観測者と失われた記憶たち(メモリーズ)
出会い1
「と、思ったところで」
学校はすでに終わり、今は下校中。まだ明るく、コンビニやファミレスが並ぶ賑やかな歩道を私は一人で歩いている。
「そう簡単に生活が変わることもないわよね」
私は退屈を紛らわすように小言で呟いた。
特別なことがいくらでもあるといっても、結局そんなものは他人様のことで私には関係ないことだ。
ちょっとやそっとじゃ日常というのは変わらないわけで。もしころころ変わってたらそれこそ大変だ。まあ、平凡な学生らしく、ここは素直に部屋に戻って宿題でも終わらせてしまいましょう。
そう、思っている時だった。
「ねえねえ、君。今学校終わったとこ?」
「え?」
後ろから声を掛けられ、振り向くよりも早くに私の正面に回り込まれていた。
三人の男の人。軽装で開けた胸元にはアクセサリーがぶら下がっていて、髪も派手な金色をしている。香水の臭いが強い。
「これからカラオケなんてどう? ゲーセンでもいいしどうよ?」
「あの、その」
笑顔で話しかけてくるが、ちょっと怖い。声が上擦ってる。
どうしよう。というより、しまった。無視して歩いてればよかったのに、立ち止まってしまった。正面に三人立たれて、通れない。
私は鞄を両手でぎゅっと握りながら、なんとか前に通ろうと歩いてみる。
「あの、急いでますので」
三人を迂回して、やり過ごそうと足を動かす。
「そう言わないでさー」
けれど、通り過ぎようとした私に男の一人が手を伸ばしてきた。
「ちょっ――」
握られた、手を。痛くないけど、強い。振り解けない。手首を握られて、逃げたくても逃げれない。一気に焦る。胸中をさざめく波が高くなる。
「あの、止めてください。私帰りますから」
「そう言わないでさあ、少しだけ遊ぼうよ。ヘンなことしないって」
私は断るのに、男の人は笑顔で放してくれない。他の二人も私を強引に誘ってくる。どうしよう。どうしよう。どうすれば。
私は考える。けれど不安になってきて、怖くなってきて。本当に、どうすれば。
「おい」
その時だった。彼らではない、別の声がした。
「ああ!?」
第三者の声に男たちが荒れた声と共に振り返る。私も声がした方向、彼らの背後で、私の正面にいる人物に目をやった。
そこにいたのは、目を疑う二十代ほどの青年だった。
全身が白で統一されている。髪は銀色で青く鋭い双眸が私たちを睨んでいる。背は高く、くるぶしまで届く純白のロングコートを羽織り靴も白。
それに一目でハンドメイドだと分かる高級品。外套に施された刺繍は優美でこれだけ白いのに汚れがまったく見当たらない。
夏を控えた六月に服装は季節外れで、衣服は都会離れしている。まるで絵本に出てくる貴公子。少女趣味はないけれど、白馬まであれば絵に描いた王子様だ。
場違いな風貌。日本人じゃない。というか、まるで人形の域の美形。細い眉に切れ長の瞳は、冷徹だけれどかっこいい。
「そこの女を放せ」
彼は端的に、要点しか話さない。頼むわけでもなく、願うわけでもなく、ただ放せと、命令する。
学校はすでに終わり、今は下校中。まだ明るく、コンビニやファミレスが並ぶ賑やかな歩道を私は一人で歩いている。
「そう簡単に生活が変わることもないわよね」
私は退屈を紛らわすように小言で呟いた。
特別なことがいくらでもあるといっても、結局そんなものは他人様のことで私には関係ないことだ。
ちょっとやそっとじゃ日常というのは変わらないわけで。もしころころ変わってたらそれこそ大変だ。まあ、平凡な学生らしく、ここは素直に部屋に戻って宿題でも終わらせてしまいましょう。
そう、思っている時だった。
「ねえねえ、君。今学校終わったとこ?」
「え?」
後ろから声を掛けられ、振り向くよりも早くに私の正面に回り込まれていた。
三人の男の人。軽装で開けた胸元にはアクセサリーがぶら下がっていて、髪も派手な金色をしている。香水の臭いが強い。
「これからカラオケなんてどう? ゲーセンでもいいしどうよ?」
「あの、その」
笑顔で話しかけてくるが、ちょっと怖い。声が上擦ってる。
どうしよう。というより、しまった。無視して歩いてればよかったのに、立ち止まってしまった。正面に三人立たれて、通れない。
私は鞄を両手でぎゅっと握りながら、なんとか前に通ろうと歩いてみる。
「あの、急いでますので」
三人を迂回して、やり過ごそうと足を動かす。
「そう言わないでさー」
けれど、通り過ぎようとした私に男の一人が手を伸ばしてきた。
「ちょっ――」
握られた、手を。痛くないけど、強い。振り解けない。手首を握られて、逃げたくても逃げれない。一気に焦る。胸中をさざめく波が高くなる。
「あの、止めてください。私帰りますから」
「そう言わないでさあ、少しだけ遊ぼうよ。ヘンなことしないって」
私は断るのに、男の人は笑顔で放してくれない。他の二人も私を強引に誘ってくる。どうしよう。どうしよう。どうすれば。
私は考える。けれど不安になってきて、怖くなってきて。本当に、どうすれば。
「おい」
その時だった。彼らではない、別の声がした。
「ああ!?」
第三者の声に男たちが荒れた声と共に振り返る。私も声がした方向、彼らの背後で、私の正面にいる人物に目をやった。
そこにいたのは、目を疑う二十代ほどの青年だった。
全身が白で統一されている。髪は銀色で青く鋭い双眸が私たちを睨んでいる。背は高く、くるぶしまで届く純白のロングコートを羽織り靴も白。
それに一目でハンドメイドだと分かる高級品。外套に施された刺繍は優美でこれだけ白いのに汚れがまったく見当たらない。
夏を控えた六月に服装は季節外れで、衣服は都会離れしている。まるで絵本に出てくる貴公子。少女趣味はないけれど、白馬まであれば絵に描いた王子様だ。
場違いな風貌。日本人じゃない。というか、まるで人形の域の美形。細い眉に切れ長の瞳は、冷徹だけれどかっこいい。
「そこの女を放せ」
彼は端的に、要点しか話さない。頼むわけでもなく、願うわけでもなく、ただ放せと、命令する。
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