ガチホモの俺がお嬢様学園に入学させられてしまった件について 

湊湊

33.「思考の変容と根幹を司る要因」



「すまん。早乙女……お前は何を言っているんだ?」


 俺がそう言うと髪をくるくると巻き上げた後に豊満な胸を押し上げ腕を組みながら早乙女は語り出す。


「えっとねー。それじゃあ丁寧に教えてあげますかー。まず、櫻井は明確に『最低』な部分持ってんじゃん?そんで具体的に現状の問題点としては、『最低』な部分を持つ自分のことを受容出来ずに苦しんでいること。そしてそんな最低な部分を持つ自分が、自分の欲望の二宮さんを助けるべきではないと考えてしまっていること。大体その二つだと思うんだよねー?」


「ああ……」


「そんな現状を抱えている櫻井が今後取るべきだと思う考え方として……櫻井は『最低』であることが『最低』と思わないってところから始めるべきじゃんって思うんだよね?」


「最低であることを……最低と思わない?」


 発言の意図と真意が分からない俺に対して、早乙女は微笑みながら欠伸をしながら言葉を発した。


「うん。櫻井はさー、なんてか真面目に考え過ぎなんだよ。そんな風に自分を追い込むんじゃなくて『最低』な自分を許せる心構えを持つべきだって話をしたいわけ。うーん。……例えばさー。ウチは櫻井に対して過去話を、ちゃんとはしたことなかったよね?軽くならあったけどさー」


「え?……ああ」


 それを確認した早乙女は身の上話を開始した。


「それじゃ、とりま……しばらくウチの話に付き合って。ウチの中学校はさー。以前にも軽く話をした通り、凄く厳しい校則が多かったんだよね。例えば服装のことで言えば、スカートの丈からズボンの長さの厳格な規定。ワイシャツのボタンは一番上まで全て止めなきゃならない規則があってさ。袖の部分も外しただけでも怒鳴られたりしてさ。髪も男子は基本的には坊主を強制。女子も長すぎると生徒指導の先生にその場で切られたりしたんだよね。何か服装や頭髪のことで問題点があれば、すぐに生徒指導室送り。他にも一度でも遅刻したら数時間の説教と場合によってはあったし、教師の悪口でも言おうものなら、すぐに反省文書かされたり、掃除の罰一か月間とかざらだった。学年集会や式典の練習の際には教師が納得できるまで、永遠に終わらないとか。そのせいで熱中症で倒れる生徒もいたのに、放心を変える気はなし。そんで学校側が被害者から訴訟に踏み切られたこともあったりとかもしたんだよね。とにかくクレイジーって感じだったよ」


「……」


「そんな場所で過ごしてたウチは、表面上ではきちんとしていたけど、裏では好き放題やってんだよね。周囲の人に同調するために酒やたばこくらい嗜んだことはあるし、万引きしたことだってあるよ。ウチはそんな風に生きてそんな環境に適応していたんだ。そして、そもそもウチの通ってた中学の風潮が厳しいってのは、それだけ不良が多かったってのが原因とあるんだよね。だから当然のように治安が悪くて、学校の厳しさに伴うストレスから、苛めとか嫌がらせとかが、普通に日常茶飯事に起こっちゃってさ」


「……」


「そんで当然ウチの周りにも加害者の奴らが登場するわけよ。勿論そんなことは止めたいって気持ちはあったよ。でもウチが幾ら人間関係を器用にこなすのが上手いからって、当然のように何回も補導されて警察に顔覚えられるような奴ら全員を操れるなんてなくて……そりゃ可能な限りウチだってどうにか対処しようとは画策はするさ。けど、それでもどうしようもなく……虐げられていた同級生はいたんだよね。そんでウチは『保身』に身を委ねる経験だって……ないって言ったら嘘になっちゃう。確かにウチの周りには明確に苦しんでいる人がいて……それでもウチは自分を守るために何も出来なかった。確かに理解していたのに、どうにかしなければならないと考えていたのに……自分は自分の『保身』のために何もしなかった過去は確かに存在すんだよね」


 早乙女の表情は沈んでいた。それは自らを叱責し恥じるような態度に思えた。だが、すぐに表情を明るく変えて俺に語り掛ける。


「そんな風にウチにだって人生の汚点みたいなことはあるし、規則や規律、あるいは法律や条例を守らないみたいな側面はあるんだよねー。それは紛うこと無きウチの『最低』な部分なんだよ。それはウチ自身も否定できないし……そして他の人が同じだからって否定すべきではないとは思う点だったりするよ」


「早乙女……」


「でさ、櫻井。ここで質問。今の話を聞いて櫻井はウチのことを嫌いになった?」


「いや……」


「櫻井と同じように『最低』な部分を持つウチという存在を否定して……関わりたくないとか思った?」


「そんなことは……本当に思わねえよ。だってお前の良い所だってたくさん知っているからよ」


「だしょー?ってか櫻井。それじゃあもう答えは出ているようなもんじゃん?」


「……」


「人間には誰しも程度の差はあれど、『最低』な部分が存在して、その『最低』が如実に表れてしまうことがあるのは決して珍しい話ではないって話。その『最低さ』は誇るべきものではないし、自慢できるようなものじゃないのは確実。そして、可能なら『最低』な部分が消失するように努力していく姿勢はもっと大切。けどさー。『最低』な側面があるからといって人間生きていちゃ駄目なわけじゃないし、死んで詫びるべきだとか、行動が制限されるべきだとか、人を助けるべきでは無いとかって風には、ウチは全く考えていないって感じ。櫻井が『最低』な部分を持つウチを嫌いにならないでくれるように、ウチだって櫻井が例え『最低』な部分を持って「うわー。こいつ無いわ。キモ。最低じゃん」ッて感じで思ったとしても……だからといって友達辞めようとかって風には全く思わないよ。そんで……勿論それが櫻井を助けない
理由にもなる筈がないじゃんって話」


「早乙女……」


 早乙女の発言は正鵠を射た素晴らしき発言なのだろう。本来であれば受容することが正しいとは俺も分かっている。だが……俺の心は素直に受け入れようとしない。


「だからさ。櫻井……櫻井は―――――」


 話を綺麗にまとめようとしている早乙女の言葉を遮るようにして俺は自分の正直の気持ちをぶちまけてしまう。


「ああ……分かってんだよ。早乙女。それは……そうだろうけどよー。……そんな簡単に言われてもすぐには受け入れることなんて出来っこねえよっ!お前の言いたいことは良く理解できたよ。確かにお前の言っていることは全体的に正しいだろうよ。だがな、それでも……俺は……そんな『開き直り』みたいなことをしたくはねえんだよっ!」


 思わず叫んでしまう。何を……俺は何をやっているんだ。必死に俺をフォローしようとしてくれている相手に対して何故に反論をするようなことを言っているのだ?辞めるべきだと思いながらも言葉を止めることは出来ない。
 素直に受け止めれば全ては簡潔するだろう。それを受容すれば解決のはずだ。それなのに……それなのに喉奥からの咆哮は留まることが出来なかった。
 確かに最低であることを最低だと考えない心構えが出来れば大よその問題は解決できるだろう。今抱えている心の闇も不満も不平も悔しさも悲しみも、きっと薄れることは確実だ。
 だけど……それが容易に出来ないから困っているのだ。最低であることを認めることで楽になれるとしても……俺はそれでも『最低』であることが嫌だった。認めることが出来ない。認めたくないという思いに胸が締め付けられてしまう。
 一体どうすれば……自分を納得させ自分の醜さを受容し歩き出せるかの方略が分からないのだ。


「俺はそんな『開き直り』みたいなダセ―真似をしたくはねえんだよっ!もっともっとかっこよくてっ!誰からも尊敬されて―――――そんな振る舞いをしたいこの俺が―――――そんなことを容認できるわけねえだろうがああああああっ!」


 頭がおかしい、と自分でも分かってしまうほどに俺は理解出来ない感情に支配されてしまう。これは早乙女をドン引きさせてしまい得る振る舞いだ。
 何故……俺はここまでそれでも否定したい感情が生まれてしまうのだろうか?俺の反応を見た早乙女は、いたって冷静に一つの事実を突きつける。


「ウチの勘違いだったらアレだけどさー。もしかして櫻井は―――――自分が『英雄』でありたいと固執してしまう明確な理由みたいなものが存在するんじゃない?」


「明確な理由……ハハハ、何だよそれ?そんなものはありはしねえよ!ねえんだよっ!」


 明確な理由などあるというのだろうか?そんなこと考えたことなかった。だから早乙女のその指摘が正しいものか見当違いなのかすら分からない。


「ねえ櫻井。ちゃんと考えてみればいいんじゃない?櫻井がどうして……そこまで『英雄気取り』でいたいのかという理由を」


「……」


「それは櫻井の自己陶酔をしなければならなくなった主因……もっと根幹を司るような要因とかがあんじゃない?」


「それは……そんなもの」


「例えばだけど……櫻井は誰かに憧れている気持ちを持っているとかってのはないの?」


「憧れ?……そんなものは……っ!」


 刹那、天命と言わんばかりに俺の脳裏には一人の人物の顔が思い浮かんでしまった。それは欠けていたピースの欠片が繋がるような感覚。それは不快感と謎が解けた爽快感によって混沌とした情緒を形成させた。


「ビンゴー!何かありそうじゃん。ここまで話したんだからさー。全部言いなよ。櫻井の情けなくどうしようもない原因をウチが聞いてあげるからさ?」


「……俺の根幹は……何だよ。そうかよ……あいつのせいかよ。どこまでもどこまでも俺の邪魔をしているのは『あいつ』かよ」


「んで……櫻井がそこまで自分に酔っちゃう原因になったのは誰なの?」


「それは――――――」


 それは……愚直にも『あの男』しかいないだろう。俺は一人の人物の顔を想像するのだった。





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