ガチホモの俺がお嬢様学園に入学させられてしまった件について 

湊湊

55.「学園脱出計画とその後の周辺ーやはり天上ヶ原雅には敵わないⅡ」



「……さて……それでは、お話を始めましょうか櫻井君?」


 椅子に座りながら足を組み、左手には扇子を、右手は高級そうなデスクに手を翳しながら偉そうにしている天上ヶ原雅と俺はにらみ合いながら、いよいよ対話は開始した。
 俺は少しの緊張感と莫大な疲労によって動作しにくい頭をフル回転させながら彼女に対して言葉を発する。


「聞きたいことは山ほどあるんだ。しっかりと答えて貰うぞ?」


「ええ。今回は特別大出血サービスということで、何でも回答して差し上げますよ」


「それじゃあ、まずは……あんたは今回の一件を把握していたんだな?」


「はて?それは何のことでしょう?」


「早速とぼけてんじゃねえか。……こっちは疲れているんだからツッコむ余力もあんまりねねんだよ。気を遣わせるんじゃねえ。それで……あんたは一体どこまで把握していたんだ?」


「どこまでとは……なまじ抽象的過ぎるとは思いませんか?」


「どこまでってのはだな……俺が二宮を外出させようとしていた『計画全般』に関してだよ。あんたの場合は、どこからどこまでが素なのか全然分からないんだよ。最初は俺の計画に全く気が付いていないと思っていた。少なくとも俺たちと校門前で鉢合わせした時の驚き方は演技だとは思えなかったし、その後も怒り狂う顔を見た時に俺はあんたを出し抜いたと勝利感に満ちていた。……だけどな。布川さん宅で二宮の目的を果たした『直後』に家に乱入して、俺と二宮を学園に強制送還する?こんなのどう考えてでもおかしいんだよ。何故なら『タイミング』が良すぎるからだ。例えば俺と二宮が学園を脱出して布川さん宅に向かう『最中』にあんたが俺たちを発見し捕らえるならまだ分かる。学園側に残っていた連中が天上ヶ原雅を止めることが出来ずに、学園外で捜査開始。そして俺たちが発見され捕獲される。そんな筋書きなら理解の範疇だ。あるいは俺と二宮が布川さん宅から学園へと帰途する『最中』に捕縛されるなんて筋書きでも納得がいくだろうよ。しかしタイミングを見計らって動くあんたのその卓越した手法から察するに、やっぱりあんたは……俺たちの『計画』をある程度把握していたんじゃないか?」


「……ふふ。それでは回答を述べて差し上げましょう。まず……あの時、私が驚いたような素振りを見せたのは完全に演技でしたよ。あなたに怒り狂い私が激昂したのも演技です。立花に裏切られショックを受けることも演技に過ぎません。そして―――――私があなたの『学園脱出計画』を把握していないとでも本気で信じていたのですか?」


「……やっぱりそうかよ。それ自体は分かった。けどよ……何故俺の計画を把握していたんだよ?一応……予想はついているが」


 多少なりとも情報が漏洩しないようにと注意を払っていた筈だ。だからこそ『内通者』の存在でもない限りは漏洩する可能性は極めて低いというのが俺の見解だ。


「それは当然……『彼女』が私に内通していましたから」


 理事長は、ゆっくりと手を広げて立花さんの方に向けた。やはりか。……まあこれは立花さんが当然のように布川さんの家から学園までの道のりの運転手をしている時点で何となく察することが出来たな。彼女は……完全に俺の味方では無かったのかもしれないと。


「櫻井君。申し訳ありません。私はあなたを騙していました」


 彼女は慇懃丁寧に俺に謝意を述べる。


「いえ……別に気にしないでください。立花さんの境遇の厄介さは三枝に聞いていることで知っていますから。それに……幾ら立花さんが内通し、計画が天上ヶ原に把握されたていたとしても……俺が怒る理由はありません。何故なら結果的には天上ヶ原を出し抜き二宮を外に連れ出すことが出来たんですから」


「私を出し抜いた?……本当に面白いことを言いますね。櫻井君はやはり最高に笑いのセンスが洗練されている思いますよ?」


「ああ?どういうことだよ?」


「まだ、分かりませんか?あなたは私のことを何一つとして出し抜くことは出来ていませんでした。そう何一つです。はい御愁傷様でした」


「うぜえなその煽り方。……ちゃんと説明をしろや」


「そうですね。それではお馬鹿な櫻井君の為に順序立ててネタ晴らしをしてあげましょう。まず、事の発端……そもそも今回の一件で学園脱出計画が企図された理由は『私が二宮さんに意地悪をしたから』という理由でしたね?」


「ああ。あんたがふざけた結果としてこんな事態に発展したんだ」


「フフ。一日外出権の本来の権利に関して言えば、『外には出れるとは言ったが、場所に関しては自由とは言っていない』とそのような旨を私は二宮さんに伝えました。恐らく二宮さんからの又聞きということで、あなたもそのように認識をしているのではありませんか?」


「ああ。あんたが二宮にそう意地悪をしたって風に聞き及んでいる」


「率直に言えば……あれは真実でもあり、ある側面では嘘でもあります。確かにあの時、私は二宮さんに意地悪な言い方をし、彼女をグアムへと連れて行ったのです。ですが……グアムの一件に関しては既に決まっていることだったんですよ」


「ああ?どういうことだよ?」


「学園創立より今年度で三十一年目。実は一日外出権を行使したのは二宮さんが始めてではありません。十五年前に卒業した生徒の中で一人だけ権利を行使した人がいたのです。そして、その人物が行きたいと行った場所はグアムだったんです。それから本学では一日外出権を行使した場合は、グアムへと足を運ぶことを形式化したのです。ちなみにこの件に関しては『白花咲女学園の理事会』での決定であり、私の趣味嗜好は一切関与していません」


「はぁ?何だよその慣習?……単純にその時の卒業生がグアム行きたかっただけで、他の奴もそうだとは限らないだろうが!普通に考えて久しぶりに地元の友人と会いたいだとか、家族と会いたいとか考える人の方が多いだろう。そんな当たり前の考慮をしないとかどれだけ無能なんだよ理事会!」


 俺だって、もしも一日外出できるとしたら、家族と会うか恭平に会いに行くかを選択する。そりゃ海外へと憧れは無いとは言わないが、この密閉された学園外に出れるというタイミングで行きたいなんて考える筈もない。だからそのグアム制度は悪っしき慣習としか思えない。


「ええ。勿論、あなたにそんなことを言われずとも私自身、それが如何ように下らないかは理解しています。ですから……ひとまず、『慣習』として二宮さんにはグアムを堪能して貰う形となったのです」


「形になったって……どういう……」


「ですから『形』だけですよ。二宮さんには慣習に従い、グアムに行って貰った。そして――――――それとは『別』に、二宮さんには外出の権利を差し上げようというのが、慈悲深き私の結論でした」


「何?おいおい。人に嫌がらせし過ぎて脳みそでも狂ったのか?お前は二宮の想いを踏みにじって、終始
二宮を布川さんに会わせようとはしなかった。それが結論だろうが?違うなら言ってみろ」


「ふ……ここまで言ってもまだ分からないとは。櫻井君は本当に堅一郎さんの息子さんとは思えないくらいに頭が固いですね」


「ああ?うるせえよ。俺はあの親父と対比されるのが大嫌いなんだよ。察しろ」


 俺が睨み付けた後に、愚劣な主をフォローするようにと立花さんが仲介をした。


「櫻井君。雅様の発言は些か迂遠であり、わざと挑発的な語り回しをしていますが……何一つとして虚言を申してはおりません。どうか、寛大なお心で傾聴のほどよろしくお願い致します」


「……まあ、立花さんが言うならそうしますけど……」


 しかし意味が分からない。確かに天上ヶ原雅は二宮の一日外出を認めはしなかった。……ん?待てよ。……何かが引っかかった。そこで、俺の確信を確証に変えるような言葉を突きつけた。


「ヒントとしては……あなたが布川さんとの会話の中で二つ程、気になる点はありませんでしたか?これでも分からなければ……あなたを理事長権限で打ち首にします」


「権利濫用も甚だしいって今更だなおい。つーか、布川さんの会話の中で気になった点?そんなもの……………………………………………え?」


 二つではなく、一つだが……気づいてしまった。なるほど……だけど、そんなの分かる筈ねえだろうが……これだけでわかったら、そりゃもう天の神様もびっくりするわ。


「お前は……事前に布川さんに『アポイントメント』を取っていたんだな?」


「ええ。正解です。ここで一つあなたに面白いことを伝えておきましょう。私のこの理事長室にはご覧のように無数のモニターやその器具が鎮座していますね?」


「……完全に度の過ぎたスト―カだな」


 天上ヶ原の言う通りに一体何のために使うんだと言わんほどに大量の機械が並べられていた。その中の一つの機材を天上ヶ原は取り出した。どうやらその機械は録音機?録画機のような何かを記録しておくための機材のようだった。


「櫻井君。学生証を掲げてください」


「……は?どういう……」


「百聞は一見に如かずです。どうぞ」


「……わかったよ」


 天上ヶ原雅の指示に従うことは癪だったが、話を円滑に進めるために従うことにした。


「で……これで一体どうす……」


 するとまさかの展開に―――――


『櫻井君。学生証を掲げてください』
『……は?どういう……』
『百聞は一見に如かずです。どうぞ』
『……わかったよ』


「は?」


「端的に説明致しますと……学生証にはICチップカードが挿入されています。そして、私はこの受信機でICチップカードを通し、現在位置の把握、及び音声の録音視聴することが可能なのです。また、過去数日間分であれば音声情報の再生も可能となります」


「ふーん。なるほど……って、頭おかしいだろうっ!何でそんな機能を学生証に組み入れてんだよっ!絶対普段使う機会ねえよな?つーかプライバシーって言葉をご存知でしょうか!?」


「櫻井君にプライバシーなんてある筈もない事は置いておくとして、実際にこれは役に立っているんですよ。これのおかげで……櫻井君が学園外に出たとしても、会話内容、行動全般、及び現在位置まで全て特定することが出来たのですから」


「なっ!ちょっ!」


「驚くことはありませんよ。だから言ったでしょう?今回、あなたは私を出し抜くことなど『何一つ』として出来ていないのですから。おっと……話が逸れてしまいましたね。それでは、話を戻しましょう。ひとまず、これで私があなたの行動や現在位置に関して理解をしていたことを把握して貰えた筈です。そして改めて答え合わせということで、録音を聞いて頂きましょう」


『それにしても……随分と朝から訪れたのねー。もう少ししてから来ると思ったのに』


「……」
 

 そうだ。この一言だ。これを俺と二宮は勘違いをしていた。なまじ、布川さんが老婆であることを理由に認知症の初期症状だと錯覚をしていたのだ。
 違う。よくよく考えてみればその判断はあまり適切とは言えない。布川さんは、かなり意識が明瞭としており、丁寧に応対してくれていた。
 勿論認知症の可能性は零ではないだろうし、たまたま調子が良かっただけかもしれないが……それよりも何らかの介入要因があり『誰かが布川さんと会う約束をしていた』と考えた方が余程適切であるのだろう。
 随分と朝から……そして、決めてとなるのは、『もう少ししてから来るとの思ったのに』という言葉だ。これを真実として受け取るなら、事前に誰かが俺と二宮の来訪、あるいは俺たちではないにしても、来訪をするというアポイントメントを取っていたのだ。……そんなことをするのは現状では一人しか考えられない。


「あんたが俺と二宮の来訪前に事前に布川さんに連絡を取っていたんだな。それは、お前自身が訪れる。あるいは二宮自身がと」


「ええ。ようやくと辿り着きましたね。正解です。私は事前に布川さんに連絡を取っておりました。だから、布川さんは来訪者の存在を認知していたのです。ちなみに……私はその際に誰が訪れるのかについて明言はしていませんでした。ですから二宮さんが訪れるアポイントメントを取っていたという判断は『不正解』です。まあ、それはいいでしょう……さて、櫻井君。続いての問題です」


「ああ?」


「私は一体いつ布川さんに、アポイントメントを取ったと思いますか?」


「それは……いや……その話の前にだ。何でお前は布川さんに連絡をしたんだ?お前が布川さんの存在を知っていたことは二宮との会話から何となく予想が付く。だが……何故、わざわざ連絡をしたのかが分からない」


「……つくづくと分からないことばかり……ですね。いやー、私としては櫻井君のその悩む姿には興奮してしまいそうですよ。あ、絶頂しそうです」


「何の宣言をしてんだお前はっ!……」


 しかし、分からない。何故わざわざそんなことをしたのか。天上ヶ原雅は二宮に非協力的―――――


『ですから『形』だけですよ。二宮さんには慣習に従い、グアムに行って貰った。そして――――――それとは『別』に、二宮さんには外出の権利を差し上げようというのが、慈悲深き私の結論でした』


「あんたは……もしかして、二宮に対して協力的だった……のか?さっきの言葉は嘘ではなく……本当に二宮に後日とかにでも布川さんに会わせようとしていたのか?」


「……」


「沈黙は肯定と受け取っていいんだな……」


 こいつの内心は揺れ動き過ぎて把握しづらいのだが、……ひとまず、布川さんに事前に連絡をしていたのは、悪意があったからではないのだと前提を置こう。
 しかし結局のところ、その理由が分からない。天上ヶ原雅の思惑ほど訳の分からないこともないだろう。


「……それではお馬鹿なあなたのためにヒントを出してあげましょう。私が二宮さんに直接した意地悪はたったの二つだけ。一つは、二宮さんを一日外出の一件でぬか喜びにさせたこと。そして校門で指示を出しながら―――――脱出を拒むような指示を出していたことだけです」


「……」


 余計訳が分からなくなりそうだ。ひとまず……二つと限定しているということは、天上ヶ原雅は二宮に悪意ある行動を取ったのはその二つだけ。逆説的に言えば……それ以外の意地悪はしていないということだ。
 しかし分からない。俺は必死に悩んでもこいつの思想や理念は理解出来る気がしないのだ。そんな俺の心情を察したのか、彼女は呆れたようにしながら確信を突くヒントを俺に与えた。


「やれやれ……それじゃあ、正解に近いヒントをあなたに教えて差し上げましょう。私はですね――――そもそも、『二宮さんを布川さんに会わせないようにしたい』とは考えていませんでした。最終的には……それこそ、『落としてから上げる』というサプライズを企画していたのです。それで相違ありませんよね立花さん?」


「ええ。櫻井君。この点に関しては、雅様は虚偽を申してはおりません。ですから信頼していい情報です」


「……嘘だろっ……って言いたいところではあるが……嘘じゃないんだよな」


 だけど、疑心を持ちたくなるのは正当な権利の筈だ。何故なら、天上ヶ原雅はそのような動向を見せる兆候など……


「いや……ここでようやくと繋がって来るのか?」


「その調子です。考えなさい。堅一郎さんならこの程度は造作もないことですよ?一体いつ私が布川さんにアポイントメントを取ったのか改めて考えてごらんなさい」


「うるせえよ。だからあの親父の名前を出すんじゃねえよ。……そうだ。伏線はここまでの会話の中で貼られていたんだな。天上ヶ原雅。あんたが、いつ布川さんに来訪するという旨を伝えたかによるんだな」


「ええ。おっしゃる通りですよ」


 天上ヶ原雅が布川さんに事前に話を通したとするのなら、それを実行した時刻は俺と二宮が学園から脱出し布川さんの家に向かい始めた午前一時過ぎから実際に訪れた午前六時半までの時間で行われたと考えるのが定石。何故なら、天上ヶ原雅は二宮に嫌がらせをして布川さんに会わせないようにしていたのだから。
 だが、この論理は覆されることになる。天上ヶ原雅は今しがた、布川さんと二宮を会わせないようにしていない。最終的には落としてから上げるサプライズを企画していたと主張しているのだから。


「つまり……天上ヶ原雅。お前がアポイントメントを取っていたのは、計画開始以前なのか。……ってか、あれだ。そういえば立花さんと通じていたんだよな。ということは……俺が立花さんに計画について話をした時点で……慌てて布川さんに連絡をしたという形か?」


「まずは、正解の方のフォローをしておきましょう。先ほど申しました通りに私は、布川さんにアポイントメントを取りました。そして、それは布川さんの家に突然訪れたら迷惑になると思いましたので、迷惑にならないように事前に日程を決めて定時の時刻に訪れることを約束していたのです。電話を通じてね」


「定時の時刻に?」


「はい。ですが、その約束は果たされることはありませんでした。櫻井君、あなたが私の予定を潰してしまう『計画』を立ててしまったからです。さて……ここで、先ほどのあなたの間違った意見を潰しておきましょう。私が布川さんにアポイントメントを取ったのは、あなたと二宮さんが学園を脱出後ではありません。そして―――――あなたが計画を立案し、立花さんに報告してからでもありません」


「それじゃあ一体……いつ何だよっ!」


「二宮さんが権利を行使したいと私に願い出た同日……二宮さんからの嘆願を受けて数時間後……ですよ?」


「はぁ?ば、ば、ば、馬鹿言うんじゃねえよっ!……そんな以前からの訳が……」


「ですがそれが事実なので仕方ないんですよ。そうですよね立花さん?」


「残念ですが櫻井君、雅お嬢様は全て正直に語っておられます。そもそも布川さんの自宅の電話番号を調べ、事情を説明し予定を立てたのは全て私ですから」


「……っ!……マジかよ」


 つまり……天上ヶ原雅は、俺が学園計画を立てる以前に既に二宮を布川さんと合わせる計画を企んでいたのは事実ってことか。そんなのありかよ……俺は動揺を禁じ得なかった。
 くっそ……落ち着け俺。慌てたら天上ヶ原の掌の上で転がされるだけだ。


「……一つ分からないことがある。天上ヶ原雅。お前が二宮と布川さんを最終的に邂逅させようとしていたことはひとまず信じよう。だけど、どうして二宮からの依頼があった時に即座に行動を起こさなかったんだよ?例えばお前が二宮を『落としてから上げる』と言う行為をやりたかったとしてもだ。グアム旅行に行った帰りに種明かしって感じで少し話す機会でも設けてやれよ。それともあれか?もっと、時間をおいて絶望させた後にとかほざくのか?」


「なるほど……櫻井君が私の立場ならそのようにして二宮さんを虐めると。何とも意地が悪いことで。櫻井君は本当に救いがたいクズですね」


「あんたからのその評価程納得がいかねえもんもねえな……」


「ふふ……冗談ですよ。そして、私もそこまで鬼畜という訳ではありません。別段、会えるのであれば、すぐに合わせてあげることもやぶさかではありませんでしたよ。そう……この一件に関しては、私ではなく布川さん側の事情なのですから」


「布川さん側の事情?お前あの温厚で慈愛深い布川さんのせいにするとかいい加減に……」


「まだ気が付かないとは……伏線は既に貼られていますよ。それをあなたが気付いていないだけです」


 天上ヶ原雅は、機材を巧みに操り俺に音声を聞かせた。


『ちょっと……チーズちゃん。駄目じゃない。そんなに慌てて……。全くしばらく預けていたからといってこんなに興奮しちゃって……』


「……今のどこが……って……ちょっと待て」


 これは確かに出会い頭の通りのセリフだ。だから俺の記憶にも新しい。そして……既に答えに近づくための鍵はあったようだ。


「お分かり頂けましたか?そう……布川さんは老後生活を送っていたとはいえ、まだまだ体力的には若者に負けない……とまではいいませんが、活気のある人物。引きこもり生活をしているような人物ではないということです。そして―――――彼女は数日間旅行に行っていたのです」


「なっ!」


「私は連絡を取った翌日の午後……要するに『グアム旅行の帰りの時間帯』に訪問したいという風にお願いしたんですけれどね。京都に友人と旅行に行くので、三日間程家を留守にすると。流石にそれをお邪魔するわけには行かないので、私はそれを了承し、三日後の…六月二十七日の午前中に訪問するお約束を交わしたのです」


「は?ろ、六月二十七日の午前って……」


「ええ。今日ですよ。今です。まさに今の時間帯に訪れるようとしていたのです。彼女も言っていたでしょう。こんな風に」


『それにしても……随分と朝から訪れたのねー。もう少ししてから来ると思ったのに』


 それは、先ほどの音声と同様の内容。だけど……随分と朝から訪れたのねーというセリフから確証を持ってしまう。天上ヶ原雅の主張は嘘では無く、……本当に六月二十七日。つまり、今日の午前中に訪れるという予定だったのだろう。


「そんなのありかよおおおおおおおおおおおおおおっ!」


 俺は思わず叫んでしまっていた。だって……それはよ。それはねえだろうが。流石にそれは虚無感が半端ないっての。だって、もし、天上ヶ原雅のここまでの話を全て事実としてまとめると……俺が計画を立案し実行せずとも……何の苦労もなく、二宮は悠々自適に布川さんと面会することが出来たというわけだ。
 生徒会の連中やクラスの連中に負担を掛けることもなく……そして、綱渡りをするという行為も必要とせずに……。
 駄目だ。落ち着け。……落ち着かないと。これ以上怒ったとしても呆れたとしても、どうしようもない。俺は大きく深呼吸をした。


「事情は分かった。だけどな。そんな事情を俺が知る訳がねえだろう……あと、お前が実は後日には、しっかりと会わせてあげるって明言すればこんなややこしいことにはなってねえんだよ。ったく困ったもんだ……」


「あらあら……予想していたよりも冷静に働き掛けるとは……どうやらあなたも少しは成長したようですね?」


「生憎な……俺にはいろんな味方がついてくれているからな」


「……まあ、どれだけあなたが、クールな態度を取っていようが、あなたが私に出し抜かれていることには変わりありませんけれどね」


「ぐっ……」


 そこを突かれると何だかとてつもない屈辱感がこみ上げてくる。


「話の続きと整理を致しましょうか。既にここまでの流れの中で十分に説明しましたが……まず、私はそもそも二宮さんを布川さんと会わせることを厭うわけではありませんでした。私は二宮さんを可愛らしく大切な生徒だと思っていますからね。勿論、私の性癖として時折サディスティックな態度で可愛がる時はあるかもしれませんが最後には幸福に導きます。それが理事長として……サディストとしての責務ですからね。そんなわけで、あなたに『出し抜かれた』と言う感覚は一切ありません。むしろ、二宮さんが過程はどうであれ布川さんと邂逅し、精神的に成長を遂げたことが喜ばしくてたまりませんね」


「……くそっ!」


「そして、次にあなたもご存知の通り、私は立花さんと通じておりました。ですから、そもそもあなたが、私に敵愾心を抱いて何らかの謀反を起こすことなど当然のように把握していました。そもそも、あなたが立花さんを美術室で口説くよりも以前から……立花さんにはある忠言をしておいたのです」


「ある……忠言?」


「はい。立花さんには事前に……もしも、櫻井君からの何らかのアプローチがあった場合には、それに乗っかって櫻井君のアシストをするようにと進言をしておきました。ただし、櫻井君の動向に関しては逐次報告をすることという注意書きをしつつですけれどね」


「立花さん……そうだったんですか……」


「申し訳ありません。櫻井君。あなたを騙すことは心苦しかったのですか……それでも、雅様は私の主人なので。本当に裏切ることは出来ません」


「まあ……立花さんを責める気持ちにはなりませんよ……」


「ああ、これは私が言うことではないかも知れませんが……立花さんは、あなたに協力して作戦遂行上で活躍し、結果的に二宮さんの悲願は無事に果たされたので、あなたは学園卒業後に堅一郎さんの絵画を献上することを忘れてはなりませんよ?」


「ああ。そんなことありましたね……ってか、納得いかねえっ!」


「約束は約束ですから……まさか、櫻井君は約束を破るような人間ではありませんよね?」


「ぐぅ……釈然としないが、理解した。立花さんはお前と内通していたとはいえ、しっかりと手伝ってくれたからな。約束は果たすよ」


「それで構わないですよ。さて……お話を元に戻しましょう。立花さんを内通者として送りこんだ私は予測通りに、櫻井君の二宮脱出計画について情報を得ました。しかし、私はそれを知った上でそれを止めようとは思いませんでした。この理由については……わかりますね?」


「恐らくな。……どうせ、あんたのことだ。そっちの方が面白そうだからって理由で計画を実行させることを考えたんだろう?」


「はい。正解です。あなたも私のことがわかってきたようで。まあ、私はあなたに愛の告白をされたところで受け入れる気など毛頭にないんですか。残念でしたね櫻井君」


「誰もあんたのことを好きだなんて言っていないのにフラれるとか、最高に腹立つなっ!」


 天地神明に誓えるがこの女に好意を持つことなどあり得ないだろう。


「櫻井君の計画を敢えて放置した方が面白いと考えたので私は放置することにしました。私が丁度良いタイミングで校門前に立ち塞がったのは、全てタイミングを見計らっていたからです。だって面白くありませんでしたか?学園を必死で脱出しようとしている学生諸君VSそれを封じ込める悪っしき理事長。肉弾戦を交えながら策略がぶつかり合う。これ程までに愉快なことはないでしょう?」


「……面白いか面白くないかで言えば……確かに面白かったよ。皆で協力して何かを成し遂げようと達成感のようなものがあった」


「フフフ……まあ、それらは全て『茶番』であり、櫻井君の達成感も全て『勘違い』ということだったんですがね。あくまで、私が動揺していたのも激怒してたのも……全てが演技でした。ところで櫻井君。ここで更に残念なお知らせです。あなたは学園脱出計画をするにあたって私の私兵となる黒服たちと闘いましたね?」


「ああ。戦ったな」


「全く櫻井君が中途半端に抵抗するから黒服達はあなたに対して『力加減』するには苦労させられたと嘆いていましたよ?」


「は?力加減?それは一体?……」


「何と……このごに及んでまだ理解していないとは。これには私もびっくりですね。これぞ『マジ卍』とでも言うべきでしょうか?」


「無理に使う必要はねえよ!用法間違っていそうだしなっ!ってか……は?もしかしてお前が事前に状況を把握していただけじゃなく……黒服まで?」


「はい。正解ですよ櫻井君。『黒服には生徒とは本気で戦う必要はありません。適度に力を抜いて戦いなさい。ただし、一度だけ江藤先生を投入し、生徒陣営の状況を悪くする時だけはある程度力を入れなさい。そして最終的には絶対にターゲットを逃がすように状況を見て臨機応変に動きなさい』と伝えておきましたから。黒服たちは中々にいい仕事をしてくれました。違和感は無かったでしょうね。そういえば櫻井君。睡眠ガス(笑)に関してはどうでしょうか?黒服たちの違和感は無かったですか?」


「……っ!マジかよ…………って、は?何で睡眠ガスのことを……って嘘だろう!?」


「寧ろあなたが信じていたことの方が驚きなのですが……きちんと言っておきますとあれは『睡眠ガス』などではありません。只の無害の着色をしたガスでしかありません。いやー、黒服達もまさか『睡眠ガスを食らったふり』をさせられるとは考えていなかったでしょうね?意識を落としたふりをするのも一苦労でしたでしょうね」


「……いやいやいや……マジかよ」


「申し訳ありません櫻井君。しかし本物の睡眠ガスを扱うのは危険だと判断し私は敢えてあなたに偽物を渡したのです」


「そもそも……今回の戦いで『武器』を用いていないこと自体が不思議だとは思いませんか?本気で私が櫻井君に出し抜かれ怒ったとすれば『発砲許可』を出してあなたを捕らえますから。あるいは鈴木瀬里奈さんよろしく刃傷沙汰になるかもしれませんねフフ」


「こわっ!」


「まあそんなことはしませんが……」


 実際あんたならやりそうなのが一番のホラーだよ。つーか鈴木との一件をギャグみたいに語るな。
 それにしても……よくよく考えてみれば一般人であり、武道経験も無い俺が訓練を積んでいる黒服たちから少しでも逃れられる筈がないんだ。実際素人数人相手に対しても手も足も出なかったのだから。俺は俺が考えているよりも脆弱なのだ。
 あの時はテンション上がり過ぎて上手く行っていたから何にも疑問を持つことは無かったが……なんだよ。全部ただの俺の勘違いかよ。恥ずかしいな。
 俺の無知と勘違いぶり故に煩悶しそうになるが尚も天上ヶ原は俺を追い詰める。


「そう言えば櫻井君は……校門から出る時に最高にかっこつけながらセリフを吐いていましたよね?フフフ。どうぞ櫻井君。何一つ私を出し抜くことが出来ていない分際で調子に乗った宣言をもう一度どうぞ?」


「……いやいや、やだなー。そんなこと言って……」


『「それじゃあな。天上ヶ原雅。この戦い……俺たちの勝ちだっ!」』


「ってそこまで録音してあんのかよっ!……この羞恥プレイは流石に辞めてくれませんからねー。調子に乗ってごめんなさいでしたー!俺の負けだよっ!?」


「はい。無様なあなたの姿には私も興奮を禁じ得ませんね」


 俺の謝罪に酷く天上ヶ原雅は愉悦を隠すこともなかった。





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