君と俺の一年

星河☆

まりあの笑顔

 花火大会決行決定から三週間がたった。
 まりあはあれから少し休んだが今は元気に学校に来ている。
 ついに花火大会を二日後に控えたこの日……




 「明後日だね!」
学校で授業の合間の休み時間にまりあに言うと
 「うん! 楽しみ! 日曜日が早く来ないかな~」
まりあが上を見上げて笑顔で言った。
 「今日仕上げなきゃダメだね!」
俺がそう言うとそうだね! と言った。
 ちょうどその時に授業の開始を知らせるチャイムが鳴った。


 「はい! 皆席につけ~! この時間は花火大会の注意事項等を言うぞ~」
前田が教室に入ってきてそう言った。
 本当に花火大会が行われるんだな……
 物思いにふけていると
 「鈴木! 渡辺! じゃあよろしくな!」
そうだった……
 俺とまりあは花火大会実行委員だから注意事項等も生徒に言わなければいけない。


 「俺が話すからまりあはただ立ってれば良いよ」
俺はまりあに小声でそう言って立ち上がり、教卓へ向かった。
 まりあはこんなに大勢の前で、実行委員のメンバーとは比較にならない数の人の前で発言をしようものなら多分気絶してしまうだろう。
 教卓に着いた時点でまりあはもう顔が赤くなっている。


 「え~、まぁ、注意事項は……」






 注意事項を話し終わり、俺とまりあが席に着くと
 「緊張した?」
俺がまりあに少し笑いながら聞くと
 「うん……ちょっとだけ」
まりあはそう言って少し笑った。
 まりあもいつかはちゃんと大勢の前でも話せるようになるのかな……
 その時に俺はまりあの傍に居れてるかな……






 いつものメンバーで昼食を食べ終え、自分のクラスに帰っていると
 「ねぇねぇ、渡辺さんって何か好きなものとか、嫌いなものとか何か情報ない?」
突然情報屋の幸成が後ろから走って聞いてきた。
 「え……その……」
まりあは困惑して言葉に詰まっている。
 まりあは今でこそ俺達とは楽しく話しているが、まだ他の人とは話すことは厳しいらしい。
 そうとは知らずに幸成はどんどん質問している。
 最初俺はまりあが他の人と話す良い機会だと思って黙っていたが、幸成が執拗に聞いてくるので見かねて
 「おい! もう辞めてやれ! 困ってるだろ?」
俺がそう言うと幸成はちょっと怒った顔で
 「何だよ! 渡辺さんは星河としかしゃべらないってのかよ!」
そう言ってまりあに詰め寄った。
 俺はとうとう頭にきて幸成の胸倉を掴んだ。
 俺は基本短気なのだ。


 「お前いい加減にしろよ? まりあに何かしてみろ。潰すぞ」
俺がそう言って眉をひそめると俺の後ろから匠と由美も応戦に来た。
 「まりあちゃんに何かするなら学校会議にかけるわよ?」
 クラス委員はその権限がある。
 「お前情報屋だか何だか知らないけどそのまま渡辺に手出してみろよ?ただじゃおかねぇよ」
匠もそう言って幸成に詰め寄った。
 幸成は何でだよ! そう言いながら教室に入っていった。


 「皆ありがと……ごめんね……」
まりあが俯きながらそう言って上目遣いで俺を見た。
 「でも、星河君潰すぞって怖すぎ」
まりあはそう続けて笑った。
 重い空気が一瞬にして笑いに変わった。


 「こいつ切れる時いつも潰すぞって言うからな~」
匠がそう言うと
 「中学の時聞いたことある! 鈴木君が先生に怒って言ってたもんね~」
今度は由美がそう言って笑った。
 「先生に怒るって……星河君ってヤンチャだったんだ!」
まりあがそう言って俺を見て笑っている。
 良かった。
 まりあは笑顔のままだ。
 「ってヤンチャじゃないよ!」
俺は慌てて否定するが、匠と由美が煽り立ててくる。


 高校生活がこんなに楽しくなるとは思っていなかった。
 まりあが転入してきた事でこんなにも変わるんだ……
 俺はまりあを見て凄く嬉しくなり、笑顔になった。






 「よし! じゃあ、今日で終わりにしよう!」
放課後、花火大会の作業の開始時に俺がまりあに言うと
 「うん! 今日で終わらせようね!」
まりあはそう言って笑って作業に入った。




 「お~い! 皆! 教頭先生が呼んでるぞ~!」
花火大会担当の教師、佐藤がそう言って実行委員に呼びかけた。
 何だろう? とまりあと顔を見合わせ、佐藤がいる方へ向かった。




 佐藤の所へ向かうと教頭もそこに立っていた。
 他のメンバーももう揃っている。
 「教頭先生が皆にお話があるそうだ!」
佐藤がそう言って教頭に話を振ると、教頭が前に出た。
 教頭はいわゆるハゲだ……
 教頭は前に出ると一礼した。


 「皆さん! お疲れ様です! 今回は私たち教師の理由付けで中止騒ぎになってしまって本当に申し訳ない」
教頭はそう言って頭を下げた。
 教頭といえば学校の№2だ。
 そんな人が生徒に頭を下げた。
 でも、開催が決定したので多分誰も気にしている人は居ないだろう。


 「皆のおかげで開催される事になった。そこで花火大会当日の開催宣言を君達の誰かにやってもらいたい!」
教頭が驚いたことを言った。
 花火大会の開催宣言といえば普通教師がするものだ。
 皆驚いて誰がやるの? と隣や、後ろを見回している。


 「誰かやってくれるのは居ないか?」
佐藤が辺りを見回して言った。
 こんな時は小さくなるに限る!
 大勢の前で開催宣言なんていくら俺でも緊張してしまう……


 すると俺の隣にいたまりあが俺の袖を掴んで引っ張り
 「ねぇ、星河君やれば?」
まりあは何か楽しむように言っている。
 俺は小さく首を振って
 「無理だよ! 人かなり来るんだからね?」
俺が小声でまりあに言うと、まりあは頬を膨らませ
 「開催宣言したらカッコイイと想うけどな~」
まりあは他人事のようにそう言って、改めて俺を見た。
 そんな可愛い目で見ないでくれよ……
 まりあはやって! と目でそう訴えている。
 そんな……
 俺はまりあを見ながら少しため息を吐いた。
 まりあは相変わらず微笑みながら俺を見ている。




 しゃあないか………


 「俺やります!」
俺は手を上げてそう言った。
 おぉ~と言って拍手が起きた。
 まりあにあんな顔されちゃあ立候補しないわけにはいかない……


 まりあを見るとニッコリ笑って拍手している。
 でも、まぁ、まりあのこんな笑顔が見れるなら良いか……


 「じゃあ、鈴木! 頼んだぞ! それと、言葉は自分で選んで暗記するんだぞ!」
そんなぁ~……
 佐藤がそう言うと俺はそう言ってその場に崩れた。
 周りは笑って頑張れ!と俺をからかっているのか、励ましているのか分からない言葉をかけてくる。
 まりあは頑張って! と口パクで言っている。




 皆各自作業に戻るため散らばった。


 「星河君! カッコイイ!」
俺とまりあが自分の作業に戻った時にまりあが笑いながら言った。
 「もう~。まりあのせいだよ~」
俺は笑いながら言ってまりあを見た。
 まりあはまだ笑顔で嬉しそうにしている。


 本当にまりあが楽しそうで良かった。
 俺は日曜日に地獄が待っているが……
 自分で言葉を選んで暗記しないといけない………
 言葉選びは別に苦はない。俺は小説を趣味で書いているからだ。
 ただ……暗記はキツイ………


 俺がうなだれているとまりあが嬉しそうに 
 「でも、星河君が立候補してくれて良かった! 本当にカッコイイよ!」
まりあはそう言って俺の背中を優しく叩いた。
 まりあがそう言ってくれるなら嬉しいんだけどね……


 「ありがとう! 俺みたいなデキた男いないよ~」
俺が笑いながら言うと
 「そうかな~」
まりあも笑って言った。


 今日ほどまりあの笑った顔を見たことない。
 まりあの笑顔を絶やしたくない。
 俺は……花火大会の日に……まりあに告白する……




 俺はまりあの笑顔を見ながらそう決めた。








 「じゃあ、日曜日の朝九時頃に迎えに来るからね!」
まりあの家の前に着き日曜日の迎えの時間を言うと
 「うん! 分かった! 星河君はちゃんと言葉考えて暗記してね!」
まりあはいたずらっぽい笑顔でそう言った。
 「言葉は何ともないんだけど暗記が苦手でね……」
俺がそう言うと何で? というような顔で首をかしげた。
 「俺趣味で小説書いてるから文章は直ぐ浮かぶんだ! でも暗記はダメでさ……」
俺の意外すぎるような趣味を言うと
 「凄い!!! 小説書いてるんだ~!!! 今度見せてね!」
まりあは目をキラキラさせて言った。
 「うん! ちゃんと見せるよ! ばいばい!」
俺はそう言って手を振った。








 さて、花火大会の開催宣言の言葉か……




 そんな事を考えながら家に着いた。


 でも本当は開催宣言の言葉なんかではなくまりあへの告白の言葉を考えていた。


 俺ちゃんと告白出来るかな……


 夜、そんな事を考えながら眠りに落ちた……







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