観測者と失われた記憶たち(メモリーズ)
這い寄る混沌4
ホワイトの背後に炎の狼、クトゥグアが現れる。熱の痛みが実体化した怪物が。火の粉を全身から撒き散らし、トラックほどもある巨体が威嚇の咆哮を叫ぶ。
「ガアアアアオウ!」
熱波と戦意を滾らせて、クトゥグアは召喚された。
ニャルラトホテプの視線がクトゥグアに移る。クトゥグアもニャルラトホテプを睨み上げ、両者は戦闘態勢となっていく。
クトゥグアは脚に力を溜め、ニャルラトホテプは無数の腕を広げていく。
そして、戦闘の火蓋が切られた。
クトゥグアが叫び声を上げながらニャルラトホテプに襲い掛かる。溜め込んだ四肢の力を爆発させ、見上げる影に飛びかかる。しかし、
「舐メルナヨ犬ガ」
ニャルラトホテプの百を超える腕が襲撃を防ぐ。網のようにクトゥグアに絡まり動きを止めてしまった。そのまま全身を締め付ける。
「ガアアアアオウ!」
クトゥグアも黙っておらず、炎の爪と牙で腕を切り裂き噛み砕く。超高温の体は絡みつく腕を灰にしていく。
だが、ニャルラトホテプの腕はさらに増え、新たに生まれた百の腕がクトゥグアを殴打していく。全身を叩く叩く、乱れ飛ぶ拳の嵐がクトゥグアを打ちのめす。
「クトゥグア!」
実体化した痛覚の苦戦を見上げ、ホワイトはすぐに両手に拳銃を出し加勢した。片手では到底扱えないほどの巨大拳銃でニャルラトホテプの体を射撃していく。
「利カヌナ、白ノ王」
だが、直撃した銃弾は弾かれた。ホワイトの表情がますます歪む。
表層世界の知識をいくら具現化しても、ニャルラトホテプにはなんらダメージを与えない。銃では好奇心を殺せない。
たとえここで核爆弾が爆発しようとも、邪神には擦り傷一つ与えられない。
それでも、ホワイトは手を止めなかった。
コートの内側から新たな銃器を取り出す。それは巨大な銃だった。ギターよりも大きい、コントラバスのような銃。名をアンチマテリアルライフル。それをホワイトは己の足だけで発砲した。
空気を殴る爆音が響き渡る。重い一撃と共に空薬莢が地面に落ちる。
「無駄ダ」
だが、一切の痛手を与えることもなく、振り下ろされた影の手に吹き飛ばされた。
「ぐっ!」
五メートル以上も離れた壁に激突する。衝撃に口から空気が漏れ、瞬時肺が止まる。なんとか地面に着地するも額からは一筋の血が流れていた。
ホワイトは苦しみながらもニャルラトホテプを睨み上げる。
するとクトゥグアまでもが地面に投げ捨てられた。虫の息で横になっている。
「言ッタダロウ、誰モ私ヲ止メラレナイ」
「くっ」
ニャルラトホテプの勝利宣言ともとれる言葉に、しかしホワイトは見上げるだけだった。
「白ノ王ヨ、ココデ死ヌガイイ」
ニャルラトホテプは雄大に構える。まるで黒い世界のように。
「ソレトモ降伏スルカ? ワンダーランドノカツテノ王」
無数の腕がゆらゆらと揺れる。余裕と、愉悦を見せつけるように。
「全テヲ失ッタ哀レナ王。自分ノ民ニ見捨テラレ、国カラモ追イ出サレタ。今ハ赤ノ女王ガイル。オ前ノ役目ハ終ワッタ。オ前ハモウ、世界ニ必要トサレテイナイ」
ホワイトの努力は決して無駄ではなかった。しかし、アリスを助ける度に増悪されて。たった一人、悲しみと苦しみに耐えた。そんなホワイトを、助けてくれた者は一人もいなかった。
「モウ、終ワッテモイイハズダ」
ニャルラトホテプの言葉の後、彼の体にいくつもの顔が現れた。そこには男の顔があり、女の顔があった。子供の顔も老人の顔もあった。それらの顔が、ホワイトに向かって一斉に口を開く。
「死ね、ホワイト」
占い師の顔も、白うさぎの顔も囁く。
皆が囁く。死すべきだと。憐れな人生に幕を閉じるべきだと。
「ガアアアアオウ!」
熱波と戦意を滾らせて、クトゥグアは召喚された。
ニャルラトホテプの視線がクトゥグアに移る。クトゥグアもニャルラトホテプを睨み上げ、両者は戦闘態勢となっていく。
クトゥグアは脚に力を溜め、ニャルラトホテプは無数の腕を広げていく。
そして、戦闘の火蓋が切られた。
クトゥグアが叫び声を上げながらニャルラトホテプに襲い掛かる。溜め込んだ四肢の力を爆発させ、見上げる影に飛びかかる。しかし、
「舐メルナヨ犬ガ」
ニャルラトホテプの百を超える腕が襲撃を防ぐ。網のようにクトゥグアに絡まり動きを止めてしまった。そのまま全身を締め付ける。
「ガアアアアオウ!」
クトゥグアも黙っておらず、炎の爪と牙で腕を切り裂き噛み砕く。超高温の体は絡みつく腕を灰にしていく。
だが、ニャルラトホテプの腕はさらに増え、新たに生まれた百の腕がクトゥグアを殴打していく。全身を叩く叩く、乱れ飛ぶ拳の嵐がクトゥグアを打ちのめす。
「クトゥグア!」
実体化した痛覚の苦戦を見上げ、ホワイトはすぐに両手に拳銃を出し加勢した。片手では到底扱えないほどの巨大拳銃でニャルラトホテプの体を射撃していく。
「利カヌナ、白ノ王」
だが、直撃した銃弾は弾かれた。ホワイトの表情がますます歪む。
表層世界の知識をいくら具現化しても、ニャルラトホテプにはなんらダメージを与えない。銃では好奇心を殺せない。
たとえここで核爆弾が爆発しようとも、邪神には擦り傷一つ与えられない。
それでも、ホワイトは手を止めなかった。
コートの内側から新たな銃器を取り出す。それは巨大な銃だった。ギターよりも大きい、コントラバスのような銃。名をアンチマテリアルライフル。それをホワイトは己の足だけで発砲した。
空気を殴る爆音が響き渡る。重い一撃と共に空薬莢が地面に落ちる。
「無駄ダ」
だが、一切の痛手を与えることもなく、振り下ろされた影の手に吹き飛ばされた。
「ぐっ!」
五メートル以上も離れた壁に激突する。衝撃に口から空気が漏れ、瞬時肺が止まる。なんとか地面に着地するも額からは一筋の血が流れていた。
ホワイトは苦しみながらもニャルラトホテプを睨み上げる。
するとクトゥグアまでもが地面に投げ捨てられた。虫の息で横になっている。
「言ッタダロウ、誰モ私ヲ止メラレナイ」
「くっ」
ニャルラトホテプの勝利宣言ともとれる言葉に、しかしホワイトは見上げるだけだった。
「白ノ王ヨ、ココデ死ヌガイイ」
ニャルラトホテプは雄大に構える。まるで黒い世界のように。
「ソレトモ降伏スルカ? ワンダーランドノカツテノ王」
無数の腕がゆらゆらと揺れる。余裕と、愉悦を見せつけるように。
「全テヲ失ッタ哀レナ王。自分ノ民ニ見捨テラレ、国カラモ追イ出サレタ。今ハ赤ノ女王ガイル。オ前ノ役目ハ終ワッタ。オ前ハモウ、世界ニ必要トサレテイナイ」
ホワイトの努力は決して無駄ではなかった。しかし、アリスを助ける度に増悪されて。たった一人、悲しみと苦しみに耐えた。そんなホワイトを、助けてくれた者は一人もいなかった。
「モウ、終ワッテモイイハズダ」
ニャルラトホテプの言葉の後、彼の体にいくつもの顔が現れた。そこには男の顔があり、女の顔があった。子供の顔も老人の顔もあった。それらの顔が、ホワイトに向かって一斉に口を開く。
「死ね、ホワイト」
占い師の顔も、白うさぎの顔も囁く。
皆が囁く。死すべきだと。憐れな人生に幕を閉じるべきだと。
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