ガチホモの俺がお嬢様学園に入学させられてしまった件について 

湊湊

39.「最後の説得」(後編)



「なあ二宮。参考までに理由の方を聞いてもいいか?何でお前は俺の計画に賛成してくれないんだ?」


 俺がそう問うと……彼女は敵意を剥き出しにして、出会った当初のように冷淡な瞳で俺を睨みつけながら言葉を発し始めた。


「わざわざ語るまでもないでしょうけれど一応は説明してあげるわ。まず、第一に私が今も落ち込んでいるという点がそもそもの大きな勘違いよ。確かに理事長の『意地悪』をされた日には苛立ちを覚えたというのは事実。学園外の『彼女』に会うことが出来ないと悟った瞬間には悲しみに暮れたというのもまた事実。だけれど、それをいつまでも抱えていても仕方がないでしょう?別に残りの三年間の間で『彼女』に会うことが出来ないというだけで、高等部を卒業してしまえば好きなように会うことは不可能ではないのだから。よくよく考えてみたら早急に彼女に会う必要性なんてないのよ。だから私は冷静に判断を下したうえで『気にしない』ことにした。あれからもう3日。既に私の学園の外に出たいという欲求は心の奥底に潜めたの。今ではもう、理事長に『意地悪』されたことなんてどうでもいいと考えているのよ。故にあなたのこの提案自体、大して意味があるものだとは考えていないの。それが賛成できない理由の答えよ」


「……二宮……」


「二つ目に規則を堂々と破ることに抵抗感を覚えていると言う話よ。確かに理事長は私に対して屁理屈も取れるような形で約束を果たしたわ。けれど、だからといって非合法的に学園外に出ることが許容されるべきかと言えば、そんなはずがないわ。非合法に対するアプローチとして非合法で返すなんてあまりにも野蛮過ぎるというのが私の見解よ。せめて、あなたが合法の範疇で私に何らかの提案をするのであれば乗るのも手だったかもしれないけれど……少なくともこんな方法を許容なんてすべきでないと私は考えているわ」


「……なるほど確かにな。正論も正論だ」


「そして最後に三つめ。まず大前提として櫻井君には関係の無い話だわ。私が仮にこの学園外に脱出したかったからといってそれが櫻井君と何の関係があるというの?確かにここ最近では櫻井君を含めて周囲の人に良くして貰っているのは事実かもしれない。だけれど、そんなことは誰もお願いしていないわ。私は元々一人が好きで、一人で行動しているようなそんな人間なのよ。だから誰からも施しは受けないし、反対に協力する気なんてない。私は誰も信用なんてしないし、されることもない。これが私の生き方なのよ。……だから、もう今回の一件は取り消しにして貰って結構よ。あなたの私に対する配慮それ自体には感謝はするわ。けれどそれ以上は必要ではないの。分かってくれたかしら?」


「なるほど……それが二宮の俺の作戦に賛同できない理由というわけか。よーく分かった」


 もしも今までの俺ならこの時点で醜悪な逆切れをしてしまっていたかもしれないな。二宮の意志を尊重することもせずに、子供のように二宮に怒りを表していたかもしれない。
だけど今の俺はあくまで冷静だった。早乙女と三枝。あの二人の強烈な思いを受け取り成長した俺は、二宮の言葉一つ一つを噛みしめて……そして『真意』を掴むことが出来ている筈だ。


「ええ。分かって頂けたなら幸いだわ。それが分かって貰えたなら、どうぞこのままお引き取りをして―――――」


 俺は冷たく突き放すような言い回しをする二宮の言葉を強引に遮って言葉を刺した。


「二宮。ところでお前の言いたいことはそれだけか?」


「それだけって……今までの話を聞いていたの櫻井君?私はあなたに協力して欲しいなんて微塵も思っていないの。だからもう帰ってくれて構わないわ」


「なるほど。はいはいはい。……なあ、二宮。お前ってさ。入学式で俺たちが出会った時から既に何となく察していたんだけどさ。本当にお前って―――――」


「優しい奴だよな」


「……なっ!馬鹿も休み休みにして。私が優しい?ここまであなたに攻撃的な態度を表出していると言うのに。一体どこが優しいと―――――」


「だからー。その態度がだよ。なあ、二宮。お前は入学式の時俺にぶっきらぼうながらも、多少入学式の形態だとかについて教えてくれたよな?俺は今でもあの時のことを感謝しているんだぜ?あんときは不安な気持ちとかも、たくさんあったからな。あの時お前と一番初めに出会えたのは本当にラッキーだったよ」


「あの時はあくまで貴方がうっとおしかったから―――――」


「そうだな。確かにそれはあるかもしれない。だがそれと同時に、お前は困っているような人物を放置出来るだけの悪人じゃないって俺は思ったがな」


「思い違いもいいところよ。私は他人が嫌い。人間が嫌い。誰も信頼なんてしていないし、それは貴方だってそう。勘違いしないで。私は善人でも親切な人間でもない。ただの……最低な女よ。この際だからはっきりと言わせて貰うけれど私と関わると碌なことにならないわ。だから櫻井君。今後は私となんか関わらない方がいいわ。あなたも不幸になりたくはないでしょう?」


「……なあ、二宮。やっぱりお前は本当にいい奴だな」


「……っ!あなたはここまでの話を本当に聞いていたの?私は―――――」


「いーや、二宮はいい奴だよ。だってお前は―――――」


「俺に迷惑を掛けたくないって考えているから、全てを否定して自ら悪役を気取って遠慮をしているんだろう?」


「……っ!」


 常時冷静な彼女の態度とは思えないほど図星を突かれて焦っているようだった。……


「俺だけじゃないかもしれないな。二宮は俺以外の人間にも迷惑を掛けたくないと思う意志が強いんじゃないか?誰よりも遠慮がちで思慮深くで人に迷惑を掛けることを厭うからこそ、この作戦に反対したんだよな?」


「……別にそんな訳じゃ!」


「もしかしたらこの作戦に協力して貰うことで学園を退学処分や停学処分、あるいは学園内で噂になったりしてしまうかもしれない。協力して欲しい気持ちはあるが、絶対に迷惑はかけたくない。それがお前の本音なんじゃないか?」


 二宮は俺が提案をしたタイミングで全てを察した筈だ。それは周囲に対する迷惑さを掛けてしまうのではないかという思いを。この短時間で刹那的に二宮は思慮したのだ。並外れた頭の回転の速さだな。


「……っ!」


「だからさ。やっぱり二宮は遠慮深くて慎み深い……『いい奴』なんだよな」


 最初から知っていたよ。二宮はいつだって冷たいふりをして、他人を嫌って孤独を好み、孤高の女神のような見た目と言動をしている癖に、そのくせ誰よりも優しくて……そして、誰よりも寂しがりやな不器用な普通の女の子だ。
 きっと学園の中で二宮の本質を見抜くことが出来た人間は少ないことだろう。だが―――――今をもって俺は改めて確信した。二宮は……ありふれた少女の側面を持つのだと。完璧でも天才でも無く―――――凡俗な部分を持つのだと。なんだよ……本当に。そっか。やっぱり二宮も15才ってこと……なんだよな。
 早乙女は俺に示唆した。どれだけ調子に乗ろうが大人ぶろうが結局俺たちはガキにしか過ぎないと。まさしくその通りなのだろう。
 達観したかのように振る舞おうともそのパーソナリティーは発展途上もいいところなんだ。脆弱で未成熟な部分があって当然。二宮と言えど普通の少女と何ら変哲などないのだ。


「なあ二宮。俺はここまで来るまでの過程で色々な人に助けられて生きてきた。それは俺があんまり好きでは無い親父も含めて母さんや妹。中学時代の親友の恭平。小中の担任の先生に早乙女や三枝。数え出せばきりはないけれど……確かに俺は色々な人に支えられながら生きていた。俺は完璧な人間なんかじゃない。寧ろ最低な人間の一匹だ。間違えることも沢山あって……だけど、そうしながら着実に前を向きながら歩いて生きているんだ。なあ二宮。だからさ。お前も頼っていいんだよ。所詮は15才。俺たちはクソガキなんだからさ」


「……っ!」


「自分のやりたいことがあったら子供のように駄々をこねてもいいんだよ。愚直で最低で規律違反で倫理的に間違っていたとしても―――――それでも貫きたいという信念があるのなら……やるべきだよ。もしも一歩踏み出したいのなら―――――俺がお前の手を取ってやるよ。なあ、二宮。もう一度聞くぞ。お前は学園の外に出て―――――会いたい人がいるんだろう?だったら俺と学園の外に出ないか?俺に出来ることなら何だってしてやるっ!ぶっ倒れそうになったってお前のことを支えてやるよ?迷惑を掛けたっていい。いつか俺はもっと二宮に迷惑を掛けるかもしれない。だからおあいこ様だ」


「私は―――――」


「なあ二宮。お前は最初にもう落ち込んでいないと言っていたよな?あれは俺からしたら嘘にしか見えなかったな。お前の正直な気持ちを教えてくれ。本当は……本当は理事長を騙してでも、非合法な方法だったとしても、他人に迷惑を掛けようが……それでも、『彼女』に会いたいんじゃないのか?」


「……っ!」


 気づけば彼女は滂沱を禁ずることを止め―――――ありふれた少女のように嗚咽していた。それは今まで無理していたせいもあり―――――彼女の心のダムが決壊したのだ。それは先日の俺のように。心に抱えていた大きなものが解き放たれる証に他ならない。少女は全ての心の鎖を外しそして―――――


「私は学園の外に―――――行きたい。そして―――――『彼女』に会いたいっ!ええ……そうよ。私はどんな手を使っても……それでも彼女に会いたいわっ!」


 彼女は俺に全ての思いを解き放った。だったら話は単純だ。俺が全てを受容すればいい。早乙女が俺にしてくれたのと同様に……今度は俺が二宮を受容してやる番だ。


「ああ。お前の意志は聞き届けたっ!だからやろうぜっ!『学園脱出計画』を」


「ええっ!櫻井君。ありがとう……貴方には……本当にお世話になるわ」


「いやー、俺ってほら『英雄』だろう。だからこの程度は当然ってことよ」


「ふふふ……あなたは……本当にすごいわ」


「だろ?」


 全てを吐き出した少女は―――――今までの最も可愛らしいと心底感じられた。少女は俺の手を優しく握った。俺は彼女の手を離さないように手を握り締め……そして誓ったのだ。


「必ずお前をこの学園から出してやるっ!見ていろよ天上ヶ原雅っ!ここからがお前と俺の真の戦いだっ!」


 そうして『今ここで』俺と二宮の学園脱出計画は幕を開けることになったのだった。



「ガチホモの俺がお嬢様学園に入学させられてしまった件について 」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「学園」の人気作品

コメント

コメントを書く