ガチホモの俺がお嬢様学園に入学させられてしまった件について 

湊湊

20.「和解」

 
 後日。すっかりと顔色が良くなった二宮は何事も無かったかのような顔色で教室の扉を開き悠然と登校した。
 そんな光景を目にした俺は近くで話をしていた、とある女子生徒の背中を押しつつ言葉を述べる。
「ほら……しこりを残さない内にしっかりと謝っておけ」
「……わ、わかっておりますよっ!庶民のあなたに言われずとも……」
「その強気な態度だっていい加減に少しは改善しろ。あと庶民だとかで人を差別するんじゃありません」
「ええい。櫻井芳樹。貴様来栖様に対して何という無礼な態度を……」
「そうだぞ。今回の一件が来栖様に非があるとはいえ、来栖様を責めるなっ!」
「はいはい。お前らが花京院のことが大好きなのはわかったから邪魔すんな。おはよう二宮……」
 俺は突っかかってくる田中と鈴木の首ねっこを掴んで往なしつつ、自席に向かう彼女に挨拶を交わした。
「ええ……おはよう……」
 体育の一件以前とは異なり……決して大きな声ではないかもしれないが、それでも彼女は俺に対してしっかりと挨拶を返してくれた。内心では何か嬉しさのようなものがこみ上げてくる。感慨深さが俺の心中を占領したのだ。
「……?」
 彼女は俺たちの様子を鑑みて、どうしたのだろうと怪訝そうに眉を潜めた。
「……いやな。花京院からお前に対して言いたいことがあるんだってさ」
「そんな直球にっ!あ、貴方ももう少し言い方やタイミングというものを……」
「こういうのはさっさと言っといた方が楽になるぞ。つーか、ちゃんと謝れよ」
「……」
 花京院は緊張した面持ちのままで、俺に対して怒りの感情を剥き出しにした後に、二宮と向き合った。
「そ、その。今回の一件ではあなたに迷惑を掛けてしまいましたわね。ご、ごめんなさい。私が貴方に無理やり勝負を挑まなければあなたが体調を崩し倒れるようなことも無かったと思います。ですから……申し訳ありませんでしたわ」
 恐らく花京院はその見かけと常時の言動から誰かに謝罪し許しを請うようなことに慣れていないのだろう。
 それ故にたどたどしいその様子はあまりに不自然で、俺は思わず笑ってしまいそうになる。
 だけど、素直に自分の過失の部分を認めその努力に徹しようとする花京院のことも存外と嫌いじゃない。……花京院も根っこから悪辣とした人格の持ち主じゃないと思うんだ。きっと家柄とか環境とかで傲然たる振る舞いをしやすい性格になってしまっただけだと俺は感じていた。
 謝罪をする花京院が意外だったのか軽く目をぱちぱちとさせてから、二宮は花京院に答えを返す。
「……いいえ。あなたのせいではないわ。私が体調管理を出来ていなかったことが全ての発端だから。気にしないで」
「二宮がそんなに怒っていないようで良かったな二宮。だけどお前も今後はもう少し自重しろよ。お前のテンプレート的な所も嫌いじゃないけどな」
 ひとまず、一件落着と言うことで構わないだろう。既に禍根は消失した筈だ。
「それじゃあ、二宮。約束通りノートを貸すぜ。俺も六限は受けていないが、六限の現代文は三枝に見せて貰ったから完璧だ」
 聞くところによれば、中等部時代三枝は学年トップ10には確実にランクインしていたようだ。そんな三枝のノートなら間違いは無く丁寧かつ正確なものなのだろう。
 俺の二つ前の席では三枝が軽く会釈をしていた。
「わざわざ……ごめんなさい。三枝さんもありがとう……」
「いやいや。僕としても秀才である二宮さんの役に立つならそれに越したことはないからね。更に言及すれば、折角同じ学び舎で共に数年以上過ごしている仲間が困るようなことをするのは僕の本意じゃないからさ。今後も困ったことがあれば僕を頼って貰っても構わないからね」
 何の含みもなく三枝は善意から二宮に協力してくれているようだ。……やっぱり三枝の人の出来の良さは凄いなと思った。
 人が困っている時には、何の損得勘定を考慮せずに手助けできる三枝は聖人君子と呼ぶに相応しいかもしれない。……っと、俺だって同じようなものか。そう……俺だって損得勘定抜きで協力している筈だ。筈なんだよ。
 さて……これで二宮に対するフォローは一通り済んだだろう。後は――――――
「二宮……中間試験では必ず一位を取ってくれよ?」
「……ええ。あなたや三枝さんにフォローして貰っている以上は……全力を尽くすわ」
「おっほほほほっほほほほっ!二宮さん。それは聞き捨てなりませんわね。一位を取るのはこの私―――――」
「やっぱり、お前は怠い絡みしか出来ないのかよっ!懲りない奴だなお前もっ!」
 俺はツッコミを入れずには入られなかった。だが、少なくとも二宮と花京院の関係性は水と油からは脱却することは出来ただろう。
 これで、間違っていない。……相変わらず、俺は少しお節介過ぎたか?そんな自問自答を繰り返しながら俺は俺の正しさを無為に信じることを選択したのだった。



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