ガチホモの俺がお嬢様学園に入学させられてしまった件について 

湊湊

22.「二宮冬香の一日外出で告白の返事待ちの男子中学生みたいにそわそわする主人公」



「……ねー櫻井っち。何だか告白をして返事を待つ男子中学生みたいな感じでそわそわするのは辞めれば?愛莉ちゃん的に面白くて仕方ないんだけど?」
「……うるせえな。実際緊張しているんだから仕方ないだろ?はぁー。二宮……うまく行っているかなー?トラブルに遭ってないかなー」
 時は成績表を開示された日から更に三日後。その日二宮が登校することは無かった。俺は体調でも壊したのか懸念し、女しかいない悍ましい女子寮に見舞いに行くべきかと考えさせられるほど動揺していた。 それもその筈。基本的に二宮は、時間ぎりぎりだったとしても毎日休まずに登校する優等生だからだ。
 今日も俺は七時五十九分という始業のチャイムが鳴る直前に彼女が来ることを待ち望んでいたのだ。それにも関わらず彼女は今日やってくることはなかったのだ。そしてその原因は至ってシンプルなものだった。
「でも櫻井っちの話を聞いているとさー。良かったじゃん。会いたい人の為に必死になって三年間と少しの歳月を勉学に費やす―。いやー、愛莉ちゃん的にはその二宮さんって人は好感高いよー。だって愛莉ちゃん的には友情・努力・勝利は外せないからねー」
「まあ、俺もすぐに一日外出権の権利を行使することが出来て良かったと思うよ。あの理事長なら「一日外出権を行使できる期間がすぐとは誰も言っていません。そう私が言えばあと一年後ということも可能なのです」とか言って台無しにしそうなイメージがあるからなー」
「そんな、横暴ありえないって……言いたいけど……理事長ならあり得そうだから愛莉ちゃんもドン引きかなー」
 だが、実際のところ俺の勝手な理事長に対する誹謗中傷という結果に終わったのだ。確かに二宮は理事長の権限によって一日外出権の許諾を得て、学園外へと至ったようだ。
 彼女は三年以上にも及び、思いを募らせていた相手に会うことだけを目標として、ここまで必死にもがいてきたのだ。その思いが報われることで俺はただただ感慨深い気分だった。
 そんな俺の高潔な想いをぶち壊すように愛莉は下らないことを言い始める。
「それにしても……でも櫻井っち的には大丈夫なの?」
「ああ?大丈夫ってどういうことだ?」
「だって普通はさー、思春期真っ盛りの女の子が三年間以上も会いたい人なんている?まあ、家族とかだったら一般的に理解出来なくはないけどね。でも普通さ。もし、家族に会いたいって言ったら普通は家族に会いたいのって直接的に表現すると思わない?」
「まあ、それは確かに……で、何が言いたいんだよ?」
 以前の保健室で彼女は少し切なげに会いたい人がいると呟いていたな。その人物の詳細については聞くことは何となく憚れたから、どんな人物なのかは知らないというのが実情だった。
「要するに愛莉ちゃんの予想では……男なんじゃないのってこと。それも私たちと同年代くらいの」
「……ああ。そんな考え方もあるのか……なるほど」
「実は小学校時代の初恋の男子で、将来を誓い合う仲だったんだけれど、この学園の中等部の入学に伴い、しばらくのお別れとなってしまった。そして、二宮さんは我慢出来ずに学園在学中に一度その愛する人物と会いたくなってしまい、今まで努力を積んできたとか?」
「……何だそのちょっとドラマチックな展開」
 ただのお前の妄想だろ絶対。
「けれどその男子生徒は、既に普通の高校で至って平均的な彼女を作り、二宮さんのことなど忘れた状態で日々の青春を謳歌していた。それを見た二宮さんは嫉妬で我を忘れて、その男子生徒のことを―――――」
「待て待て待て。何だその昼ドラファンも真っ青になるような話の展開はっ!ねえよ、そんな展開が二宮に似合って溜まるかっ!」
 本当にただの愛莉の妄想だった。……ってか、こいつ全然お嬢様っぽくねえんだよな。発想がただのそこら辺の低俗な庶民と何ら変哲がねえじゃねえか。
「でもさー。ほんとに初恋の男子やあるいは、大切な男の子と会っているかもしれないんだよー。櫻井っち的にはそれでも大丈夫なの?」
「大丈夫って……仮に二宮に外での男がいたからって何だよ?」
「だって櫻井っちは、その二宮さんのことが好きだからそこまで気に掛けているんじゃないの?」
「す、好きって……別にそんなのじゃないぞ。俺はただあいつが心配で……」
 確かにあいつは昔の俺ならドストライクな容姿をしているのは確かだ。始めて彼女を視界に入れた時の衝撃は今でも忘れることなど到底出来ない。
 それに恋愛感情を抜きにしても俺は彼女の存在が一番気にかかっているのも確かだ。だから一見すると俺が彼女に惚れているために行動しているようにも見えるかもしれない。だが、実際は違うのだ。違う筈なのだ。
「何か怪しい。まあでも櫻井っちはそう言えばホモなんだもんね。仕方ないね」
「何が仕方ないかは知らねえし……ってかホモって言うなよっ!言い方考えろよっ!」
 事実だけど。俺が性的興奮を覚えるのは確かに恭平だけどさ。男を求めて学園を脱出しようとしたこともあったけどさ。
「でもねー。愛莉ちゃんは予想しておくよ。これは約束された勝利のルートに入ると思うよ?」
「勝利のルート?」
「うん。今のところは櫻井っちは二宮さんに対して友情意識しか芽生えていないけれど、物語が進むにつれて、やがては恋愛感情に芽生えそして最後には結ばれる。これは王道過ぎて愛莉には余裕で理解できちゃったよ」
「何を言っているかと思えば……ねえよ。そんな何かの物語みたいな展開があってたまるかよ」
 そんな馬鹿な会話をしながら俺と愛莉は下らない談笑を重ねてながら生徒会室で過ごしていたのだった。そう……既に引き起こっていた惨憺たる悲劇について考えることもなく、愚直にも幸福で穏やかな感情を肥やしていたのだ。



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