ガチホモの俺がお嬢様学園に入学させられてしまった件について 

湊湊

47.「そうして少女は未来へと歩き出す」



「なあ二宮……俺は確かに今までも二宮は凄絶とも呼べるような経験をしてきたんだろうなって予想はしてた。何か過去に本当に大変なことがあって……そんで、以前までのように他人に壁を作るきっかけになっちまったんだろうなと推測もしていた。けどさ……ここまで苦難に満ちた人生を送っているとは思っていなかったよ。そして……二宮が学園を脱出したいという気持ちを持つ理由も納得出来た。そりゃそんだけ大変だった時に自分を支えてくれて尚且つ無条件で高額を貸してくれるような人にはお礼の一つも言いたくなるよな」


「櫻井君……」


 彼女の表情は読めない。今彼女は何を思っているのだろうか?自らの凄惨たる過去に思いを馳せて悲嘆しているのだろうか?あるいは過去の記憶に自嘲気味に嘲笑したいという絶望の念に駆られているのだろうか?かつての両親との幸せな日々に戻りたいと切望の念を抱いているのだろうか?彼女の心中は謎だった。
 二宮の気持ちは分からない。ただ、分かることは俺の気持ちだ。俺が抱く思いは……二宮を支えたいということだけだ。
 俺と二宮はゆっくりと足を止めた。今までは速度が落ちつつも歩き続けていた。だけど自然にどちらからという訳でもなく俺たちは停滞したのだ。
 視線が交差する。俺と二宮の距離は僅か2m程度しかなかった。個人的にはこの距離は近すぎだ。既に何度目の説明になるが分からないが俺は女性恐怖症なのだ。特に二宮のような女性的な人間には今でも緊張してしまう。そして気分が悪くことだってざらだ。


「二宮……」


 しかし俺は躊躇することは無かった。嫌がられるかもしれない。俺の身体も異変を起こすかもしれない。
 けれど瞬間的に俺の身体は動いていた。距離は2mから急速に僅かな隙間さえなくなった。彼女と俺の身体が密着した。


「櫻井君?」


 軽く彼女は俺の行動に違和感を覚えているようではあったが、嫌がる素振りは見せなかった。


「二宮…………ありふれた言葉かもしれないけど……チープな言い方しか出来ないかも知れないけれど……それでも許して欲しい。二宮……本当にお前は―――――」


「これまで頑張って来たんだな」


「……っ!」


「そんだけ普通の人とは違う過酷な生活を送ってさ。死にたくなるような境遇でも、それでも自分の力でここまでの人生を歩んできたんだろう?それは本当に立派なことだよ。俺にはとても真似できそうにない。平穏な日々の中で生活してきた俺なんかじゃ、その困難の全てを理解できっこなんてないかもしれない。だけどきっと世界中を探しても二宮の事情を知る人間はいないだろう。だから俺くらいには言わせてくれ。頑張ってきたな。俺じゃあ力不足かもしれないけれど……それでも何回でも言わせてくれよ。よく頑張ったな……二宮。お前は凄い。凄い奴だよ」


「……櫻井君っ!櫻井君っ!」


 一瞬の間を置いて俺の言葉を理解した彼女は滂沱を垂れ流し始めた。今まで溜め込んでいた感情を全て吐き出すように。
 二宮を作戦時に説得した時と同様に感情が失禁していた。今回は更に二宮は素直だったかもしれない。俺の胸元に顔をうずめ、一切の躊躇もなくひたすら泣きじゃくる。
 彼女が泣く理由など幾らでもあるだろう。当たり前だ。これだけの苦悩を抱え生きていたまだ十五歳の少女なのだから。
 悲しい過去があり、凄惨とも呼べる記憶を持っているのだから。だから泣いて当然だ。今までは辛いことがあっても、きっと彼女は誰にもその気持ちを吐き出すことは出来なかったのだ。
 それは二宮の性格上布川さんに対してもだったのだろう。誰にも甘えることも出来ず、助けて貰うことも出来ずに彼女は両親の死という絶望の淵から永らく続いて来た孤独なる人生を歩んできたのだから。そんな彼女に対して胸の一つくらいは進んで貸そう。
 そして……ここで過去を清算することくらいの協力は惜しむつもりなどなかった。ひたすらに泣いて全てを吐き出して、空っぽの状態から歩き出そう。二宮にとって真の意味で望んで生きていくことを始めよう。


「お前の人生は死ぬ程過酷だったんだ。……だからさ。これからは幸せになろう。沢山嫌なこともあったかもしれない。辛いことばかりだったかもしれない。本当に有り触れた言い回ししか俺には出来ねえ。けれども言うよ。過去は変えられない。どれだけ過去を惜しもうとも絶対に変えることは出来ない。けどさ未来は変えることは出来るんだ。だから―――――」


 早乙女。お前の言葉を借りるぞ。お前の善意100%の言葉に救われたから……俺も巡り巡って二宮の助けになるようにと言葉を紡ぐ。


「『今ここで』未来を変えていこう。その為の協力なら俺は惜しまない。まずは布川さんにと対面して感謝の言葉を伝えてさ。それから……それからは、平穏な日常生活を歩もうぜ。俺たちの日々は決して終わることはないんだ。例え学園を退学になったとしても……俺たちは友人だ。そうだろう二宮?色んなことをしよう。二宮がやりたいことだって何でも協力する。俺は二宮を裏切らねえ。例え何があっても二宮の味方でいる。どんな人間を敵に回そうがどれだけ危険でも俺だけは二宮の味方でいるよ」


「……っ!」


「二宮……俺はお前には笑っていて欲しい。幸せになって欲しいんだ」


 二宮はこの学園に来て初めて出来た友人とも呼べる人物だ。かけがえのない大切な存在だ。だから笑ってくれよ。俺はお前が幸せでいて欲しい。偽善などではなく……この思いだけはエゴではないと確信している。


「ええ……そうね。ありがとう櫻井君。私は……あなたを信じるわ」


 二宮は涙を拭った。その時俺は咄嗟に笑ってしまった。急に笑いたい衝動がこみ上げてしまったのだ。


「フフフ……フハハハハハッ!」


「櫻井君?」


 彼女は怪訝そうな視線を俺に向けた。


「いや、すまん。別に馬鹿にしたわけじゃねえぞ。……でもさ。なんつーか、本当にさ。やべえ、言葉にし辛いけど……二宮に会えてよかったよ。お前みたいな凄い奴に出会えたことがこの学園に入っての最高の思い出の一つだ」


 俺が今笑ってしまったのは二宮を馬鹿にしたのではない。反対だった。これだけの人物と出会うことが出来た幸運に俺は笑ってしまったのだ。
 これまでの会話で改めて二宮は本当にいい奴だって確証をした。それは、二宮の部屋での説得の時にも考えさせられたが、二宮はいつだって善人で優れた人物なのだと。そりゃ、布川さんという人物には確かな恩があるかもしれない。恩を返すことこそが倫理的に当然な部分もあるだろう。
 しかし、自らの人生の数年間を捧げ、この優秀な人間が集う世界でトップを狙い、学園ポイントの使用を我慢しながら戦う。そんなことは普通では出来ない。少なくとも俺なら自分に言い訳して継続することは困難だ。
 だからこそ改めて思う。お前は凄い奴だと。俺は心の底から二宮に協力出来て良かった。こうして……自らの危険に晒してでも……それでも二宮に協力出来て良かったと心の底から考えることが出来るんだ。
 お前と出会えて良かった。確かに俺は変わることが出来たんだ。だからこそ……真心を込めてお前に感謝を告げよう。


「二宮……ありがとう」


 そんなチープな言葉しか俺の脳裏には宿らない。けれどそれでいいだろう。俺と二宮にはそれでいいのだ。
 彼女は俺を見つめながら言う。真っすぐに。真剣だけれど情愛の籠った意志を宿しているように。


「いえ……それはこちらのセリフよ。櫻井君に話せて……良かった。私も……櫻井君に出会うことが出来て本当に良かった」


 そんな言葉を彼女は少し照れながら俺に言ってくれた。素直な二宮に敬意を払い俺も言おう。少し照れ
くさくて周囲に人を煽るのが大好きな奴がいれば絶対に口に出来ないようなキザな発言を。だけど二宮は決して馬鹿にしたりしないだろう。俺は二宮との絆を信じて―――――その思惑を果たすこととした。


「なあ、二宮……ところで一つだけ提案があるんだが?」


「それは一体?」


「大したことじゃないんだけどな……ちょっとしたデートの提案だ。この学園を無事に卒業出来たらさ。……俺と一緒に『夢の国』に行こうぜ?最高に楽しませるって約束するからよ」


「……………………期待しているわ」


 二宮はそれを聞きすぐに視線を逸らしたが……俺の勘違いでなければ、ちょっとだけ喜んでくれた気がした。
 そして二宮は足早に歩き始めてしまった。だから俺は二宮を追いかける。これから先の幸福を掴むために。その一歩目を果たすために俺と二宮は再び歩き始めたのだ。





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