ガチホモの俺がお嬢様学園に入学させられてしまった件について 

湊湊

17.「とある体育の日の出来事」

「おっっほほほほっ!私のエレガントなサーブで打ち崩して差し上げますわっ!」
「は?全然大したサーブじゃなくない?ってか、マジでウケるんですけど?力任せなだけで全然上手くないし」
「ムキぃいいっ!早乙女夢。今日こそは必ずやあなたを打ち破ってみせますわっ!」
「はぁ……だからウチはこう見えても中学の時に全中で関東大会まで行ってたりしてんの。わかる?あんたとは暦が違うってわけ。だから実力差があるのも技術に差があんのも必然っしょ?」
「私は選ばれし花京院家の一人娘。故にこんなところで負ける訳には……」
「家柄とかいちいち語ってて疲れない?ウチは基本的に下流出身だからそんなんあんまり気にしたことないけど……」
「来栖様っ!頑張ってください。私たちも応援しています」
「来栖様っ!来栖様なら行けますっ!そんな小娘一人くらいなら倒すことが出来ますっ!」
「小娘って……お前らも同い年のクラスメイトだろうが……」
 俺は軽くツッコミを入れつつも、クラスメイト達を軽く見ながら準備体操に勤しんでいた。季節は六月に移ろい、俺がこの学園に入学してからそれなりに時間が経過していた。
入学当時はそれ程までに気温も高いという訳では無かったが、既に初夏の到来ということで、大分温かい季節となっていた。
 現在は午後の五限目で週に三回程実施される体育の時間だった。当初この学園に入学した時は、体育などと言った科目は果たしてこの特殊な学園に存在するのかと疑問に思っていたが、週三回という固定回数で実施されるようだ。
 ただし、普通の高校とはその実態は異なっていた。あくまでこの学園の基本方針は、勉学優先であり、スポーツは運動不足の解消とストレス解消の為に実施されている側面が大きいようだ。
 普通の高校であれば、事前にカリキュラムが定められており、教師の指示の下で指定された運動を実施しなければならないのだろうが、この学園では基本的に何をしてもいいというのが方針となっている。(ぶっちゃけ学園が閉鎖的だからカリキュラムとか適当に誤魔化しても露呈することないから自由なんだろうな)
 そんなわけで俺の眼前では自由に行っている競技の一環として、バレーボールの対決でお互いの力量を発揮し合っている来栖と早乙女の姿があった。
 来栖の取り巻きの二人は少し離れた位置で花京院を応援していた。三枝は、一人で精神集中の鍛錬に勤しんでいるようだった。何でも演劇活動の際に重要になるだとか……三枝、お前の所属している演劇部とは一体とか考えてしまう。
 他にも幾らかの女子は少人数でチームを組んでソフトボールを行っていたりバスケに励んでいたりした。
 皆、一様に行う内容は異なるが何らかの活動に勤しんでいるようだ。俺も授業開始をしてからしばらくは、ある意味で日課のようになっていたランニングを行っていた。
 やはり、ランニングは身体を動かす面で一番気楽でいいな。俺の場合唯一の男子生徒ということで、身体能力差で集団に入りにくいという特徴があるからなー。そうした理由から俺は個人競技を楽しんでいるのだ。
「……」
 ……しかし、皆一様と思ったが、どうやらそれは俺の勘違いだった。クラス内で唯一として体操着には着替えてこそはいるものの、身体を動かすこともなく一人、巨大な大樹の日陰で身体を休めている生徒がいた。
 俺は彼女のことが気になったので、丁度グラウンドを一週したところで、足を止め多少の呼吸を整えたところで、彼女の元に歩みを進める。
「よお。お前は運動しないのか?」
「……」
 入学してから早二ヶ月。それでも俺と彼女が長きに渡って会話が継続したことはない。彼女は、悠然と俺を無視するというお決まりのパターンを貫いていた。彼女の手元を見ると英単語帳が抱えられており、彼女の視線は英単語帳から離れることはないようだ。
「そう言えばさ。今月の中旬には中間試験があるんだよな。俺はあんまり勉強していないからあんまりよくねえな。これから勉強しないとなー」
 実際は嘘だった。俺は試験前には計画的に勉強を始めるタイプだ。この学園に入学してから最初の試験を甘く見ていることなどない。
 だから既に五月が終わる前から試験対策は完璧にしている。実際中学と比べると遥かに難易度は高いが、何とか赤点などは回避するのは余裕がありそうだ。
 それにしても……俺はこの二か月間の間で彼女が勉強をしていない瞬間を見つけたことが無かった。昼休みなどはすぐにどこかに行ってしまうからわからないけれど、授業の合間の時間も放課後もいつだって彼女は勉強に励んでいた。それはもう必死と言わんばかりに。学業に対し執着を示す彼女のその態度は俺から言わせて貰えば狂っているとしか思えない。
「……」
 彼女は俺が近づいてもほとんど語らない。そしてそんな時に事態は大きく動くことになったのだ―――――
「おっほほほほほっ!勝利は我が手にありっ!ですわっ!」
「三対一とか恥ずかしくないの?ウチでも引くわー。つーか、ルールガン無視だし」
「何とでも言うがいいですわっ!最終的に勝った人間こそが正義っ!この私花京院来栖こそがルールなのですわっ!おっほほおおおおっ!」
 どうやら最終的なスコアは、早乙女が負けたらしい。ってか、今ちらっと見たら、いつの間にか三対一じゃねえか……すげえなあのお嬢様は。俺だったらそんな厚顔無恥な行動は流石に無理だわと考えさせられる。
「後は……彼女だけですわね……」
 花京院はそんな言葉を呟きながらもまるで、誰かを探すようにしながらきょろきょろと周囲を見渡した。そして、まるで獲物を捕らえたと言わんばかりに俺と二宮がいる木陰の方まで近寄って来る。
「どうしたんだ花京院?」
 俺がそう問うとまるで興味が無いと言わんばかりに俺を無視し、花京院は二宮に詰め寄った。
「以前私はあなたにスポーツ大会で惜しくも敗北してしまいましたわね。今日こそあの時の雪辱を果たさせて貰いますわ。……さあ、そんなところに座っていないでお立ちなさい」
「……」
 二宮は少しだけ眉を潜めた状態で花京院のことを無視した。俺から見ても花京院のうっとおしさは相当なものだ。勉強に集中したい二宮にとっては邪魔でしかないだろう。
「まあまあ落ち着つけよ花京院。一応体育の時間って言っても個人の自由って感じで黙認されているだろう?だったら……」
「部外者であるあなたは黙っててくださいな。これは以前より、面識のある私と二宮さんの『聖戦』なのです」
「そうだそうだ。変態庶民野郎は下がっていろっ!」
「軽々しく何度もお嬢様に話しかけるなっ!」
「本当に俺の扱いが酷いな、おいっ!あと、変態庶民とかいう誹謗中傷は辞めてくんねえかな?流石に普段から扱いが悪い俺でも傷つくぜ!?」
 ぼろくそに言われた俺は流石に少しは堪えたが、俺よりも問題は二宮だった。幾ら二宮が騒音に対して耐性を持っていたとしても、俺たちの口論は邪魔になってしまうことだろう。
 そんな危惧する俺を他所にして、追い打ちを掛けるように花京院は辛辣で挑発的な発言を繰り出した。
「おっほほほほほっ!さては……二宮さん。……あなた、もしかして成長した私に負けるのが怖いから戦おうとしないとおっしゃいますの?フフフフ、おっほほおおおおおおおっ!これは傑作ですわっ!私の今の実力に恐れ慄き身動きが取れなくなってしまっているのでしょう?これは滑稽ですわね……おっほほほおおおおおおおおっ!」
 嘲笑するように彼女はそう言った。……やべえ。今のは俺でもイラッとしたわ。しかし、このような挑発に乗るような二宮では無い。
 彼女はいつだった泰然自若としており、クールさを保っている。そこが俺の中でかなり好感が高くかっこいい部分だと捉えているのだ。だから花京院。お前のその挑発は何も意味を為さな――――――


「わかったわ。あなたと競い合えばいいんでしょう?」


「え?」
 一瞬俺は視界が暗転してしまうのではないかと思うくらいに正気を失いかけた。今……まぎれもなく、二宮はそんな言葉を繰り出し返したのだ。二宮は英単語帳を木陰に置き立ち上がる。そして、花京院を強く睨みつけた。
 ……俺ですらびびってしまうような状況下で、取り巻き二人と花京院は動揺を隠せないようで必死に視線を逸らしたり、髪をいじったりして気分を変えようとしているようだ。
 そして、深呼吸をしてから、花京院は持ち前のプライドの高さを発揮して強気に見せかけるような発言をする。
「お、おっほほおおおおおおっ!ようやくと私に負ける覚悟が決まりましたのね。それならば無様に醜態を晒すがいいですわっ!おっほほおおおおっ!おっほほおおおおおおほっ!」
 いつもの強気の発言が、まるで怯えた自分を鼓舞する為の笑い声にしか聞こえないのは至って滑稽でしかなかった。滑稽なのはお前の方じゃねえか……
「それで……何のスポーツをするの?」
「そ、それならバトミンドンで構いまわせんわ。ルールは十点先取で勝利としましょう」
「わかったわ……」
 そうして、怯えた花京院と怒気を孕んだ二宮は対戦することになったのだ。





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