観測者と失われた記憶たち(メモリーズ)
友達3
一人だと思っていた私の心を、久遠は励ましてくれる。それが、どうしても嬉しくて。
恐怖が、久遠の優しさに触れて溶けていく。ひび割れた隙間から光が差し込むように、私に勇気をくれる。
私はゆっくりと手を伸ばし、鍵を開けていた。黒い世界にある無数の扉に比べれば、こんなにも分かり易い出口に手を伸ばす。
ワンルームという私の小さな世界に穴を開け、私は自ら、この世界の扉を開く。
そこには、私の友達が待っていた。
「久遠は、いいの? 私、なんかの、ために」
泣き声に震える唇をなんとか動かして言葉を作り出していく。頬を流れる涙を拭いて。
「はい! 当然ではありませんか。わたくしはアリスさんのお友達です。困っている友達がいれば、助けてこそのお友達ですわ」
久遠はそう言ってくれた。私を助けてくれると迷いもなく言ってくれる彼女。友達だからと。浮かべる彼女の笑顔は、眩しいほどに輝いていた。
「久遠!」
私は、久遠に抱き付いた。一人だった。孤独だった。でも今は一人じゃない。それだけで嬉しかった。友達がいる。それが、どれだけ心強くて、いじめられていた私にとって幸せか。
一人じゃないんだ、私は。
「大丈夫です、大丈夫ですよ、アリスさん」
泣きじゃくる私を、久遠は優しく受け止め頭を撫でてくれた。彼女の温かい体は、私の凍える心を包んでくれるようだった。
それから久遠を部屋に入れ、私たちはベッドに腰掛けた。
「へえ~、ここがアリスさんのお部屋なのですねぇ」
「ま、まあね」
久遠が私の部屋に来るのは初めてだ。珍しいもの好きな久遠は人の部屋を楽しそうに見渡している。とはいっても、私の部屋は簡素だと思うけど。
「アリスさん、もう具合は大丈夫ですか?」
「うん、ありがとうね。だいぶ落ち着いた」
久遠がしっかりと私を受け止めてくれたおかげで、なんとか気持ちは落ち着いてくれた。私はいつものように久遠に返事をする。
それで、久遠もニコッと笑ってくれた。けれど雰囲気をすこし変えて、私に話しかけてきた。
「わたくし、思ったんです。こんな事態ですもの。アリスさんが嫌なら、わたくし、部屋から出なくてもいいのではって。だって、あんな」
久遠の表情は暗い。きっと外の様子を思い出しているのだろう。私だってそう。悪い夢だ。町の人すべてが、私をいじめてくるなんて。
外に出ても嫌な思いをするだけで、どうしようもない。このまま部屋にいるという久遠の提案は、もっともだ。
「うん、ありがと」
そんな彼女の優しさが嬉しかった。久遠は私の代わりに買い物までしてくれると言う。そんなの大変なはずなのに。久遠は友達だからといって笑顔で言いのける。
本当に、優しい子。
だけど。
「気持ちは嬉しい。でも、それじゃ駄目だよ」
「え?」
私はベッドから立ち上がった。隣では驚いたように久遠が私を見上げている。
「私、決めたんだ。もう逃げないって。久遠に抱き締められた時にね。私は一人じゃないって実感した。そう思えただけで、勇気をもらえたんだ。だからもう逃げない。隠れない。今度こそ、正面から立ち向かおうって」
私は逃げ出した。この世界から。その行動を、そして、その辛さを久遠は分かってくれている。だからこそ、私の選択に驚いている。
でも、私は決めたんだ。かつてなにも出来なかった私でも、今度こそは、自分の力で立ち向かおうって。
これは、私の問題だ。私が解決する。
「そう思った。あなたのおけげよ、久遠」
「アリスさん……」
見上げる彼女、今度は私が力強く見つめる。
恐怖が、久遠の優しさに触れて溶けていく。ひび割れた隙間から光が差し込むように、私に勇気をくれる。
私はゆっくりと手を伸ばし、鍵を開けていた。黒い世界にある無数の扉に比べれば、こんなにも分かり易い出口に手を伸ばす。
ワンルームという私の小さな世界に穴を開け、私は自ら、この世界の扉を開く。
そこには、私の友達が待っていた。
「久遠は、いいの? 私、なんかの、ために」
泣き声に震える唇をなんとか動かして言葉を作り出していく。頬を流れる涙を拭いて。
「はい! 当然ではありませんか。わたくしはアリスさんのお友達です。困っている友達がいれば、助けてこそのお友達ですわ」
久遠はそう言ってくれた。私を助けてくれると迷いもなく言ってくれる彼女。友達だからと。浮かべる彼女の笑顔は、眩しいほどに輝いていた。
「久遠!」
私は、久遠に抱き付いた。一人だった。孤独だった。でも今は一人じゃない。それだけで嬉しかった。友達がいる。それが、どれだけ心強くて、いじめられていた私にとって幸せか。
一人じゃないんだ、私は。
「大丈夫です、大丈夫ですよ、アリスさん」
泣きじゃくる私を、久遠は優しく受け止め頭を撫でてくれた。彼女の温かい体は、私の凍える心を包んでくれるようだった。
それから久遠を部屋に入れ、私たちはベッドに腰掛けた。
「へえ~、ここがアリスさんのお部屋なのですねぇ」
「ま、まあね」
久遠が私の部屋に来るのは初めてだ。珍しいもの好きな久遠は人の部屋を楽しそうに見渡している。とはいっても、私の部屋は簡素だと思うけど。
「アリスさん、もう具合は大丈夫ですか?」
「うん、ありがとうね。だいぶ落ち着いた」
久遠がしっかりと私を受け止めてくれたおかげで、なんとか気持ちは落ち着いてくれた。私はいつものように久遠に返事をする。
それで、久遠もニコッと笑ってくれた。けれど雰囲気をすこし変えて、私に話しかけてきた。
「わたくし、思ったんです。こんな事態ですもの。アリスさんが嫌なら、わたくし、部屋から出なくてもいいのではって。だって、あんな」
久遠の表情は暗い。きっと外の様子を思い出しているのだろう。私だってそう。悪い夢だ。町の人すべてが、私をいじめてくるなんて。
外に出ても嫌な思いをするだけで、どうしようもない。このまま部屋にいるという久遠の提案は、もっともだ。
「うん、ありがと」
そんな彼女の優しさが嬉しかった。久遠は私の代わりに買い物までしてくれると言う。そんなの大変なはずなのに。久遠は友達だからといって笑顔で言いのける。
本当に、優しい子。
だけど。
「気持ちは嬉しい。でも、それじゃ駄目だよ」
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私はベッドから立ち上がった。隣では驚いたように久遠が私を見上げている。
「私、決めたんだ。もう逃げないって。久遠に抱き締められた時にね。私は一人じゃないって実感した。そう思えただけで、勇気をもらえたんだ。だからもう逃げない。隠れない。今度こそ、正面から立ち向かおうって」
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これは、私の問題だ。私が解決する。
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見上げる彼女、今度は私が力強く見つめる。
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