君と俺の一年

星河☆

花火大会(後編)

 俺とまりあは昼を食べ終わり、学校に戻った。


 「でも、二時に職人さん来るって事は二時までやる事ないな……」
学校に着いた俺とまりあはまだ作業しているメンバーを見ながら言った。
 「うん。そうだね……」
まりあが答えた。
 「じゃあ、俺は他の人の手伝ってくるからまりあはここで休んでてね!」
俺がそう言って立ち上がると
 「それはダメだよ! 私も手伝う!」
まりあはそう言って立ち上がった。
 まりあの気持ちは嬉しいが今は休んでいて欲しい。
 「大丈夫だよ! まりあは休んでて! 職人さんが来たら教えて!」
俺がそう言うとまりあは嫌だ! と言って
 「私も手伝う! 大丈夫だから! 信じて!」
まりあはそう言って俺を見ている。
 「でも、職人さん来たら教えてもらわないといけないからさ」
まりあは一人だけ休んでいるのは嫌なのだろう。
 でも、ここに一人は居てもらわないと職人が来たときに困ってしまう。
 「うん……分かった……」
まりあは俯いて悲しげに答えた。
 そんな顔されても困るよ……
 こればっかりはしょうがないから……
 「まりあは休むんじゃなくて当番! これなら平気でしょ?」
俺がひらめいた事を言うとまりあは頬を膨らませて
 「私は子供じゃないの! そんな事言われなくても分かってる!」
まりあは可愛い顔でそう言って怒った。
 まりあは怒っているつもりなのだろうが俺からしたらただの可愛い顔だ。


 「分かったよ! じゃあ、よろしくね!」
俺はまりあにそう言って他のメンバーの手伝いに向かった。






 「茂木! 何か手伝う事あるか?」
俺はメンバーの一人の所に行き、聞くと
 「お~、助かる! あれ?渡辺は?」
茂木は俺にそう聞いた。
 「まりあは職人が来た時のために向こうに居てもらってる。俺も一時間位しか手伝えないけどさ!」
俺はそう言って茂木が持っている仕様書を見た。
 だが、サッパリ分からない。
 「それでも助かるよ! サンキュー」
茂木はそう言って俺に説明した。






 「星河君! 職人さん来たよ!!」
一時間程してまりあが俺の所に来て教えてくれた。


 「じゃあ、茂木! 悪いな!」
俺はそう言ってまりあと職人が居る所に向かった。




 「えっと、鈴木君と渡辺さんだよな……今土台見させてもらったけど大丈夫! 完璧! ありがとう!」
職人はそう言ってグー! と親指を立てた。


 「よっしゃ~!」
俺とまりあはハイタッチした。
 これで終わりだ! 後はまりあに告白だけだ……


 「鈴木! 渡辺! ご苦労さん! 後は休んでて良いぞ!」
職人に挨拶に来た佐藤が俺とまりあに言った。
 「他の人のは手伝った方が良いですよね?」
俺が聞くと
 「いや、他の所もそろそろ終わりだから休んでて良いぞ!」
佐藤はそう言って他のメンバーの所に行った。


 「じゃあどんな出店があるか見る?」
もう校庭には色んな出店の屋台が準備を始めている。
 「ううん。ちょっと疲れたから休みたい」
まりあはあくびをしてそう言った。
 「そっか! じゃあ、校庭では邪魔だから屋上に行こうか!」
校庭ではもう色んな準備が進んでいるので校庭で休憩をすると邪魔になってしまう。




 「疲れた~」
まりあは寝転がってそう言った。
 「大丈夫? 何か飲み物買って来ようか?」
俺がそう聞くとまりあは大丈夫と言って座った。


 「後は星河君の開催宣言だけだね!」
まりあは俺に笑顔で言った。
 少し顔に疲れが見える。


 「うん! でもまりあ今日何時までいられるの? 夜はまずいんだよね?」
少し心配になり聞くと
 「今日は大丈夫! 体調良いからさ!」
まりあはそう言って笑った。
 まりあを見るとそうは見えなかった。
 疲労が目に見えて分かる。
 俺が心配そうな顔をしているとまりあは
 「本当に大丈夫だよ! 心配しないで!」
大丈夫なら良いんだけど……
 やはり心配になってしまう。


 俺は心配しすぎなのかな……
 まりあを見ると寝ちゃっていた。
 俺は来ていたパーカーをそっとまりあに乗せて少し離れて校庭の様子を見ていた。










 「まりあ! もう直ぐ始まるよ! 起きて!」
まりあはあれから一回も起きずに寝ていた。
 「あ! 寝ちゃってた! これ……ありがとう」
まりあは慌てて起きて俺のパーカーのお礼を言った。
 「大分良くなった? 大丈夫?」
そう聞くとまりあは大丈夫と言って立ち上がった。






 「鈴木! 探したぞ! 後三十分で始まるからな!」
校庭に着いた俺を見つけて担任の前田が走ってきた。
 分かりました! そう言うと前田は他の場所へ行ってしまった。
 「星河君本当に大丈夫? 緊張してダメになっちゃわない?」
まりあがいたずらな笑顔で言った。
 「大丈夫だよ! 頑張る!」
俺は笑って胸をドンと叩いて言った。






 「お~い! 星河! 渡辺!」
後ろから声が聞こえ、振り向くと匠と奈津美、由美が手を振っていた。




 「星河兄ちゃん大丈夫? 緊張してるんじゃない?」
奈津美がそう言って俺に肘付きしてきた。
 「匠~! 言いやがったな!」
俺が今日開催宣言する事は匠にしか言っていない。
 奈津美が知っているという事は匠しか教える人はいない。
 「だって面白いじゃん! 最高! 頑張れよ!」
匠はからかうように言って笑った。


 由美は何故かずっと黙っている。
 何かあったのかと思ったがあえて何も聞かないことにした。




 「皆が変な事言うからめっちゃ緊張してきたじゃねぇかよ!」
俺が笑いながら言うと皆笑って場が和んだ。




 「じゃあ、そろそろ行ってくるわ! 後でな!」
俺はそう言って手を振り、本部のテントへ向かった。


 ヤバイ……本当に緊張してきた………
 噛んだらどうしよう…………




 「鈴木! 行け!」
前田がそう言って俺の背中を押した。








 「え~………お、お集まりの、み、皆さん……埼玉、こ、高校の花火大会に……お集まり頂き、あ、ありがとうございましゅ……」
噛んでしまった~!!!!!! 
校庭の人々から笑いが起きた。
 やばい……テンパってきた。
 緊張しながら辺りを見回すとまりあが目に入った。
 両手に拳を握ってまりあは頑張って! と言っているようにジェスチャーした。
 まりあの顔を見たら急に安心感が沸いてきた。
 一つ大きく深呼吸をした。


 「今日に至るまで様々な事がありました。しかし、先生方のおかげで無事に伝統あるこの花火大会を開催する事が出来ました。先生方には改めて御礼を申し上げます。皆さん! 今日は思う存分楽しんでください! 以上をもって開催宣言とさせていただきます!」
そこで一礼し、台を降りた。
 「お疲れ! よくやった!」
佐藤と前田がそう言って俺の背中を叩いた。
 「ありがとうございます!」
そう言って礼をしてまりあ達と合流するため、本部のテントを後にした。


 後はまりあに………




 「おいっす! 終わった!」
まりあ達に合流して言った。
 「お疲れ様! 良かったよ!」
まりあは笑顔で言ってくれた。
 「ありがとう!」
そう言った後に俺は匠に
 「今からするからさ………」
そう耳打ちした。
 匠には今日まりあに告る事を話してある。
 匠は頷いて奈津美と由美に耳打ちした。
 由美は俺に『頑張って』と口パクで言った。
 俺は力強く頷いた。




 「まりあ……ちょっと屋上で花火見ない?」
意を決してまりあにそう言うと
 「え? 何で?」
まりあが怪訝そうに首を傾げて聞いてきた。
 「うん……まぁ、ここ人多すぎるから上で見ようかなって思ってさ」
俺ってすげぇ~! こんな嘘ポンと出てきた!
 「そっか! 分かった! じゃあ皆で……って皆どこ行ったの?」
まりあが辺りを見回してさっきまで居たはずの匠たちが居ない事に気づいて聞いてきた。


 「さぁ? 俺がメールしておくから先に行こっか?」
もの凄い緊張しているが平常心を保ってさり気なく言った。
 「うん! 分かった!」
まりあは笑顔で答えた。
 まりあは何も疑っていないみたいだ……
 平常心平常心……
 俺は強く心にそう言って落ち着かせた。






 「屋上誰も居ないね~」
何も疑っていないまりあが誰も居ない屋上に着きそう言って淵のフェンスにもたれて校庭を見ている。




 「あのさ……」
俺がそう切り出すと、まりあが何? という顔をして俺に向いた。
 心臓がバクバクしている……
 今にも飛び出してしまいそうだ………


 「まりあは好きな子って居る?」
俺は今日の朝にまりあに聞いたことをそのまま改めて聞いた。
 「朝も聞いてたよね? 何で?」
まりあは怪訝そうに聞いた。
 「答えてもらえる?」
口調は優しいが多分俺の顔は真剣なのだろう。
 まりあの顔が少し赤くなっている。
 「う~ん……居るよ! 星河君も新井君も由美ちゃんも奈津美ちゃんもね」
まりあは多分わざとそう答えているのだろう……
 どう返したら良いのか………




 「俺の事はどう思ってる?」
俺は慎重に、ゆっくり聞いた。
 まりあには俺が言いたいことは伝わっているのだと思う。


 「大好きだよ? 優しいしね! それに、新井君達も優しいから好きかな……」
まりあの答えを目を閉じながら俺は聞いている。
 まりあは分かっているはずだ。
 俺が何を言っているか、何が言いたいか……




 パーン!!!パパパ!!!パーン!!!
 少しの沈黙の後花火が上がった。
 凄く綺麗で色鮮やかなのだが俺にはそんなの楽しんでいる心の余裕が無い。


 「うわ~! 綺麗!」
まりあは花火を見て喜んで手を叩いている。
 俺はそんなまりあの横顔を見ながら言った
 「まりあ……俺はまりあが好きだ……友達としてもそうだけど女性としてだ。俺はまりあの病気も理解しているつもりだ。これからはまりあの傍でもっと傍で支えたい。俺と付き合ってくれ」
慎重に、言葉を選びながら俺は言った。
 以外にも動悸は普通だった。
 俺が思っている本当の気持ちをそのままに、素直に言えたと思う。




 「私ね……星河君の事大好きだよ? 勿論男性として。でもね、星河君とは付き合えない。私は友達のままで良いと思うの。ううん。凄く仲の良い友達。それ以上も無いし、それ以下も無い。星河君には新井君達とは違う気持ちを持ってるよ。でも私はそれが良いと思うの」
まりあは花火を見上げながらゆっくりと言った。
 まりあの目には光るものが見えた気がする。


 何でだろう……
 これは振られてるんだよな……
 それなのにがっかりした気持ちが無い………


 改めてまりあを見るとまりあも俺を見ていた。
 『凄く仲の良い友達。それ以上もそれ以下も無い。』
 その意味は良く分かってる。
 どの位の時間が経っただろうか……
 俺とまりあはずっと見つめあっている。
 何も言葉を発していないのに心が通じ合っている気がする……
 俺は微笑んだ。
 苦し紛れかもしれない。
 まりあも微笑んだ。






 夜空に舞う大輪の花が何故か悲しげなまりあの心をかき消しているかのように咲き誇っている…………

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