ガチホモの俺がお嬢様学園に入学させられてしまった件について 

湊湊

48.「愛しき人との邂逅」

 
 その後、俺と二宮は学園の連中に関する噂話で盛り上がりながら(いつも散々愛莉と早乙女にはディスられているから、お前たちの評判は落としておいた。学園に帰還後を楽しみに待っているがいい。ま、まあ……今回の一件で凄く感謝はしているしお前らのことが大好きだけどな、ってなんか俺がツンデレみたいじゃねえか!)気が付けば相当な距離を進んでいた。
 既に最初の目的地としていた海浜幕張駅を越えて線路沿いに歩き続け千葉駅まで辿り着いていた。二時間以上歩き続けるという苦行を成し遂げていたこともあり、すっかりと足が棒になっていた。


「大丈夫か二宮。少し休むか?」


「いえ。平気よ。あなたも問題なければこのまま進みましょう」


 多少は疲弊していたものの、二宮が進む意志を強く持っているのならそれを邪魔したくない。という訳で休憩は挟むことはなかった。


「そか分かった。さて……既に千葉駅周辺だ。何でも栄町の周辺は治安が悪いと専らの噂だからあんま通りたくはないんだが……」


 表通りの方では万が一警察などに遭遇してしまった場合は厄介だ。それにこの辺り一帯は道路が開けていることもあり警察に見つかりやすそうだ。だからこそ、少し裏道で人通りの少ない方から目的地へと向かうことが肝要だろう。
 そういう訳で仕方なく俺たちは風俗などが立ち並ぶ夜の歓楽街を歩き始めたのだが……まさか歩き始めて早十分でこんな展開を迎えるとは全く想定外だった。俺と二宮は人気の少ない路地裏に辿り着いていたのだが、そこで―――――


「……おいおい。今時お前らみたいなテンプレな不良とかみたことねえぞ。学園で花京院見た時も思ったけど、テンプレだからって何でも許されると思ったら大間違いだぞおい」


「ああん?何わけわかんねえこと言ってんだおい?あ?おい?あ、おい?」


「てかマジでそっちの女滅茶苦茶可愛くね?決めた。俺の十五人目この子にするわ」


「お前まだ経験人数十四人かよ。少なっ!」


「はー?お前この前やっと十人って言ってたじゃねえか。見栄を張るなよぷははははははははははっ!」


「……」


「……」


 俺たちは如何にもと言わんばかりの不良連中に絡まれてしまったのである。始めは二宮とアイコンタクトをして目立たないようにと切り抜けようともしたが、二宮の姿を目視した瞬間彼らの顔色は一瞬にして変化をした。
 ……そりゃそうか。二宮は稀代稀に見る程の美少女。一歩学園の外に出てしまえば、男達からの注目が集まるのは当然なのか。
 普通の人間なら『滅茶苦茶可愛い』ということで視姦されるだけで済むが……こうした節操無しの男達にはその論理は通じるところではないのだろう。
 彼らの様子を見るに着崩した制服、若々しい声ということもあり、俺たちと同様に高校生であることが伺われる。


「げひっひひひひぃいひひぃひひ!」


 しかしまあ……この男達は見るからに不良ということで揃いも揃って人粗が悪い。それに情緒面でも安定していなさそうだった。まともに対話出来そうな人間は一人もいなかった。つーか笑い方流石にやばすぎんだろ。普段は冗談でも言える『薬でもキメてる?』と言いたくなるぞ。
 相手の人数は10人程度。全員男で身長は165~175㎝前後といったところだろう。運の悪いことに相手は俺たちを囲み逃げることが出来なくするくらいの最低限の知能は有しているようだ。


「櫻井君……」


 微かに震えた声で彼女は俺の名前を呼んだ。だから俺は言葉を返す。残酷な事態に遭遇しようとも決して屈する選択などしないという意志を示すために。


「安心しろ二宮。お前は俺が守る」


 とはいえこの状況を如何にして打破するか。ぶっちゃけ、黒服の連中から逃れることはシュミレーションしていたが、こんな訳の分からない奴に絡まれるとは予想外だ。


 さて……どうするか。逃げ切ることが出来ればそれが一番だ。しかし、こいつらも俺と同様に十五~十八歳の男だ。如何に二宮が運動神経抜群の少女でも、この男達から囲まれた状態から逃げ切ることは難しいだろう。
 何故ならそれだけ基本的に男女で身体能力には差が存在してしまう。女子の中ではトップレベルで足が早くとも男子と比べると平均的になるなんてことは一般論だ。故に逃げ切ることは困難だろう。
では、この場にいる男たち十人を二宮と協力して倒すことではどうだろうか?……やはり難しいだろう。
この場には最強の立花さんがいるわけでも、柊先輩がいるわけでもない。戦って全員を倒すなど不可能に近い。
 状況改変の手法について苦悩する俺を嘲笑うかのようにして、中心人物的な単細胞は俺に宣言する。


「ぷはははははははははははっ!なんだよこいつ。かっこつけやがって。安心しろよ。男の方は興味ねえからよ。俺たちが興味あんのはそっちの可愛い女だけだよ。だからお前は俺たちの最高のプレイが終わるのを指を咥えて待ってな」


 周囲は下品な笑いで包まれる。全く……こうした節操無しの連中には辟易とさせられてしまう。仕方ない……俺は二宮の耳元で本人だけに伝わるように声を掛ける。


「……二宮。俺が正面のリーダ格をぶっ飛ばす。そしたらその隙に全力で表通りの方へと走れ。そんでしばらくは、表通りの噴水がある公園のどこかに身を潜めておけ。必ず俺が迎えに行く」


「でも……」


 その声からは二宮の持つ純潔な精神が伝達される。何とも優しい少女だ。きっと俺のことを心から心配してくれていることだろう。……やっぱり、お前は優しい奴だよ。
 しかし、今はその二宮の優しさを受容していている場合ではない。


「でもじゃない。……お前は布川さんと会うんだろう?だったらこんなところで迷ってちゃ駄目だ。なーに。安心しろよ。何もしくじっても死ぬわけじゃない」


 半殺しくらいはあるかもな。だけど……今の俺は大変に気分がいい。ヒーロ気分に陶酔していることは否定しない。
 しかし、それでも俺は戦うぞ。二宮の意志を理解し目的を知った俺は何としても二宮を手助けとしたいと心の底から思っているんだからな。半殺しにされるくらいの危険性がどうしたっていうんだ。


「それじゃあ行くぞ」


「……ええ」


 迷いはあるようだったが、二宮はゆっくり頷いた。その瞳には確かに覚悟が宿っていた。……怯むなよ二宮。俺はお前の夢を叶えてやりたい。だから俺もこんなところで終わるつもりなんて全くないんだからよ。


「うぉらああああああっ!掛かってこいや馬鹿どもがぁあああああああっ!」


 咆哮と共に俺は正面から突撃した。周囲には俺たち以外誰も存在しない。だから堂々と俺は戦う意志を表明し、俺に注意を向けさせた。


「んだこいつっ!?殺しちまえっ!」 


「俺は二宮を何としても助けるんだ!邪魔をするんじゃねええええっ!」


「ぼばあああっ!」


 不良集団のリーダ格の男に向かって俺は回し蹴りをかました。即座に蹴りを放ったこともあり対応することが出来なかったらしい。リーダ格の男は衝撃で大きく吹き飛び、背後に構えていた男諸共巻き込まれるような形で転倒した。


「……絶対に後で合流してね。お願い櫻井君」


 そう言い残し迷いなく二宮はタイミングを逃すことなく正面から逃げ出した。そして表通りの方に全力で駆け出す。火事場の馬鹿力も発揮されているかもしれない。50m走6.1秒の俺から見ても悪くない速度だ。そのまま逃げ切ってくれよ二宮。


「待てこらあああああああっ!」


「絶対に逃がすなよっ!」


 そんなテンプレートな言葉を吐き捨てる男達は二宮を追おうと全速力で追随をしていく。だが―――――


「行かせる訳ねえだろうがよっ!」


 俺は二宮を追おうとする不良連中の背後からドロップキックをお見舞いする。


「ぐぉおぉおおおおえおぉ!」


 絶叫。それと共に三人の不良は力なく呻きながら倒れていく。微塵も容赦なく背中に向けて蹴りを食らわせたのだ。これならいけると思った瞬間だった。


「てめえこそ、背中ががら空きだ!!」


「ぐぅつぁぁ!」


 俺は自身の反射神経を信じ避けようとしたがワンテンポだけ遅かったようだ。残っていた不良の一人から同様に背中から蹴りを食らってしまう。


「危ねえ……」


 痛む背骨を摩りながら俺は路地裏の壁に背中を付けて背後からの攻撃を食らわないように位置を調節する。
 ……しかし、何とか直撃は避けることはできたものの、如何せんダメージを負ってしまった。そして残念なことに……


「この野郎……絶対にただじゃ帰さねえからな」


 最初に一撃を食らわせた連中が既に起き上がり血眼で俺を睨みつけていたのだ。


「おいおい。最初はてめえらから絡んできておいて、そんでちょっとやったら怒るとか天上ヶ原並の理不尽連中なんじゃねえのお前ら?」


 へらへらと笑いながら俺はそんな言葉をぼそっと吐き出していたが……まずかった。男達の人数は10人。対して俺は一人。幸いなことに二宮を追うことよりも俺をボコすことの方に集中しているようで二宮を追う人物は一人もいなさそうだった。
 この風俗通りから表通りまではそんなに距離があるわけじゃない。全力で走れば更に他のやばい筋からロックオンされても何とかなるだろう。
 それよりもまずいのは俺のほうだった。じわりじわりと俺を殺すタイミングを狙ってる。徐々に俺を囲うこの不良連中との間にスペースは埋まってしまった。これはまずい。イチかバチかに委ねるしかない。


「死ねおらあああああああっ!」


「だああああああああっ!」


 俺は不良連中に回し蹴りをかまし俺の蹴りは確かにヒットした。大きな一撃だっただろう。脚力には自信がある。何か特別な訓練を積んだわけではないが、一般人を退かせ、重大なダメージを負わせるだけの力はあるはずだ。


「ごおおおおえええっ!」


 絶叫と表現可能な声を数人が漏らした。この一撃は確かに大きかったはずだ。しかし―――――全員に届くことは無かった。コンマを置かずに、残っていた連中からの攻撃が被弾する。


「ぶべええっ!」


 顔面には拳を、弁慶の泣きところには蹴りを、わき腹にはボディーブローを食らってしまう。あ……これやべえ……
 じわじわと痛みが全身を襲う。全身に力が入らない。俺はそのまま正面から倒れこんでしまう。リーダ格の男に頭皮を踏みつけられる。


「こいつどうするこの後?」


「とりあえず、徹底的にぶっ飛ばして金だけ奪って裸の写真撮影しといて、あの女を探しに行くでいいんじゃね?」


「さんせー」


 下品な笑い声と共にそんな提案が快諾されているようだ。……くそ、立ち上がれよ俺の身体。だけど体力は残っていなかった。
 そう言えばそうか。既に俺は学園で散々黒服とじゃれてきて、そこから二時間ぶっ続けで歩いてからこの戦いなのか。……そりゃ、体力切れにもなるか。
 しかし……二宮は大丈夫だろうか?俺はそれだけが心配だった。俺の身がどうなろうとも構わない。だけど、二宮には五体満足のままで布川さんの元へと辿り着いて欲しい。俺の願いはそれだけだった。


「それじゃあイケメン。いい夢見ろよ―――――」


 そんな言葉と共にリーダ格の男は俺に拳を振り降ろし―――――


「……っ!?ってえーな。離せやこらっ!!!!!!」


「そりゃ出来ねえ相談だ。……ったく大丈夫か芳樹?」


 今宵の優美な月光りも照らされない鬱屈とした路地裏に一人の男が現れた。その男はリーダ格の男の腕を軽く捻って拳を制止させていた。闇黒の世界の中と対照的な染髪された黄金色の髪は俺の眼窩を刺激する。


「あ?てめえこら。誰だが知らねえが、いきなり邪魔しやがって。殺すぞ」


「おいおい。まさかとは思うが俺の顔を忘れちまったのか宍倉?転校する前は散々俺が『教育』してやっていたじゃねえか?」


「ああん?てめえの顔なんざ見たこと………………まさか…………いやそんな偶然あるわけが―――――」


「どうした?俺の顔に覚えでもあるのか?俺はあるぜ。宍倉ししくら。小学4年生の時が懐かしいな。お前が女子を虐めていた時はぶっ飛ばしちまって悪かったな。今思えばあの時のお前の行動はただの好きな女に対するちょっかいだったと思うからな。それはしっかりと謝罪をしておくぜ。だが―――――」


「俺の親友に手を出すのは流石にやりすぎなんじゃねえか?」


「……っ!ひいいいいいぃいいっ!すみません。まさか恭平さんのダチだとは思っていませんでした。許してくださいっ!許してくださいっ!」


「ああ。今ならまだ許してやるから、とっとと失せろ。他の奴らもだ」


「はいいいい!お前ら早く行くぞっ!」


 リーダ格の男は血相を変えて裏路地から去り表通りのある方向へと去っていった。しかし―――――


「宍倉こんな男にびびるとかマジでウケるんですけど。なんだよお前。正義の味方気取りなの?マジ卍」
 意味の分からない言葉を吐きその他の不良たちは彼らの言うところの『正義の味方』を取り囲んだ。
「ったく……いちいち手間取らせるんじゃねえよ。今逃げるなら逃がしてやるからさっさと失せろゴミ共」


「はあ?調子に乗ったこと言ってんじゃねえぞごら!お前らやっちまおうぜっ!」


『おう!』


 不良少年たちは、一斉に飛び掛かる。しかし―――――この戦いの勝敗など既に決していた。


「……そ、そんな馬鹿な……こっちは……9人だぞ」


「化け物かよ……」


 気が付けば、不良たちはだらんと死体のように倒れこんでいた。一切流血の痕跡を残さないところは熟練の戦闘狂というだけあるのだろう。


「さて―――――」


「大丈夫か芳樹?」


 彼は俺に優しく手を差し伸べた。そうだったな。しばらく学園脱出計画に集中していたせいで頭から離れていたが……学園の外の世界にはこんなに頼もしい友人がいたじゃないか。俺の最愛の人物。いつだって俺のピンチになったら助けてくれる無敵のヒーロ。最高にかっこいい男それが―――――


「ああ。聞きたいことは幾らでもあるが―――――助かったぜ……恭平っ!」


 それが渋谷恭平と櫻井芳樹の久しぶりの再会だった。



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