ガチホモの俺がお嬢様学園に入学させられてしまった件について 

湊湊

50.「親友は誰よりも櫻井芳樹の意志を尊重する」(後編)



「二宮っ!」


「櫻井君っ!」


「いや、は?ちょっと!?あの……」


 俺は二宮と無事に再会できた喜びのあまり、思いきり彼女を抱き寄せた。


「櫻井君……良かった。あなたが無事で……あなたまで失ったら私は……」


 彼女もまた俺のことを強く抱きしめた。


「……すまねえ。心配かけたな。……もう大丈夫だ」


 俺は二宮を抱きしめる力を強めた。彼女が無事で心臓が動き鼓動を鳴らしていることを確かめるために。そして俺もまた二宮に生きていることを伝えるためにも。大丈夫だ二宮。俺は死んでいない。お前を置き去りになんかしないから。
 しばらくの抱擁の後に俺と二宮はゆっくりと身体を離した。これだけ抱き合っていれば、安心を伝えることが出来ただろうと―――――


「あの……そろそろいいか?」


 ―――――今まで空気を読んで沈黙を続けていた恭平が気まずそうに俺に声を掛けた。居心地の悪そうな恭平の為にもと俺は陽気な声で恭平に返答をする。


「何だよ恭平っ!お前もしかして嫉妬しているんだな?安心しろよ!お前にも抱き着いてやるからよ!ほらっ!」


「おい……抱き着いてくんなよっ!邪魔だし暑苦しいわっ!てか公衆の面前だぞっ!」


「おいおい。そんな言い方をすんなよ。俺たちは親友だろう?」


「確かに親友だとは思っているし、それは光栄なことだが、男同士べたべたやんのはキモイことには変わりねえだろう、常識的に考えて!」


「はあ?常識ってなんだよ?いいじゃねえか。親友同士なんだからよ」


「……はぁ……やれやれ。その……そっちの人も何とか言ってくれないか?こいつのべたつきかたは少し問題じゃないか?」


「……いえ……その、仲良く出来る相手がいるとは素晴らしいことだと思うわ」


「ほら見ろっ!二宮からのお墨付きだっ!というわけでもうしばらく抱き着きまーす!」


「……駄目か……はぁ」


 恭平は大きくため息をつき呆れている様子だった。俺はまたとない機会なので、俺が満足するまで抱き着くのを辞めないが。


「つーか恭平。お前さっきから何で二宮の方に視線を合わせないんだよ?どうした?感じ悪くねえか?」


 初対面だということを考慮しても、どうにも恭平の様子が少しおかしかった。恭平は決して女子が苦手だとかそんな人間では無かったはずだが、俺が見ている限り二宮と視線を合わせることは無かったのだ。


「うるせー。ちょっと耳を貸せ芳樹」


「ああ?どうした?情熱的だな」


「そうじゃなくて……お前、あの子なんだよマジで?」


「ん?」
 ひっそりと二宮の方を指さして俺に苦情を入れる恭平。恭平の質問の意味が分からなかった。果たして二宮が何か恭平をご立腹させるような問題でも起こしたというのか?


「二宮がどうしたって言うんだよ?」


「どうしたもこうしたも……お前何をどうやったらあんな可愛い女と知り合うんだよ?あんな美人生まれて初めて見たぞおいっ!?鼓動が早まるのが止まらねえんだがっ!?」


「ふふーん。そうだろうそうだろう。二宮は美人だろう」


 二宮が褒められたことに関して俺は喜々とした。何故喜んだかと言えば、今まで二宮は他人からの評価が決して良く無かったからだ。最近では早乙女や三枝の尽力、そして花京院という人物によって多少は評価も変わっているが依然として『冷たい人』というレッテルが全て剥がれるわけではない。
 だからそんな風にマイナスに評価されやすい二宮が評価されることは喜ばしいことだった。俺の大好きな人が正当に評価されて本当に良かった。今後ももっと人に好かれて欲しいところだ。……まあ恭平が他の人間に興奮していること自体は許せんがな。それは絶対に許さん。お前が興奮すべき相手は俺だろう?


「お前はその……付き合っているのか?」 


「ええ?付き合っているかだって?何でそんな質問を……いや……皆まで言うな」


 なるほどなるほど。恭平はあまりにも実直であり考えが見え透いていた。


「ずばり……お前は俺が二宮との深い関係にあることを嫉妬しているんだな?」


「何をどう推察したらそんな推論に至るんだっ!お前の思考回路どうなってんだよ?逆だろ?俺があの人が美人だから……」


「まあまあそんなに照れなくてもいいぜ?俺はお前の気持ちをきちんと知っているだから」


「寧ろお前は俺のことを何も分かっていないんじゃねえかって思い始めたわっ!親友って何なんだろうなっ!?」


「ったく何をそんなに照れることがあるというんだ?こんな風に恭平と仲良く付き合えるのはやはり俺の心が広いからだな、うん」


 しかしどうにも恭平は反抗期のようだ。


「うぜえええ!お前普段ツッコミ役やっているフラストレーションが溜まっているんだが知らんが俺をツッコミ役の代役として立てるんじゃねええ!」


「おいおい何だ恭平。そのツッコミは。ツッコミはもっと真剣にやれ?いいか。俺がお手本を見せてやるから見て覚えろよ?『うぜええええええええええええええええええええ!お前普段ツッコミ役やっているフラストレーションが溜まっているんだが知らんが俺をツッコミ役の代役として立てるんじゃねええええええええええええええええ!』が正解だ。お前のツッコミじゃ気迫が足らん?分かったか?」


「分かりたくねえわっ!ツッコミの極意だとか知らんわ。てか、ただ語尾を伸ばしているだけで良く偉そうなことを言えんなっ!実はお前のツッコミってクオリティー低いんじゃねえのマジで!?」


 ……やべえ、楽しいわ。すまん。普段ツッコミばかりやっているからこうしてボケるのっていいな。どうにも今の今までずっと張り詰めた緊張感を形成していたため、そのたかが外れてしまったようだった。
 しかしこのままではボケとツッコミ合戦が終結することがないと悟ったのだろう。


「芳樹。そろそろ話を進めていいか?」


「ああ。オーケだ」


 俺と恭平はこそこそ話を辞めて二宮と対面する形となった。二宮の方も恭平に対して特に拒否感を示すこともなく対面してくれている。恐らく俺と旧知の仲であることは雰囲気から察してくれているのだろう。


「まずはそちらの人について俺に紹介してくれねえか?」


 恭平は二宮の方を指してそう言った。それに対して二宮が即座に返答をする。


「これは失礼したわ。私は二宮冬香。白花咲女学園高等部の一年生で櫻井君とはクラスメイトよ」


「なるほど……白花咲の関係者なのか。俺は渋谷恭平。芳樹とは中学三年生の時のクラスメイトだ。よろしくな二宮さん」


「ええ。櫻井君の友人ということなら信頼出来るわ。よろしくお願いします」


 そんな簡素な挨拶を交わした後に二人は握手を交わした。心なしか恭平は頬を赤らめていた。……まあ、普通に異性が好きなら二宮に魅了されちまうのは仕方ないよなー。俺だって『あの事件』がある以前に出会っていたらマジで一目惚れしていそうだし。
 さて……そんな挨拶は無事に済んだのだが聞くべきことはあるだろう。


「まず、恭平は何をしていたんだ?お前こそ美浜ではなく千葉の方まで出てきて。こんな時間に一人で」


「ああ……それは……いや」


 どこか恭平は反応に困っているようだった。恭平は嘘をつくのがあまり得意ではない。だから何となく誤魔化している部分があると分かりやすかった。


「ん?何か疚しいことでもあるのか?おい今なら怒らないから正直に言ってみろ。絶対に怒らないから」
「絶対それ怒る理不尽なやつじゃねえかっ!…………まあ、なんつーかあれだ。明日は土曜日だろう?だから学校休みだし折角だからゲーセンに遊びに来たんだよ」


「こんな時間に?わざわざ?千葉まで?」


「う、うっせー。俺は深夜にぶらつくのが好きなんだよ。深夜の街ってだけでも興奮するからな。そう……えっと……そうだ。定期的に俺は深夜の街をぶらつくことがあるからな。嘘じぇねえぞ?」


 どこまでが本当の話なのかは分からないが、それでもその話を信じるとしたら少し俺は心配になった。


「まあとりあえずお前の発言を信じるとしよう。……しかし恭平お前大丈夫なのか?ちゃんと高校とかにも行っているのか?進級は出来そうか?中間テストは赤点無かったか?タバコや酒はやっていないか?悪い友達とつるんでないか?」


「あーうるせえ。うるせえ。お前は母親かっ!何も問題ねえよ。高校に入学してからは一回も休んでねえし、テストでも学年30位以内に入っているくらいには頑張っているよ。タバコと酒は中学までだし、俺の高校だって自称進学校だからな。そこそこ真面目な奴も少なくねえから、そういう連中と真っ当な関係を築いているんだよ」


「そうかーっ!真面目に生活しているんだなー。良く頑張っているな恭平っ!」


 俺は恭平の黄金色の髪を優しく撫でた。


「だからお前は俺の母親かっ!?つーか髪を撫でるな!この髪型維持するのは大変なんだぞこらっ!」


 乱雑に手を払いのけられてしまった。残念極まりない。恭平の奇抜……じゃなかった。格好いい髪を触っていたかったんだがな。


「とりあえず俺は平穏無事に生活しているよ。でだ。今度は俺からの質問だ。……お前と二宮さんは何をやってんだよ?こんな夜中に深夜の千葉で。お前は白花咲女学園の寮で三年間生活しているんじゃなかったのか?」


「ああ。それに関しては……二宮……説明していいか?さっきの不良連中から助けてくれたのはこの恭平だからさ。勿論嫌だったら本当に遠慮なく嫌って言っていいからな」


 俺たちの目的を正直に話すのであれば、二宮のプライベートな内容も含まれてしまう。勿論、隠しておきたい部分はぼかして言えばいいのだが、それでうまく説明できるとは限らないからな。出来れば簡単にで構わないから目的の概説をしたいところだ。
 ついでに個人的な意見としては、曲がりなりにも俺の身体を守ってくれたのはこの恭平だ。そんな大きな借りがあるからこそ誠意ある正直な事実を伝えたいと考えている。
 ちなみに本来であれば事情は説明すべきではないのだろう。何故なら話を聞いた後で恭平が俺の味方をするとは限らないからだ。
 幾ら俺と恭平が親友であっても恭平が一般論を用いて『学園に戻った方がいい』として警察や家族、あるいは学園などに連絡されてしまえば一巻のおしまいだ。目的を果たすことのみに焦点を当てるなら『学園に連絡され止むを得ない絶対的な理由』といったもので誤魔化すのが正しい戦略であるだろう。
 しかし恭平は恩人であるのだ。だから事情を正直に説明しどうにか納得をして貰うことをしようと俺は最終的に考えを纏めていた。
 二宮の方に視線を寄せると……


「ええ。構わないわ。あなたの大切なお友達なのでしょう?そして私たちの窮地を救ってくれた人物なら事情くらい説明するのが筋でしょうから……お願いするわ」


 すぐに許可を貰えた。許可を頂いたところで、俺たちの状況に関して伝えることにした。まず、俺たちは恭平の疑問通りに外出禁止の白花咲女学園で生活を送っていたこと。そんな生活を送っている中で二宮は、学園のシステムに則り『一日外出権』を用いて外に出ようとしたこと。
 しかし忌まわしき理事長である天上ヶ原雅によって、本来の目的地と異なる場所へ連れて行かれたことで、目的を阻害されたこと。
 そして(この辺はプライベートだから可能な限りはぼかした。ただし人情に訴えかけるような言い回しはした)二宮は過去に悲惨な人生を送っており、その時に世話になった人物にお礼を言いたいと考えていたこと。
 それを知った俺は二宮が学園外に脱出することが出来る為の計画を立て、現在はその計画を何とか成功させ学園外にいること。
 全てを聞き終えた恭平は真剣な面持ちで頷いた。先ほどまでの軽快な雰囲気はどこかへと消え去った。俺と二宮も思わず身構えてしまう程だった。そして厳かに言葉を発した。


「なるほど……事情は理解した。お前のところのその理事長って奴は相当性格が悪そうだな。特に根拠を示すわけではないが、本当に性格が悪そうだ。具体的には無関係者の俺にも何か突拍子もない提案をしてきそうな程には厄介そうだ。そして二宮さんの方の事情も十分に理解出来る。そんな事情を抱えていたら外に出たくもなるだろう。外に出る必要性としては十分だろう。けどよ―――――」


 俺は恭平に否定されるのじゃないかと不安になった。けれど頼む。俺は二宮の意志を尊重したいのだ。だから許諾する言葉をくれ。善悪において善であると価値判断を下してくれる必要は無い。ただ見逃す言葉だけを紡いでくれればいいのだ。
 そこで恭平は言葉を区切りはっきりと言葉を突きつけた。


「だからといって、その理事長を騙し学園の外に脱走するってのはどう考えても許されることではないだろう?」


 無慈悲に恭平は断罪を下した。全ての事情を知った上で。俺たちの在り方を否定した。そして恭平は断罪の言葉を容赦なく突きつけ続けた。


「友人の不正行為を知り、それを見逃すべきじゃないってのは馬鹿な俺でも分かることだ。誰かが困っていることを放置できない優しいお前はいつものように他人を助けるために、こうして行動しているんだろう。だがな。はっきりと言わせて貰おう。今回のお前のやり方は……明らかに間違っているんだ。たとえ相手がどれだけの卑怯者であってもお前のやり方が正当化されることはない。そして俺はその不正を学園側に報告することが義務だと思う。俺も一応お前が学園に入学する時の立会人として関係しているからな。それを考えたら俺は報告しなくちゃならねえと思うし、お前を止めなきゃならないと思う。それが正しい人間の対応だと思うし、お前の親友としての正しい行為なんだと思う。だから芳樹。大人しく投降して学園に戻れ」


 そんな恭平の言葉に俺は自らの愚鈍さを噛みしめつつも言葉を返した。


「……まあ、そりゃそうだよな。お前の言うことは全部正論だよ。お前は俺を止めるべきだろう」


 どこまで行っても俺たちの行動が正当化されることはない。それは既に三枝との会話で学習をしたことだ。恭平の考え方は当然のことなのだ。
 寧ろここまで真っ当な意見を聞けて俺としては満足している部分すらあった。自分の親友が正論を突きつける勇気と気概を持っていてくれて俺は誇りを覚える。


「悪かったな恭平。面倒毎に巻き込んで。お前には本当に申し訳なく思う。久しぶりの再開でこんなシリアスな話になっちまって」


「芳樹……」


「……だが、俺たちはそれでも目的を果たすために動かなくちゃならない。だから……どんなことになろうと俺は目的地へと進むつもりだ。それが今の俺の全てだから」


「へえ……それは親友である俺を倒してでも先に進むってことか?お前の窮地を助けた俺ではなくその二宮さんの願いを優先してか?親友である俺の意志や気持ちを尊重せずに先に進むと言うのか?」


「待って渋谷君っ!櫻井君は……」


「おっと二宮さんは少し黙っていて貰おうか。これは俺と芳樹の男の会話だ」


 俺を何らかの形でフォローしようとする二宮の言葉を遮り恭平は俺を凝視した。恭平は真剣な面持ちをしていた。先ほどまでとは雰囲気が全く異なってしまった。
 俺は恭平に慄き、葛藤する自身の心を捻り潰し、今言わなくてはならないことだけ言えるようにと努めながら、その質問に対する回答を述べる。


「そうだよ恭平。親友であり何より大切な存在であるお前のことを『敵』だと認識してそれで先に進むんだよ。俺の窮地を助けてくれたお前の恩を仇で返し、親友だと常日頃主張している俺がそんなお前よりも二宮という友人を優先するんだ。親友であるお前の気持ちも思いも優しさも慈しみも全部全部無視して蔑ろにして……俺は二宮と共に千葉の街を進む続ける。そんな夢物語を果たす為には『敵』となるお前と戦いになるんだろうな。俺がお前と戦いになったら……残念ながら勝てる見込みは0だろう。けれど諦めるわけには行かないんだ。お前のことは親友だと思っているし愛している。だけどそれでも止まる訳にはいかない。お前の気持ちを踏みにじりお前の身体を踏みつぶしてでも先へ行く」


 何が親友だと笑ってしまいそうになっていた。本当はこんなことを言うつもりではなかった。こんな宣言をされてしまえば恭平も傷心するだろう。不愉快極まりないだろう。だけど……それでも俺は喉奥から言葉を吐き出した。……そして俺は一つの大きな気づきを得た。
 ああ、今までの俺は学園脱出をとにかく楽観視していたんだなと。まだ覚悟が足りていなかった。どんなことをしてでも二宮の目的を果たすと俺は考えていたはずだ。それが絶対だとしていた筈だ。
 けれど恭平に対する別離の宣言をする時の俺は葛藤だらけだった。葛藤しかなかった。目的を果たすことがどれだけの困難なことかは分かっていた筈なのに。未だにこんな単純なことでさえ心が揺れ動くのか。まだまだだな。やっぱり俺は未熟だ。甘ちゃんだ。
 そんな俺の未熟な宣言を捧げられた恭平は真剣な面持ちのままで俺を睨みつけながらゆっくりと告げる。


「なるほど……お前の覚悟は分かった。お前は俺を邪魔してでも二宮さんのために尽くすというんだな。それなら―――――こうしてやるよっ!」


 瞬間俺は自分の死を覚悟した。比喩ではなく恭平は持ちうる限りの敵意を俺に見せた。それは親友だとかそんなことを全く考慮しない刻悪と形容できるものだった。


「……っ!」


 だが―――――それは来なかった。何も起きなかった。千葉の深夜の街には何も起こらない。


「フハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!」


 夜の街に恭平の声が轟いた。周辺を歩く酔っ払いたちが俺たちのことを訝しんだ。二宮も訳が分からないという顔をしていた。恭平は拳を握っていた。拳は俺の肩にトンと置かれた。ただそれだけだった。痛みもない。苦しみもないのだ。


「恭平?」


「……やっぱりお前は最高だよ。お前は昔からそういう奴だった。お前がいつも動くのは誰かのためだった。誰も信じてくれない真っ暗だった世界の中で唯一の光として存在してくれたのは……お前だったんだ」


「……」


 恭平はすっかりと落ち着いた表情をしていた。唖然とする俺と二宮を差し置いて。天を仰ぎながらひたすらに語った。


「恭平……」


「……芳樹。俺が誰かのために必死に行動するお前を止めるような人間だと思うか?そんなわけねえよ。俺が倫理観だとかを優先するような人間な筈がねえだろう?俺はそんなに大人じゃない。俺自身そんな俺が嫌いではないしな。そして……親友であるお前にも優先して欲しいと願う形がある。例え世界中の人間から否定されようとも、それでも『櫻井芳樹』という人物にあるべき姿という理想を抱いているんだ。俺は
『なりふり構わずに誰かを救う無類のヒーロ』でいて欲しいと願っているんだよ芳樹」


「お前は……」


「俺はかつてお前に救われた。そしてお前が再び誰かを救おうとしているなら……俺がそれを止める権利なんてないだろう。……俺はお前に救われて感謝をしているんだぜ?あの誰も信じてくれなかった世界で……誰も俺を知ろうとしてくれない世界で……たった一人でも俺を信じてくれたお前の存在がどれだけ嬉しかったことか。どれだけの救いとなったことか……」


 恭平はそんな優しい言葉を掛けながら想いを語る。普段は決してそこまで明かすことのない己の心理を……俺に開示した。こんな真面目な会話をしたことなんて過去にきっと一回くらいしかないだろう。それだけ恭平は真剣だった。


「そんなお前の姿を知っているのだから……愛しているのだから俺は邪魔なんてしねえよ。……とっとと二宮さんを『助けろ』。それがやっぱり俺の知っているお前なんだよ。俺が大好きで……親友だと思っている人間のやり方だ。お前は止まる必要なんてねえんだよ。正面だけ向いてやりたいと思ったことだけをやれ。それがお前の魅力だ。他の誰がごちゃごちゃ言おうと関係ねえな。お前は好きなようにやるべきだ。それがお前の最大の魅力だろうが!」


「……恭平。分かった。お前は本当に……俺を『尊重』してくれるんだな」


 恐らく葛藤もあったことだろう。恭平の中の倫理観も揺れ動いていたかもしれない。それでも俺の気持ちを尊重してくれたのだ。
 恭平の主張は大よそ三枝とは真逆を行くものだ。三枝は自分の汚らしい本質と向き合い大人になるように俺を促進させた。
 一方で恭平はそんなことを一言も言いはしない。ただ俺のそんな愚直な『意志』そのものを肯定した。とにかくやりたいようにやれと。何でもいいから子供らしくでもいいから自分を貫き通せと。
 ……何だかこれはこれで少し元気が出た。そして……少し俺は久しぶりに肯定されたような気がした。俺の過去の愚行も全てが間違いではなかったのだと感じさせられた。ずたずたに壊死していた心が修復されたような感覚に見舞われた。


「ありがとな。恭平。お前のおかげで……改めて自分を貫こうという意志を持つことが出来たぞ」


「ありがとう渋谷君。あなたに感謝するわ」


 二宮もまた恭平の思いやりの深さを見て感動している様子だった。こうして俺たちは恭平が配慮をする形で和解した。


「さーて、それじゃあシリアスな話はこれで終わりだ。芳樹。少しでいいから学園での話を聞かせろよ。二宮さんも面白い話があったら教えてくれ」


 そんな提案から少しの間、俺たちは下らない会話をしていた。天上ヶ原雅の悪口。女子しかいない学園生活。豪華な設備。食堂のシステム。生徒会の権威など。色々なことを恭平には伝えた。恭平は話をする俺たちに1つの配慮をした。


「芳樹と二宮さん。これは餞別だ」


 噴水のある公園から少し歩き自販機でジュースを奢ってもらったのだ。流石恭平太っ腹だな。既に渇ききっていた喉に飲み物は最高だった。
 その後しばらく話を続け時刻が四時を周ったところで俺たちは別れることになった。


「それじゃあ……俺は家に帰るわ。頑張れよ2人とも。千城台まではそこそこ距離がある。もうひと踏ん張りだからな。芳樹。絶対にお前の『人助け』を諦めるんじゃねえぞ?学園側から何らかの形で妨害が入るかもしれないが絶対に自分の信念を曲げずに戦い続けろ」


「ああ!」


「二宮さんは……今度学園の外に出ることが出来たら……一緒に飯でも食いに行きましょう?二人きりで」


 ちょっ!お前何をちゃっかり二宮を口説いているんだよっ!そんなの絶対許すかよ。お前が口説くべき相手は『俺』だろうがっ!恋愛対象間違えるとか馬鹿なの?やっぱり恭平は馬鹿なの?何かさっきまで真面目な雰囲気だったのにそれはどこにいったの?ふざけたオチを付けないと駄目な病気かなんかなの?
 そんな軽い口説き文句に二宮は優しく微笑みながらこう言った。


「ええ。……櫻井君と一緒でも良かったら幾らでも」


「ぐ……やはり難攻不落そうだな。だがこれだけの美人を諦めて溜まるか。それじゃあ今度こそ。検討を祈ってる」


 ふん。お前に二宮は100年早いということだよ。やはりお前は俺と付き合うのがお似合いだ!……いやマジで。
 そうして俺と二宮は無事に恭平から逃がして貰えたこともあり、引き続き目的地へと向かうこととなった。
 ……最後まで絶対に歩き続けような二宮。



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