ガチホモの俺がお嬢様学園に入学させられてしまった件について 

湊湊

38.「最後の説得」(前編)



「……」


 無事に生徒会役員全員からの協力を確約させたこともあり、作戦の事前準備はほとんど終了していると言えるだろう。
 東雲会長の要請によって『援軍』も来てくれるようであるし、早乙女と立花さんの協力で『屋上』のセッティングも完了している。まあ、『屋上』の仕掛けに関しては二宮の運動神経に全て掛かってはいるが、体育の時間の様子を参考に考えると問題は無いだろう。
 そして三枝の方も『リハーサル』は済ませているようだ。要約すると、ここまでの事前準備は万全ってわけだ。そう……ここまでは。
 これから俺は二宮の作戦参加への説得をしなければならない。ここを失敗してしまえばこれまでの事前準備は全て台無しになりかねない。最後にして最大の局面というわけだ。
 本来であれば二宮の説得を最優先にすべきであっただろう。何故最初に取り組まなかったかと俺自身疑問を呈したい部分はある。……いや、訂正させて貰おう。その原因については既に自分自身と向き合うことで自己理解していた。
 単純な話だ。俺は二宮冬香という人物に作戦の全容を否定されることが恐かったのだ。彼女に作戦の実行を拒否され否定されてしまえば作戦の意義を失ってしまう。
 そしてそれはつまり、俺が活躍するべき場所を見失ってしまうことに繋がりかねない。だからこそ俺は,今まで彼女に作戦を伝えることだけを忌避していたのだ。
 二宮に是非を聞いてからではなく、三枝に一番初めに協力を依頼したのは、無意識的な俺の心理が影響しているからなのだろう……なんて身勝手なんだろうな。
 それに付随するような形で三枝と話合った後として、彼女に作戦を伝えなかった理由としては、引き返せなくしたいと考えていたからだ。他の人に協力させ作戦参加者が大所帯になればなるほど中止になどしにくいのは当然のことだ。
 それ故に俺はそこに拘泥したのだ。そして現に作戦は引き返せないところにまで進出しているのだ。だからこそやってやるという気にさせてくれる。後に引けないこの状況だからこそ……戦う意志を燃やしているのだ。
 さて……俺は今、二宮を説得するために二宮の自室前までやって来ていた。夕刻の5時。以前と同様に三枝に御伴して貰う形でここまでやって来ていた。


「それじゃあ櫻井君。最後の仕上げだ。僕自身も立ち会うことは可能だけれど、わざわざ立ち会う必要もないだろう。失敗しないように気を付けてね?」


「ああっ!分かっているぜ三枝……最後は俺一人で決めてきてやるよっ!これは俺が始めたことだからな」


「うん。それじゃあ僕は期待をして待っていよう。また……深夜にね」


 そんな会話を終えて三枝はゆっくりと自室の方へと戻っていったようだ。彼女がいなくなったことで緊張感が一気に募ってしまう。……落ち着け。大丈夫の筈だろう。三枝という頼りになる親友がいなくなったことくらいで動揺するんじゃねえぞ俺。
 既に二宮が俺に指摘する発言や態度などは全て予測している。だから俺はそこを突いた上で説得すればいいだけの話だ。……俺はゆっくりと扉に近づきノックの準備をする。


「……」


 部屋はそれなりに防音対策を取られている。故に大きな音を立てて俺は二宮の部屋をノックした。


「二宮いるか?」


「……」


「……」


 しばしの沈黙の後に部屋の中から物音が聞こえた。どうやら彼女が反応してくれているようだ。


「あら……櫻井君。こんにちは……どうしたの?」


 二宮はゆっくりと扉を開けた。今回は前回とは異なりドアの目の前にはいなかったから身体をぶつけることも無くて安心したぜ。って……そんなことはどうだっていい。予期せぬ訪問者に軽く驚いている二宮に対して俺は語り掛ける。


「よお二宮。大事な話があるんだ。少しお邪魔してもいいか?」


「ええ……問題ないわ。それではどうぞ……」


 彼女は心なしか穏やかに俺を部屋に招き入れた。……きっと彼女なりに最近では俺に信頼感を抱いてくれているのではないだろうか?


「ああ。お邪魔するぜ」


 二度目の訪問ということで些か緊張しながらも俺は部屋の中に入室した。


「相変わらず二宮の部屋は綺麗だな……」


「そんなことはないわ。殺風景というだけよ」


「仮に殺風景だって綺麗に纏まっている感じがして俺は嫌いじゃないな。早乙女とかなんて絶対部屋の整理出来無さそうだしな」


 軽く早乙女をディスりながらも、少しだけ俺は部屋の変化に驚かされた部分があった。以前までは勉強の参考書等が本棚に隙間なく置かれていたというのに……図書館で借りたらしき書籍で埋め尽くされていた筈であるのに……今ではそれらの数が明らかに減ったように思えた。これは―――――
 俺のそんな視線を察したのか、それとも部屋についての内容を言及したことで反応したのかは定かではないが、二宮は少し自嘲気味にその綺麗な声色で残酷な言葉を紡ぐ。


「少し部屋を整理整頓したのよ。今後も必要な物に関してはきちんと並べているけれど……学校の試験で高得点を獲得するための参考教材は今後に必要ではないから」


「……」


 今後は必要では無い……それはつまり、今までの二宮は定期試験で学園ポイントを獲得するためだけに勉学に取り組んでいたということだろう。二宮は興味があったから勉強していたわけでもなく……成績優秀という肩書に拘っているわけでもなく、一日外主権を獲得するためだけに戦ってきたのだ。
 そして学園ポイントを手に入れたいと考えている理由は……以前に聞いた通りに学園外にいる誰かに会いたいという……ただそれだけの目標だった。彼女はひたむきだった。実直だった。馬鹿と言ってしまいたい程に真っすぐな思いを胸にして……ここまで戦ってきたのだ。
 俺のように薄汚れた思想を胸にする人間とは異なる。そんな彼女だからこそ、俺は支えてやりたいと……改めて考えさせられた。


「なあ二宮……お前大丈夫か?辛くないか?」


 そんな純粋な思いを踏みにじられた二宮が心に傷を負っていない筈がないだろう。蹂躙され弄ばれた二宮は、表面上ではともかくとしても、心中では意気消沈としている筈だ。
 しかし二宮はそんな心の傷を俺に悟らせないようにと思慮したのかもしれない。朗らかな笑みで必死に真意を誤魔化した。


「私?……ええ。何も問題ないわ。教室では早乙女さんや三枝さん。それに花京院さんや鈴木さんと田中さん。色々な人が私のフォローをしてくようと必死になっていることが分かっているから。寧ろ……あなたの方こそ大丈夫?」


「え?」


「二日間も無断で休んでいたじゃない。実際あなたが登校しなかったことで心配がっていた人も少なく無かったわよ。三枝さんも早乙女さんも。口では否定していたけれど……花京院さんも同じ気持ちだったはず」


「そっか……そうだよな。その節は心配かけたな。悪い」


「……」


 どいつもこいつもお人よしだ。……ったくありがとよ、お前ら。さて……そんじゃあいい加減に切り込むか。いつまでもこうしては始まらない。びびってないで話を始めよう。


「なあ二宮……お前は……学園の外に出たいと思わないか?」


「え?」


 彼女は突然であり予想外となる俺の言動に戸惑いを隠せないようだ。俺の発言の真意に疑念を持ちながら疑問を投げかけてきた。


「学園の外にって……言っている意味が分からないわ。詳しく説明してくれるかしら?」


「ああ。分かったよ。二宮は一日外出権を利用することで学園の外には出たものの、理事長の『意地悪』によって会いたいと考えていた人物には会うことが出来なかった。それが今までの大雑把な流れだな?」


「……」


 彼女は無言のままで小さく頷いた。


「それはどう考えても理事長のふざけた言葉遊びによって生じた最悪の結果だ。何をどう考えても詐欺のような話とかしか思えない悪質な行為だ。そんなふざけたことで二宮の頑張りを潰していい筈がない。だからさ、俺は考えたんだ。二宮」


「……」


「理事長の目を欺き学園の外に脱出しよう。俺が二宮をサポートして二宮を学園外に脱出させる。そして二宮は会いたい人物の元へと行く。それはどうだ?」


 俺はしたり顔で彼女に提案して見るが彼女の反応は芳しくなかった。明白と言えるほどに拒絶感が渦巻いていた。……まあ、そりゃそうだろうな。


「……馬鹿を言わないで。学園外に脱出ってそんなことが出来るわけがないわ。この学園の警備システムの厳重さについては、あなたも身を持って理解しているでしょう?」


「ああ。知っているさ。ただでさえ目立つ巨大な校門。開閉には時間が掛かる上に校門付近には警報装置付きだ。更には学園付近には理事長のボディーガードとして大量の黒服も逗留しているとかな。語り出せば枚挙に暇が無くなってしまう勢いで突破するのは困難な要素でたっぷりだ」


「だったら……」


「だが、そうした要素に関しては、問題ない筈だ。何故かと言えばな……」
 俺は今回の作戦の全容を全て二宮に伝えた。始めのうちは半信半疑だったが、作戦の全容を聞かせるうちにみるみる表情を変えた。


「そう……確かにあなたは相当策略を練ってきたようね。特にメイドの立花さんを味方に付けてまで私を学園外に脱出させようとした点は称賛に価すると思うわ」


「そうだろうっ!それじゃあ……」


 俺が笑顔で語り掛けようとした瞬間―――――彼女は表情を歪め明確に俺に敵意を示すようにしながら言ったのだ。


「だけど……あなたの計画に私は賛同などしないわ。やりたければ勝手に一人でやって頂戴」


 当然のように彼女は強い意志を持ち合わせ俺の提案を棄却したのだった。……さて、ここからだ。



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