ガチホモの俺がお嬢様学園に入学させられてしまった件について 

湊湊

8.「二宮冬香という人物について」

 夕方になり俺が第一校舎の食堂に足を運んだ時点で既に食堂は賑わいを見せ喧騒としていた。
「……しかし、この学園はほんと無駄にでかいよな……」
 ここにいるのは一年生だけなのだろうが、数百人が一斉に集合していることだろう。ここまでの盛況ぶりとは事前に予想出来ていたとしても驚くことは当然なのかもしれない。
 俺がどこの席に着こうか迷っている間に見知った顔が。俺はその人物の元に足を運ばせ話しかける。
「よお、三枝。お前もこれから夕食か?」
「やあ櫻井君。これから僕は夕食だよ。どうだい君も僕と一緒に夕食を取るのは?」
「ああ。お前以外にほとんど知り合いはいないからな。一人じゃ寂しいし頼む」
 現状で食事を一緒にするほど仲がいい生徒は三枝くらいだろう。ひとまず俺たちは僅かに空いている席に腰を下ろして夕食を取ることにした。
「なあ三枝。ここでの夕食を取る為の方法ってのは?」
「ああ。それはね。食券があるんだよ。あそこに食券の機械があるから君も食券を購入して、配膳してくれる列に並んでおいで」
 既に三枝は、お盆を抱えて醤油ベースの香ばしそうなラーメンを用意していた。
「ああ。それじゃあ、取って来るから少し待ってくれ」
「うん。任せておいてね」
 そんな訳で俺は三枝の元を分かれて食券を入手し、列に並ぶことにした。
「しかし……行列だなおいっ」
 時間帯が悪かったのかいつも通りなのかは知らないが、しばらく待たされそうだ。俺は前後を見渡し様子を見ているうちに気にかかることが起こる。
「……ん?」
 俺は前後を見渡している時に目に入った人物がいたのだ。
「あの……」
「は、はい」
 俺は後ろに並んでいる人たちに話しかけた。誓って言うが別にナンパをしているわけではない。ってか……俺は誰に釈明しているのかも分かんねえなとか内心で思いながらも言葉を続ける。
「後ろに連れがいるので、良かったら先にどうぞ?」
 そう言って俺は後ろの女子生徒2人に先を譲るジェスチャーを示した。
「ええ?いいんですか?ありがとうございます!」
「いえいえ……」
 話が分かる生徒で良かったと安心しながら俺はその見知った人物に明るく声を掛ける。
「よお、二宮。お前も普通にこんな行列に並んだりするんだな」
「……」
 二宮は面倒な奴に絡まれたと言わんばかりに表情を歪めた。そんな表情であっても美しい顔立ちが崩れない二宮の素質に驚嘆しながらも俺は話を始める。
「二宮は何を食べようとしてんだ?」
 鈍い反応をされようとも、俺は全く空気を読むことなく彼女に語り掛けていた。
「……」
 しかし、やはり彼女は素直に答える気はないようだ。口を開くことなく沈黙と言う名の返答をする。
「……」
 うーん。どうして彼女はそこまで頑ななのだろうか?過去に何か人間不信になるような出来事でもあったのだろうかと想像を膨らませてしまう。
 俺はちらりと二宮を覗き込むと、彼女は学園カードを手に抱えたままで何も言わずに俺と視線を合わせようとしなかった。
「……って今ちらっと見えたんだが、二宮。お前……学園ポイント90万以上あんの?」
 見えたのは一瞬だったので正確ではないかもしれないが、俺の目が節穴で無ければ彼女はそれだけの莫大なポイントを持ち合わせているようだ。
「……」
 彼女は一瞬俺を睨み、そして再び視線を逸らして、学園カードをポケットにしまった。
 しかし学園ポイント90万以上か。俺が支給されていたのは五万だからその差は十八倍だ。明確に基準が分からないが莫大な数値であることは間違いないだろう。
「次の方どうぞ」
「あ……やべ。っと……」
 俺は食券を食堂のおばさんに渡す。そして、迅速にカレーが配膳されてしまったのだ。後ろには行列が。俺は横に一歩どいた後に彼女に提案をする。
「なあ、二宮。俺はこれから三枝と飯を食うんだけどお前もどうだ?」
「結構よ……」
「お、おう。そうか……」
 彼女の即答ぶりには流石に圧倒されてしまった。そして彼女も配膳されたオムライスをトレイに乗せてどこかへ去ってしまったのだ。
 二宮冬香……あんな風だと本当に心配になっちゃうよな。友達とかいるんだろうか?彼女の今後を不安に思いながら俺は席に戻ることにした。
「待たせたな三枝」
「いいや。食堂が混んでいる以上は仕方ないさ。それじゃあ頂くことにしようか」
「おーけ」
 そして、俺と三枝は騒騒しい学食の中でゆっくりと食事を摂り始めた。
「なあ、三枝?」
「どうしたんだい?」
「二宮ってさ……どんな奴か知っているか?」
 俺がそう言うと三枝は何かを察したかのような反応を見せつつ返答した。
「君が二宮さんを気にするとはね……彼女に惚れてしまったのかい?」
「バーカ。そんなんじゃねえよ。茶化すなよ。ただあいつが気になっているんだよ。なんつーか分かるだろう?」
「うん。君の言いたいことは分かりやすい。彼女が他人を退けて孤独を好むような発言を繰り返し、周囲から嫌厭されてしまっているような現状を問題視しているんだろう?」
「ああ。その通りだ。そもそも二宮は俺と同じように新入生なのか?」
「いいや。君とは違って彼女は中学生枠だよ。君は高校生枠だね。ちなみに僕は小学生枠だね」
「なるほど……そうだったのか。ちなみにだ。お前は今までに二宮と同じクラスになったことはあったのか?」
「中学二年と三年は彼女と同じクラスだったね」
「お前がクラスメイトになった時点で彼女はあんな感じだったのか?」
「そうだね。正確に言えば……もっと酷かったかもしれないね」
「マジかっ!今より酷いって想像つかねえよ……」
 今の状況でも周囲を威圧するようなオーラを放って萎縮させているというのに。
「勿論、暴力を振るったり癇癪を起こすようなことは無かったけれど……もっと人を拒絶して世界を恨むような雰囲気が出ていたね。あの頃の彼女は、とにかく見ていられない程に必死に学園生活を送っていたよ。そう……何かに執着するように……」
「執着?」
「それが何かは僕には分からないさ。だけど彼女は常に必死だった。そして必死だからこそ余裕が無かった。今は少しだけバランス感覚を養っているようだからあんな程度済んでいるけどね」
「そうか……あいつは昔からあんな感じか。……あと一つ質問だ。あいつの学園カードを見たら90万以上溜まっていたんだが、この数値ってやっぱり凄いよな?」
「凄い……なんてレベルではないだろうね。少なくとも、そこまで学園ポイントを蓄積出来た生徒なんて歴代を含めてもほとんどいないだろう。僕だってそこまで浪費癖はないけれど、五十万を超過したことはないからね」
「やっぱりな……」
 とりあえず二宮は学園生活の中で何かに執着しているような過去があった。現状は少しは落ち着いてはいるが、それでも孤高の少女には変わりない。尋常ではない学園ポイントを有している。今のところ彼女についてわかっていることはそんなところだろう。と、俺が思案している時だった。
「やっぱり君は二宮さんにとても関心があるんじゃないのかい?」
「だからそんな性的なというか恋愛的なという訳じゃないぞ?」
「それじゃあ、君はどうして二宮さんにそこまで固執するんだい?」
 三枝の質問は当然と言えば当然だった。だから俺も当然だと考えている理屈を彼女に伝える。
「それは……ああいう奴が放置出来ないんだよ。なんつーか、可哀想だろう?」
「可哀想と言うのは?」
「だって普通自分から孤独になろうとしているような奴なんていないだろう?二宮には絶対過去になんかあって人間不信になっちまっているんだって。三枝もそう思うだろう?」
「まあ、確かに彼女が過去に何らかのトラブルや事件に巻き込まれて、その結果として他人に対する不信感を募らせて人格が歪んでしまったというのは尤もな話かもしれない」
「だろっ!だから俺はそんな風に困っている奴を放置なんて出来ねえんだよ。困っている奴がいたら助けるが俺の座右の銘だからな。とりあえず二宮の一件は俺がどうにかしてやりたいんだよ」
「なるほど……君の行動原理はそういうことか……これはまた面倒なものだね」
「三枝?」
 消え入るような声で彼女はポツリと言葉を呟いたので俺は聞き取ることが適わなかった。
「いいや。何でもないよ。とりあえず君が美人である二宮さんを気に入ってしまったということだけはわかったよ」
「何にもわかってねえじゃねえかっ!頼むぜ三枝。お前まで俺に対する理解が無かったらこの学園はおしまいだよっ!」
 学園内で最も信頼しまともであると思っている人物なのだ。だから三枝にはボケられてしまっては困るというのが俺の偽るざる本音だった。
「櫻井君。君に一つだけ言っておくよ。僕は理事長の頼みによって二宮さんと周囲の軋轢を無くそうと画策したことがあったけれど、あまり上手く行かなかった。だから、もしも君がその問題を解決する意志を持つのだとすれば……十分な覚悟が必要だ。ひとまずそれは念頭に置いていた方がいい」
「お、おう?」
 彼女は俺にアドバイスをくれたのだろう。俺の気のせいか知らないが……三枝の声は少しだけ冷ややかに聞こえたのだ。それは今までとは全く異質な態度のように見えた。
 だから俺は中途半端な反応を返してしまっていた。
「さて……それじゃあ、僕はそろそろ失礼するよ。君も今日は疲れただろう。ゆっくり休んだ方がいいよ。これからも学園生活は続くからね。」
「ああ。ありがとうな三枝。また明日な」
 俺も丁度良く飯を食い終わったので、挨拶もそこそこにして別れることにしたのだった。



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