観測者と失われた記憶たち(メモリーズ)
出会い3
「やあ、ご機嫌ようアリス。一緒にワンダーランドへと行こう。しかし残念。扉はまだ開いていない」
そう言って、白うさぎの少年は私にお辞儀をする。帽子が落ちないように片手を当てて。
「待って! 私はまだ――」
やり残したことがある。ここでしなければならないことがある。けれど、私の意識は遠のき、薄くなっていき、この黒い世界から追い出されるようにして、意識が――
*
ジリリリリ! ……ピタ。
「う~ん……」
目覚まし時計のベルで目を覚ます。時刻は六時三十分。時間通りだ。
「おはよう、私。いい朝ね」
寝起きの緩い声が朝の空気に溶ける。言葉の意味はもちろん嘘。今朝もあの夢を見た。結果も同じ。助けられなかった。判定、最悪の朝。
いつもの朝だ。私はお気に入りの寝間着から制服に着替え部屋を出た。
学校に着き早めの登校を終える。朝の静かな教室はわりと好きで、この静穏とした空気は早起きした者にのみ味わえる特権だ。私はモーニングコーヒーの香りを堪能するように、この場に佇む。
「おはようございます、アリスさん」
すると朝に良く合う声が隣から聞こえてきた。あ、もうこんな時間か。なんて、彼女のあいさつを聞いて初めにそんなことを思う。
「おはよう、久遠」
振り返れば隣に久遠が座っていた。綺麗なクリーム色の髪をリボンで纏め、今日もねむたそうに欠伸を一つ。お嬢様のような人なのに、こういうところは幼い子供のようで私は微笑ましく見つめてしまう。
そんな私に気づいたようで、久遠はハッと顔を赤らめた。
「ア、アリスさん。そんな風にじっと見ないでください」
「変わらないわね久遠は、朝が弱いとこ」
「う~、朝は駄目なんですわ」
恥ずかしそうに久遠が俯く。いったい何時まで起きているのだろうか。聞いてみたい気もするけど、うーん。
「いいではありませんか。授業が始まるころには、私ちゃんと起きていますから」
「ほんとうに~? 昨日、一限目は顔がゆらゆらと揺れていたわよ?」
「う~、アリスさん、いじわるですわ~」
意地悪く言う私に久遠が弱気な声を出す。俯きもじもじと体を縮めていた。可愛い。そんな可愛らしい仕草をされたら、もう少しだけいじめたくなる。理由? 人間いじられる間が華だからよ。
「あれ? 久遠、ここ、ここ」
そう言って私は目頭を指さす。なんだろうかと久遠が見てきた後、「ええ~!」と大声を出して目を擦り始めた。けれどハッと思い出したように動きを止め、ぷるぷると震えながら睨んできた。
「アリスさん! 私でも、ちゃんと毎朝顔は洗いますから。冗談は止めてください!」
「すみません、反省します……」
うう、怒られた。調子に乗り過ぎてしまったらしい。私はしゅんとなり姿勢を正す。そういえば、こんなやり取りを昨日もした気がする。
「あ」
それで思い出した。昨日のこと。三人の男たちに絡まれて、誰かに助けられたこと。
「ねえ、久遠」
「アリスさん。話題を変えようとしてもダメです。私いま、すごーく怒っているんですからね」
「ごめん久遠~。許して、ね?」
「ダメです」
私は両手を合わせてお願いしてみるが久遠は目をつむってツンと正面を向いている。
「許してくれないの?」
「ゆるしません」
「どうしても?」
「どうしてもです」
「後でロイヤルミルクティーおごるのに?」
「ゆるします」
それで久遠がこちらを振り向いてくれた。目がらんらんと輝いている。久遠はミルクティーが大好きなのだ。
そう言って、白うさぎの少年は私にお辞儀をする。帽子が落ちないように片手を当てて。
「待って! 私はまだ――」
やり残したことがある。ここでしなければならないことがある。けれど、私の意識は遠のき、薄くなっていき、この黒い世界から追い出されるようにして、意識が――
*
ジリリリリ! ……ピタ。
「う~ん……」
目覚まし時計のベルで目を覚ます。時刻は六時三十分。時間通りだ。
「おはよう、私。いい朝ね」
寝起きの緩い声が朝の空気に溶ける。言葉の意味はもちろん嘘。今朝もあの夢を見た。結果も同じ。助けられなかった。判定、最悪の朝。
いつもの朝だ。私はお気に入りの寝間着から制服に着替え部屋を出た。
学校に着き早めの登校を終える。朝の静かな教室はわりと好きで、この静穏とした空気は早起きした者にのみ味わえる特権だ。私はモーニングコーヒーの香りを堪能するように、この場に佇む。
「おはようございます、アリスさん」
すると朝に良く合う声が隣から聞こえてきた。あ、もうこんな時間か。なんて、彼女のあいさつを聞いて初めにそんなことを思う。
「おはよう、久遠」
振り返れば隣に久遠が座っていた。綺麗なクリーム色の髪をリボンで纏め、今日もねむたそうに欠伸を一つ。お嬢様のような人なのに、こういうところは幼い子供のようで私は微笑ましく見つめてしまう。
そんな私に気づいたようで、久遠はハッと顔を赤らめた。
「ア、アリスさん。そんな風にじっと見ないでください」
「変わらないわね久遠は、朝が弱いとこ」
「う~、朝は駄目なんですわ」
恥ずかしそうに久遠が俯く。いったい何時まで起きているのだろうか。聞いてみたい気もするけど、うーん。
「いいではありませんか。授業が始まるころには、私ちゃんと起きていますから」
「ほんとうに~? 昨日、一限目は顔がゆらゆらと揺れていたわよ?」
「う~、アリスさん、いじわるですわ~」
意地悪く言う私に久遠が弱気な声を出す。俯きもじもじと体を縮めていた。可愛い。そんな可愛らしい仕草をされたら、もう少しだけいじめたくなる。理由? 人間いじられる間が華だからよ。
「あれ? 久遠、ここ、ここ」
そう言って私は目頭を指さす。なんだろうかと久遠が見てきた後、「ええ~!」と大声を出して目を擦り始めた。けれどハッと思い出したように動きを止め、ぷるぷると震えながら睨んできた。
「アリスさん! 私でも、ちゃんと毎朝顔は洗いますから。冗談は止めてください!」
「すみません、反省します……」
うう、怒られた。調子に乗り過ぎてしまったらしい。私はしゅんとなり姿勢を正す。そういえば、こんなやり取りを昨日もした気がする。
「あ」
それで思い出した。昨日のこと。三人の男たちに絡まれて、誰かに助けられたこと。
「ねえ、久遠」
「アリスさん。話題を変えようとしてもダメです。私いま、すごーく怒っているんですからね」
「ごめん久遠~。許して、ね?」
「ダメです」
私は両手を合わせてお願いしてみるが久遠は目をつむってツンと正面を向いている。
「許してくれないの?」
「ゆるしません」
「どうしても?」
「どうしてもです」
「後でロイヤルミルクティーおごるのに?」
「ゆるします」
それで久遠がこちらを振り向いてくれた。目がらんらんと輝いている。久遠はミルクティーが大好きなのだ。
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