観測者と失われた記憶たち(メモリーズ)

奏せいや

ホワイト4

 命を助けてくれたとしても、こうも分からないんじゃ不安にもなるわ。この人は普通じゃない。だから信じるためにもいろいろ知りたいって思うこと、そんなにもいけないことなの?

「それは言えない」

「どうして?」

「どうしてもだ」

「不審人物」

「好きに言え」

 彼は吐き捨てるように言うと顔を横に向ける。めんどくさそうに。

「ちょっと、こっち向きなさいよ。せめて本当の名前くらい教えてよ」

 私は拗ねた子供のように彼に言い縋っていた。だって、なんだかんだ、彼には感謝しているから。

 その人の名前も知らないなんて。その人の本当の名前でお礼を言えないなんて、やはり寂しいから。お礼を言いたい。だから彼の名前を知ろうとするのだけれど。

「さきほども言っただろう。名はホワイト。それ以外は言えない、馬鹿娘」

「ば、ばかって言ったわね~!」

 信じられない。ほとんど初対面なのに。私女の子なのに。お礼を言ってあげようと思っただけなのに!

 頬が膨らんでいくのが分かる。感謝の気持ちが形を変えて苛立ってくる。

「今すぐ警察呼ぶわよこの不審人物!?」

「それが命の恩人に掛ける言葉か?」

「あなたが命を助けてくれた理由が分からないんじゃ信用できないもの。もしかしたら邪な理由かもしれない」

「なるほど、そうかもな」

「そうなの!?」

「めんどくさい奴だなお前も」

 ホワイトが足を崩し前屈みになる。垂れた銀髪に表情は見えないがとても嫌そうなのが分かる。
「だって気になるわよ! あんな黒い意味の分からない世界やメモリーのこと知ってて、拳銃を持ってるわ炎の狼を出すわ、あなただって普通じゃ――」

 私は体を前に傾け口にも熱が入る。この人のことを知ろうと躍起になって喋る、その際中。

 ぐぅ~。

「へ?」

 どこかから音がなった。え、嘘。嘘でしょ私。

 そう思いつつも私の両手は自分のお腹を押さえていた。どうして? 私は何故と思うがすぐにハッとなる。昨日の夜、アルバムを読んでから食事をせずに寝てしまった。今朝もそういえば夢に集中してて食べてない。

 どういうことかを理解してみるみる顔が赤くなっていく。すぐに顔を俯けて身体を丸める。きっと耳まで真っ赤だ。

 そんな、なんでよりにもよってこんな時に。空気を読んでよ私のお腹!

「……腹が減っているのか?」

「うぅ~」

 彼をまともに見ることも出来ず、私は降参したように情けない声しか出せなかった。

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