ガチホモの俺がお嬢様学園に入学させられてしまった件について 

湊湊

46.「二宮冬香の過去」(後編)



「……」


「両親が亡くなってから……私は、叔父に引き取られることになったの。叔父もまた千葉に住んでいたんだけど、事故後に私が住んでいたアパートに引っ越してきたの。そして、私は叔父と二人暮らしをすることになった」


 二宮の表情は芳しくなかった。ここから更なる悲劇が連なっていくのかもしれない。


「叔父はお父さんやお母さんとは違ってね。優しさの欠片も無く粗暴で凶悪で乱雑な人だった。当然のように私に暴行を加えてくるし、炊事家事は全て私の仕事。だけど私も最低限はお世話になっているからと我慢を重ねたわ」


「……叔父さんは……あんまりいい人じゃなかったんだな?」


「ええ。正直な話、彼は私にとって疎ましく憎たらしい敵でしかなかった。ついでに言うとね。櫻井君。先ほど私の両親は借金をしていたと言ったわよね?」


「ああ」


 何故このタイミングで……叔父の話をしている時に『借金』の話が出てくるのか。俺は嫌な予期をしてしまう。流石に……それはねえよな?


「私の両親の借金はね……元々叔父さんが作り出した借金だったの。金額一千万円」


「一千万!?」


「ええ。しかも所謂、闇金のような場所で借りていてね。それで私の両親は叔父に泣きつかれた結果として……借金を代わりに返済してあげることを決意したの。月々十五万円ずつ。幸いきちんと支払いをしていたこともあり『取り立て屋』が家にくることは無かったけれどそのせいで私の家は常に貧乏だった。叔父さんが勝手に作った借金のために」


「くそ……本当にその叔父さんムカつくな。一度会う機会があったらグーパンしておきたいところだ。絶対だ」


「……」


 彼女は俺から視線を外した。俺に見られたくないような悲しき表情を浮かべてしまっていたのだろう。だけど、彼女は言葉を発することを止めなかった。


「そして叔父はね……大の酒好きでアルコール中毒者だったのよ。そうなってしまった原因は分からないけれど……とにかく酷い人だった。素面の状態から決してまともな人ではないけれど、アルコールが入るともう手を付けることが出来ない。そして、それが原因で地元でも有名になってしまう一つの事件を起こしたのよ」


「一つの事件?」


「ええ。それは近所の酒屋での話なんだけれどね。当時私はお酒を買って来るようにと命令をされたけれど当然ながら私は未成年。だから購入することは出来ないというと、叔父さんは怒った素振りを見せながら、私に何か物を投げつけた後に自分で酒屋に出向いたの。既に昼間なのに酔っていたおじさんは、酒屋で迷惑行為を起こしたりして酷かったようね。……正直な話それだけで済めばまだ良かった。だけど、その場には山口さんと言う女性の方がいたのよ。山口さんは正義感の強い方でね。周囲の迷惑になっている叔父さんに怯むこともなく、叱責をしたの。そしたら叔父さんは何をしたと思う?」


「……その山口さんって人に暴力でも振るったのか?」


「……」


 彼女は無言で頷いた。……どんだけ最低の奴なんだよそいつは……。二宮の親族を悪くは思いたくはなかったが、俺はその叔父さんとは絶対に仲良くなれたいと心の底から感じさせられた。


「山口さんは女性の方なの。そして酔っていた叔父さんは容赦なく山口さんを殴りつけたの。叔父さんは顔を狙ったようだけど、山口さんが咄嗟に身体を翻したから顔には当たらなかった。けれど、軌道が逸れ
て……肋骨を骨折してしまったの」


「……っ!」


 骨折とは症状が重すぎるだろう……俺は凄惨なその現場の様子を頭に思い浮かべてしまい最高に気分を悪くした。


「骨折をした山口さんはその場で痛みのあまり悶えた。そして店側もそこでようやく事態の深刻さに気が付いて警察を呼んだの。その後、警察に連行され現行犯逮捕された。それが大まかな叔父さんが起こした事件の流れ」


「……」


「結局のところ叔父さんは後にお酒を抜いた状態で山口さんと示談交渉をして、何とか裁判になることも防いだというのが結末。その諸々の処理の期間。大よそ1か月間程度だけど、叔父さんは家を留守にしていた。その期間、家では暴力の元凶となる人間がいないことに安堵していた。だけど現実はそんなに甘くない。私が安心出来なくなるような最悪なことが引き起こったの。どうしてだか分かる櫻井君?」


「……すまん。全く分からん。もしかしてその山口さんに嫌がらせをされたとか?」


「……半分は正解かもしれない。……実はね。その山口さんの立場が大きな問題だったの。山口さんは地元に住んでいる見知らぬおばさんなんかじゃなかったの。もっと有名でもっと身近な存在だった」


「それは……一体?」


「彼女は―――――私のクラスメイトだった山口君のお母さんだったのよ」


「……クラスメイトのお母さん?」


「ええ。山口君は活発で溌剌としているクラスの人気者だった。いつも彼の周囲には沢山の人が集まっていて誰もが憧れるそんな存在だった。クラスの女子児童達は、彼への恋慕の念を持っている人もたくさんいたの。日陰者だった私とは全く違うそんな遠い存在。きっと彼はあくまで善良な人だった。裏表もなく純粋な人気者。それが山口君だった。そして、山口君のお母さんもそれにて立派な人だった。お節介で多少、偉そうなところもあったかもしれないけれど、それでも周囲から慕われてリーダシップを発揮するようなそんな人だった」


「……」


「ねえ、櫻井君。そんな山口君のお母さんを傷つけた存在の娘である私はどう思われると思う?」


「それは……」


「実際に山口君のお母さんを傷つけたのは勿論、私じゃない。あくまで叔父さん。だけど、周囲にいる人たちはそんなことを割り切ったりしない。誰もそんな都合よく私と叔父さんを分別をつけて判断なんてしない。私を第二の被害者であると擁護するような人物も現れない。……でも、私はそれを仕方がないと思っているわ。だって当時は小学六年生。そんな分別を付けることが出来るような精神的に成熟しているなんて無理だもの。勿論、被害者となった山口さんだって流石に分別を付ける程余裕なんてなかった」


「……」


「だから現実はあくまで残酷。どこまでもどこまでもどこまでも私を追い詰めていたわ。学校では山口君のお母さんの怪我の原因を知った他のお母さま方が情報を広げていった。今の時代、スマホがあれば情報なんて幾らでも広がってしまうから。そして、お母さま方に情報が広がった後に待ち構えていたのは、子供に対する忠言だった。典型的な言葉だけどこんな言葉があったのよ。『二宮さん家の女の子に近づいてはいけません』って」


「……っ!」


 そんな漫画とか小説のようなセリフが実在することに俺は驚愕をしてしまう。……二宮本人は悪くない。しかし、親御さんの行動性にも理解出来る部分がある以上、俺も複雑な心理状態に至ってしまった。


「ねえ櫻井君?もし、親御さんにそんな風に言われたら子供はどんな反応をすると思う?お母さんに言われたんだから『何かある』と第一に感じて、第二には『あいつは何か問題がある悪い人なんだ』と思って、第三には、『だから攻撃してもいいんだ』と疑似的な正義感に駆られる。人間大義名分さえあれば集団での攻撃性なんて幾らでも発揮してしまうの。大した罪悪感にも縛られることもなく。息をするように……相手を糾弾するのよ」


「それはそうだろうな……」


 実際俺自身もよく知っている。何か名目を付けて自分の欲求を満たそうとする人間の『最低』さを誰よりも理解しているじゃないか。だって俺も二宮で欲求を満たそうしたのだから。形は違えど、俺は二宮を利用しようとした。同じだ。同じなんだよ本質では。
 だから心臓を鷲掴みにされたような錯覚を覚えていた。二宮は滔々と話を継続していく。


「そうした私を糾弾する『要素』が構築されたことによって、人間関係に影響を及ぼすことは避けられないものとなってしまった。私はクラス内で徐々に情報が広がるにつれて孤独を深めていった。そして叔父さんの一件によって、私は嫌がらせを受けるようになっていた。たとえば、雑巾が机の上に置かれていたり、私の分だけ給食が無かったり、机の中に入れておいた物が無くなったり、露骨に無視をされたり、顔がいいだけで調子に乗るなと罵詈雑言を浴びせられたり……そんなことは日常茶飯事になっていた」


「……っ!」


 どこからどう考えてもそれは残虐な苛めでしかなかった。そして二宮は俺に想いを語る。更なる悲痛の全貌を俺に届くようにと語り続ける。


「ねえ櫻井君。こんな私でも小学生の頃は友人らしい友人がいたのよ。別に数がそれ程多いという訳でもなかった。深い絆で結ばれていただなんて青臭いセリフを吐く程の関係性ではないけれど。それでも私は彼女たちが好きだった。確かに友達だと思っていた。お父さんやお母さんが死んでからは、彼女たちだけが支えだった。だからこそ大切にしようと私は考えていた。実際に私は出来得る限り彼女たちを不快にさせないようにとそれなりに注意を払っていた。話題にも可能な限りついて行こうとしていた。けれど……そんな目に私が遭っている時に周囲にいた友人たちはどんな行動を取ったと思う?あくまで制止。……さながら自分には関係が無いと言わんばかりに傍観者を気取るのよ。昨日の味方は今日の敵。そんな表現こそが一番似合うわ。……傍観しているだけならまだ良かったわ。あまつさえ、嫌がらせに加担する人までいたものだから困ったものだわ。誰一人として私に味方なんていなかった。その時から少しずつ私の人間不信は始まったの。世界に信用出来る人間なんて存在しないのだと。幾ら自分が友人だと信じ相手を好意的に思っていようが、たった一つのきっかけを通して、それまでの蓄積が全て反転してしまうような……そんな関係性しか私は構築することが出来ていなかったのだと理解してしまったの。だから私は他人を信じることを基本的に辞めたの。ある種の意味では白花咲に入学しても他者との交流を避けていたのはそれが理由と理解して貰ってもいいわ」


「んだよそいつら……ふざけんなよっ!それで二宮が……こうなってしまったのか。くそっ!」


 どれだけ二宮の周囲にいた奴らはふざけた奴らなんだと俺は腸が煮えくりかえりそうだった。名状し難い程に俺が苛々としてしまう。
 そして二宮がどうして孤独を好むのかの理由をようやく理解することが出来た。そりゃ当然のことだ。そこまで周囲に悪意が満ちていれば誰とも交流したくなくなるのは当然のことだろう。
 天上ヶ原雅以上に劣悪さを感じさせる連中には苛つきながらも、二宮の話を引き続き傾聴する。


「そうして私は学校内での居場所までもが奪われた。……学校も家も……どこにも安息の地なんてない。どこにいても地獄。……と思っていたのだけれど、唯一の安息の場所。安息の人が一人だけいたのよ」


「……?」


「それが、私が遭いたいと言っている近所のおばあさんなのよ。……近所のおばあさんだけはね。私にとても親切にしてくれたの。他の近所の人たちは叔父さんの一件が知れ渡っているいることで、私を忌み嫌い関わりを断絶していたの。そして私の家の悪口をひたすらに井戸端会議で続けていた。けれど、その人だけは違った。その人―――――私が会いたいとしている布川さんだけは違っていた。他の誰もが私の存在と叔父の存在を疎んだとしても……それでも、布川さんだけは私の味方だった。彼女はね。あくまで事件前と変わらずに私に挨拶をしてくれたの。そして、下らない世間話をしてくれた。きっと彼女にとっては当たり前の行動で……日常的だった。だけど、私は確かに彼女に救われていたの。彼女がいなければ……もしかたら私も……今はこうして生きていなかったかもしれない。それだけ当時の私はギリギリまで追い詰められていたのよ」


「……」


「唯一の布川さんの存在のおかげで、私は生き永らえたけれど……やがて事件の後処理が終わった頃には……叔父さんも家に戻って来ていた。流石に事件を通して少しは反省をしてくれたかとも期待をしたけれど……結果としては寧ろ悪化していた。外に出る際には多少の注意を払うようになったけれど、家の中でもアルコール依存は全く治っていなかった。だから家の中はスラム街のように汚れていたし、叔父が吐瀉物を撒き散らすおかげで、臭気の中で私は生活を続けていたの。時折、振るわれる突然の暴力。私はそれに命の危険を感じていたわ。いつか殺されるんじゃないかって……」


「……」


「やがて、心に限界を迎えた私は学校の担任の先生に思い切って相談してみた。櫻井君は分かるかしら?人間、気軽な相談なら簡単に出来るけれど、真剣な相談をすることの難しさを。
私は恥をも忍び、藁にも縋るような思いで担任の先生に相談をした。けれど、どんな反応をされたと思う?」


「……わかんねえ……わかんねえよ」


「担任の先生はね……どうにか叔父さんと仲良くやりなさい。あなたに問題があるから叔父さんを怒らせてしまうんじゃないの?と逆に私に説教をしてきたのよ。……私が治せる点があるならば幾らでも治すわ。努力が足らないのであれば何でも努力するわ。担任の先生はあくまで敵でしかなかった。……今考えれば彼女は、面倒毎に巻き込まれるのが何よりも嫌だったのかもしれないわね。だからそんなことをほざいたのよ」


「……」


「学校の先生では全く駄目だとようやくそこで気が付いた。……私はどうすればいいかと途方に暮れてしまった。一番の最善策は布川さんに相談すること。だけど、その時の私は布川さんに相談することをためらっていたの。一つは、布川さんという大切な存在を、こんな最悪の出来事に巻き込みたくなかったから。彼女は本当に優しい人だった。だから、そんな彼女を苦労させたくなかった。そしてもう一つは……彼女が何も出来なければ私は本当にどうしようもないと絶望をしてしまうだろうから。……それを避けるために私はあくまで、彼女に相談することが出来なかったのよ」


「……」


「改めて思い返してみれば、児童相談所に連絡したり警察に相談したりするのも良い手段だとは思ったけれど……もしも、相談した事実が叔父さんに知られてしまえば、状況を改善する段階で殺されるかもしれないと危惧があったから……やっぱり、事態の解決は難しかったかもしれないわ」


「……確かに下手な行動に出るのは危険だったのかもな」


 叔父さんが何をしでかすか分からないこそ二宮としても中々に行動し辛いのは当然だろう。


「さて……結局のところ、私はどうにもならずに事態の解決への指針がまるで掴めなかった。だから八方塞がりというのが私の私見だった。布川さん以外に頼れる人はいないと考えた時―――――大きな転機が訪れたの」


「転機?」


「ええ。それは学校の昼休みのことだった。先生は軽く私立中学校受験に関する紹介をした後に、後ろの黒板にとある紙を掲示したのよ」


「紙?」


「その紙は白花咲女学園の受験に関する勧告の紙だった。後から聞いた話によると……白花咲女学園は倍率を向上させることを目標としていたために千葉市の範囲の学校を主な対象として勧告をしていたようね」


「そう言えば……俺の小、中にも勧告があったかもしれないな……」


 当時の俺はそんなエリートが集っているような学校には興味無かったし、半事実上、女子校であったため真面目に聞いてなどいなかったが。


「そこには、私の現状を打開する為の術が掲載されていたのよ。白花咲女学園。小中高一貫校であり、どの代からでも入学は可能。小中高全ての学年において、集団生活の能力向上や家事スキルを身に着けさせること、学業に完全に専念することを目標として全寮制度を採用していること。私にとって全寮制は非常にありがたい存在だった。何故なら全寮制の学園に入学してしまえば、叔父さんから逃げることが出来ると思ったからよ」


「……確かに一度学園に入学さえしてしまえば……あとはもう問題もないのか」


 実際この学園は非常に閉鎖的であり、一度入学してしまえば、卒業するまで本当に外部との接触が断たれてしまうのは既に嫌という程理解している。
 それはつまり、外部から内部への接触も困難であるということだ。実際に結果論的ではあるかもしれないが、二宮の発想は功を奏することになるのだろう。


「しかも他の私立中学校とは異なり面接もあるけれど、基本的には筆記試験での成績が重要視されているようだったから、これはとてもお得な話よ。何故なら私は面接も苦手であるし、白花咲女学園に相応しいような家柄という訳でもないから。学力以外の点で査定されてしまえば、かなり厳しいものになってしまうのだろうから。けれど、内申書の提出も必要としない、更に面接は受験者のみで保護者の参加は禁止と基本的に条件は甘かった。だからそれを察した瞬間に、何としても白花咲に入学することを目標したのよ」


「……」


 何とも言えない気分になった。二宮は追い詰められた状態で、それでも白花咲女学園に入学したいという気持ちを肥やしていた。一方で俺は白花咲女学園になんか来たくなかったとずっと考えていた。現実の残酷さに辟易とさせられてしまう。


「それに気が付いたのは夏休み直後だった。受験のシーズンはその翌年の二月。大よそ半年近くしかない状態からのスタートはとても辛いものがあったのよ。普通中学受験をするような層は、五年生くらいになると進学塾に通ったりしてしっかりと勉強していたでしょう?だけど、私は塾に行くこともなく、教材を買うことが出来るようなお金も無かった。……結局は独学を行うだけだった。それに家に戻れば家事を行い、炊事洗濯を行うことが義務づけられていた。勉強をするのも叔父がお酒で潰れてから。それまでは目を付けられてしまうと困るから隠れて勉強をすることしか出来なかった。だけど、その当時は本当に生命が掛かっていから私は必死だった。とにかく、自分に出来る限りのことをやり尽くした。分からないところがあれば、担任以外の比較的まともな先生にも勉強を教えて貰ったし、本屋に行って立ち読みで参考書を見ていたりしたのよ。……そして、勉強自体は順調に進んでいたけれど一つの事件が起きたの」


「一つの事件?」


「ええ。季節は冬になり十二月だった。その頃には受験における出願期間になっていたのよ。だけど、私は重要なことを失念していたの。それは―――――受験料よ」


「受験料か……結構高いのか?」


「ええ。幾らだと思う?」


「三万くらいか?」


 私立大学を受験する場合は受験料で三万五千円が割と相場になることが多いだろう。だから同じくその前後くらいは要するのだと俺は捉えているが……実際はどうなのかは分からない。


「正解はね―――――十二万五千円よ」


「十二万五千円?それ、受験料だよな!?」


「ええ。間違いは無いわ。実際に合格したあとは、初年度納入金等で百万円以上かかるから。あくまで十二万五千円は受験料でしかないわ」


「……高いな……流石にぼったくってんだろ」


「……実際にその事実を知った私は頭を抱えたわ。何故なら私は叔父に受験のことをひた隠しにしていたのだから。どうにか叔父にはばれないように受験を合格し、叔父に気が付かれないように寮に入学することを夢見ていたから。金銭面ではそもそも期待していなかったし、それに頼りたくなんてなかった。だから頭を抱えてしまったの」


「……」


「私にあてなんて無かったのよ。誰にも頼ることなんて出来ない。担任に借りるわけにはいかない。担任の先生は信頼していなかったから。それじゃあ、他の先生に借りるか?流石に無理よ……十二万五千円なんて金額を理由も説明せずに借りるには……。理由を述べてしまえば、恐らく教職員の会話の中から担任に話が行って、担任から叔父さんに連絡が行ってしまう。だから学校関係者では駄目だった」


「……」


「私には人脈が無かった。頼れる人なんていない。だけど……私はそれでも叔父さんに頼らざるを得なかった。……どうしようか……迷いに迷ったの。けれど、答え何て見つからない。仕方なく私は唯一信頼している布川さんにお願いして見ることにしたのよ。本当は頼りたくなんて無かった。優しく親切な彼女を巻き込みたくなんてなかった」


「……」


 二宮は悲痛とばかりに苦々しい表情をはっきりと表現した。


「私は彼女の家を訪れた。彼女は私の訪問を嬉しく思ってくれたようだった。私としてはお金の話なんてしたくなかった。だって彼女は優しい人だから、私はその優しさに漬け込もうとしてる悪人だもの。彼女なら私に頼まれれば断れないと知った上で行動していたのよ。最低だと罵ってくれて構わないわ」


「そ、そんなこと……」


「そんな事ないか……ごめんなさい櫻井君。あなたは優しい人だからそう言ってくれるのよ。だけど、今考えてみても、私はお金を貸してくれそうな人から、返す見込みもタイミングも分からない人間が借りる金額じゃないのよ」


「……」


 確かに十二万五千円は決して安い金額では無い。というか教育機関として流石にどうなんだと指摘せざるを得ないほどの金額だ。


「だけど案の定、布川さんにはお金を貸して欲しいと相談をしたら、気前よく何も言わずに貸してくれたのよ。私はその時の恩を忘れていないの」


「……」


「そうして、布川さんにお金を借りることに成功をして、私は受験に臨むことが出来た。筆記試験に関しては、運よく突破することが出来て、二次試験となる面接に臨んだのよ。そこで面接官を務めていたのは理事長だった。彼女は偉大よね。……私の家庭の事情を早々に悟っていたわ。彼女がどうしてそれを知っていたかは分からないけれど、彼女は私の家庭環境が劣悪であることを把握していた。だから合格したとしても元々払える見込みも無い学費の援助をしてくれたの。そのおかげで私は叔父に悟られ殺される前に学園に入学することができたのよ」


「そっか……」


 とりあえず、そこまで聞くことが出来て俺は一安心していた。あくまで俺の中の二宮の叔父は悪人であり、その人物の魔の手から離れることが出来たのは救われた気分になるのだ。
 それにしてもあの理事長がそうした配慮をするとはな……学費の援助までするとは……もしかしたら二宮の試験成績が非常に優れており学園の大学合格実績を伸ばすために入学させたのだろうか?などと邪推をしてしまう。まあそれはいいか。


「だけど一つだけ……私にとって誤算だったことがあったの」


「誤算?」


「天上ヶ原理事長は、私の面接を終えるとそのまま、私を白花咲女学園の第四校舎に連れてきてその場で合格宣言をし、今日からここで生活をするようにと言ってきたの。……私としてはそこまで、行動が早いとは考えていなかったの。私は面接が終わった後に、布川さんにお世話になったことのお礼とお詫びを入れようと思っていたのに、それも叶わぬ夢になってしまうとは……流石に予想外だったわ」


「……なあ、二宮……もしかして……お前が学園の外に出て布川さんに会いたかった理由って……」


「ええ。恐らく貴方の考えで間違っていないわ。私は……これまで様々な点で私をお世話してくれた布川さんに……感謝の言葉を述べるために……学園の外に出たかった。本当にただそれだけよ」


「……そうか……そうだったのか……」


 俺はようやくと二宮の動機を汲み取ることが出来た。二宮にとっていかに布川さんという存在が掛けがえの無い大切な存在であるかということを。絶望の淵にいた二宮を救ったのは布川という偉大な人物によって支えられているのだと。
 さて……二宮は惜しげも無く俺に全てを語ったのだ。だから俺も礼節を持って彼女に言葉を掛けなければならない。俺は熟慮を重ねた後に二宮に言葉を掛け始めた。



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