ガチホモの俺がお嬢様学園に入学させられてしまった件について 

湊湊

57.「第0章 last episode-櫻井芳樹は学園生活を謳歌し始める」

 
 俺と二宮は結局日中の授業を欠席することとなった。流石に疲労が蓄積していたこともあり、午前九時頃に眠りにつき午後四時頃までほとんど身体を動かすことが出来なかった。
 そして放課後。校内放送によって名指しで一年A組の作戦に参加したメンバーと生徒会の役員全員が召集されていた。ちなみに作戦に協力してくれた先輩方(男を求めた狂戦士たち)は対象外であるようだ。


「……」


 それにしても……周囲を見渡すと東雲先輩や柊先輩、そして三枝は常時と変わらずに泰然自若とした様子を見せていたが、他のメンバーは皆程度の差はあれど、緊張しているのは明白だった。特に花京院は身体を震わせながら理事長の反応を待っていたのだ。まあそりゃ緊張するよな。特に天上ヶ原の真意とか知らなきゃ。


「さて……それでは今回の学園脱出計画に関するあなた達の処分について述べます。貴方たちの行った行為は学園規律第四十三条に抵触しています。従来の規則通りに処分するとすればあなたたちは停学……いえ退学処分にするのが適切でしょう」


「……っ!」


 退学というワードには流石に肝が冷えてしまう。場の雰囲気が膠着してしまうことが、手に取るように分かる。そして、この状況と雰囲気を楽しんでいる理事長についても手に取るように分かってしまう。マジで性格悪いなこいつ。


「ですが……今回の一件はあくまで二宮冬香さんという大切な学友のために身を削りながら奮闘したという風に櫻井芳樹君の方から聞き及んでおります。更に言えば、言葉巧みに櫻井芳樹君に誘導され強制的に手伝いをさせられたという側面もあるようですね。それらの要素から複合的に処分を決めるとするならば……初犯ということもあり懲罰の内容は軽くすべきでしょう。櫻井芳樹君と二宮冬香さんの二人の処分は後述しますが……先にお二方以外の処分について発表致します。お二方以外の処分は―――――裏庭およびグラウンドの草むしり一週間と致します。やり方、時間、量などの采配については、櫻井芳樹くんに一任します。自由にどうぞ」


「……軽っ!ほんと適当だなお前っ!」


 何か急に雰囲気軽くなったんだがっ!こいつもしかしてシリアスな雰囲気に飽きたの?別に俺としては軽い方がありがたいけれど、こいつは真剣でいられない病気なのマジで?


「何かご不満でも?お望みなら停学でも退学でも選ばせて差し上げますが?」


「ちょっと櫻井。折角理事長が優しく配慮してくれているんだから、ごちゃごちゃ言うなし!」


「そうですわよ。私たちに情状酌量の余地を下さった理事長さんに暴言を吐くなど言語道断ですわっ!」


「……わかったわかったよ。ありがとな天上ヶ原雅」


「いえ……礼を言われるまでもありません。というかその軽い懲罰に関しては……あくまで櫻井君と二宮さん以外の方々の処分ですから。その点を留意してください」


「……」


 実際それはそうだった。この理事長のことだ。二宮はまだしも、俺には頭がイカれているとしか思えないような懲罰を下すかもしれない。


「さて……それでは、まず二宮さんの処分に関してから説明しますね。二宮さんには、一つとして他の方々の共に雑草処理を担当して頂きます。期間は同じく一週間です。そしてもう一つの懲罰はこちらになります」


 天上ヶ原雅は、一枚の手紙らしきものを二宮に渡した。二宮は楚々とした手つきで紙を受け取った。


「拝見しますね」


 二宮は、ゆっくりとその紙に書かれている文字を目視する。一応、俺はプライバシーの観点から中身を見ることは控えた。その代わりに二宮の様子だけを伺うことにした。


「……っ!」


 二宮は少しだけ驚いたような態度を見せてから……ゆっくりと笑った。まるで、全てを理解したかのように。そして、天上ヶ原雅と視線を交わしながら大きく頭を下げる。


「理事長。私は……私はこの懲罰をこなすことが出来るように努めますね」


「ええ。頑張ってくださいね。この点だけに関しては……面白さも楽しさも放置して、あなたを応援しますから」


 それは、二宮と天上ヶ原雅だけの世界だった。誰にもその会話の意味は理解出来ない。だけど―――――二宮が笑ってくれているだけで俺は満足だった。
 そしてそれは……今回の作戦で協力してくれた皆も同じだと思う。この心地の良い雰囲気で不快に感じる人間などいないだろう。……全く気がいい連中ばかりだと俺まで微笑んでしまいそうになる。


「それはそうとして櫻井君。あなたの犯した罪は海よりも深く山よりも高いものです。そういうことで、あなたには厳罰を与えます」


「はいはい。……んで、俺の懲罰内容は何なんだよ?」


「はい。あなたの懲罰内容は……こちらです」


 二宮と同じように手紙を手渡される。その内容は以下の通りだった。


「『これからもこの学園で楽しい学園生活を送り、女性に対するトラウマを完治すること』」


「はい。それがあなたの懲罰内容ですよ……」


 随分と軽くて安心……というか真面目なことを書いていて予想外だと言ったら、この女はどんな反応をするだろうか。……いや、気まぐれを起こされてもたまらん。ここは大人しく承っておこう。


「櫻井君。私は……二宮さんと同様に、あなたが良き方向に変わっていくことを心から望んでいます。これ
らからも……学園生活を謳歌してくださいね?」


「……ああ。あんたに言われるまでもねえよ。俺には……頼りになる最高の仲間たちがいるからな」


 周辺を見渡した。そこには生徒会のメンバー、そして一年A組の仲間たちの姿があった。皆がいてくれれば……仮に女しかいないこの学園でも俺は何とかやって行ける筈だと信じている。
 そんな風に俺たちの懲罰内容の告知は予想をいい意味で裏切り、あっけなく終結を迎えることとなったのだった。








 そして―――――それから一週間後。草むしりを終えた現在に至るというわけだ。


「あっちい。あちいよ……」


「櫻井―。暑いばっか言うなしー。マジで暑くなってくるんですけど?」


「うるせえな。お前だってさっきまで文句言ってただろうが……ああ、駄目だ。喉渇いた」


 そんな愚痴を零した直後に俺の元に後片付けを済ませた二宮が近づいてくる。


「お疲れ様、櫻井君。あの……良かったらどうぞ」


「おお。二宮。いいのか?サンキュー。助かるわっ!」


 二宮は俺に対して水筒を渡してくれたのだ。これは中に入っている飲み物を分けてくれるということだろう。何と気遣いの出来る人間だ。二宮は将来いいお嫁さんになるぞきっと。強烈な感謝の念を心の中で唱え続けながら俺は水筒に口を付けて嚥下していく。


「っぶっはーはっ!うめえ。マジで生き返るっ!」


「あっれー。櫻井。それもしかしてー間接キスって奴じゃない?あれあれあれ?」


「ぶほぉおっ!って吐き出しそうになったじゃねえか。何を言い出すんだお前はっ!?」


 貰い物ということもあり、俺は必死にむせそうになりながらも一滴たりとも零すことが無いようにと配慮をし、事なきを得たが―――――


「だってー。櫻井だけずるくない?そんなに飲んじゃってー」


「あの……良かったら早乙女さんもどうぞ」


「マジで?ありがと冬香―!」


 いつの間にか名前が呼び捨てになる程度に関係性が深まっていることは喜ばしいとして……俺の手から早乙女の手へと水筒が移ってしまった。おのれ早乙女……まだまだ飲んでいたかったというのに。


「はあああっ!美味しかったっ!」


 けど……まあ、早乙女が満足そうな顔をしているからいいか。こいつにも随分とお世話になったし。特に俺を再奮起させてくれた立役者は紛れもなくこいつだからな。


「どうしたん櫻井?もしかしてウチに惚れた。でもごめんー。ウチの好みはもっとチャライ男―――――」


「馬鹿、そんなんじゃねえよ。ただなんつーかだな。未だにお前にははっきりと感謝の気持ちを伝えていなかったと思ってな。その……ありがとな。お前が俺を支えてくれたおかげで前を向くことが出来た。そして三枝や生徒会の面子を説得して学園脱出計画を始められた。そして……二宮の悲願を果たすことも叶ったんだよ」


 俺の唐突な早乙女に対する真剣な感情の告白には彼女も少し戸惑ったようだ。早乙女は軽く髪をくるくると回しながら俺に返答をする。


「……なんつーかシリアス系なパートはもう十分って茶化したいところだけどさ。でもま……別にウチは大したことはしてないよ。だけど……ウチのおかげで櫻井が少しでも元気になってくれたなら……それよりも嬉しいことはないよ。もう……大丈夫なんでしょ?」


「早乙女……ああ、俺はもう大丈夫だよ。俺はしっかりと地に足をつけて生きている」


「…冬香もマジで良かったね、会いたい人に会えて。満足したんでしょ?」


「ええ。あなたのおかげで。本当にありがとう早乙女さん」


「なんつーか、その呼び方固すぎで好きじゃないんだよね?今度から夢って呼んでくれない?」


「分かったわ。夢さん」


「それでおっけーい。これからも宜しくね冬香」


 そうして二人はお互いの手を取り合い握手した。


「さーて、そんな真面目なことを放置しておいて……随分と二人の関係性が進んだことがウチによって一番面白いんですけど?」


「か、関係って何だよ?どいつもこいつも適当いいやがってっ!なあ、二宮。お前も俺とどうこう言われたら迷惑だよな?」


「いえ……別に……その迷惑ではないわ」


 軽く顔を赤らめ照れているような様子を見せる二宮。


「えっ!?ちょっと二宮さん、そこは否定してくれないとっ!?」


「それじゃあウチはお邪魔になりそうだし退散します。何か困ったことがあったらパフェとか課題代わりになってくれればこれからも協力するからさ。それじゃあまた後で」


「あ、ちょっと待てやっ!」


 そうして早乙女は花京院のいる場所へと向かっていってしまった。ったくあいつは……


「……」


「……」


 この場に残ったのは俺と二宮だけだった。自然と俺の視線は二宮の方へと吸い込まれていく。
 二宮を見ていると……なんだか感慨深い情趣を彷彿してしまう。入学式から約三か月。目まぐるしく過ぎる毎日の中で俺は必死に生活を送って来たけれど……当時は全く考えていなかった。あの孤高の女神とこうして身近に過ごす日々を送ることになるとは。


「櫻井君?……どうかしたの?」


「い、いや大したことじゃねえよ。……なんつーのかな。その……今更の話なんだけどな。二宮とこうして過ごしていることが、全く予想していなかったから改めて凄いなって思ってるんだよ」


「なるほど……そうね。私もまさか、こうして他人と触れ合うような日々を再開するなんて全く考えていなかったわ。本当にありがとう……櫻井君」


「……別に俺のおかげでもなんでもねえよ。ってか言っただろう?今回の出来事の大体は天上ヶ原雅の策略と暇つぶしと娯楽の掌に踊らされてただけの結果なんだって」


 既に二宮には、これまでの天上ヶ原雅の狡猾な策略の全貌をあますことなく伝えていた。
 しかし二宮は俺を横から見つめながら言うのだ。


「それでもよ。私は櫻井君に感謝している。たとえ、それが天上ヶ原さんの策略によるものだったとしても……あなたのおかげで、私は幸せな生活を送ることが出来ているのよ。だから感謝しています。ありがと
う……櫻井君」


「二宮……」


 俺と二宮は見つめ合う。気づけば俺は二宮から視線を外せなくなっていた。……いやいや、待て待て。相手は女だぞ。落ち着け。異性愛者など気が狂っているのだ。早乙女と天上ヶ原の揶揄いに影響されているだけだ。
 ほらほら萎えろ萎えろ。だけど、俺と二宮から目を離すことが出来なかった。何故なら―――――それだけ、二宮は魅力的であり俺にとって大切な人なのだから。っと―――――


「愛莉ちゃんキックぅうううううううううっ!」


「痛ってええええええっ!……おい、何すんだよこら!お前勢い良すぎて俺3mくらい吹っ飛んじゃったじゃねえかっ!ちっとは加減しろやっ!」


「ええ?だってー。櫻井っちが悪いんじゃん?二宮っちとばっかり、楽しそうにしちゃってさー。この学園内で男女が見つめ合っていい雰囲気になるとか許されなくない?櫻井っち大好きな愛莉ちゃん的に嫉妬しちゃうよー」


「その通りですわよ櫻井君。幾らあなたが二宮さんの為に尽力した立役者だとしても、男子という時点で危険極まりありませんわ。恥を知り二宮さんから離れるんですのよ?」


「恥さらし櫻井芳樹」


「生きていて楽しいのか櫻井芳樹」


「ぼろくそ言われてんな俺っ!つーかお前ら二人は完全にただの暴言じゃねえか!」


「まあ、君が二宮さんとイチャイチャすること自体はトラウマの克服へと向かう良い兆しだとは思うけれど……しっかりと節度を持つことは大切じゃないかな?」


 俺たちの方には三枝までもやってくる。


「へっ!まあ、いいじゃねえか。この学園唯一の男なんだ。女を取って食うくらいの気概がなけりゃ逆に駄目だって俺は思うぜ?」


「会長……そのフォローは果たしてフォローと言えるんでしょうか!?というか、櫻井君っ!不純異性交遊は生徒会の役員として私は見逃せませんっ!」


「不純異性交遊じゃねえよっ!どこ見て言ってんだあんたはっ!」


「つか櫻井―。あんたって意外とアグレッシブっていうか、ヤリ系だったんだね。道理で、学園の規律を平然と破ったりするんだねー」


「ヤリ系って何だよ?俺を変態扱いするんじゃねえ!」


「櫻井芳樹。貴様が二宮冬香に手を出すこと自体には忠言は出さんが、会長閣下に手を出した場合はわかっているだろうな?」


「だから出しませんよ!ってか、俺は女性にトラウマがあるって話なのはご存知でしょうが。そして、仮に俺が異性愛者だったとしても、そんなに見境ない筈がないでしょうが!」


 この連中の俺に対する信頼感は皆無に等しかった。あの日の結束力はなんだったのだと文句を言いたくもなるぜ。ったく……


「フフフ……」


「え?」


 そこで二宮が小さく笑ったのだ。下品では無く優雅な笑い。されど、笑いには違いない。そこには―――――かつて、絶望し孤高の仮面を付けていた少女の面影は無かった。


「どうしたんだ二宮?」


 俺が尋ねると、彼女は柔和な笑みを浮かべたまま答えた。


「いえ……ただ、櫻井君と皆のやり取りを見ていたら本当に面白くて。楽しくて……今こんな光景に自分がいられることが……嬉しくて嬉しくて……」


「……そうか」


 それが二宮の本心ならばそれ程までに嬉しいことは無い。……俺のやって来たことは間違いでは無かったのだと。そんな証明のように思えた。


「ねえ、櫻井君。私は何度でもあなたに言うわ。ありがとう。ここに至ることが出来たのは―――――全部あなたのお陰だから」


 それに対する俺の答えはこうだった。それはいつもとは少し異なっていた答えだったのかもしれない。


「ああっ!」


 否定するのではなく肯定をする。しっかりと二宮の想いを受け止め俺は成長していく。


「さーて、それじゃあ面倒な草むしりも終わったし、生徒会室で打ち上げでもしちゃいましょうっ!」


「ちょっと愛莉ちゃんっ!?ここ一週間の間に業務が山のように積み重なっているので、それは無理―――――」


「固いこと言うなよ美春。折角こうして全部が無事に終わったんだ。それくらいいいだろう。なあ木葉?」


「はっ!私は会長閣下の指示に従います」


「やっぱりこの生徒会は権力が集中し過ぎていますよっ!私にも発言権をくださいっ!」


 小鳥遊先輩は相変わらず不遇だった。……まあ、今回ばかりは許して欲しい。


「それじゃあ、皆さん行きましょうっ!」


 テンションが上がっている愛莉を先頭にして、俺たちは生徒会室に歩き出した。


「一緒に行きましょう櫻井君?」


「ああ。行こう――――二宮」


 俺たちは歩き出す。初めは女だけの学園生活なんて絶対に嫌だなんて思っていたんだけどなー。今この場に居る奴らの存在を考えると存外悪くはないのかもしれない。


「学園生活を謳歌しなさいか……ほんと、あいつに言われるまでもないっての」


 これからもこの学園生活はしばらく続くだろう。だけど、今は不安など一切無かった。
 だって―――――俺には信頼出来る仲間たちがいて……そして二宮という一人の大切な友人の隣でこの世界を歩めるのだから。



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コメント

  • 春雨食男

    終わりなのですか?

    0
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