ガチホモの俺がお嬢様学園に入学させられてしまった件について 

湊湊

26.「櫻井芳樹の本質」(前編)



「……なっ!なんでだよ三枝っ!」


 俺は今までの会話の流れや三枝の性格上、必ずや首を縦に振ってくれると信じていた。しかし、結果はそれとは真逆をいくものだった。俺は納得出来ずに、小声で話すことさえ辞めて彼女に詰め寄った。彼女は呆れたように俺を見下した落胆したかのように溜息をついた後に言葉を述べた。


「やれやれ……やっぱり君は少しばかり短絡的な部分が大きいようだね。今までの生活の中では見過ごしていたけれど……いい加減自分の幼稚さと向き合わせる時が来たのかな?」


「ああ?どういうことだよ?意味わかんねえよ。俺にも分かるように言えよ。どうしてお前が俺に協力出来ないのか、納得出来るように説明してくれ」


「……」


 少しの沈黙の後に再度大きな溜息を吐いてから彼女は滔々と説明を始めた。


「理由は幾つか存在するかな。まず一つは現実的に考えて、この学園内から脱出することが非常に難しいからだよ。君も以前には脱走しようとした経験があるだろう?だからこそ、最低限この学園の警備システムが厳格であることは理解しているよね?」


「それは……」


 確かにこの学園の警備システムは厳重であり、突破することが容易ではないのは既存の知識だ。手動で開閉することが不可能な巨大な校門。校門付近に近寄ることで警告として理事長室と生徒会室。そして校門前の事務室に伝わると言う悪質なシステム。
 よしんば、事務室と生徒会室の警報は誤魔化せたとしても(事務室は潜入、生徒会室は生徒会のメンバーの協力)、理事長室の警報は誤魔化せず、脱出行為は露呈するのは必須だろう。
 日中であれば警報システムも、もしかしたら解除されているかもしれないが、校門を開閉する行為は目立ってしまい、二宮を外に連れ出すことの難易度は苛烈を極めるということには変わりないだろう。
 残念ながら脱出は難しいというのは厳然たる事実だろう。だが――――――


「だがよ―――――複数人の協力さえ得ることが出来れば状況は変わるかもしれねえだろう?」


 前回の一件の際には俺が単独で行動していたのだ。故に俺が捕まってしまえば、その時点でゲーム―オーバだった。
 しかし今回の作戦はそれとは異なり、あくまで幾人かの協力者が二宮をバックアップすることで、協力者が全員捕まったとしても、二宮一人さえ脱出させることが出来れば作戦は成功なのだ。そういう意味では、大量の協力者さえいれば作戦遂行の確率は飛躍的に向上するだろうと俺は予想していたのだ。
 だが、三枝は俺のそんな提案に苦い表情を浮かべて忌避感を示すだけだった。


「確かに……複数人の生徒が彼女を守るような形で学園外に逃がさせることが出来るのであれば作戦は遂行しやすいだろうね。だけど……それでもまだまだ君の考えは甘いと言わざるを得ない。まず大前提なんだけどさ―――――」


「君の学園脱出計画は理事長の予想の範疇にあるんじゃないかな?」


「……っ!」


「これすらも予想していなかった―――――なんて流石に僕も信じたくはないから、一応君が思慮していたという前提の下で敢えて説明させて貰うとね。恐らく理事長は、君が激昂したことで、再び学園脱出計画を実行するという短絡的な行為を予期しているんじゃないのかな?その根拠としてはなんだけれど……理事長は約二か月前に君を唆すようなことを言って君に学園脱出を差し向けさせた。今回もその一件に違わないで、二宮さんを脱出ぎりぎりのところで捕らえて、弄遊ぼうという魂胆をしている可能性は高そうだよね?そのために、今回の一件で二宮さんに嫌がらせを施し君を挑発するような行為に及んだ。こう考えることはそれ程までは違和感はないと思うけれどどうかな?」


「そ、それは確かにそうかもしれない……で、でもよっ!だからどうしたって言うんだよ。前回とは違って今は既に生徒会の連中とも仲良しになっているんだぜ?生徒会の連中にさえ頼めれば、たとえ俺たちの行動を予期していたとしても関係ねえよ。生徒会の邪魔さえ入らなきゃ後は人数と勢いで―――――」


「うん。やはり君は安直過ぎるきらいがあるんじゃないかな?まず、生徒会の方々が君と懇意にしているからといって、君に協力するとは限らないし、寧ろ生徒会と理事長の関係性から協力してくれない可能性は高いんじゃないかな?協力してくれないだけだったら、まだいいけれど、敵対されてしまったら計画の遂行は非常に困難になってしまうだろうね。故にそもそも生徒会に協力を仰ぐことが正しいかすらも微妙な話だよ」


「……っ!それは……」


「問題なのはそれだけじゃないよ。理事長が君の行動を予測しているということは、警備を事前に強化することも可能ということなんだ。例えば、校門の開閉に関して何らかの追加の設定がされるかもしれないし、黒服の警備員を増強し配置されるかもしれない。君も理事長が黒服の男を雇っていることは知っているよね?」


「ああ……」


「君が如何に身体能力に自信があったとしても、黒服の警備員を数人相手にすることは苛烈さを極めるだろう。彼らだってきちんとしたプロフェッショナルなんだからさ。警備が強化されてしまえば僕たちは二宮さんを外へと脱出させる確率は遠のいてしまう。理事長が君の行動を予想していることで、それだけこちら側に不利になっているという事実を、きちんと認識した上で作戦を考える必要があるだろうね。そして、問題なのはそれだけではないんだよ」


「まだ……それ以上に問題があるって言うのかよ?」


 既にここまでの段階で作戦遂行の可能性は果てしないように思えていたが、更に三枝は俺を奈落の底へと突き放すような内容を説明し始める。


「うん。一番の問題は黒服でも警備システムの強化でも、協力者の件についてでもなくて問題なのは……立花さんの存在だ」


「立花さんの問題?立花さんが一体何だって言うんだよ?」


「君はほとんど立花家のことについて知らないだろうから解説をしておくよ。立花家は代々、天上ヶ原家の人間を補佐する誉れある名家の一族だ。補佐役と言ってしまえば程度が知れているように聞こえるかもしれないけれど、その認識は大きな間違いだと言っておくよ。主家である天上ヶ原家の歴代の当主たちは専門的な英才教育と遺伝によって類稀なる才能を持つ人が少なくないんだ。次期当主である天上ヶ原雅さんだって、ありとあらゆる分野において奇想天外なアイディアを提唱し本当の意味で天才的な人なんだよ。下手をすれば彼女自身もいずれ社会科の近代史の分野で名を残すことになるかもしれないくらいのね」


「……」


「そしてそんな一族を補佐する人間が、レベルの低い存在で許される筈がないんだよ。立花家が天上ヶ原
家の補佐役を末代まで担当し、天上ヶ原家の繁栄を目指すことだけを生きる意義と意味にしているんだ。その役目を上手に果たすことが出来ないのであれば、自害して詫びをする。それくらいの覚悟を持った上で立花家は存在しているのさ」


「……っ!そ、そんなの頭おかしいだろうっ!なんだよ自害してって!」


「うん。僕も流石に狂った覚悟と信念だと思うよ。だけど、それだけ立花家の人間は家柄に縛られて、補佐役という立場に拘泥しているんだ。さて……ここまで立花家の概要について語ったけれど、そんな一族の現在の当主である立花さん。立花沙也加さんは、幼き時より天上ヶ原雅の補佐役として役割を果たすことが出来るようにと英才協力を施されながら成長してきたんだ。ところで……君はレンジャーって知っているかい?」


「レンジャーって……あの自衛隊の訓練的な奴か?」


「その認識で大よそ間違いではないと思うよ。僕自身もそこまで詳しいわけじゃないけれど……少なくとも女性が陸上におけるレンジャー訓練は耐えられないというのが通例だ。だけど……立花さんはそれに類似した訓練を見事に修了した。当時十四歳の時だ」


「十四って……俺たちよりも年下の時じゃねえかっ!」


「うん。だからその話を知った時僕もとても驚かされたね。それだけ立花家の教育は熾烈を極めるような内容だったんだよ。他にもプロ格闘家と実践的な訓練を積んだり、諸外国に出向き、要人警護の任務も請け負う鍛錬も積んだこともあるらしい。そんな風に育ってきた彼女の身体能力のレベルの高さは異常だ。彼女が学園脱出において遂行を邪魔してきたとすれば……確実に逃げ切ることは不可能に近くなるだろうね。彼女は歴代の立花家の人間の中でも最高傑作と称賛されているような人間だからね。僕たちじゃ手に負えるような存在じゃない。彼女が介入している時点で話にもならないんだ」


「立花さんが凄い人なのは改めて分かったよ。だけど、実際何十と人を用意すれば……」


「そもそも君の人脈じゃあ流石に何十人と協力を仰ぐことは不可能なんじゃないのかな?」


「それは……」


「そして所詮何十じゃ物足りないね。彼女一人から二宮さんを逃がす為には―――――百人規模の人間は必要だろう」


「ひ、百人ってっ!」


「それだけ彼女が異常なんだ。それだけの莫大な人数がいてようやくと彼女を止めることが出来る。決して彼女を捕らえることが出来るというわけじゃない。何とか二宮さん一人を逃がすために必要な最低限の人数が百人規模なんだよ」


「そ、そんな……」


「さて……そんな訳で、この計画がいかに成功確率が低いと推測されるかについて理解することが出来たんじゃないかな?君は少なくともこの計画に参加する人間を納得させて、成功できるという計画を綿密に練らなければならない。それが出来るまでは、少なくとも僕は作戦に協力しようとは思えないよ」


「それはそう……だな」


 どうにかなると俺は甘い考えを抱いていたが、三枝の言葉が重く圧し掛かる。……そうだ。しっかりと考えろ。あの理事長を出し抜くんだ。俺は理事長を騙かして、二宮を脱出させるんだ。その為には生半可な作戦ではいけないのだ。綿密であり緻密な作戦を計画する必要があるのだ。それが例えどれだけ困難だったとしても……
 更にそこから三枝は俺に対する叱責を継続したのだ。



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