ガチホモの俺がお嬢様学園に入学させられてしまった件について
2.「非日常への幕開け」
「お兄ちゃんー起きてる?」
「……」
あの卒業式のことを思い出すと、今でも胸が締め付けられるような思いになってしまう。
初めての告白。俺は今まで何人かの女の子に告白されてきた経験はあった。だけど、どこかしっくりと来なかったことで、その全てを無下にしてしまっていた。
実際に俺が無下にしたつもりなんて無かったが、相手側からすれば残酷なまでに無下にされてしまったというのが実際的な心情なのだろう。
―――――まさかここまでフラれることがキツイだなんてなー。
その認識だけが足りていなかった。あの日。あの素晴らしき時に俺が完膚無きまでに否定されてしまっ
たのには明確な理由が存在していたようだ。
「大前提として俺は普通に女が好きなんだよ。だからお前とは付き合うことなんて無理だろ?だって俺もお前も男なんだからよ」
恭平はどうやら同性愛には抵抗があるようだ。まあ、気持ちはわからんでもない。俺だって『あの事件』があるまでは、自分がこうして男を好きになることがあるだなんて思いもしなかった。
『あの事件』……正直な話、あれを語ることは今でも堪える部分があるが……確かなことは、あれを契機にして俺は男性のことを好きになり、そして女性に対して恐怖心を抱くようになってしまった。
「お兄ちゃんっ!聞いているの?もうご飯の時間だから皆で食べようよっ!」
「……ああ。わかったよ」
流石に俺もいつまでも愛らしい妹の要望を無視するわけにはいかない。俺は妹に先導されながらリビングのある一階へと降りていくのだった。
やはり、心が沈んでいたとしても家族の顔を見るのは、何よりの幸せだろう。生物学的には、妹は女であるが、家族の場合であれば俺は何とか平然と対応をすることが出来る。
勿論、尊敬する母親も同じことだ。家族であれば俺は平然と対応できるのだ。やはり、家族とは素敵なものだな。何となくそう考えてみると傷心は少しだけ楽になったような気がする。
それなりに広いリビングに辿り着くまでは、俺と妹は兄弟仲良く談笑をしていた。
「ねえ、お兄ちゃんは四月から美浜高校に進学するんだよね?」
「ああ。そうだよ」
「あのねー。私も次年度からは三年生だからさ。そろそろどこに進路をするか決めようとしていたんだよ。お兄ちゃんと同じように美浜高校にしようかなって思っているんだけど、どうかな?」
「あー、まあ、別にあんまりおすすめしないかな」
俺が否定的なことを言うと我が妹は不思議そうな顔をしながら俺にその意味を問う。
「そうなの?どうして?」
「俺の場合は通いやすくてそれなりに偏差値が高い高校を目標としていただけだからな。チャラい連中も多そうだから、お兄ちゃんとしてはもっと健全で真面目そうな高校に進学して欲しいって考えているんだよ」
千葉市立美浜高校。俺が住む美浜区の中でもそれなりの進学校として有名だ。偏差値は六十を少し超えているくらいで、稀に東大進学する人物もいるとかいないとか。自宅から徒歩二十五分。自転車で行けば十五分とかからないだろう。俺の場合、将来は安定した地方公務員を目標としているから、美浜クラスで適当に勉強して、推薦取って難関私立大学に合格が当面の目標なのだ。
やはり、今の時代は公務員こそが至高だろう。そう安定した真面目な職種が一番堅実であるのだ。
「ねえお兄ちゃんはさ。美浜高校には思い入れはあったりしないの?この高校に絶対に入りたかったみたいな」
「ああ。それは、受検に落ちちゃった連中に申し訳ないけど無いな。例えば仮に他の高校に転校しなければならないみたいな突拍子のない事件に遭遇しても別に気にはしないし」
「ふーん。そっか。そっか。それじゃあ、問題ないよね……」
今、俺の妹が大変卑しい表情を浮かべたような気がしたが、最後の方は小声になっていることで聞き取ることが出来なかった。
「ん?悪い。聞き取れなかったからもう一回言ってくれ」
「ううん。何でもないよー」
明るく朗らかな声で妹はそう誤魔化した。もしかしたらあまり言及されたくなかったことかもしれないから、言及するのは辞めておいた。俺は気遣いが出来る兄なのかもしれない。
さて、幾ら家の敷地がそれなりの大きさがあるとはいえ、所詮はリビングに向かっているだけだ。すぐに目的地には辿り着いてしまう。
「おかーさんっ!お兄ちゃんを連れてきたよーっ!」
「あら。ありがとう雫ちゃん。芳君も席について」
「ああ」
俺は母親の言う通りに静かに腰を下ろす。既に出来上がり配膳も済ませてある夕食の匂いは香ばしく俺の食欲を強く誘った。
「それじゃあ今日も家族仲良くお食事を……と言いたいところなんだけれど……実は今日はスペシャルゲストがいるのよ」
母さんは大層素敵な笑顔を浮かべた。……なんか既視感があるんだよな。こんな風に母親が肌に艶を見せるようなことなんて……いやいや、まさかな。このタイミングで『あいつ』が家に帰って来るなんてことは無いだろう。
しかし、この世に神などおらずに、慈悲は存在しないのだろう。俺の祈りは告白した時と同じように俺の祈りを容赦なく粉砕した。
「今帰ったぜっ!俺の愛すべき家族たちよっ!」
何故か大仰な言い回しをしながらその男は部屋に入って来る。俺がリビングに降りてくるタイミングに合わせたのか知らんが、絶妙なタイミングなので苛立ちが募ってしまう。
「おとーさんっ!おかえりなさいっ!」
「あなた……久しぶりね。元気にしてたの?」
「いやー。結構大変なことも多かったけどよ。愛すべき母さんと雫の顔を思い浮かべていたら、インスピレーションが湧いてよ。何でも出来そうだったぜっ!」
「すごーい!流石お父さんっ!」
母さんと妹は見事なまでにその来訪者に対して甘えていた。母さんも妹も、親父の身体に抱き着いていた。それを親父は子供をあやすかのようにして、対処をする。
「ちっ……何でこんなタイミングで帰って来るんだよ親父?」
俺が悪態をつくと、親父はシニカルな笑みを浮かべ、俺の方を向いて言葉を発する。
「ん?何だ。どうしたのだ。我が息子よ。いつものように『パパリーン~』っといって俺に甘えながら抱き着いてくるタイミングだぜ?ほら、来ないのか?」
「誰がそんなことしたことあるんだよっ!まるで会う度にやっているように聞こちゃうだろうがっ!」
「ええ?」
「その大仰なリアクションは辞めろっ!腹立つわっ!」
「うーん。どうやら、我が息子は反抗期を迎えているようだ。パパリンショックっ!」
「気持ち悪い一人称を使うんじゃねえよっ!あんたがやっても可愛くないわっ!」
ついでにポーズまで取るのが本当に人を苛立たせる天才だった。
櫻井堅一郎。「堅実さ」なんて欠片も無い癖に名前には「堅」という漢字が含まれているのは最高の皮肉なのだろう。年齢は大体四十歳(こいつの年齢を正確に覚えることは恥なので)。職業は芸術家。俺からしてみれば、ただの高等遊民だろうとしか思っていない。
本当にムカつくことではあるが、どうやら芸術の世界――――特に絵画の分野では名の知れた作家のようだ。そんな親父は、インスピレーションを働かせるために家を離れて各地を奔放としているようだ。
時にはエジプト。時にはアフリカ。翌日には日本に帰国し北海道。そんな奔放な生活を送っていることで基本的には在宅の時がほとんどなかった。その癖、金だけは持っていて母さんの銀行口座は常人では一生稼ぐことが出来ない程の額が入金されることも多いようだ。
「さあ、折角家族が四人揃ったんだ。今日は朝まで飲み明かそうぜっ!」
「家族四人揃うってあんたが家に常駐していればいつでも達成されるんだがな。ってか、朝まで飲み明かしなんてしねえし、そもそも未成年二人いるしで、ツッコミどころ多すぎるだろう」
「やかましいバカ息子のことは放置して乾杯っ!」
『乾杯っ!』
「……」
このクソ親父は、家におらずに母親に育児を完全放置している放任主義の癖にやたらと、女性からの支持は圧倒的なのだ。母親も年甲斐もなく父親を慕っているようだし、妹も同様のようで「将来はお父さんみたいな人と結婚したいな」とぼやくこともある。
全くこんな親父のどこがいいんだか全くわからん。俺が公務員を志望している一番の理由はこんなだらしのない大人になりたくないと思っているからだ。例え、若いうちは安月給だったとしても、伴侶と手を取り合って生活を送りたい。まあ、具体的に伴侶と言えば、恭平以外は思い浮かばないんだけどな。
「んでだ。かくがくしかじかで日本に帰って来たという訳だ」
「いや、かくがくしかじかってそのまま言われても分かるわけねえだろ」
「かぁっ!どうして俺の息子はここまで馬鹿に育ってしまったんだ」
頭を抱えるような仕草を取る親父。……マジで一発とは言わずに百発くらい殴らせて欲しいものだ。
「しょうがねえな。ちゃんと説明してやろう。実はちょっとした用事が日本に帰って来たんだよ」
「ちょっとした用事?なんだよそれ?」
「お前のことが心配だったんだよ。どうやら、好きな奴にフラれて落ち込んでいたようじゃねえか。折角の春休みだって言うのに対して外出もせずに、適度に勉強と遊びに行くだけ。こりゃ時間が勿体ないぜ?」
ここしばらくは、日本に逗留していたかのすら曖昧な親父にしては、やけに俺の情報を知っている。勿論その理由はただの一つしかないだろう。
「……ったく母さんも雫も少しばかり口が軽すぎないか?一応は俺のプライベートのことだぜ?」
「ごめんね芳樹君。でも、お父さんに聞かれたら答えたくなっちゃうし」
「そうだよねー。何かーお父さんって人から話を聞き出すのが上手なんだよねー。そんなところもかっこいいっ!」
誠に遺憾ながら親父は本当の本当に母さんと妹に好かれている。俺もかなり仲がいいとは自負しているが、親父だけは別格で慕われている。世界とは本当に理不尽だよなー。
「馬鹿息子めっ!お前にプライバシーは存在しておりません。残念でした~。ねえ悔しい?今どんな気分ですか?惨めですか?」
完全に煽るような姿勢を見せた親父に再びおれはイラッという感情を抱いてしまう。
「やっぱり一発殴らせろ親父」
「タハハハハハっ!俺の息子は本当に元気がいいなっ!俺の息子といい勝負してんじゃねえか?」
「なに息子相手に恥ずかしげもなく下ネタ言ってんだあんたはっ!」
絶好調に最低な親父だ。っつーか、家族の前で言うネタじゃねえだろマジで。
「でもよー。お前の息子は元気してんのか?どうやら件の一件で暫く元気していないようじゃねえか?」
しかも下ネタ的な会話を繰り返しやがった。最低だなこいつ。仕方がないので乗ってやることにした。
「……んだよ。その通りだよ。少なくとも女を見ようが反応しねえよ」
あの一件を境にして、俺は機能不全になってしまっていた。親父はそれを指摘しているのだろう。
「それじゃあ、まだやっぱり女に対しても興奮しないのか?」
「……それ今しなきゃダメな話なのか?」
「ああ。俺程の男は常に時間に追われているからな。明日からしばらく家を空けることになるし」
「ええっ!お父さんもういなくなっちゃうの?~もっとゆっくりしていけばいいのに」
「そうよ。まだあなたと話したいことが一杯あるんですから」
「タハハハハハっ!モテる男は辛いな芳樹」
軽口を叩いた後に、いつもより少しだけ真剣な面持ちで俺に問う。
「……」
「で、話を戻そう。どうなんだ?」
「……ああ。駄目だよ。女には全く興奮しねえんだよ。逆に男に対しては、結構興奮したりも出来るんだがな」
『あの一件』。それは俺が生死を彷徨うという体験を通して起こった心理変化である。一つは、女性に対して恐怖心を抱くようになってしまったこと。
もう一つは、女性に対する性的関心が根こそぎ、男性に対する興味に移り変わったことである。そうした変異によって俺は少しだけ世間一般の人間とはかけ離れた立ち位置にいることになってしまったのだ。
とはいえ、そこまで日常生活において困ったことは存在していない。まあ、恭平に告白してフラれたことは、ショックがでかすぎたが逆に言えばそれだけの話なのだ。
「そうかそうか。わかったよ。それじゃあ、少し話を変えよう」
「ああ」
「お前は、美浜高校の前期入試に合格をしたことで、来月から美浜高校に通うんだよな?」
「ああ。その通りだよ」
先ほど雫にも同じようなことを聞かれたな。今日は三月三十日。美浜高校の始業式は四月七日。大体後一週間後くらいからは、俺は晴れてそんなに期待をしていない高校に通い始めることになる。既に新学期に備えて予習はしてあるし、ノートや筆記用具。それに制服も手配済みで恐れることなど何もない。
SNSで、適当に知り合った連中ともメッセージの交換もしているし、同じ中学出身の奴の連絡先も持っているしな。完璧だ。何の問題もないだろう。
「なあ、もし……お前が美浜高校に通えなくなるって言ったらどうする?」
「雫と同じような質問をするんだな。答えは別に構わねえだよ。そんなに思い入れがあるわけでもないし、必死こいて勉強して受かった高校ってわけじゃないし」
通っていた塾の模試でも夏の時期には既に合格率八十%は安定していたし、正直ぬるいというのが実際のところだった。
しかし……どうして、こうも何度も雫と親父は俺に問いただすのだろう。まさかとは思うが、本当に転校などで俺は美浜高校に進学することが取り消しになるのか。
既に雫は親父からその情報を聞き入れ、他の中学校に行く手筈が整っている。そんでもって、俺に最終確認を取っている。そういうことなのだろうか?
俺が思考をしていると、親父はニヒルな笑みを浮かべて手で三角の模様を見せた。
「それが聞ければまあ十分だ。そして、恐らくお前が考えていることは半分は正解で、半分は不正解だ。まず、正解の部分としてはお前には美浜高校とは別の高校に進学して貰う手筈になっている。まあ、お前が今この瞬間に美浜高校にどうしても行きたいと俺に嘆願していれば物語の行く先は大きく変貌していたんだろうけどな。だが、残念ながら既に物語は一つのルートに収束されてしまった。まあ仕方がないな」
「……何それっぽいこと言ってんだよ親父。もっと普通に喋れよ」
それとなく芸術家と厨二病を足し合わせたような言いまわしに俺は不快感を覚える。続けさまに親父は俺に告げたのだ。予想の範疇を越えるような事実を。
「実は今回の一件をお前から承諾を取るまでに母さんと雫は勿論、各方面の人にも承諾を貰ったりしている。ぶっちゃけ事情を話せば、お前の周囲の人間は大体協力してくれるそうだ。良かったな芳樹。意外とお前には人脈があるじゃねえか」
「……だからその遠回しな言い方は辞めろよ。ってか俺の周囲の人の承諾?なんで別の高校に通うことにそんなに大掛かりなことになってんだよ」
「実際に前代未聞のアプローチで、莫大な金と権力も動いているからな。仕方ねえだろう?」
「……で、俺はどこの高校に行かされることになるんだ」
「まあまあ、早い男は嫌われるぜ?そう急ぐなって」
「だからその下ネタ辞めろって……」
もう既に今日だけで俺の心中では、親父の好感度メキメキと低下中だぞおい。
「お前が通うことになる高校は……お前にはまだ秘密だ。ああ、勿論母さんと雫には既に伝えてあるから安心しろ」
「いやー、でもお兄ちゃんもあそこに通えるのは羨ましいなー。だってあそこは偏差値七十越えてて普通に勉強していたら受からないもん」
「偏差値七十っ?」
流石に俺も嫌な汗を掻かざるを得なかった。どうして六十と少しの高校からそこまでグレードアップしてしまうというのだろうか。
「親父……ってか、そんな高校に編入とか無理に決まってんだろう。普通編入とかっていうのは、低ランクの高校に行くのが前提で……」
「大丈夫だ。既に合格通知は貰っているからな。ほれ、見てみろ」
親父は持っていた高級そうな黒いエナメルケースから一つの書類を俺に見せる。ただし、手でどこの学校なのかはひた隠しにしていた。
「櫻井芳樹様。あなたが本学園に入学をすることを許諾します……か。確かに合格してはいるみたいだな」
「さーて……書類を見せるのはともかく……後は、そうだ。これもお前に聞かせとかないとな」
親父は更にエナメルケースから物を取りだす。そこには――――――
「しまった。これは大人のおもちゃだった。すまんな芳樹」
「すまんじゃねえっ!変な物を見せるんじゃねえっ!」
最低過ぎんだろうこの親父。
「本当に取り出したかったのはこれだ……」
「レコーダー?」
親父が取りだしたのは小型のICレコーダだった。恐らく普通の市販で扱われているもので数千円程度の代物なのだろう。
「ここにはお前の唯一無二の親友である渋谷恭平君からのメッセージが届いてるぞ。まあ、冥土の土産だと思って聞いとけよ」
「冥土の土産って物騒な……」
と俺がツッコんでいるのを無視するようにして親父はICレコーダの再生を開始した。
「あ……あ……聞こえているか芳樹」
「おうっ!聞こえているぞっ!」
最愛のその人物の声に俺は思わず声を漏らしてしまう。……んだよ親父。笑ってこっちみてんじゃねえぞ。
「あー多分聞こえていると信じて俺はお前に伝えておこう。そのなんだ……まあ、あの日俺がお前に伝えた通り俺は同性愛者じゃない。だからお前の気持ちは受け取れない。だけど、お前と俺はそれでも親友だって信じている。覚えてっか?俺とお前が出会った当初のこと」
「ああ……勿論覚えているぞ」
それは俺がまだ『あの一件』に遭遇する少し前のことだ。中学三年生の時に俺は初めて恭平と同じクラスになった。当時のあいつは、不良として学校や地域に名を連ねていた。
そして、非行に走り周囲にも迷惑ばかりかけていた。あいつと出会った中学三年生の四月。クラスでは、生徒同士のお遊びで窓ガラスを割ってしまうという事件が発生していた。
そして、窓ガラスを割ったかつてのクラスメイト達は、それを自分たちではなく荒れていた恭平がやったかのように画策をしたのだ。
教師も事実を知らないクラスメイト達は散々と恭平を非難した。恐らく中学生が思いつく限りの言語と方法で裏では罵倒していたのだ。
だが、流石にそれは許されることではないと思った俺は教師に真実を告げたのだ。最初は半信半疑だったようだが、それなりに優等生として通じている俺の発言に嘘はないと教師も信じたのだろう。そして、結果的に恭平の無罪は証明されることになったのだった。
そんなことがきっかけで俺は恭平に恩を作り、仲を深めることになったのだ。とはいえ、その後もしばらくは恭平の態度は緩和することなく荒い態度は続いたがな。
「色々とお前にはお世話になったことで俺は本当にお前に感謝をしてるんだぜ。だから、今度はお前に救われて欲しいって俺は思っている」
「恭平?」
「最初は反対したい気持ちもあったんだがな。だってよ。流石に荒療治過ぎるって思ったからな。だけど……お前の親父も結構ふざけているように見えて真剣に考えているようだぜ?いや……やっぱりふざけている成分の方が多そうだけど」
「……」
いまいち要領の得ないその発言に俺はもどかしさを感じてしまう。
「ってなわけで……聞いたところによるとお前とは三年間会えなくなるのは正直に言って寂しいけどよ」
「三年間?待て待て、どういうことだっ!」
聞き捨てならない発言を聞いてしまい俺は思わず動揺を隠せない。親父も母さんも雫も何とも余裕そう
な態度で聞き及んでいるのが釈然としないというか腹立たしい。
「けど、その期間の間でお前が『あの一件』のトラウマを解消出来たとしたら……それ程までに嬉しいこともねえからさ。だからしばらくはお前とはお別れだ」
「……ちょっと待ってくれ。お別れって一体っ!?」
「お前があの学園を卒業したらそん時は酒でも飲もうぜ。別に大学生なら飲んでも構わねえだろう?ま、俺も高校でもしっかり健全な友達作って大学に特待でいけるようにして、大学はお前と同じに合わせられるように頑張るからよ。お前も元気に過ごせよ。そんじゃあな」
そこで無慈悲にも録音は終了してしまったようだ。
「……」
俺は茫然とするしかなかった。意味が分からない。頭の理解が追いつかない。だが、親父は急かすようにして俺に告げた。
「さて、母さんと雫も最後に何か告げておきな。もうここでしか伝えることは出来ないからな」
「そうね……芳樹君。きっとこれからの生活は大変なことも多いかもしれないけれど、頑張りなさい。あなたなら絶対に乗り越えることが出来るから」
「私も中学校で勉強頑張ってお兄ちゃんと同じ学園に通えるに勉強するから待っててね。そして、先輩として色々教えてくれたら嬉しいな」
「いやいや、本当にどういうことなんだよ?意味わかんないってっ!」
情報が錯綜していて状況の理解が極めて困難だった。
「それじゃあ、後は頼んだぜ」
親父は外に向かって軽く叫び出す。すると―――――
「……っ!はあ?」
俺はそんな漫画のようなあり得ないリアクションを取ることしか出来なかった。今まで親父はいつだって、奇想天外なことをして生きていた。それに巻き込まれて幾多の艱難辛苦によって苦心惨憺してきたというのは事実だ。だけど、流石にこれは意味不明だろう。
リビングの扉からは、多数の黒い服を着た屈強そうな男達が乱入してくる。死角はない。出口となる扉は塞がれ、俺は四方八方に囲まれてしまう。ちなみに、黒服の男達はムキムキで存外嫌いでは無かった。
「なあ親父。実は俺言ってなかったんだけどよ。実は美浜高校に憧れていてさ。あの高校には、立派な桜並木があるだろう?その桜並木の下で女の子に告白すれば、その男女は一生結ばれることが出来るって話があるみたいで、それに憧れているからやっぱり、美浜高校に進学したいなーなんて思ったりしているんだけどどうかな?」
俺が冷や汗たっぷりでそう言うと、親父はにやけ面をしたまま俺に言い放つ。
「うーん。ベタ過ぎて十点も上げられないな」
「まあ、そうだよな……」
「それじゃあ、芳樹。夢の学園生活を頑張れよ。安心しろ。……雅や薫は本当に良く出来た奴だからな」
そうして、俺は親父のわけのわからない策略に乗るしか術は残されていなかったのだ。その後の記憶は闇の中へと消えていった。
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