ガチホモの俺がお嬢様学園に入学させられてしまった件について 

湊湊

6.「一年A組内での自己紹介」



「えー、という訳で……以上がオリエンテーションの説明となります。理事長先生は新入生に対して碌に学園のことを説明してくれなかったからねー。これで大よそは皆さんが理解出来たって先生は信じていまーーーす」


 大よそ学園内の仕組みやシステムについては理解することが出来たが、先生の生ぬるい喋り方は威厳あるべき教師の発声方法とは思えなかった。
 江藤先生は、この学園内での施設の使い方。例えば、昼休みにおけるアリーナや柔剣道場、あるいはグラウンドの使用方法。授業の形態。一日の授業の流れ。放課後の部活動に関する話。そして学園カードの話。
 更にこの学園に入学することによって学生たちは寮生活を送らなければならない。その寮に関する説明などを仔細に述べた。


「何かわからないことはありますかー?」


 柔和な笑みを浮かべながら江藤先生はクラスの生徒達一同に問いかける。俺は一つだけ疑問を抱えていた。
 この学園内では基本的に二人一組で小さな寝室が与えられるようだ。共同生活。そうした経験を通して、他人とのコミュニケーション能力を上げることが目的らしい。
 一日の授業が全て終了するのは大よそ午後十六時過ぎであり、それから午後七時までは基本的に学生は自由な生活を送ることが出来るようだ。
 そして、午後七時からは共同で夕食。それから午後十九時半から午後二十一時までは大浴場での風呂の時間。午後二十二時には就寝。翌日午前六時起床。
 ああ。なるほど理解出来たよ。何とも健康的でいいじゃないか。恐らくこの生活を続ければ健康体になるだろう。別段俺はそれほど不規則な生活を送ってきた訳ではないから、厳しいルールに辟易とすることも少ないだろう。だからその点は安心している。
 だが……俺にとって大きな疑問が二つだけ残されていた。……寮の寝室。そして風呂だ。……これに関して、俺はどのような扱いを受けるのだろうか?
 勿論、常識的に考えれば男子生徒である俺は別離された場所で寝室を与えられ、女子生徒達と違う時間帯で入浴をする。これが常識であり理想だ。
 だが……恐らくその辺りの機微に関してルールを定めているのは江藤先生ではなく、あの忌々しい親父の協力者である理事長だろう。
 だからそこに関して質問したい気持ちはあるのだが……


「誰も質問ありませんかー?」


 間延びした声を生徒達に聞かせながら先生は問う。聞きたいけれど今は我慢だ。どうせこの先生じゃあ分からないだろう。……この問題に関しては後で理事長室とかで理事長を探し出して直接聞くしかないだろう。


「それじゃあ、ここで質問は打ち切ってしまいますね。さて……それでは次に新しいクラスメイト達で自己紹介をしていきましょうかー」


 江藤先生のそんな提案からクラス内で自己紹介をするターンが始まった。


「それではー、最初は緊張しちゃうとは思うけど、五十音順でお願いしますー。まずは……安西さんからですね。それではお願いしますー」


 そうして、クラス内での自己紹介のお時間が始まった。……やはり、こうしてクラス中が注目する中で自己紹介をしていくというのは緊張するようだ。既に中学校とかでも何度か経験しているだろうが、容易に慣れるものではないのだろう。


 しかし、何人かの自己紹介を傾聴している内に俺が気付いたのは、高等部から進学した生徒と中等部あるいは小等部からの中高一貫生とでは、様子が随分と異なっていた。 
 高等部からの新入生では流石に環境の変化や、知り合いがいないことから緊張感があるようだ。だが、クラスを見渡してみると明らかに既知のような関係性の女生徒達もいるようだ。そういう連中は比較的気楽に自己紹介をすることが出来るのだろう。
 どうやら、今自己紹介をしている女もこの学園の付属上がりのようで堂々としていた。


「おっほほっほほっ!高等部からの新入生の方々っ!お初お目にかかりますわ。私の名前は花京院来栖かきょういんくるす。誉れと歴史ある花京院家の嫡女ですの。私と同じクラスになれたことを誇りに思いながらこの学園を生活を
謳歌しなさいっ!おっほほほほほほほほほっ!」


 キャラ濃すぎるだろうっ!……俺は思わずそんな考えを口に出してしまいそうになった。まさか、あそこまでテンプレートに忠実なお嬢様タイプの女がいるとは思っていなかった。流石関東屈指のお嬢様学園。こんな俗世間から乖離したような存在を見ることになるとは。
 ぶっちゃけ今までの女子生徒たちからは、どこがお嬢様学園なんだとか思ったりしたけれど、この女だけは完全に本物だと納得させられた。男女関係なしに俺は興味深い人物を見たことで新鮮な気分に浸った。お前が一番お嬢様っぽいよ花京院来栖。


「素敵ですーっ!来栖様っ!」


「いつものように素晴らしい挨拶でした来栖様っ!」


 花京院の挨拶によって二人の生徒が立ち上がって歓声を上げていた。……うーん。これはあれか。お嬢様に対する取り巻きAとBってところか。
 本当にテンプレートだな。ひとまず無事に彼女の自己紹介が終わったところで、順調に自己紹介が進んでいく。いよいよ「か」行が無事に終わり「さ」行に進み始めた。


「僕の名前は三枝薫です。よく男性と間違われますが、れっきとした女ですのでご安心を。既に付属上がりの皆さんはご存知だとは思いますが、僕は中等部時代にはクラス委員を務めてきたこともあり、中等部の生徒会にも在籍していました。この学園のことで何か困ったことがあれば僕に相談してみてください。きっと力になるでしょう。以上です。一年間宜しくお願いします」


 と三枝の自己紹介は幕を閉じる。……何とも安定感のある奴だった。三枝の自己紹介によって明らかにクラス内で三枝を支持し尊敬するような雰囲気が作られた。
 こうしてリーダ格の人間がいてくれることで、クラスのまとまりを作り統制力を高める要因になることを切に願った。
 そして次は俺を変質者扱いしたくて仕方がない早乙女の番だった。


「えー、次はウチかー。えっとー、ウチの名前は早乙女夢さおとめゆめでーす。ウチは、高等部からの新入生なのでマジで緊張してーます。友達とかいないので誰か友達になってくれるとマジでありがたいですー。後あんまり頭良くないけどマジで頑張っていきたいと思うのでマジでよろしくお願いしまーす」


 軽重な様子を見せつつも、持ち前の明るさとリア充感を醸し出したことで、彼女にはカリスマ性があるようだ。ってか……マジって言葉を何回使うんだって思ってしまったよマジで。
 一見すると軽薄そうな感じもするが、意外とこういう奴に限ってまともだったりするんだよなー。
とりあえず……後は俺のことを変質者からクラスメイトにシフトしてくれれば何も文句を付ける気は無かった。
 そして無事に彼女の自己紹介が終わった。ということは……次は俺の番ということになる。早乙女が席についてから一呼吸おいてから俺は席から立ち上がる。
ぶっちゃけ俺はこういう場面においてあまり事前に話す内容を考えるようなタイプの人間ではないのでぶっつけ本番だ。正直に行こう。


「えーっと……俺の名前は櫻井芳樹って言います。見ての通り、女子ではなく男子です。まず皆さんに伝えておかなければならないことがあります。俺は別段、この学園に下心があっって入った訳ではないと言うことです。先ほどとある生徒から変質者扱いされていましたが、俺は堅実な人間だと自負しています。ですから少なくとも皆さんが想像するような不埒な行動をすることなく誠実な生活を送ることが目標としたいと考えています。何分性別が異なることがきっかけとなり、不自由な部分もあるとは思いますが、俺は皆さんと仲良く過ごしていきたいと思いますのでどうぞよろしくお願いします」


「……」


 一瞬の沈黙に俺は動揺してしまいそうになる。だが――――


「……いい自己紹介だったじゃないか」


 と、俺の二つ前の席から拍手を交わし俺を褒めてくれる存在が。それは他ならぬ三枝だった。三枝が拍手をしたことから俺に対する拍手は連続した。
 はぁー。助かった。一応はそれなりの拍手を貰えたということは多少は信用を得られたのだと俺は肯定的に受け取ろう。


「ふーん。変質者にしては意外とまともな挨拶じゃん」


 少し笑ったようにして一つ前の席に座る彼女は俺にそう言った。


「だから俺は―――」


「わかってるって。なんかごめんね。えっと……櫻井」


「ああ。わかってくれたらそれでいいぜ」


 彼女も随分と素直ではないようだが、一応は俺の存在を認めてくれたようだ。直接的に俺を変質者と揶揄する彼女を落ち着かせることが出来たのだから、十分な成果だろう。一安心をしたところで俺は腰を下ろした。
 そして、和気藹々とした状況の中で自己紹介が続いて行くとも思っているのも束の間。クラス内が凍り付いてしまうような出来事が生じる。
 俺の横の席でまるで空気のように佇んでいた彼女は、ゆっくりと立ち上がる。臀部近くまである長い銀色の髪の毛を揺らしながら、腰を上げる動作すらも優雅だった。
 だけど、その光景にはクラス中の生徒達が畏怖感を募らせてしまうのはやむを得ない。彼女は周囲を拒絶し空気を凍らせる素質を兼ねていた。
 そしてそれと並行するように彼女の美貌は誰をも魅了し心を惹きつける。彼女を目視すると美術館の名絵画を見ているような気分に陥りかねない。
 彼女は美しい声を発しながら、淡々と突きつけるようにしながら自己紹介を始める。


「私の名前は……二宮冬香です。始めての方もいるようなので予め言っておきますが……私からの要望はたった一つです。クラス内での行事や仕事、他には事務的なことにも応じます。ですから……それ以外では私のことは放置してください。私は皆さんと交友を深めるつもりは毛頭にありません。大変失礼な言い回しになりましたが、理解してください。以上です」


「……」


「……」


 誰もがその言葉に沈黙を貫いてしまった。元より危なげな雰囲気が醸し出されていたが、ここまで徹底的な周囲との関わりの断絶を宣言するとは思っていなかった。雰囲気だけではなく言語化された拒絶は強烈なインパクトを形成した。


「……そ、それじゃあ、次の方。お願いしちゃうおうかなー」


 江藤先生の発言が無ければ進行することは困難であっただろう。彼女の発言によって何とか自己紹介の時間は継続された。
 やがてクラスメイト出席者二十八名の自己紹介が終わった。


「さーて……自己紹介も終わったところで、今日のうちにやらなければならないことは……もう大丈夫ですねー。それでは皆さん。午後からは校舎全体を用いて部活動の勧誘のお時間となります。部活動に興味ある方は、ふるって色々なところに参加してみてくださいねー。寮についての制度、その他学園内での不明な点などがあったら先生は学年室にいると思うので自由に聞きに来てください。明日の始業は8時からですよー。絶対ーーーに遅刻しないでくださいねー。それじゃあ……お疲れ様でしたー」


 クラス委員などの号令がないことで少し寂しいような気もするが、無事に本日のオリエンテーションが終了し放課後を迎えたようだ。
 それにしても……部活動紹介かー。俺の中学では全校集会を行ってその中で部活動紹介が行われていたが、どうやらこの学園ではシステムが異なっているようだ。


「とりあえず……」


 まあ、部活動なども気にならないと言えば嘘になるがそれよりも先にまだまだ色々と理事長には聞かなくてはいけないことがあるのだ。
だからそれが先決だろう。俺が配給された鞄を片手にして席から立った時のことだ。


「やあ、お疲れ様」


 三枝は俺に優しい声色で労いの言葉を交わしてくれた。


「ああ。今日は本当に疲れたぜー。でも、三枝のおかげで何とか最低限の人権は得られたような気がするよ。ありがとな」


「ううん。僕はそんなに大したことはしていないよ。君が上手く言葉を選べたのが功を奏したんだよ」


 自分を謙遜し、人を持ち上げる配慮が出来る三枝には増々好感を持ってしまう。やっぱりこいつは根っからのいい奴なんだろうな。


「そう言えば……三枝は部活動とか入る予定はあるのか?」


「僕かい?僕は中学生時代に続いて演劇部に所属しようと思うけれど……君も何か興味があるのかい?」


「いや……興味ないって言えば嘘になるけどよ。とりあえず……それよりも先に処理しなければならないことが沢山あるからな。そっちを処理することで手一杯そうだ」


「君も何やら大変そうだね」


「ああ。話せば長くなるがこの学園に来るまでの経緯はそれはもう面倒くさいことになっているんでな」


「今はもう教室を出ようと思うんだけれど、今度良かったらその話を聞かせて欲しいね」


「ああ。じっくり聞いてくれよ」


 三枝はちらりと教室の少し高い位置にある時計を一瞥し、その後に俺に告げる。


「それじゃあ櫻井君。また明日ね」


「ああ。また明日ね」


 軽く手を振って三枝と俺は別れた。


「さーて俺も行くかー」


 既に教室からほとんどの生徒の姿はなくなっていた。
 俺の隣の……二宮は……っていつの間にかいねえし。……彼女のことも色々と気になってんだけどなー。
 ああ、別にそういうことじゃねえけどさ。とりあえず、あの感じじゃ完全に孤立してそうだからな。流石にもうちょっと経過観察して対処してあげるべきなのだろう。
 教室の隅の方では、比較的チャラそうな連中が集まりお喋りに興じていた。そこには早乙女の姿もあった。


「じゃあな早乙女。また明日」


「あー、うん。ばいばい……えっと……」


「櫻井だ。覚えといて貰えると助かるぜ」


 恐らく彼女の中で俺の名前を認識していなかったのだろう。即座に変質者と呼ばない辺りは多少の成長が見られたというわけだ。


「そうそれ。櫻井―――――また明日ね」


 一見適当そうで軽そうにも見えるが、微妙に下手くそな様は彼女の個性なのだろう。
 俺は軽く手を振り早乙女と少しだけでも仲良くなれたことを嬉しく思いながら教室を去った。



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