ガチホモの俺がお嬢様学園に入学させられてしまった件について 

湊湊

42.「真・学園脱出計画の果てに」



「さて……櫻井君。今あなたはどんな気分ですか?英雄気取りで一人の女の子の悲願を果たすために、大した頭脳も持ち合わせていない癖に権謀術数(笑)を企て、全力で事前準備に励み圧倒的に有利な条件を作り出すも、目的を果たすことも出来ずに私の元へと無様に連行され、膝をつかされ、情けのない姿を見下されている気分は?」


「とりあえず……お前の一言が長すぎて腹立たしいってことくらいしか思い浮かばねえよ……」


 俺と二宮、そして先ほどまで善戦してくれていたメンバー達は、江藤先生によって校門付近の大壁に寄り添っている理事長の元に運ばれていた。現在の戦況を一言で言えば絶望的。それが適切な評価だろう。
 先ほどまでの戦況は決して悪いものではなかったはずだ。しかし……江藤先生というジョーカーの登場によって状況は一気に変化してしまった。
 まず江藤先生は俺と二宮を捕らえた後に天上ヶ原雅の元に献上した。更にその後に意識を失い無抵抗状態だった柊先輩も連行されたのだ。
 そしてそこからが問題だった。彼女は立花さんにも負けない程の俊敏さで、花京院と鈴木と田中、そして東雲先輩を昏倒させたのだ。更に軍師の役を担っていた小鳥遊先輩も赤子の手を捻るようにしながら連行をした。誰もが抵抗することすら許されなかった。2分と無いうちに、全員が意識を失い天上ヶ原雅の元に屈することになってしまったのである。
 更にその延長線上で、性欲に身を任せていた女子生徒たちも、士気を高め冷静になっていた黒服によって強引に校舎に戻されていた。最早この校庭内でまともに戦っているのは立花さんだけだった。
 しかし、その立花さんとて余裕があるわけではない。流石に人数が違い過ぎる。天上ヶ原雅はいつの間にか更に応援を呼んだようだ。
 そのために当初の人数は三十人程度であったはずなのに、最早現在では立花さんに既に倒されている人の数まで含めてしまえば五十と下らないだろう。幾ら超人的な彼女でも分が悪いことには変わりないだろう。
 連行された俺たちは幸いなことに身体を拘束されてはいないが、余っていた七人ほどの黒服が囲っていた。こちらの陣営の方が人数的には多いとはいえ、こうして囲まれてしまっていては戦いにくく流石に分が悪いだろう。これは……極めて最悪な状況だ。


 二宮の脱出はもう少しだったはずだ。それが悔しいという気持ちで心が一杯だ。何故なら、眼前の二宮を脱出させることが出来れば天上ヶ原雅を油断させるための方略として用いることが可能だったからだ。


「櫻井君。あなたは無様に私に敗北をしましたね。やれ『学園脱出計画』などと大仰なことをおっしゃっていましたが……それも全ては童貞男子中学生の一夜の妄想のように潰えてしまいましたね?」


 彼女は先ほどまでの激情を剥き出しにしたことなど、まるで無かったことかのようにしながら余裕綽々な態度を俺に披露する。
 それも当然のことなのだ。現状では俺と天上ヶ原雅には圧倒的な大差がついてしまった。この状況で二宮を外に連れ出すことは熾烈を極めるだろう。
 明らかに庶民では買えない高級そうなハイヒールを履き……彼女は悠然と君臨していた。この戦いは最初から勝敗が決しているのだと。そんな風に彼女は自らのカリスマ性をそれで体現していたのだ。……確かに勝敗は確定的かもしれないと俺は感じさせられた。


「ああ、俺の負けだよ。天上ヶ原雅。悔しいが……これだけやって駄目ならもうどうしようもねんだろうな」


 肉体と精神の疲労もそれなりに蓄積してしまっていたのだろう。俺はその場に膝から崩れて落ちてしまう。
 まるで天上ヶ原雅に屈服し敗北を認める気持ちを表出しているかのような錯覚に陥ってしまう。そうだ……これでいい。これでいいのだ。俺の負けであると素直に認めるのだ。そうすれば……
 周囲で捕らえられた皆も俺と同様であり地面に座りながら疲労感に浸っていることだろう。暗い雰囲気を醸し出しながら表情を隠していた。きっと顔を見られたくなかったのだろうと俺は推測させられた。
 そんな中で天上ヶ原雅は近くの黒服を呼び止め、情報を集めていた。


「……そこのあなた。立花の討伐にはまだ時間が掛かりそうですか?」


「はっ!申し訳ありませんお嬢様っ!もうしばらくの程お時間の方が……」


「そうですか。分かりました。早急に対処できるように努力しなさい」


「はっ!」


「さて……立花を捕らえた後にはあなた方の処分を決めてさしあげましょう。この私に逆らったのです。それ相応の処置が下されると覚悟しておきなさい」


「なあ天上ヶ原雅。いや……理事長。頼む。一生のお願いだ」


「なんです?聞く気などありませんが言ってごらんなさい」


「今回の一件はあくまで俺が全て企てたものだ。だから―――――責任の全ては俺にある。裁くなら俺だけにしてほしいっ!頼むっ!」


 俺は体勢を変えて天上ヶ原雅の足元に跪き土下座をしながら懇願をする。一瞬彼女は驚いたような表情をした。


「あなたが私に土下座を……ふむ。どうやら随分と心境の変化があったようですね。ですが―――――たかだか
その程度で私が許すとでも思っているとしたら頭がお花畑としか言えませんね。その程度では全く誠意というものが伝わって来ません」


「……それじゃあ俺はどうすればいいんだよ?なあ頼むッ!理事長っ!俺は協力してくれたこいつらを巻き込みたくないんだっ!何か俺に出来ることがあれば何でもするからっ!」


「簡単な話です。そのまま這いつくばって私のハイヒールを舐めなさい。丁寧にです。己が愚かさを悟り猛省しながらですよ?そうすればあなたの意志を尊重しましょう」


「……っ!分かったっ!それでお前が許してくれるというのならっ!」


「待て櫻井。俺たちのためにそこまでする必要はねえだろうっ!」


「そうですっ!櫻井君っ!何もそこまでっ!」


「黙っていてください二人とも。これは立案者である俺一人の責任です。その責任を奪わないでくださいっ!」


 俺は最大の屈辱感に身を悶えさせながら天上ヶ原雅の指示通りにそれを舐めた。土下座だけではなく、人間として最底辺の振る舞いを自分の友人たちに見られているのだ。羞恥で心臓音が加速してしまう。そもそも俺にその気は毛頭ないし、幾ら美人だろうが俺は男にしか興奮しないし、美人だろうが何だろうがハイヒールには泥が付いていて普通に苦いというのが実際の感想だった。
 だが俺の所感とは対照的に天上ヶ原雅は愉悦と言わんばかりの表情をしている。……やっぱこいつただの性格悪い奴だなと改めて考えさせられる。
 そしてしばらく俺が舐め続けた後に満足気な彼女は俺に宣告をした。


「……ふふふ……ハハハハハハ。櫻井君。あなたの誠意は理解しました」


「天上ヶ原。それじゃあ……っ!」


「しかし……やはりあなたがどれだけ私に誠意を持とうとも屈服しようとも……関係ありませんね。処罰は平等に行わなくてはっ!それこそが教育者として適切なあり方ですから!フハハハハハッ!」


 俺の意志も努力も全てを嘲笑うかのようにして彼女はそう宣告をしたのだ。


「……っ!てめえっ!天上ヶ原雅っ!」


「今宵は最高の夜ですね。櫻井君のその変顔が見ることが出来ただけで大満足です。やはり私は天上ヶ原家の嫡子という訳です。最後は私が満足して勝利するように世界は成り立っているのですよ……さて、立花の方はまだ手間取っているのですか?」


「申し訳ありませんっ!江藤様の助力があれどもまだ決着が……」


「ふぅ……分かりました。それではひとまず校舎の方に入りましょうか。いい加減この場にいるのも飽きてしまったのでね。理事長室であなた方の最高の処分を考えて差し上げますっ!」


「……」


 俺は絶望感を表出しながら黒服に囲まれた状態のまま校舎内の方向へと連行されていく。黒服が五人に囲まれている状態では何もしようがない。立花さんを除いたほとんどメンバーが無言のままで連れて行かれていく。場の雰囲気は最悪だ。……と言いたいところだが……このまま行けば俺たちの勝ちは揺るがない。天上ヶ原雅がこのまま慢心すれば―――――


「……ちょっとお待ちなさい」


「ああ?なんだよ?早く中に入ろうぜ」


「どうにも手際が良すぎる気がします。櫻井君。あなたは……まだ、何かを隠していませんか?」


「何かを隠すってなんだよ……もう何にも手立てはねえよっ!ふざけんなこらっ!」


 俺は苛々しているかのような態度で必死に否定するが、彼女は一向に納得することはなかった。寧ろ疑念を強め俺に詰め寄った。


「黙りなさい。やはり考えてみればおかしな点があります。あなたが私に対して激情を見せていない点に関してです。常時のあなたであれば私に怒り狂い直接殴り掛かって来ることが当然だったでしょう。あなたがあくまで冷静でいることに私は違和感を覚えました」


「なんだよそれ……いいか。天上ヶ原雅。第一に俺は冷静じゃねえし、更に言えば三枝や早乙女という人間によって少しは成長した―――――」


「……櫻井君。一つ質問があります。今気が付きましたよ」


「ああ?今は俺が話をしている途中だぜ?言葉を遮るのはやっぱり相手に対して失礼な感じがしてならないんだがお前は―――――」


「三枝薫さんはどこにいらっしゃるんですか?」


「……っ!」


「あなたが普段仲良くなさっている方の中でクラスの花京院さんと鈴木さんと田中さん。そして早乙女夢さん。更に……三枝さんがいらっしゃる筈です。その中で……唯一として三枝さんだけの姿が見当たりません」


「三枝は……今回の一件で協力してくれなかったんだよ。あいつは今回の一件を『違法』と評して俺の行いを叱責した。だからそのまま協力してくれなかったんだ。それだけの話だ」


「……貴方も随分と舌が回るようになりましたね。ですが……それを私が信じるとでも?答えなさいっ!櫻井芳樹っ!三枝薫はどこにいると言うのですかっ!?」


 彼女は俺に悪魔のような形相で詰め寄り俺の胸倉を掴み思いきり揺らした。


「だから知らないって言ってんだろうがッ!」


 つーか、こいつ力強すぎるんだよ。この学園の女は化け物ばかりかっ!……っと嘆く最中―――――信じられないことが起きた。


「もういいです。私自らが探しましょうっ!あなたの策略など知ったことではありませんからっ!」


 口を割らずに誤魔化しきる俺に苛ついたのか、俺から強引に手を離した。そして俺はその衝撃で軽く後ろにふらついてしまう。


「……っ!大丈夫か二宮っ!?」


「……ええ」


 物理的には少し身体がぶつかってしまった程度だ。だけど―――――問題はそこではなかった。これは致命的な運命の遭遇だった。通常ではあり得ない位のミスだ。いやミスなどではない。『天災』と評する方が相応しいかもしれない。ともかく―――――真の意味で最悪な事象に発展しまった。具体的には……二宮の『髪』がずれたのだ。


「あらあらあら……櫻井君?これは一体どういうことですか?」


「……くそ……どんだけ運がねえんだよ」


 最早誤魔化すことも不可能だと悟り俺はそんな言葉を吐き出した。ここまで偶然が重なると俺も困ったものである。俺も周りにいる奴らも軽く放心状態に陥ってしまっているようだ。無理もない。まさかこんな形で露見してしまうとは―――――


「ふふふ。櫻井君。なるほどなるほど。まさかこのような手法によって私の目を欺こうとしたとは……発想としては面白いことは認めましょう。また、私が自らの眼によってそのトリックを見破ることが出来なかったことも認めましょう。しかし―――――偶然にもそれは露見してしまいましたね。まさか―――――」


「あなたが二宮さんに変装をしているとは考えても見なかったですよ……三枝薫さん」


「……どうやらここまでのようだね。すまない櫻井君」


「何を言っているんだよ。お前は良くやってくれたよ……三枝」


 三枝薫という人物は演劇部に所属している。この学園で生活をしている中で三枝薫という人物についての話題は度々持ち上がる。彼女は部内に置いても絶大な信頼を集めており、現在では一年生ながら上級生にも引けをとらないくらいの人望があるようだ。
 その理由としては本人が文武両道であり人格的にも非常に優れていることは当然として、演劇の技術力が卓越したものであるということが挙げられるようだ。舞台上ではどんな役にでもなりきることが可能であり、その技巧は常に毎年の学園祭で遺憾なく発揮されているようである。
 そんな天才的な彼女の力を信じ――――今回の作戦のために二宮に変装をして貰うということをしていたのだ。二宮の銀色の髪を模倣することは困難だったそうだが、そこは三枝。メイク衣装等を用意して何とか誤魔化していたのだ。
 今回の作戦を深夜に行うというのは、実はこのためでもあった。日中でよく顔を探られていたら流石にばれそうだったからな。だからこそ深夜だというのも理由にある。少なくとも今の今までは三枝の正体がばれていない以上、やはり精工な作りをしていたのだ。
 そして実は俺が企てていた作戦は主にこれであり、俺は何パターンかの策略を練っていた。パターンの一つめは『無事に何のアクシデントもなく、全員が学園を脱出することが出来たパターン』である。これに関してはまあ無理だろうなと考えていたのでまあ置いておこう。
 二つ目のパターンは『何とか全員学園を脱出することは出来たけれど、黒服や天上ヶ原雅に追われまくる』というパターンである』。
 そして三つめに『俺たちは天上ヶ原雅や黒服によって捕らえられてしまい、どうしようも無くなってしまうという状況設定である』。現状は残念ながら三つめに該当してしまっていることだろう。
本来は二つ目と三つめの条件であれば、『変装した三枝を学園の外で捕まえさせることで天上ヶ原雅を慢心させ、本物の二宮に対する追及をさせない』ことが出来ていた筈だが―――――本当に運が悪いことにその作戦はもう実行不可能になってしまった。
 だからこそもうどうしようもないというのが本音だ。少なくともその点において天上ヶ原雅を騙すことは不可能である。ぶっちゃけ露見してしまった時点で更に状況は悪化してしまったのだ。


「ふふふ……櫻井君。どうやらこれが貴方の練った最後の作戦だったようですね。ですがそれは失敗に終わってしまいましたね。あなたの――――――負けです」


 彼女は冷たく俺の敗北を宣言した。それに対して俺は―――――


「ふふふ……はははははははっ!」


「人間認めたくないものがあればあるほど悲しい笑いを浮かべるものですね。ねえ櫻井君。今のあなたは滑稽そのものですよ?」


「滑稽……そのものね……。確かに俺は滑稽な人間だってことをこの学園に来てから嫌という程理解することが出来たよ。どいつもこいつも俺の周りにいる奴らは皆立派でさ。馬鹿そうな奴も優秀そうな奴も皆皆……本当に良く出来た奴だよ。過去の俺は滑稽だ。そして今も滑稽なのは変わりねえ。ガキみたいな精神思考でお前の顔見ているだけでも笑ってしまうような人間だからな」


「……あなたは……一体何が言いたいんですかっ!?はっきりと説明しなさいっ!」


「いやいや。俺が今までどれだけ滑稽だったかって話だよ。別に深い意味はねえ。それよりも……俺が滑稽だってのは認めよう。だけどさ……一つだけ言わせてくれ。俺から見たら――――――」


「あんたも十分に滑稽に見えるぜ?」


 俺の嘲笑に今まで二番目くらいに不快そうな思いを表出しながら彼女は俺を睨みつけた。


「それはどういう意味ですか櫻井君。私が滑稽?確かに家臣である立花さんを御すことが出来ずに、みすみす敵に協力させることを選択させてしまった点では滑稽でしょう。そして、幾らかの生徒を校門の外にまで出してしまったことも、滑稽かもしれません。ですが……それでも、私は最低限の仕事はした筈です。あなたにとって何よりも大切であり、今回の脱出において重要としていた『二宮さんの脱出』は悔しくも果たすことは出来なかったでしょう?何故なら誰一人として逃がしていない以上、仮に二宮さんもまた変装していたとしても―――――100%逃れることが出来ていないのは確定的な事実なのですから」


「……二宮が脱出することが出来なかった?……フフフフフフっ!はははははははっ!」


 俺は面白すぎて高笑いを浮かべてしまう。何故なら……やはり、天上ヶ原雅は滑稽な存在だからだ。まだ作戦の真意に気が付いていないのだ。
 いや……普通は気づくことは出来ねえか。流石に神に愛されているこの女ですら、その領域に自らで気づくことは不可能のようだった。


「何がおかしいと言うのですか?……答えなさいっ!櫻井芳樹っ!」


 顔は笑顔ではあるが、先ほどまでの余裕は消え失せているようだ。それ程までに俺の笑いが奇怪なものとして映ったのだろう。……だけど悪いな。やっぱり、今回ばかりに滑稽だったのはあんたの方だよ。


「天上ヶ原雅。本当は作戦遂行に支障をきたすから、限界まで隠し切ることをしたかったんだがな……。だけど三枝の変装がばれてしまった以上秘密にしておく必要もないだろう」


 言わずにはいられなかった。だから俺は真実を彼女に告げることにした。


「二宮は……既に……この学園には居ない筈だ」


「なっ!」


 高らかな俺の宣言には天上ヶ原雅も動揺をし始めた。さあ……ネタバレの時間と行こうかっ!





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