観測者と失われた記憶たち(メモリーズ)
買い物4
エレベーターの扉が開き一緒に乗り込む。ここには私とホワイトの二人きりで、エレベーターはガラス張りになっていた。
外の景色が見えるようになっており、私はすかさず壁に立ち寄る。エレベーターが動き出しみるみると視界から地上が離れていき、代わりに見えてくるのは大きなビルや車が走る街並みだった。
「うわぁ」
ぐんぐんと高くまで昇っていき、もう道を歩いている人が点にしか見えない。多くの建物も見下ろして、まるで独り占めにしたように街を一望している。
学校の三階から見る景色とは全然違う、広大な街の景色。
「きれい」
素直にそう思う。写真とは違う、直に見る迫力。等身大のミニチュア、というおかしな錯覚すら覚える。
「そうだ。これがお前の街。お前が知っている街。お前が作り出している街だ」
「私が……」
ホワイトの声に振り返ることなく、私は街を眺め続ける。こうして目の前にある街が、私の知識を反映してできた街。彼はそういうけれど、でもやっぱりピンとこない。
「誇っていい。お前の街だ」
私は視線を彼へと寄せてみる。私とは反対側の壁に彼は背中を預け腕を組んでいた。広いエレベーター内ではそれなりに距離がある。
「私の街、っていわれてもね」
私は苦笑してしまう。そんな誇大妄想狂みたいな言葉、信じるなんてやっぱり無理。
「ねえ、仮に私がその観測者だとしてよ? たとえば私が持っている街の知識がこことは全然ちがったら、この街はどうなるの?」
「その通りに形を変えるだろうな。その例でいえば、自分が住んでいる街が京都や奈良のような作りをしているとお前が認識すれば実際にそうなるだろう」
マジ!? え、本当に?
彼の言葉はてきとうに言っているようにしか聞こえない。そんな重大なことをこうも簡単に言うなんて。
でも、試してみようかしら? そこまで言うのなら。起こるはずがないけれど、もし本当ならそれはそれで見てみたい。
私は街を見て、それから瞼を閉じてみた。こっちの方が集中できるから。視界を黒く閉ざし、代わりに京都の街並みを想像してみる。
コンクリートとは違った木製の建物に、歴史と芸術的な街の様子。私は出来るだけ詳細に思い描き、そっと瞼を開いてみる。そんな、まさか、もしかして?
そして目に飛び込んできた光景に、私は思わず声が出た。
「なによ」
それは不満。だって、そこには相変わらず同じ街が広がっていたから。私はホワイトに聞こえるように愚痴を吐く。
「やっぱり嘘。私いまここが京都だって強く思ったけど、全然変わってないじゃない」
「当然だろう、アホか貴様は」
「…………」
なによこいつムカツク!
「表層世界は知識を元にしてできていると言ったが、そこには常識という知識が強く影響してくる。お前が宇宙人の存在を強く信じても、それでも常識的にいないという認識が少しでもあれば実在を許されない。突飛なことはそうそう起きん。街が一瞬で姿を変える、なんてことが起きれば、お前は正真正銘、狂人だ」
なによそれ。なら初めからそう言いなさいよ、と言おうとしたが、彼が言い終えると同時に扉が開いた。
到着した階層を見てみれば二十八階。このホテルの最上階だ。ということは。私は想像と期待を抱くが、答えは扉の向こうに待っていた。
そう、ホテル最上階レストラン。内装は明るく木目の床に白い天井が爽やかな印象のお店。学生服姿ではとても来られない、特別な空間がそこにはあった。
私たちの入店に男性店員がすぐに歩み寄ってくる。黒の制服に小さな白いエプロンを腰に巻いて、芯の入った表情と声で出迎えてくれる。
外の景色が見えるようになっており、私はすかさず壁に立ち寄る。エレベーターが動き出しみるみると視界から地上が離れていき、代わりに見えてくるのは大きなビルや車が走る街並みだった。
「うわぁ」
ぐんぐんと高くまで昇っていき、もう道を歩いている人が点にしか見えない。多くの建物も見下ろして、まるで独り占めにしたように街を一望している。
学校の三階から見る景色とは全然違う、広大な街の景色。
「きれい」
素直にそう思う。写真とは違う、直に見る迫力。等身大のミニチュア、というおかしな錯覚すら覚える。
「そうだ。これがお前の街。お前が知っている街。お前が作り出している街だ」
「私が……」
ホワイトの声に振り返ることなく、私は街を眺め続ける。こうして目の前にある街が、私の知識を反映してできた街。彼はそういうけれど、でもやっぱりピンとこない。
「誇っていい。お前の街だ」
私は視線を彼へと寄せてみる。私とは反対側の壁に彼は背中を預け腕を組んでいた。広いエレベーター内ではそれなりに距離がある。
「私の街、っていわれてもね」
私は苦笑してしまう。そんな誇大妄想狂みたいな言葉、信じるなんてやっぱり無理。
「ねえ、仮に私がその観測者だとしてよ? たとえば私が持っている街の知識がこことは全然ちがったら、この街はどうなるの?」
「その通りに形を変えるだろうな。その例でいえば、自分が住んでいる街が京都や奈良のような作りをしているとお前が認識すれば実際にそうなるだろう」
マジ!? え、本当に?
彼の言葉はてきとうに言っているようにしか聞こえない。そんな重大なことをこうも簡単に言うなんて。
でも、試してみようかしら? そこまで言うのなら。起こるはずがないけれど、もし本当ならそれはそれで見てみたい。
私は街を見て、それから瞼を閉じてみた。こっちの方が集中できるから。視界を黒く閉ざし、代わりに京都の街並みを想像してみる。
コンクリートとは違った木製の建物に、歴史と芸術的な街の様子。私は出来るだけ詳細に思い描き、そっと瞼を開いてみる。そんな、まさか、もしかして?
そして目に飛び込んできた光景に、私は思わず声が出た。
「なによ」
それは不満。だって、そこには相変わらず同じ街が広がっていたから。私はホワイトに聞こえるように愚痴を吐く。
「やっぱり嘘。私いまここが京都だって強く思ったけど、全然変わってないじゃない」
「当然だろう、アホか貴様は」
「…………」
なによこいつムカツク!
「表層世界は知識を元にしてできていると言ったが、そこには常識という知識が強く影響してくる。お前が宇宙人の存在を強く信じても、それでも常識的にいないという認識が少しでもあれば実在を許されない。突飛なことはそうそう起きん。街が一瞬で姿を変える、なんてことが起きれば、お前は正真正銘、狂人だ」
なによそれ。なら初めからそう言いなさいよ、と言おうとしたが、彼が言い終えると同時に扉が開いた。
到着した階層を見てみれば二十八階。このホテルの最上階だ。ということは。私は想像と期待を抱くが、答えは扉の向こうに待っていた。
そう、ホテル最上階レストラン。内装は明るく木目の床に白い天井が爽やかな印象のお店。学生服姿ではとても来られない、特別な空間がそこにはあった。
私たちの入店に男性店員がすぐに歩み寄ってくる。黒の制服に小さな白いエプロンを腰に巻いて、芯の入った表情と声で出迎えてくれる。
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