスで来たの?」
「馬鹿を言え。本能に空間という概念はない。俺はこの世界のどこにでもいるし、どこにもいない。強いていえば、お前の体の中に常にいる状態だな」
「ちょっと待って! どうりでどこにでも現れると思ったら、やっぱりあんたストーカーじゃない!」
「違う、お前は何を聞いていたんだ。俺は――」
「はいはい、分かった分かった」
私は聞く耳持たずホワイトの横を通ってバス停の前へと歩いていく。そんな私に納得いかないのか、抗議をしたそうに睨んでくるホワイトをふんと鼻で笑ってやった。
バスが到着し、私は乗り込んでいく。その途中。私は何気なく背後の彼へと言ってやる。
「このストーカー。でも、たまになら顔出してもいいからね」
「ん?」
振り返り、ホワイトと目が合う。怪訝そうに私を見てくるが、ホワイトは目を瞑り、ふんと鼻を鳴らした。
「阿呆。お前に危害がない限り、誰が現れるものか」
そう言ってホワイトは踵を返して去って行く。そんな背中を見送りながら、私はふっと微笑み、バスの中へと入っていった。席に座り窓から彼を探してみる。けれど、そこにはもう、彼の姿はいなかった。
「ありがとう、ホワイト」
誰にも聞こえないように、私は囁く。どこか、彼がまだ近くにいる気がする。ううん、きっといるのだろう。そんなあなたに伝わるかは分からないけれど、本当の気持ちをここで呟いておく。
だって、それで十分よね。私はあなたのことを、もうちゃんと知っているもの。
夕暮れに染まった街をバスが走り出していく。私は視線を窓に向け、外を眺める。
知らない風景。けれど、どこにでもある光景。これらの中にどれだけの特別があっても、私は普通だと思って気づかない。
けれど、私が知らないだけで、ここにもきっと、いろいろな特別があるのだろう。
だからこそ思うのだ。
この世界は普通だけど、普通じゃない。見方を変えるだけでこの世界は平凡で退屈なものから、特別なものへと姿を変える。もし退屈な日常から抜け出したいのなら。
ワンダーランドへの入り口は、すぐ近くにあるのかもしれない。
そして帰りのバス停が見えてくる。全体的に赤味がかった街の中、しかし、そこに白い男が立っていた。
「ホワイト!?」
なんでここに? 驚きすぐさに駆け寄る。ポケットに両手を突っ込んだまま、微動だにせず、まるで私を待っていたかのよう。そんな彼が私を見るなり口を開く。
「六年ぶりに突然現れ、なにを言うかと思えば殴ってください、か。迷惑だな」
「うっさいわねー、仕方がないじゃない、それくらいしないと駄目だと思ったんだから。なによ、わざわざそれを言うために出てきたの?」
「そうだ」
こいつ……。なんであんたはそんなに嫌な奴なの?
「だが」
けれど、ホワイトはいつもの表情のまま私を見下ろし、意外な言葉を送ってくれた。
「良かったな」
「え?」
なにが良かったのか、そこまでは語らない。けれど分かる、彼の気持ち。
「ええ」
清々しい笑顔で、私は彼の言葉に応えた。けじめをつけられたこと。仲直りできたこと。過去を清算して、私は新しい明日を進んで行く。
私は笑顔で、ホワイトはいつものつまらなそうな顔をして、夕日に照らされる。地面には二人の長い影が伸びていた。二つの影が、重なるように。
そこへ、ちょうどやって来たバスが見えてきた。
「それじゃ私は帰るけど、あんたはどうするの? てか、まさかあんたもバスで来たの?」
「馬鹿を言え。本能に空間という概念はない。俺はこの世界のどこにでもいるし、どこにもいない。強いていえば、お前の体の中に常にいる状態だな」
「ちょっと待って! どうりでどこにでも現れると思ったら、やっぱりあんたストーカーじゃない!」
「違う、お前は何を聞いていたんだ。俺は――」
「はいはい、分かった分かった」
私は聞く耳持たずホワイトの横を通ってバス停の前へと歩いていく。そんな私に納得いかないのか、抗議をしたそうに睨んでくるホワイトをふんと鼻で笑ってやった。
バスが到着し、私は乗り込んでいく。その途中。私は何気なく背後の彼へと言ってやる。
「このストーカー。でも、たまになら顔出してもいいからね」
「ん?」
振り返り、ホワイトと目が合う。怪訝そうに私を見てくるが、ホワイトは目を瞑り、ふんと鼻を鳴らした。
「阿呆。お前に危害がない限り、誰が現れるものか」
そう言ってホワイトは踵を返して去って行く。そんな背中を見送りながら、私はふっと微笑み、バスの中へと入っていった。席に座り窓から彼を探してみる。けれど、そこにはもう、彼の姿はいなかった。
「ありがとう、ホワイト」
誰にも聞こえないように、私は囁く。どこか、彼がまだ近くにいる気がする。ううん、きっといるのだろう。そんなあなたに伝わるかは分からないけれど、本当の気持ちをここで呟いておく。
だって、それで十分よね。私はあなたのことを、もうちゃんと知っているもの。
夕暮れに染まった街をバスが走り出していく。私は視線を窓に向け、外を眺める。
知らない風景。けれど、どこにでもある光景。これらの中にどれだけの特別があっても、私は普通だと思って気づかない。
けれど、私が知らないだけで、ここにもきっと、いろいろな特別があるのだろう。
だからこそ思うのだ。
この世界は普通だけど、普通じゃない。見方を変えるだけでこの世界は平凡で退屈なものから、特別なものへと姿を変える。もし退屈な日常から抜け出したいのなら。
ワンダーランドへの入り口は、すぐ近くにあるのかもしれない。
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