ガチホモの俺がお嬢様学園に入学させられてしまった件について 

湊湊

35.「二度目の対峙」



「それで……話とは何なんだい?勿論君のために時間を空けることは全く苦では無いから問題は無いんだけど、内容を把握していないと流石に少し不安でね。何故なら一昨日は君を苦心させるようなことを散々言ってしまったからね。幼過ぎる君に対して大人げなかったのではないかと無かったかもしれないと反省してしまっていたよ。それに君は今日の授業に遅れてきていたからね。それも心配してしまう要因の一つさ」


 三枝は緊張し足が竦みそうになる俺を他所に、いつも通りのクールな態度でそんな言葉を掛けた。
 時は俺が早乙女によって救われた翌日の昼休み。昨日、早乙女に諭され自分と向き合う覚悟が出来た後は、自室に閉じこもり早乙女の課題に着手しながら(つーか、課題を全て俺にやらせるのは流石にどうなんでしょうね!散々相談には乗って貰ったけどっ!普通は照れ隠し的な感じで言うやつじゃないの!?)今後のことを真剣に熟慮していた。
 早乙女は昨日の時点で真剣に自分に向き合い、そんな風に頑張る俺ならば協力を惜しまない人も多いのではないかという旨を俺に教示した。俺はそれをひたむきに信じ、改めて計画を実施する覚悟を練り、そして協力者を募ることにしたのだ。
 勿論計画を実施するにあたり、自分の信念については可能な限りで自己理解をし、醜い欲求を満たすために……二宮を救おうとすることはあくまで『自分のため』ということを念頭に置きながら計画を実施に臨んでいるのだ。
 そして、三枝に指摘された『計画実施における杜撰な計画』に関しても早乙女の課題に取り組みながら必死に計画を練り直し……最低限は認めて貰えるような計画は練れたはずだ。
 だから俺はまず改めて三枝と対話をして、計画に賛同して貰えるようにと画策しようとしたが―――――その前にどうしても対処しておくべき相手が存在したのだ。故に俺は今日午前の授業中に遅刻をしてから二限の途中から参加することにしたのだ。(そのことで早乙女にも軽く心配をかけてしまったがまあ許してくれ。内緒話ということで事情を説明したら納得してくれたからな)。
 話を戻すと、そうして計画の最大の要となる『彼女』との対話を済ませた俺は、第二の要ともなり得る『三枝』に協力を仰ぐことを始めようとしているというわけだ。


「さて……それじゃあそろそろ本題に入って貰おうかな。櫻井君。今日の話とはなんだい?」


「ああ。聞いてくれ三枝。……まずは……お前に指摘された通り俺は俺を顧みて……自分と向き合った結果として、お前が言った通りに『英雄気取りの我儘なナルシスト』だってことを自覚出来たよ」


「ふむ……」


 三枝は微かに頷きながら話を続けろという風に相づちを打った。


「誰がどう考えたって最低な理由で最低な考えで最低な覚悟で……俺は二宮冬香という人物と向き合っていた。中学生時代の連中だって雫だってそうだ。俺はあくまで俺の欲望を満たすためだけに誰かの為にと嘯き行動していたんだ。それは極めて悪質で最低な行為だ」


「……」


「そして俺は俺自身と向き合った結果として……その『最低さ』を受容することにしたよ。本当は向き合いたくなんてなかった。自分の醜さを受け入れることも肯定することも絶対にしたくないと心の底から考えていたよ。だけど―――――」


「それでも俺と真剣に向き合ってくれた奴がいたから……こんな最低な俺でも見捨てずに友達として俺を救ってくれようとした奴がいたから……あいつのおかげで俺はようやくと戦う覚悟を決めることが出来たんだ。だから俺は前を向いて歩き出すっ!」


「ほう……櫻井君。つまり君は僕に何を言いたいんだい?」


「どういうこともそういうことも……俺は自分と向き合いそして……『開き直る』ことにしたってことだよ。なあ三枝。お前は言ったな。俺は自分のために行動しているのだと。ああ正解だよ。俺は俺のために二宮を学園外に脱出させようとしているんだ。だってそっちの方が俺が満足できるからな。それ以上でもそれ以外でもねえんだよ。俺は――――――自分の欲求を満たすために二宮を助ける。それだけの話だ。そして……その手助けをしてほしい。それが俺の今の率直な願いだ」


 俺がそこまで言い切ると三枝はこの場に来て初めて明確に表情を変化させた。それは俺を嘲るかのように。三枝の理解不能の威圧感に圧倒されそうになりながらも俺は彼女と視線をあわせ続けていた。


「ふふふ……君は自分が何を言っているのか分かっているのかい?前回の話と重複してしまって申し訳ないが、君は僕に対して、自分の我が儘に付き合って社会的に大きく逸脱してしまう危険性を孕んでいる行為に手を貸せと言っていることになるんだよ?それがどれだけ大きく影響を及ぼし得るものであるのかは、一昨日君に教えた通りに絶大なものだ。既にそれは君も重々に理解している筈だよね?君はそれでも僕に手伝えと言っているのかい?」


「……」


 三枝は極めて答えにくい厭らしい言い回しをしてきた。……三枝、やっぱ今回の一件に関してだけは少しえぐいな。だけど……こんなことで怯む訳にはいかない。もしも早乙女がいてくれなければ既に心が折れていただろう。何の熟慮もせずに彼女に言いたいことだけを告げてしまっていただろう。
 だが……既に戸惑い臆するべき場面は、とうに過ぎ去っているのだ。この程度の威圧で俺が負けると思うなよ。行くぞ三枝。


「三枝……その答えはイエスだ。俺は如何に今回の一件において正しくなくて、泥臭く悪党のような振る舞いにしか過ぎず、間違いなく最低だってことは理解している。下手をすればあの理事長以下の行動だってことも理解している。だけどそれら全てを理解した上でお前に言うよ。俺は三枝に協力して欲しい。お前に指摘されたことで俺は計画が成功出来るであろう最低水準の計画は立案したつもりだ。だけどその計画内容でもやっぱり不十分な部分が目立つ気がするんだ。だから俺はお前に協力して欲しい。迷惑を掛けるかもしれない。お前にとって汚点になるかもしれない。何のメリットもないかもしれない。だが―――――それでも頼む。作戦を成功させるために手を貸して欲しい。俺が出来ることはお前に真剣に頼むことだけだ。頼む。俺に協力してくれ」


 俺は頭を下げた。人に対して頭を下げる時の正確なお辞儀の角度など知ったことではない。だが明確に伝わるだろう。俺のようなプライドの塊が―――――承認欲求が服を着て歩いているような俺が頭を下げることの屈辱さというものを。
 だが―――――三枝の顔は見れないが明らかに芳しくないことは雰囲気で察することが出来た。


「ふむ……君が自身のプライドを割り僕に縋りついたという点では努力を認めよう。だけどそれとこれとは話が別の筈だよ。結局のところ君は僕が指摘した問題点を解決したわけじゃない。君がどれだけ自分を受容し自分のためと開き直ることが可能となり人に頭を下げるという行為をする程までに進化したとしても―――――根本的な『違法』の行為に対する問題点は一向に解決されていないんだよ」


「ああ。そうだな」


「それに対して君はどうやって僕を論破していくんだい?どうやって僕を納得させるんだい?」


「……」


「……」


「……」


「……」


 長い沈黙が続く。俺は返す言葉も見つからない。あたりまえだ。何故なら……俺は何にも答えを見つけていないからだ。三枝の言動はいつもながらに正論過ぎる。そうなのだ。俺が幾ら三枝の指摘された問題点を受容しようとも、今回の計画に負担が掛かり違法であること自体には変化はない。故に正論では崩すことが出来ない。少なくとも勉強は、ある程度出来るだけの俺では、良い解決方法など一日では思い浮かばなかった。
 しかしだ。しかし―――――早乙女との一件で俺は一つ自覚したことがある。先ほど三枝にも言われたことだが―――――今までの俺はナチュラルにプライドが高かった部分が大きかったのだ。所謂ツッコミ役的な側面も俺は持ち合わせているが、それはあくまで『馬鹿な連中にツッコめる常識人の俺』に陶酔するための技術だったのだ。
 つまり俺はそんな点においてもプライドの高さをこじらせていたのだ。だが、既にそんな部分は完全に瓦解したのだ。否、瓦解させたのである。
 だから正論を返すことは不可能であり、堅物である三枝を説得する『切り札』など何一つとして存在していないが……それでも最終手段として用意しているものはある。
 ぶっちゃけこれでどうにもならなければ三枝の説得は完全に失敗だ。更に言えばこれから計画に協力して貰おうとしている連中の中で最も難しい相手だとも考えさせられる人物だ。
 一本勝負。キーとなるのは感情論と勢いと気合だけだ。行くぞ三枝。


「三枝。どうか―――――どうか俺に力を貸してください。俺に出来ることなら何でもします。俺ならどうなっても構いません。だから―――――俺に力を貸してください。どうかお願いしますっ!」


「……っ!ちょ……櫻井君?」


 突然の俺の行動には流石の三枝でも驚愕を隠し切れないようだ。俺が何をしたかと言えば―――――『土下座』をしたのだ。三枝の前で。ただそれだけの話だ。別に土下座の形態が特殊というわけではない。
 ただ単純に一般的に俺がドラマとかで見たことがある土下座をしているだけだ。三枝の眼前で花びら舞う夏の地面の上で。今日の気温は三十度を超えているということもあり地面はすっかりと熱くなってしまっていた。何だか焼き土下座しているみたいな気分だぞおい。


「三枝―――――これが俺の誠意だ。お前の発言には何にも言い返しなんて思い浮かばない。だからさ。俺は一番効果が無さそうな感情論での無様な説得に身を委ねることにしたんだよ。それ以外にはねえよ。頭がいいお前に真っ向から挑んでも駄目だ。どうしようもない。なあこれが俺の本気だ。受け取ってくれ三枝」


「……」


 実物で真面目な土下座をしている人を見たのは初めてだったのかもしれない。三枝は沈黙を続け悩んでいるようだ。


「うむ……なるほど。それが君の本気というわけか。うん。なるほどね……」


「……」


「だけど勘違いして貰っては困るんだけれど、君はたかだか『土下座』程度にどれだけの価値があるというんだい?」


「……っ!やっぱりこれじゃ駄目?」


「君『が』土下座という醜態を晒せるだけの覚悟を持つことは素晴らしい成長だと思うし、その甲斐もあって僕をびっくりさせたという点では称賛に価すると思うのだけれどね。だけどよくよく考えてみて欲しい。君はたかだか地面に頭を付けたくらいでどれだけの価値があると思っているんだい?一つ具体的な例をあげよう。君の一時的な土下座と僕が君に協力することで生じ得るデメリットが釣りあっていると真剣に考えているのかい?『違法』云々の以前に僕がそれで納得をすると思うのかい?」


 三枝が言うデメリット。それは以前から指摘されている通りその後の人生に大きな影響を及ぼし得るというそういった内容だ。三枝はあくまで俺の脆弱な思考を痛いほどに貫いた。


「いや……それは無理だろうな」


「だろう。それなら―――――」


「ああ。分かっているよ。三枝。その程度じゃ釣り合いが足らないっていうんだろう?だったら俺がそれに釣り合うだけの姿勢を……誠意を見せればいいんだろう?それしか出来ねえってのならやってやる。いいか三枝。今日の俺は本気だ。俺には今しかない。ここで踏ん張れないならこれから先の人生だって絶対に駄目なもんになっちまうに違いねえっ!」


「……?」


「三枝……脅しのようになってしまって申し訳ないが、もしもお前が俺に協力してくれないと言うなら……俺は何だってする覚悟だ」


「ふむ……具体的には?」


「ああ。具体的にはだ。鈴木との一件をお前が知っていることも含めて俺が女性恐怖症だっていうことは既知なんだろう?」


「……ああ。そうだね。そこは流石に誤魔化すことは難しそうだから素直に肯定しておくよ。僕は君の事前情報を少なくとも天上ヶ原理事長と同程度には知っているはずだ」


「オーケ。何でお前が知っているかとは今度じっくりと話をして貰いたいところだが、今は置いておこう。でだ。それをお前が知っているということは如何に俺が女が苦手ということは理解している筈だ。そして―――――お前が協力してくれないと言うのであれば、俺は―――――」


「この白花咲女学園の全員と関係を持つことが出来るように尽くす覚悟だ」


「……っ!」


 流石の俺の発言には二つの意味で三枝は動揺しているようだ。一つはあまりに非倫理的であり性犯罪者の如き発言に対する呆れが含まれていることだろう。そしてもう一つは俺のその発言に対する三枝の驚愕ぶりなのだろう。
 三枝は顎に手を当てて、考えるようしてから俺に言葉を掛ける。


「君は自分が何を宣言しているのか分かっているのかい?君の女性に対する恐怖感は冗談のネタにされやすいが、本当は笑いごとでは済まされないような身体的な疾患に繋がるようなものなんだろう?」


「ああ。そうだよ。ったくどいつもこいつも軽く考えていやがるが、実際に俺が女と接近したりすると頭痛や腹痛で悩まされるんだからな」


 特に天上ヶ原雅の生徒会の一件はマジで許していないからな。だけどよ―――――


「だがよ。決して死ぬわけでも後遺症になる訳でもねえからな。少しばかり俺の体調が悪くなるとかだから何だって話だよ。二宮は……二宮は俺よりも苦しんでいる筈だ。今日だって何とか不器用ながらもクラスの中で少しずつ二宮は適応しようと努力をしていた。だけど―――――そんな彼女の内心では辛い気持ちは続いている筈だ。表面上取り繕うともあいつは今の俺より遥かに辛い筈だ。だから三枝。俺はそんな二宮を助けるためにだったら相当なことにだって挑戦するぞ。お前が納得し、デメリットを越えるだけの『価値』を表明出来るまで……何だってやってやる。だから三枝。ここで再三に渡って俺はお前に頼むんだ。頼む三枝。俺に……俺に力を貸してくれっ!」


「……」


「……」


「……」


「……」


「フッフフフフフ、ハハハハハハっ!」


「……三枝さん?」


 突如として三枝は高笑いをし始めた。それは今回の一件で表出したような悍ましく厳しいものではなく……常時の優しく親切な三枝の態度そのものに変化していた。


「いやはや……君の覚悟と進化っぷりには非常に驚かされたことで途中から思わず演技に入ってしまったよ。うーん。素晴らしいよ櫻井君。よくぞ、そこまで踏まえたね」


「え?いや、あのそのちょっと?」


「既に君が自分と対峙し自己寛容をこの短期間の間で進めたことにすら驚かされたけれど……まさか随分立派な覚悟をしつつ僕に対して協力を依頼してくるとはね。結局のところ正論で僕を論破していくことは適わなかったけれど、それでも十分な成果だと思うよ」


「三枝……」


「櫻井君。僕は演劇に携わる人間として人の演技や態度と言ったことに関しては人一倍敏感のつもりだ。誰よりもその点に重きを置いて取り組み方や姿勢を重要視することを大切にしているんだよ。そんな僕から見ても……君の覚悟は僕が指摘した『デメリット』を凌駕し得るようなそんな強い覚悟だと受け取りざるを得ないものだったよ」


「なあ三枝……それじゃあ……」


「ああ。大方、君の予想通りだとは思うけれど……僭越ながら僕も君に協力させて貰おうか。未だ君の計画の内容に関しては聞き及んではいないけれど……君の覚悟や意志を尊重し無条件で協力しよう」


「おっしゃああああああああああああっ!ありがとう三枝っ!やっぱりお前は最高の女だよっ!」


 俺は喜びのあまりその場で咆哮を止めることが出来なかった。それ程までに三枝に許容されたことがこの上なく嬉しかったのだ。直球に喜びの表現をする俺に対して三枝は朗らかな態度を表しながら俺に感想を述べる。


「しかし……君の進化ぶりには驚く一方だよ。たった二日前まで君は未熟さを大いに残していたけれど今では殻を打ち破ったかのように進化を遂げている。人間はそこまで急には変わることは出来ないとは思うのだけれど……君はどうしてそこまで変化を遂げることが出来たんだい?」


「ああ。それは……俺だけの力じゃない。つーか全くもって俺の力じゃない。早乙女なんだ。今の俺を作ってくれたのは紛れもなく早乙女なんだよ」


「早乙女さん。なるほど……彼女が。こう言ってしまってはなんだけれど……まさか彼女が君に対してそこまでのことをするのは予想外だったよ」


「お前も大概失礼だなって……言いたいところだがお前の主張は非常に分かる。俺も……まさか早乙女に諭されるとは思わなかったよ」


「ちなみに君は彼女にどんな風に諭されたんだい?」


「単純な話だよ。人間には誰しも醜いところがあって最低な部分を持っている生き物だって。だからそれを受け入れてそんで一から始めていけばいいじゃんってな。最初はあいつの発言を受容するのは難しかったけどよ。それでもあいつがそこそこ粘ってくれたから俺も今こうして開き直ることが出来た。そんで……今はこうしてお前と向き合うことが出来ているんだよ。あいつには感謝しか言葉が出て来ねえよ。まあ、補習用の課題を俺に全部ぶちまけるのは、マジでいかがなものなのかと思うけどなっ!」


「ふふふ……なるほどなるほど。早乙女君はそんなことを……何にしても彼女は素敵な活躍をしてくれたようだね」


「ああ。早乙女は最高の奴だよ。あいつが友人で……出会いは最悪だったかもしれないが……あいつと出会えたことで俺は本当にこの学園に入学出来て良かったと思う最大の要因だよ」


「……」


「でもよ。それは早乙女だけじゃないぞ?」


「ん?それは?」


「俺は早乙女だけじゃなく三枝に出会えたことも最高の出来事だと思っているってことだよ」


「櫻井君……だけど僕は相当今回の一件で君に厳しく接した筈だ。それは感謝されるようなことではないと思うけれどどうなんだい?」


「確かに一度は三枝が厳し過ぎで無神経だって糾弾したくもなったよ。俺の苦悩も知らずに一方的にうるせえんだよってブチぎれたし……思うところは沢山あった。だけど……そのほとんどは俺の最低さが……俺の未熟さが招いたことだ。だから今となってはお前は悪くないっつーか、お前に文句を言うのは筋違いだって理解しているつもりだ。つーか、寧ろお前がきっかけを作ってくれなかったとすれば俺は何にも変わらずに最低なことにすら気が付かない人間のまま何となく日常生活を送ることになっていただろうな。俺に道を指し示してくれたのは紛れもなく早乙女だ。だけど―――――道を作ってくれたのは紛れもなく三枝自身だ。だから―――――ありがとな。俺に道を作ってくれてありがとう三枝」


「……」
 三枝は無言ではあったが酷く満足したかのような笑みを浮かべた。っとここで聞いておきたいことだけ聞いておこう。


「なあ三枝。一つ質問なんだけどよー?」


「うん。どうしたのかな?」


「三枝は散々俺に対して……協力する点におけるデメリットの話を前面に押し出している部分があっただろう?」


「そうだね。実際に計画に加担することで掛かってしまうリスクというものが存在するだろうから拘るのは当然だと思うけれどそれがどうかしたのかい?」


「ぶっちゃけた話さ。三枝は……お前自身はそこまでそんなことを気にしてはいないだろう?」


「……気にしないというのは些か表現としてはどうかなとは思うよ。というかそれは当然なんじゃないのかな?計画に加担することでその後の人生に大きな影響を及ぼすのを恐れ慄くのは当然のことじゃないか?」


「いや……確かに一見それは正論で本当のことのように聞こえるけどよ。三枝……お前は……お前自身が拘っているとかそんな話じゃないんだろう?」


「……ふむ。まあ敢えて否定する必要もないかもしれないね。ご明察だよ櫻井君。確かに僕自身はリスクを負うことくらいは……問題ではない。僕は一昨日に学園を退学になってしまった後の仮定をしたけれど、あの話自体は嘘ではなく僕の両親は至って凡人だ。故にその後の社会的な生活が苦しくなるのは本当だろう。だけれど正直な話、手前味噌ながら僕はそれなりに演劇にも自信はあるし、学業だってそれなりに得意で、特に語学は通訳などを志せる程度の能力は有していると自負しているんだよ。つまり幾らだって生計を立てる手段はあったりするんだよね。だから退学は恐れるに足らないのが正直なところだよ」


「ああ。そうだろうな。三枝は俺から見てもあり得ないくらいに優秀だからな」


「だけど僕以外の人がそうとは限らないからね。特に話を聞く限り例えば早乙女さんなんかは完全に庶民階級の出身であり、せっかくこの学園に何とか入学出来たようなものだから。ここで退学にでもなってしまえば勿体なく、その後の生活は大変になるだろうと言うのは真面目な意見だ」


「ああ。分かっているよ。つまり三枝が執拗にデメリットについて論じたりしたのは―――――自分の為では無く、計画を遂行していく際に他のメンバーを巻き込んだ際の責任についてちゃんと俺に考えて欲しかった。そんな感じか?」


「正解だよ櫻井君。非常に僕の思考が手に取られているようで恥ずかしい限りだけれど―――――僕はその点を重要視していたから―――――とはいえ、もう問題は無さそうだね。
君は覚悟を決め自分と向き合った。そして今は状況を良く見ている。そんな君なら―――――成し遂げることが出来る筈だ。二宮さんを助けることを!」


「ああ……絶対にやってやるよっ!絶対にだ!!!」
 日差しが強く指すこの裏庭で俺は改めて決意を固めた。空を仰ぎ暑く燃え滾る太陽に俺は誓うのだ。
 三枝はゆったりとした様子で力を抜きながら俺を見据えているようだった。先ほどまでの強烈は本当に嘘のようだ。


「しっかしなんか……お前は本当に成熟しているよな。ぶっちゃけた話、最低であることだとか責任の所在だとか全く他の同級生たちは考えていないと思うんだけどなー」


 俺がそう言うと少し微笑んだ状態で彼女は俺に告げた。


「僕はそれなりに面倒な人生を歩んできたからね。一人くらいは大人にならないといけなかったんだよ。なんてね……」


「三枝……それは一体?」


 そう言う彼女の髪は風で優雅に靡き鮮やかだった。三枝の真意は分からない。だが……その時の表情は見えなかったが……少しだけ三枝の本質が垣間見えた気がした。
とそこで、キーンコーンカーンコーンと音色が鳴り響いた。


「さて……それじゃあ教室に戻ろうか?」
「あ、ああ。そうしようぜ。これから改めて宜しくな三枝」
「うん。宜しくね櫻井君」


 こうして―――――最大の難所とも呼べるべき人物である三枝を勧誘することが出来たことで作戦は一歩直進したのだった。……これから頑張っていくぞ。



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