君と俺の一年

星河☆

活動開始

 1時間半程バスに揺られて埼玉中央病院に着いた。


 病院の前にある花屋でピンクの胡蝶蘭こちょうらん、赤のアネモネ、紫のアネモネ、ペチュニアを花束にしてもらって買った。




 「すみません。渡辺まりあさんが入院していると思うんですが……」
入院受付でまりあの病室を聞いた。
 「渡辺さんは4階の408号室です」
受付嬢が教えてくれた。
 お礼を言ってエレベーターに乗った。






 ここか……
 コンコン……
 ノックをすると中からはいと聞こえた。
 「失礼します! 星河です!」
そう言って入ると
 「あら! 星河君! 来てくれたのね! ありがとう!」
まりあのお母さんがそう言って花束を受け取った。
 「星河君! 来てくれたんだ……ごめんね、迷惑かけちゃって……」
まりあはそう言ってベッドで座った。
 「まりあ! 約束覚えてないの? 迷惑になるとかそういう事言わないって言ったでしょ?」
俺が眉をひそめて言うと
 「そうだった……ごめん。来てくれてありがとう!」
まりあはそう言って笑顔になった。
 良かった……元気そうだ……


 「星河君も粋ね~! 胡蝶蘭にアネモネにペチュニアなんて!」
お母さんが水汲みから帰ってきて言った。
 お母さんは花言葉を分かっているようだ。
 少し恥ずかしい……
 そんな俺の顔をまりあが見て
 「星河君どうしたの? 顔赤くなってるよ?」
まりあはそう言って笑った。
 そりゃ、赤くなるよ……
 花言葉分かる人が居るとは思わなかったからね……
 ピンクの胡蝶蘭の花言葉は『あなたを愛しています』
 赤のアネモネは『君を愛す』
 紫のアネモネは『あなたを信じて待つ』
 ペチュニアは『あなたと一緒なら心が和らぐ』
 なのだ。
 まりあは花言葉を知らないから安心して持ってきたのにまさかお母さんが知っていたなんて……


 「何でもないよ! それより体調はどう?」
話を逸らしてまりあに聞くと
 「うん……大分進行しちゃってるみたい……」
まりあは少し暗い顔になった。
 「でも、星河君に諦めないって言ったから諦めないよ!」
そう言って笑顔になった。


 「ねぇ、まりあ……この紫のアネモネの花言葉って知ってる?」
まりあのお母さんが花瓶に活けてくれた紫のアネモネを指差して聞いた。
 いつの間にかまりあのお母さんが居なくなっている。
 気を使ってくれたようだ。


 「う~ん……紫だから……毒々しいとか?」
いたずらっぽく笑ってまりあは言った。
 ううん。と俺は首を振って
 「あなたを信じて待つ。そういう意味だよ。俺はまりあが治るのを信じて待つ」
俺の気持ちが伝わってくれると良いんだが……


 「うん! ありがとう! じゃあ、他の花の意味は?」
まりあが聞いてきた。
 俺は直ぐに俯き、言葉を濁した。
 「え~とね……忘れちゃった!」
そう言って舌を出した。
 「もう~しっかりしてよ~!」
まりあが頬を膨らませて言った。
 思ったより元気そうで良かった。
 朝、倒れた時はどうなるか分からなかったが本当に良かった。
 でも安心できない……
 進行しているって言ってた。
 もっと俺ができる事を……


 あ! わすれてた。
 「そういえばさ、まりあが入院するって事は皆まだ知らないんだけどさ、由美と奈津美にだけは言えないかな? 二人に何も言わないのはちょっと寂しすぎるよ……お見舞いにもこれないしさ……」
仲の良い仲間で来ればまりあもきっと喜ぶはずだ……
 それが治療の助けにもなるかもしれない。


 「うん……でもさ、白血病って事は言っても良いけど、重病だって事は伏せて欲しいの……星河君だけで良いからさ……」
まりあは最後意味深な事を言って止めた。
 俺はまりあが最後言った事の意味を聞いてみた
 「ううん! 何でもない! 皆には病気で入院ってだけ伝えて!」
そう言って言葉を切った。
 まりあは何を隠してるんだ……
 いや、隠してるんじゃなくて言えないのか?
 俺はしばらく天井を見つめているまりあを見ているとふと思った。
 この子は強い……
 辛いのは自分なのにいつも人の事を考えてる。
 普通はそんな余裕なんてないはずだ。
 何で自分の事を優先しないの?
 今は自分の事だけ考えて良いんだよ?
 そう思っていると突然涙が出てきた。
 まりあを思うと辛い……
 俺が代わってやりたい。
 でもそんな事を言ったらまりあに嫌われてしまう。
 こんなに優しくて、可愛い子が何でこんな仕打ちを受けなくちゃいけないんだろ……


 まりあが俺に気づいた。
 「星河君? どうしたの?」
まりあは慌てて起き上がって聞いた。
 「ううん! 何でもないよ! あくびが出て放置してただけ!」
まりあが泣いていないのに俺が泣くわけにはいかないよな……
 まりあは俺の言い分に納得していないようだった。


 「そ、そうだ! 良いもの持ってきたんだよ!」
俺は話を逸らして家から持ってきたある物を出した。
 それをまりあの前に出すと
 「ん? これって小説? また書いたの?」
俺が持ってきたある物とは原稿用紙、すなわち小説だった。
 「うん! 書いた! 今度はファンタジーだよ! 暇な時に読んで感想聞かせてね!」
俺はそう言って椅子に座りなおした。
 まりあは目を輝かせてもう読んでいる。


 「じゃあ、明日は皆と一緒に来るからさ! また明日ね!」
俺はそう言って荷物をまとめて立ち上がって言った。
 まりあは原稿から顔を上げて
 「うん! 待ってるね! ばいばい!」
そう言って手を振った。
 俺も手を振って病室を出た。
 廊下ではまりあのお母さんが待っていた。
 「すみませんお母さん。長々と……」
そう言って頭を下げると
 「気にしないで! 明日も来てくれるんでしょ?」
 「はい! 明日は皆と来るつもりです!」
そう言うと分かったと言って
 「じゃあ、また明日ね!」
そう言って病室に入っていった。






 翌日…………


 「嘘でしょ……まりあちゃん入院してるの!?」
由美、奈津美、匠、俺でご飯を食べてる時に言った。
 「何で教えてくれなかったのよ!」
奈津美も匠に怒って言った。


 「ごめんね! 俺が口止めしてたんだ。まりあに会ってから二人に言って良いか聞いてみようかなって思ったからさ」
俺が二人に謝って言うと
 「鈴木君ってまりあちゃんの事となると本当に必死になるね! でも、まりあちゃん平気なんでしょ?」
まりあと約束したとおり由美、奈津美には重病であることは言っていない。匠にもだ。
 「うん! 大丈夫みたい! 今日皆でお見舞い行くか!」
そう言うと
 「行くに決まってるでしょ! 何時集合?」
由美が俺を少し睨み、笑って言った。
 「じゃあ、4時に高校のバス停に集合にするか!」
そう言って時間を確認して昼は終わった。






 帰りのHRで前田が皆に話がある! そう言って皆に静かに聞けと言って話し始めた。


 「実はこの学校の生徒が重い病でな……治療費がバカにならないくらい高額になる。ここの生徒が発案した案なんだが、聞いてくれ……」
募金の事を前田はちゃんと実現させようとしてくれている。
 「その生徒を助けるために一人の生徒が募金活動を始めたんだ! そこで学校側も賛同して学校としてその生徒の助けになれるように募金活動をする事になった。皆! 協力してくれるな!」
前田が話し終わり、皆に聞くと
 「その生徒って誰なんですか?」
誰かが聞いた。
 「それは教えられない。生徒が公表しないで欲しいという事だから教えられない。それとも生徒の名前を公表しないと活動出来ないか?」
前田は発言した生徒に聞いた。
 口調は優しいが顔は笑っていない。
 前田も必死になってやってくれている。
 そう思うと嬉しくなった。


 「明日から募金活動をする事になったから皆! 頼むな!」
そう言って前田は深く頭を下げた。
 ここまで前田は……
 皆もはい! と返事をしてくれた。






 「じゃあ、4時にバス停でね!」
由美とはそう言って一旦別れた。
俺と匠、奈津美は一緒に歩いていると
 「重病なのか?」
匠がこそっと聞いてきた。 
 「いや、前田が付け加えたんじゃないの? その方が集まりやすいだろ?」
俺が慌てて否定すると匠はそっかと言って前を向いて再び歩き始めた。




 これでお金が集まればまりあの助けになれる………
 まりあ小説読み終わったかな……いや、あれは長いからまだか……


 取り合えず一歩踏み出した…………

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