ガチホモの俺がお嬢様学園に入学させられてしまった件について 

湊湊

49.「親友は誰よりも櫻井芳樹の意志を尊重する」(前編)



「おい芳樹。自分で歩けるか?」


「悪いー。少し身体が痛む。それと……少しだけ疲れた」


 あの不良連中にボコられた時の痛みが少しだけ疼いていた。動けない程では無かったが、ここまでの道中で疲労が蓄積し、体力的にあまり余裕が無くなったこともあり、立ち上がるのが非常に億劫だった。
 そんな俺の様相を見かねてか恭平はさっと腰を屈めた。


「ったく……わかったよ。俺がおぶってやるから。ほら。とりあえず移動しようぜ。警察にでも見つかれば面倒だからな」


「……助かる」


 自分で立ち上がることも不可能ではなかったが俺は恭平の善意に縋ることにした。


「よっと……」


 恭平はどうやら中学時代に増して筋力をつけたようだ。60キロ以上ある俺を軽くおぶり顔色一つ変えていなかった。


「つーか、俺も方も聞きたいことは山積みだが……まず、これからどうするんだ?」


 これからのこと。まずは……と思考をした瞬間、俺はすぐに自分がすべきことを思い出した。


「……っ!ああ、そうだ。悪い恭平。久しぶりの再会のところ悪いが、噴水のあるあの公園まで向かってくれ。俺を待っている人がいるんだ!」


「……お、おう。とりあえず了解だ。そこで色々聞かせて貰うからな」


「ああ」


 そうして俺は恭平の善意によって、おぶられながら、二宮の待っているであろう公園に向かうこととなったのだが……不良連中を恭平が退けたということもあり俺は緊張が完全に抜けてしまった。
 学園を脱出した時とから、先ほどまではずっと真剣だったんだがな。どうにも疲労感と恭平に久しぶりに会えた嬉しさによって頭がふわふわとしていた。
 そんな俺が今考えていることは……恭平はいい匂いがして滅茶苦茶性的に興奮してしまうなーということだけだった。
 恭平は戦闘を終えた後ということもあり、ほんのり汗をかいていた。これさ……べろっと汗を舐めてもいいかな?
 いや……なんつーか親しい男と出会ったのも随分と久しぶりで凄く興奮してんだよな。いいよな?だって首の後ろから滴る汗だぜ?フレッシュだぜ?舐めたくね?味わいたくね?


「おい芳樹」


 どうやら恭平の第六感は鋭いようだ。まだ俺が恭平で性的興奮を覚えているだけの段階だというのに怪訝そうな声色で俺の名前を呼んだ。


「ああ?どうした?」


「何か不穏な雰囲気を感じた気がしたんだが?お前何もしていないよな?」


「別に何もしてねえよ?お前の首から垂れ落ちている汗を舐めたいとしか思っていないぜ?」


「そんなこと考えていたのかよ?最高に気持ち悪いじゃねえか!絶対舐めるんじゃねえぞ!」


「汗を舐めたいと思うことの何が気持ち悪いんだ?そういう言い方は感心出来ないぞ恭平。もっと相手を慮るような言葉遣いをしなさいっ!」


「お、おうっ!……ってお前の熱意に一瞬説得させられかけたけどよくよく考えれば全然納得出来そうにねえわっ!ただの変態じゃねえかっ!真顔で言われても変態は変態だ!つーか寧ろ真顔で言う方がやばい奴だわ!」


「え?お前だって自分の好きな人の汗は舐めたいと考えるだろう?」


「いや考えはしねえよっ!普通に好きな人だろうが汗は汚いものに変わりねえだろう!?」


「全く……恭平はまだまだということだな。お前もまだ若いってことか。いやー、まあ気持ちは分からんでもねえな。俺も若い頃は汗だとかなんだとかに忌避感を覚えることはあっったぜ?けれど、年を取れば徐々に抵抗感は薄れるものだ。つまり恭平。お前はお子様だということなんだよ。早く俺の領域にまで辿り着け。俺はいつまでも高みで待っていてやる」


 未熟なこの子供の成長を待ってあげるなんて……俺も随分と成長したものだ。やはりこの数か月間の学園生活に俺も成長したんだな。助かったぜ三枝と早乙女。俺たちの学園生活も無駄ではなかったということだな。


「一生分かりたくねえ境地だよ。つーか、お前そんなこと言っている余裕があるなら十分に元気だろうが!早く降りろやっ!」


「うぉぉおおっとっ!」


 そうして俺は強引に降ろされてしまった。残念極まりない。恭平の背中に背負われるのは凄く嬉しかったし、身体が痛み億劫なのは嘘ではないというのに……


「ったくよー。心配して損した気分だ」


「お?なんだ?恭平?やっぱお前はちゃんと俺の心配をしてくれていたんだな?」


 恐らく最高の笑顔になっているであろう俺は恭平にそれを尋ねた。


「……そりゃ、大切なダチが半殺しにされそうだったら心配くらいするわ。……ってこんなことをいちいち言わせんじゃねえ。ぶっ飛ばすぞお前」


「もー、恭平は相変わらず物騒なことを言うな。平和に行こうぜ平和に」


 って俺も学園だと愛莉とかにこんなツッコミをしていた気がするわ。……やっぱり人によって対応するノリって凄く変化するだろうな。勉強になったわ。


「……つーか、降ろしておいてあれだが……怪我は大丈夫なのか?」


 改めてこうした質問をしっかりとするあたりに恭平の人の良さというものが現れているのだろう。


「いやー、無理だわー。恭平に助けて貰わなきゃ一歩も歩けねえわー。おんぶー、おんぶー」


「そうか。そこまでふざけるんだな。わかったわかった。これだけ馬鹿なことを言えるんだからもう問題はないだろう。それじゃあな芳樹」


 恭平はとことこと表通りの方へ一人で進んでいった。え……ちょっと……


「……いやーちょっと待てや!本当に置いて行く奴がいるかっ!ごめんごめん。恭平に会えた喜びでテンションがおかしなことになっているんですっ!許してくださいっ!」


「置いて行くかねえよ。……その元気があれば大丈夫だろう?あんまり俺に心配かけさせんなよ?」


「……ああ。悪かったよ」


 返事をしつつ俺は少し先へ進んでいた恭平の元まで走って駆けつけ共に歩き始めた。


「それにしてもだ。やっぱお前は凄い奴だなー。あんな連中を一気にぶっ飛ばせるだなんて」


「ああ?逆だよ。あんな奴らに苦戦しているお前が弱すぎるんだよ。戦い慣れしていないにも程があるんじゃねえの?普段イメトレしてんのか?」


 さも圧勝するのが当然と言わんばかりの恭平。イメトレは普通の人はしないと思います。というか俺が弱いのではなくやはり恭平が強いだけの話なのだろう。普通幾ら喧嘩慣れしているとはいえ、十人相手に一人で戦うことが可能だなんて人は珍し……いや、訂正。柊先輩と立花さんと比べれば確かに普通なのかもしれない。
 しかし、外の世界において喧嘩慣れしていると言う意味では、やはり恭平は凄まじい戦闘能力を持っていると言えるはずである。
 渋谷恭平について少し語ろう。身長167㎝、体重70kg。筋肉質な身体で精悍な顔立ちが特徴的だ。髪は早乙女同じく純然たる色では無く染髪によって金色に染められている。現在の格好は家着のジャージであり、完全にドン・○ホーテに生息するヤンキーにしか見えない。そんな恭平は中学3年生の時からの俺の親友だ。
 恭平は当時からやたら喧嘩が強かった。どうやら話を聞いてみると、地元に住む親戚に武術の達人がいるらしく、恭平はその人から散々痛めつけながら育ったという経緯があったようだ。
 そんな環境で育ったことで好戦的な性格を養いつつ実際に武術的な鍛錬を積んでいることで、恭平はべらぼうに強かった。
 一つ具体的なエピソードを思い出すと……かつて俺と恭平が通っていた中学校には体罰をする体育教師がいた。その教師は体罰をやたらと好む人物であり非常に問題視されていた。
 何が問題かと言えば、基本的に『相手が真っ当になるため』に愛のある対罰を行うのではなく、『相手を真っ当にさせる』という名目のために愛のない体罰を頻繁に繰り替えていたのである。その体育教師の体罰がトラウマとなり学校に登校出来なくなる人もいたとかなんとか。
 実際俺も何か因縁を付けられて頭を軽く叩かれたという経験があった。ムカつきもしたが、ガチムチのゴリゴリな身体、そして教師と生徒という関係性、更には内申点を考慮して何もやり返すことは出来なかったが。しかしそんな俺の憂さでも晴らしてくるかのように、恭平はその体育教師と戦うことになったのだ。
 その発端となった出来事は、『掃除当番を忘れて下校してしまった一般生徒の頭を殴りつけた』というものである。勿論生徒の方に問題があることは確かだったが、殴りつけるというやり方は教育学的に適切ではないだろう。
 そんな様子をたまたま目撃していた恭平は体育教師に噛みつき、やりすぎだと指摘をしたのだ。そこで体育教師が自らの行動を少しでも顧みてくれでもすれば話は温厚に進んだのだが……どうやら体育教師は恭平にも暴力で返答をしようとしそうだ。恭平も流石に教師に暴力を振るうつもりはなかったそうだが、思わずカウンターを入れてしまったそうだ。
 運の悪いことに、恭平の拳は鳩尾にクリーンヒットし、体育教師はそのまま地面に倒れこみ呼吸困難となり、泡を吹きながら気絶してしまったそうな。
 それ以降、体育教師は生徒に体罰をすることは無くなったらしい。どうやら人を殴ろうとすると恭平がトラウマとなり身体が拒否反応を起こしてしまうようになったそうだ。
 まあ、その事件がきっかけとなり恭平は教師陣から目を付けられることになり、後に教室の窓ガラスが割れている事件において犯人に仕立て上げられ、恭平の強さを恐れた生徒達から不信感を募らせてしまうという二面性も持っていたんだけどな。
 だけど俺はこの恭平の行為は決して嫌いでは無い。実際に倫理的には問題のある行為だったのかもしれないが、感情論的には支持をしていた。
 恭平は暴力的ではあるが基本的には意味も無く弱者を蹂躙するために暴力を振るうような男ではない。だから俺はそんな恭平が大好きだった。


「今回は本当に助かった。ありがとな恭平」


「……おう」


 恭平がいなければ俺は二宮の元へと戻ることは出来なかったのだろう。何故あの場にいたのかとか様々に疑問があるが今は放置しておこう。あとで落ち着いてから聞くか。
 そんな風に会話をしている中で俺たちは、すぐに噴水のある公園に辿り着いた。そこで物思いにふけっているような顔をしている二宮の姿を捉え俺はすぐに声を掛けた。





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