ガチホモの俺がお嬢様学園に入学させられてしまった件について 

湊湊

24.「悪意」



「天上ヶ原雅ぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいっ!」


 俺は理事長室の扉を蹴破り開口一番に叫んだ。理事長室の椅子に悠然と天上ヶ原雅が腰を掛けていた。まるで俺が来るかを予期し、予定調和といった表情をしていた。 
 俺が本気で憤りの念を燃やし感情表出をしたとしても、彼女は一向に動じる気配は無かった。その一方で天上ヶ原雅の横にいた立花さんは複雑な心境を代弁しているかのように表情を歪め目を伏せていた。
 天上ヶ原雅はいつものように楽し気に俺に笑顔で話しかけた。


「おやおや……予想よりも早い登場ということで。随分とお久しぶりですね櫻井芳樹君。私に会いたくなってしまう欲求が現れてしまいましたか。やはり男の子……」


「黙れ、御託はいい。お前の冗談に付き合っているような気分じゃないんだよ」


「……やはり私に対する用件は……二宮冬香さんの件ですね?」


「そうだよ。その一件以外にお前になんか用事はねえよ」


「あらあら。いつになく辛辣ですね。女性に対する扱いを理解出来ていないとは……あなたもまだまだ純朴な子供というわけですか」


「うるせえよ。御託はいいって言っているだろう?単刀直入に聞くぞ?何でお前は二宮の願いを……想いを踏みにじるようなことをしたんだ?」


「何を言い出すかと思えば……それが決まりだからです。この学園の規則の第六十五項には、一日外出権を用いた際には学園側が定めた時間と範囲と行動に従う上で外出が許諾されていると定められているんですよ?」


「だったら事前にそう説明しておけよっ!じゃなかったら勘違いしちまうだろうがっ!いいか?お前のやっていることは最低の詐欺行為なんだよっ!」


「ふっ……馬鹿馬鹿しいですね。私は彼女が一日外出権によって行きたいと考えていた場所や会いたいと思っていた人と会わせることは出来ませんでした。しかし彼女にも言いましたが、事前に私は好きなように行動し、好きな人と会える権利などということは一言も説明しておりません。まあ、確かに出来ないとも言っていませんが出来るとも言っていません。ですから、事前に言質を取らずに確認を怠った彼女にも責任はあり、私を一方的に批難しようとなどというのは些か強引過ぎますよ?」


「……」


 一瞬正論のような発言に俺は黙ってしまう。だが、その後に繰り出す彼女の発言は既に我慢できない程に苛ついている俺を怒髪天を突く勢いにさせるのに十分だった。


「まあ私の場合……彼女が会いたいと思っている人物の存在を知っていた上で敢えて再開を邪魔したんですけれどね。勿論融通を利かせることは……可能でしたよ?」


 卑しく下種と呼ぶに相応しい歪んだ言動をした彼女に対して俺は―――――


「てめえっ!」


 俺は彼女に詰め寄って彼女に殴り掛かろうとした瞬間―――――


「……ここはご収めください櫻井君」


「離してくださいっ!立花さんっ!」


 俺は立花さんに伏せられていた。それはかつて柊先輩に身体を拘束された時と同じように。唯一異なる点は、痛みも苦しみもなく優しく押さえつけられたところだ。
 そんな差異はあれど、依然として俺は全く身体を動かすことが出来ない。だから俺は押さえつけられた状態で、思いの丈を慟哭をするしかないのだ。


「立花さんだってわかるでしょうっ!?この女は……1人の女の子の努力を自分の欲望のためだけに踏みにじったんですよっ!3年以上という日々の中必死に努力して。身体ぶっ壊しそうになりながらもそれでも必死にやってきて……誰とも交わることなく他者との交流を断ち切っていたような二宮みたいな奴が、自分から会いたいって人がいるんですよっ!俺は驚きましたよっ!その人はどんだけ凄い人なんだろうってっ!誰をも嫌い遠ざけていた二宮が会いたいと言うだなんて……きっとそれだけの事情があるんですよっ!それだけの意味があるんですよっ!だから苦しく辛い孤独な学園の中で、彼女は今まで必死に頑張ってこれたんですっ!頑張ってきたんですよっ!」


 俺は堪え切れずに理事長室の床に水滴を零してしまう。必死だった。二宮が自己主張出来ない代わりに俺が全てを代弁し想いを吐き出していた。俺も今の姿はきっと滑稽で醜悪だ。だけど言葉は止まらない。止まることはなかった。


「それでこの結果って何なんですかっ!そんなの誰だって納得することが出来るわけがないでしょうがっ!」


「……」


「あなたの気持ちは痛い程理解出来ます。ですが……ここはあなたが退いてください。雅様ではなくあなたが大人の対応をしてください」


「そんなこと……出来る訳ないでしょうがっ!どうしてなんだよ天上ヶ原雅っ!お前は心が痛まないのか?お前はただの暇つぶしで二宮を傷つけたのか?彼女は泣いていたぞっ!普段はクールぶって泰然自若としているように見える彼女だけど……普通の年頃の女の子と何ら変わらないんだよ!嫌なことがあれば嫌そうな顔をするし、悲しいことがあれば当たり前のように傷つくんだよっ!そんな女の子の心を蹂躙してお前は楽しいのかよっ!?」


「……楽しい……とでも言えばあなたは満足ですか?」


「……ふざけんなっ!このクソ女がっ!」


 俺は今まで天上ヶ原雅に対して忌避念慮と反感する態度を示していたが、こうして真の意味で明確に悪意と罵倒をしたことが無かった。


 だが、この女の今回の行動に対してだけは我慢出来なかった。俺は俺が強引にこの学園に入学させられた時よりも、罰と評して性的な懲罰を受けた時とは異なり……本気で天上ヶ原雅に憎悪の念を滾らせていた。


「俺は絶対にお前を許さないからな……絶対にだっ!」


「……立花さん。もう彼を離してあげてくれて構いません」


「……はい」


 そうして俺は余裕綽々とした天上ヶ原雅の指示によって拘束を解除された。


「天上ヶ原雅。二宮を傷つけたことは……絶対に報いてやるからな。覚悟しとけよ?」


「……」


 そして、俺はとにかく笑顔を絶やさない天上ヶ原雅と、不安そうに動向を伺う立花さんを背にして理事長室から去った。



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