君と俺の一年

星河☆

ホワイトクリスマス

 まりあが入院してからもう2ヶ月。
 クラスではまりあが重病患者なのではないかという声が上がったが担任の前田が否定してくれた。
 まりあはただの体調不良で入院している。
 そう説明した。
 募金は未だ数万しか集まっていない。
 まりあの病状も悪化してきている。
 それでもまりあは俺が顔を出すといつもいつも笑顔で俺を出迎えてくれた。
 俺の小説を褒めてくれた。
 まりあは辛いはずだ。
 毎日薬を飲んで点滴を入れて。
 それでも俺を笑顔で迎える。


 今日はクリスマスだ。
 まりあにプレゼントを買って病院に向かっていた。
 匠達は俺に気を遣ってくれて今日は来ない。




 「メリークリス……」
病室に着き、メリークリスマスと言おうとしたがまりあは寝ていた。
 まりあのお母さんが立ち上がって
 「ごめんね! 来てくれたのに! 薬で眠っててさ……」
お母さんの顔を見ると目には隈が出来ていた。
 お母さんもずっと最近家に帰らず病院で寝泊りしている。
 「お母さん。病院には俺が居るのでお母さんは家で少し休んでてください」
俺はお母さんにそう言うと
 「でも……うん。そうさせてもらうわ。よろしくね……」
そう言ってお母さんは出て行った。




 俺はまりあが寝ているベッドの隣の椅子に座った。
 まりあはスヤスヤ寝ている。
 この寝顔を見る限りはまりあが重病なんて思えない。
 ただ、疲れて眠っているだけに見える。


 まりあの寝顔を見ていると俺まで眠くなってきた……






 「……河君! 星河君!」
驚いて飛び起きた。
 寝てしまっていたようだ。
 まりあを見ると笑って俺を見ている。
 目をこすってあくびをすると
 「星河君も疲れてるんだね!」
まりあは笑って言った。
 「ごめんごめん! ついつい寝ちゃった! 体調どう?」
 「大丈夫! お母さんどこ行ったの?」
まりあがお母さんが居ない事に気づいて聞いた。
 「うん。疲れてたみたいだから家で休んでもらってるよ! 今日は俺に任せろ!」
俺が張り切ってドンと胸に拳を当てると咳が出てしまった。
 「もう! 大丈夫?」
笑って言って俺の背中をさすってくれた。
 「ごめん! メリークリスマス!」
俺がそう言ってプレゼントを出した。
 俺が作った熊のぬいぐるみだ。
 丹精込めて1から作った。
 母さんに教えてもらいながら縫った。


 「わぁ! 凄い! これどうしたの?」
まりあは喜んで笑って聞いた。
 「俺が作ったんだよ! 前にぬいぐるみ好きって言ってたからさ!」
俺が笑って言うと
 「凄く嬉しい! ありがとう!」
そう言ってぬいぐるみを抱きしめた。
 良かった……喜んでくれた………
 まりあの嬉しそうな笑顔を見て俺も笑顔になった。


 「あのね! 私も星河君にプレゼントがあるの!」
まりあはそう言ってベッド脇の紙袋を俺に渡した。
 「何? 開けて平気?」
俺がそう聞くとまりあは頷いた。


 開けてみるとそこには時計が入っていた。
 銀の時計で、そんなに高い物ではないだろうが凄く嬉しい。
 「まりあ、ありがとう! 大切にするよ!」
俺は笑顔でまりあに言った。
 まりあは笑顔で嬉しそうに
 「気に入ってくれた? つけてみて!」
そう言って促した。
 時計をつけると俺のサイズにピッタリ合っている。
 「本当にありがとうね!」
まりあに改めてお礼を言った。
 一生大切にする。
 例え壊れたとしても絶対に大切にする。
 まりあを見るとまだ嬉しそうに俺のあげたぬいぐるみを抱いている。




 「まりあ、俺さ……本当に小説家目指そうかなって思ってるんだ! 昨日の授業で将来の夢を語る授業があったんだけど俺は小説家って書いた! 応援してくれる?」
プレゼント交換から30分程経って二人の興奮が収まった頃に聞いた。
 「うん! 勿論! 星河君なら出来ると思うよ! 応援する!」
まりあは満面の笑みで言った。
 「じゃあ、まりあは俺の小説を読むために長生きしないとね!」
俺がそう言うとまりあの顔が一瞬曇ったが直ぐに
 「そうだね! 頑張る!」
まりあ……本当に諦めないで欲しい………
 俺がまりあに出来る事は限られているが、俺はまりあに出来る事は何でもする。
 その一つとして俺は小説を書き続けてまりあに見せる。
 その小説でまりあが笑顔になってくれるなら………


 突然まりあが咳き込んだ。
 「大丈夫?」
そう言って俺はまりあの背中をさすったが咳は収まらない。
 いつもの咳と少し違った。
 ナースコールを押して看護士と医者を呼んだ。
 「まりあ! 大丈夫? 先生直ぐに来るからね?」
そう言って励ますが一向に咳は収まらない。
 何でだよ……
 まりあは辛そうに咳を続けている。


 医者と看護士が駆けつけてきた。
 直ぐに吸入器を出して吸入させ、注射をした。
 するとまりあは咳が収まり息を整えた。


 「大丈夫? どっか辛い所ある?」
俺は聞くがまりあは何も言わずに首を振っている。
 こんな時に俺は本当に無力だ……
 仕方ないのかもしれないけど俺自身何も出来ないのは辛い。
 それ以上に辛いのはまりあなのだが……


 「ありがとう……大丈夫だよ……」
落ち着いたまりあが言った。
 俺はポーカーフェイスというものが出来ない。
 だからいつも何かあると顔に出てしまう。
 多分今もそんな顔をしているのだろう。
 「あのね……諦めている訳じゃないんだよ? でもね、もうダメみたいなの……」
まりあが突然言った。
 何でそんな事を………
 「まりあ………俺……」
これ以上何も言えない……
 言葉が思いつかない。
 やっぱり涙が出てきてしまった
 「思い通りにいかないものなんだね……私、前まで死んだって良いって思ってたけどね、星河君に出会って、新井君たちと仲良くしてもらって凄く生きたいって思ったの。でもこんなに悪化してさ……一度生きる事を諦めた人には神様はチャンスをくれないのかな……生きたいよ…………」
まりあもそう言って涙を流した。
 まりあも当然生きたいはず。
 本当に神様はチャンスをくれないの?
 こんなに生きたいって言ってるのに……
 俺とまりあはしばらく泣き続けた。
 静かに………






 「まりあ、生きて俺の夢を一緒に叶えて? 神様はチャンス与えてくれる。絶対に」
落ち着いた俺はまりあに向き合って言った。
 「絶対に諦めないよ! 約束する。絶対に」
まりあは強く頷いて言った。
 外を見ると雪が降っていた。
 「ホワイトクリスマスだね……」
まりあが感慨深そうに言った。








 「星河君! ごめんね! 寝過ごしちゃった!」
しばらくまりあとテレビを見ていたらまりあのお母さんが走って入ってきた。
 「いえ、とんでもないです!」
そう言って立ち上がり
 「じゃあねまりあ! また明日来るから!」
俺はそう言って立ち上がってお母さんに頭を下げて病室を出た。




 俺はまりあに約束した小説家になるために書き続ける。
 まりあも頑張っているんだ……
 俺もしっかりしなきゃ!
 俺は両手で顔を叩いて気合を入れた。








 「お帰り! プレゼント喜んでくれた?」
家に帰り、リビングに入ると母さんが言った。
 「うん! 結構嬉しそうにしてた! 母さん! ありがとう!」
照れくさいがお礼を言った。
 まりあが重病だと話してから色々協力してくれるようになった。
 母さんは少し顔を赤くして
 「何よ突然。お母さんに出来る事があれば何でもするわ」
笑ってそう言った。
 あ! そうだ! と言って再び俺を向いて
 「前田先生から電話があって話したい事あるから明日の朝一に職員室に来てくれって言ってたわよ」
 「そっか……ありがとう」
そう言って俺は自室に行った。
 話って何だろう……
 まさか募金活動が集まらなくてダメになったとかじゃないよな………
 変な心配が頭をよぎり急に不安になってきた。




 まぁ、明日前田が話してくれるか………

「現代ドラマ」の人気作品

コメント

コメントを書く