ガチホモの俺がお嬢様学園に入学させられてしまった件について 

湊湊

9.「学園内探索」

 夕食を終えた時間帯には第四校舎内には人の姿が見られなくなっていた。これを良い機会にと俺は、第四校舎内を少し探索してみることにした。
 一階は体育館と柔剣道場が併設されていた。通常の学園であれば体育館と柔剣道場などは階層が異なるだろうが、この学園内では既にご存知の通りに経費の無駄遣いが大好きなので、恐らく普通の学校以上の大きさにして尚且つ同じ階層に建設するという暴挙に出ているのだ。やはりこの学園は金の使い方えぐいな。つーか、エレベータ付けろよマジで。
 二階は既に利用したことがある入学式を行った講堂だった。何だか夜時間に講堂を訪れると、深夜の映画館に来ているみたいな気分に浸ることが出来たので新鮮だった。今度たまに気分転換夜にここを訪れるようかとか考えさせられた。
 そして順当に次は三階だった。三階には理事長室に匹敵する程の大きさの巨大な図書館があった。
「ってか……これ、俺の地元の図書館と同じ位の広さだぞ……マジでどうなってんだよ。この学園」
 ここまで徹底的な様子を見ると感動や驚きを超越して呆れてしまいそうになる。そんな気分に浸りながら軽く図書館内を見渡す。
 学術書から、大衆小説。児童文学。更に紙の質が大分劣化している古文書まであるようだ。そして、俺はほとんど知らないがライトノベルと呼ばれるジャンル、更に週刊少年~のような中高生が好みそうな書籍まで置かれていたのだ。
「今度暇な時には本も借りてみるかなー」
 そんな決意をしながら俺は図書室を後にし、通路を進んでいく。やがて少し歩みを進めていくと、独特の香りがする一室の前まで辿り着いた。俺は好奇心に浸りながらその扉の中に足を踏み入れる。
「なるほど……流石はお嬢様学園。こんな風靡な部屋まであるとはな」
 俺が足を踏み入れた一室の中は美術館だった。いや、美術館というか美術室と言った方が教育機関的には正解かもしれない。辺り一面には絵画や模造品。それに粘土で作られた芸術品などが鎮座していた。
 俺は芸術にはそこまで関心がある訳ではないが(大体あの親父が先行している分野に対して興味を持つと言うこと自体があり得ない話だとは最早言うまでもないだろう)、折角ここまで来たなのだから軽く作品を鑑賞していくことにした。俺が室内に足を踏み入れて少し進むと自動で電気が点灯された。
「……」
 室内の入り口の方は、主にこの学園の生徒が製作したものなのだろう。流石にプロの親父の力作を幾つも見たことがある俺からすれば、その多くは素人の力量でしかないと言わざるを得ない。
 しかし、必死に創られた作品に貴賤などないだろう。実際に俺の知的好奇心を大きく刺激する作品も数多く存在しており、楽しませて貰っていた。
「まあ、ざっとこんなもんか……」
 入り口付近を軽く眺め終えた俺は、壁で隔てられた部屋の先に進もうとしたとした。その時――――――
「……っ!」
 俺は思わず生唾を飲み込んだ。顔から嫌な汗が拭き出し、腕と背中は一気に鳥肌が立つという事態が発生した。その原因は……向かいの部屋に人の姿が見えたような気がしたからだ。
 いやいやいやいや。まさか……気のせいだろう。きっと俺も学園生活初日ということで疲弊しているのだ。主に天上ヶ原雅とかいう女のせいで精神を摩耗させ、幻覚を見てしまう程俺は精神的疲労を伴っているのだ。実際室内には銅像などが立っており、それと見間違えただけなのだろう。そうに違いない。
 理事長室で宣言した通りに、俺は幽霊だとかオカルトチックなものに関して恐怖心を抱くような人間ではないが……それでも大きな不快感と小さな好奇心に感情を支配される。
「ええい……ままよっ!」
 俺は不快感を消失させ穏やかな気持ちに至るためにその一歩を踏み込んだ。
 そこには――――――


「……うぉおぉおおおおおおっ!誰かいるパターンなのかよっ!?」


 俺の予想は悪い意味で裏切られてしまった。俺の視界を占領し堂々と立っている存在―――――それは紛れもなく生きている人間だった。その人物はゆっくりと体の角度を切り替えて俺の方を向いた。


「あら……あなたは……櫻井君ですか?」


「その声と姿は……立花さん……ですよね?」
 俺は視力がいいので何とかほぼ暗闇状態の室内であっても彼女の姿を認識することが出来た。入り口の部屋とは異なりこの部屋は自動で電気が点灯されないような仕組みになっているようで、はっきりとは見えなかったが。
「はい。メイドの立花です。この状態ではお話をしにくいでしょうから点灯させていただきますね?」
 彼女はそう言ってどこからともなく照明灯の電気を点灯したようだ。次第に室内は明るくなり、立花さんの楚々とした容姿も明瞭に認知出来るようになっていく。
「まさか、こんな時間に櫻井君に遭うとは思いもしませんでした。本日はどうしてこちらへ?」
「とりあえず昼間とは違って生徒の数も減ったようなので、少し学園内探索をしようと考えていたんです。まだまだ学園内のことについては情報が足りませんからね」
「なるほど。そうだったんですね。しばらく時間があるときは好きに見て回るといいかもしれませんね。基本的に自由時間内であればこの学園内は自由に見学して頂いて問題ありませんから。……ちなみにですが……学園についての情報は大よそのことは把握していると思うので今後は私に尋ねて貰っても構いませんよ?」
「はい。ありがとうございますっ!今後は是非頼らせて貰いますっ!」
 俺は彼女のそんな気の利いた発言に感服した。現状では学園内で三枝以外に頼りになりそうな人がいなかったから、立花さんのように丁寧で慇懃な人の力を借りられるともなれば心強い。少なくともあの理事長よりはよっぽど接しやすく頼りになるだろう。
 それにしても……立花さんはその清楚な外見と勤厚な人柄から同性代の人間とは異なった魅力を把持しているように思えた。理事長を含め学園内の女子生徒と比べて精神的に成熟していることで、立派なお姉さんという印象が強かったのだ。
 さて……心中で立花さんを褒め称えていても仕方ない。
「あの……今更なんですけど立花さんはどうしてここに?」
「ああ。これは失礼しましたね。私は絵画を鑑賞するために美術館に訪れていたんです」
 彼女の発言に納得しそうになるが、よくよく考えてみるとまだ疑問は残っていた。
「失礼な話なんですけど……わざわざこんな時間にですか?それに電気も付けないで」
 もしかしたら仕事が忙しく日中では絵画鑑賞をする時間が無いのだろうかと俺は一瞬頭を働かせたが、立花さんは予想とは全く異なった返答をした。
「はい。わざわざ時間を見計らって美術館を訪れたのです。櫻井君。一度明かりを消させていただきますね?」
 彼女は俺に申告をした後に明かりを消した。再び室内は暗黒に包まれる。
「櫻井君。こちらの作品であれば窓から差す夜光によって絵画を鑑賞することが可能です。どうぞこちらへ」
 彼女の指示通りに窓のある方角を向きそこにある絵画を目視する。そしてそれは―――――
「……っ!これは……『夜櫻演舞』」
「はい。あなたもご存知の通り……この作品は『夜櫻演舞』です」
「なるほど……立花さんは夜光に照らされているこの作品を見たかったんですね?」
「はい。その通りです。私は夜に見るこの絵画よりも絶佳な代物を見たことがありません。櫻井堅一郎様の史上最高傑作だと個人的には考えています」
「……」
 『夜櫻演舞』。それは俺の親父が十年程前に生み出し美術界で衝撃を走らせた会心の作品だった。何でも時価で10億円に至る程の絵画であると評されていたようだ。
 そしてこの作品に関して言えば、芸術的慧眼もなく関心の薄い俺ですらも、正気を失い叫びたくなる程の妖美がそこにあった。
 魂を根こそぎ奪い、見る物の心を魅せてしまうようなそんな光景。どこまでもノスタルジックに心は揺れ動き、まるで自分がその幻想的な世界の中に佇んでいるような錯覚までを引き起こしてしまう。現実世界から精神だけが乖離しそうになるそのパワーは圧巻だった。人によってはこの作品を見たことで人生の終着点に辿り着いたと宣言する人まで現れる始末。
 ……くそ、あの親父を褒めるようなことは絶対に言いたくはないんだけどな。だが、これだけは俺も認めている数少ない作品だったのだ。それにしても……
「立花さん。恐らくこれは『オリジナル』ですよね?」
 俺は実物を見たことがあったので、オリジナルかレプリカの区別がついていた。何故ならあの親父はレプリカの場合は、それだと分かるように秘密裏に目印を入れているとこっそり言っていたことがあるからな。
 この作品にはその目印が無かった。だから恐らく本物のなのだろう。
「はい。雅様が堅一郎様から直接20億円ほどで購入したものですので本物です」
「20億ってっ!高すぎませんかね!?あの親父ぼりすぎでしょっ!?」
「それ程までに、この絵画が魅力的だったということですよ。私も特別この絵画の値段としては高いとは思いません。それ程までに堅一郎様の絵は素晴らしいのですから」
 恍惚とした様子で立花さんが親父の絵画を褒めていることが納得いかないので、俺はどうにか親父を陥れようと画策することにした。
「……まあ、確かにこの絵画が素晴らしいってのは認めますがね……立花さん。一応言っておきますけど、櫻井堅一郎はとんでもない畜生ですよ。家族のことを顧みないし、低俗な下ネタを好むわ、色々な女を口説くわで、もう人間として最低ですよ」
「フフフ……やはり、櫻井君は堅一郎様のおっしゃる通りに堅一郎様を尊敬していないようですね?」
「堅一郎様のおっしゃる通り?もしかしてですけど……立花さんも天上ヶ原雅と同様にあの親父と直接遭ったことがあるんですか?」
「勿論ありますよ。そもそも、雅様がこの絵画を購入する際に便宜を取り計らったのも私ですし、更に言えば今回櫻井君がこの学園に入学する際の手続きをする際に事務的な作業をしたのも全て私ですから」
「なるほど……って、意外とがっつりとした関わり合いですねっ!?」
「私から見れば彼はとても素敵な殿方です。彼以上の人格者などほとんどいないと断言できます。あなたはまだ分からないかもしれませんが……きっといずれ理解出来る時が来るでしょう」
「……」
 そんな時が来るとはこれっぽっちも思えないが、立花さんの発言を真正面から叩き斬ることもしたくなかったので沈黙を貫いた。ほんとに親父は女から尊敬されているよな。意味わかんねえな。
「さて……櫻井君。そろそろ生徒は就寝の時間になりますので室内に戻らなくてはなりません。私も仕事があるので失礼したいと思います」
「あ、はい。すみません。お喋りに付き合って貰って……」
「いいえ。私も櫻井君とお喋りをするのは楽しかったですから……それでは失礼します。ああ。最後に1つだけ」
「?」
「これから櫻井君はこの学園でしばらく生活していくと思いますが……きっと、様々なことと遭遇すると思います。楽しいことや嬉しいこと。反対に悲しいことや苦しいことも。ですがその全てがいずれあなたの力となる筈です。それら全てを受け入れて立派な人間になってください。まだあなたは高校一年生であり未熟な子供なのですから……っと、一介のメイド風情が出過ぎた発言をしてしまいましたね」
「いえ……なんつーか、明日からも頑張ろうって思えましたから。全然構いませんよ」
 立花さんの言葉には逆らうことの出来ないような力強さを秘めているような感じがした。彼女みたいな立派な人からそんな風に言われれば素直に従いたくなる意外にはあり得ない。それだけ立花さんは俺が尊敬に値する人物のように思えたのだ。
「それでは今度こそ失礼しますね。……櫻井君。いつか……あなたが雅様を救ってあげてくださいね?」
「え?」
「いえ……何でもありませんよ。それでは失礼致します」
 消え入るような小さな声で呟く立花さんの言葉を聞き取れないままで俺と立花さんは別れた。……はっきりとは聞かれたくない言葉だったのかもしれないので放置しておくか。
「さーて……就寝時間って言ってたし、今日はさっさと自室に戻って寝るかー。明日から頑張るぞーっ!」
 俺は学園内探索を打ち切り4階の自室に戻り早々に睡眠を取ることにしたのだった。



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