君と俺の一年

星河☆

戸惑い

 まりあとの再びの約束から2日が経った日……




 「おはよう! 気分はどう?」
朝8時半、4日振りに登校するまりあに手を上げ、挨拶すると
 「おはよう! 大分良くなったよ!」
まりあは笑顔でそう言った。
 まりあもちゃんと笑ってくれるようになった。


 「今日から本格的に土台作りに入るから、俺が主にやるからまりあは部品だけ持ってきてくれれば良いからね?」
実行委員の作業の事を言うと
 「私もやりたい! きつくなったらちゃんと星河君に言うから、やらせて?」
まりあは俺の顔を真っ直ぐ見て言った。
 このようにまりあはちゃんと俺の目を見て話してくれるようになった。
 まりあの信頼に答えたい。
 ふと俺はそう思った。


 「うん。分かった。約束したもんね! きつくなったら言うんだよ?」
俺がそう言うと、分かった。そう言って前を向いた。




 「あ! まりあ姉ちゃん!おはよう!」
いつもの匠達との待ち合わせ場所に着くと奈津美が早速、まりあを見つけて言った。


 「おはよう!」
まりあも久しぶりに見る奈津美の顔を見て嬉しそうに言った。
 「もう大丈夫なのか?」
と、今度は匠がまりあに聞いた。
 「うん。大丈夫。ありがとう」
まりあはそう答えて四人で歩き始めた。




 「まりあ姉ちゃんってよく風邪引くね~」
何も知らない奈津美がそう言うとまりあは笑って
 「うん……ちょっと体弱いからさ」
そう言って咳をした。
 まりあ……その咳わざとらしいぞ……
 俺は少し笑ってまりあを見た。
 まりあも俺の方を見てちょっと笑っている。




 奈津美と別れ、三人は教室に向かっていると
 「あ~! まりあちゃん! やっと来た! 風邪もう平気なの?」
由美が前から走ってまりあの所に走ってきて言った。
 由美も本当の事は知らないがまりあの事は心配していたのだろう。




 「皆席につけ~! 来週の定期テストは文部科学省が視察に来るみたいだからちゃんとやれよ~」
担任の前田がそう言うと皆がえ~! と悲痛に近い叫び声が上がった。
 確かにテストっていうだけで嫌なのに文部科学省がくるとなると最悪だ・・・
 勿論俺も嫌だ。
 「何で文部科学省がくるんですか~」
誰かがそう言った。
 確かに気になるが……
 「ただの視察だそうだ! まぁ、お前らが礼儀正しくしておけば良いんだよ! この学校は馬鹿ばっかりなんだから」
前田がそう言うと皆一瞬静まり返ったが前田が笑ったため冗談だと気づいて皆笑った。
 まりあを見るとまりあも笑っている。
 まりあは見ている俺に気づき何? という顔をしているが俺は何でもない。と首を振った。






 「今日から土台作りなんだけど仕様書見ても良く分からないんだよね~」
昼食中、俺がいつものメンバー、匠、まりあ、奈津美、由美に言うと
 「俺も分かんねぇな……」
俺が渡した仕様書を見て匠が言う。
 「あんた達は馬鹿なだけじゃないの?」
由美はそう言って匠が持っている仕様書を引っ手繰って見始めた。
 すると
 「ねぇ、本当に分かんないの?」
目を大きく開いて由美が再び聞いてきた。
 「分かりませんが何か?」
俺と匠が声をそろえて言うと
 「これが分からないなんて星河兄ちゃんとお兄ちゃんって本当にどれだけ頭悪いの?」
奈津美がからかうようにそう言って仕様書をまりあに渡した。




 「私も分かるよ?」
しばらく見ていたまりあがそう言って俺に仕様書を渡した。
 「俺らは説明書なんかより体動かしてやったほうが良いもんな?」
俺が匠にそう聞くと
 「俺らはそうだ! 女子が頭を使えばいい」
そう言うと皆笑った。


 「まぁ、今日はまりあちゃんに聞きながら進めれば良いんじゃない?」
由美がそう言うと
 「え? あ、うん。分かった。」
まりあが少し戸惑うような顔をして答えた。






 「どうかした? 大丈夫?」
屋上から降りて教室に向かっている時に俺はこっそりまりあに聞くと
 「うん。さっきのは急に話を振られたから驚いちゃっただけだよ。大丈夫」
まりあはそう言って笑った。分かったと言って一緒に教室に戻った。








 今日からは土台作りの為外での作業なので校庭の隅で作業していた。


 「じゃあ、何からするのか教えて!」
俺がまりあに聞くと
 「ごめん! ……あのね……本当は説明書見ても分かんないの……お昼は話合わせて分かるって言っちゃったけど……」
まりあは恥ずかしそうに顔を赤くして俯いた。
俺は少し笑って
 「そうなんだ……うん! 分かった! その暗号俺が解読する!」
そう言って仕様書を受け取ると
 「暗号って……本当に分かるの?」
まりあは笑ってそう言った。
 まりあの笑顔が最近凄く増えた。
 俺はまりあの笑顔を絶やしたくない。
 その為に出来る事をどんどんしていく!
 どんな事でも……






 「ダメだ……分からん……」
しばらくしてギブアップした。
 俺はまりあに助けを求めるがまりあも分からない。といった感じで両手を挙げている。


 「先生に聞きに行ってくるよ……」
俺がそう言うと
 「私も行くよ!」
そう言って、一緒に職員室に向かった。




 ノックしようとすると中から
 「ふざけないで下さい!!! 花火大会は伝統なんですよ! 子供達も楽しみにしている!!! 今作業してくれている子達はどうするんですか!?」
中で花火大会実行委員の担当の佐藤の声が聞こえた。


 俺はまりあの方を見るとまりあは怪訝そうな顔をしている。
 何があったんだろうか……
 俺は盗み聞きしようとしていると
 「星河君ダメだよそんなことしちゃ」
まりあはそう言うが多分まりあも聞きたいのだろう。
 「大丈夫だよ! まりあも聞きな」
そう言って俺の隣に寄らせて静かに聞き始めた。


 「子供達が楽しみにしていて、伝統でもあるのに教師が当日出られる人が居ない! そんなの子供達にどうやって言い訳するんですか? 教師個人の言い訳で子供達が納得するんですか?」
今度は俺たちの担任の前田が言った。


 花火大会が中止?
 どういうことなんだ?
 先生が出られる人居ない? そんな事ってあるのか?


 「ねぇ、そろそろやばいよ? もう止めない?」
まりあが心配そうに俺に言った。


 「分かった。でも先生にこれを聞きにいってくる」
仕様書を出して俺は職員室のドアをノックした。
 すると中の声がピタっと止み、どうぞ。と声が聞こえた
 「失礼します・・・佐藤先生! 聞きたいことがあるんですが・・・」
そう言って職員室に入り、辺りを目だけで見回しながら佐藤の机に着いた。
 周りの先生は何事も無かった様に自分の仕事をしている。


 佐藤に分からない所を聞いて答えてもらった後お礼を言って職員室を出ようとすると
 「あ~君! 今日は作業しなくていいからもう帰って良いよ!」
教頭が俺にそう言った後座った。
 「何でですか?」
俺がそう聞くと
 「いや、作業してくれていいよ」
佐藤は優しい顔で俺に言った。が……
 「いや、佐藤先生。今日は帰ってもらいましょう」
教頭は言葉は優しいが顔は笑っていない。
 「分かりました。じゃあ、皆に作業終わらせて帰ってもらってくれ」
佐藤は少しガッカリしたような顔で言った。
 分かりました。そう言って職員室を出た。






 「今日は帰っても良いってさ……」
職員室の外で待っていたまりあにそう言うと
 「何で?本当に中止なの?」
まりあは残念そうな顔で言った。


 「それはまだ分からないけど今日は帰れってさ……でも、実行委員の皆には話さないか? 今起きてた事」
俺がまりあにそう提案するとう~ん。と少し考えて
 「そうだね……皆頑張ってるもんね……」
まりあはそう言って同意した。








 しばらくして実行委員の皆を会議室に集めると
 「どうしたの?」
と皆揃って言った。
 職員室で聞いたことを皆に話すと
 「マジかよ……こんな所に来て中止ってふざけてるだろ……つーか中止に出来んのかよ! 伝統だろ?」
実行委員の一人で生徒会長の茂木雄一郎もてぎゆういちろうがそう言って怒り始めた。


 「皆はどう思う? 教師が勝手に中止に追い込もうとしてるけど?」
俺は黙っている皆に聞くと
 「でも、どうしょうもないだろ? 何も出来ないじゃん……」
一人がそう言うと皆そうだな・・・と言い始めた。
 皆もう諦めムードになっている。
 俺は最後の花火大会をちゃんとやりたい。
 まりあとせっかく二人で実行委員になれて今まで準備してきたんだから成功させたい。




 「皆はさ……花火大会……やりたくないの? 私はやりたい……」
今まで俯いていたまりあが皆にそう言った。
 まりあがこんなに大勢の前で話した……
 まりあは花火大会楽しみにしてたんだな……




 「俺に一任してくれない? 佐藤と前田に何とか言ってみる」
俺がそう言うと茂木が
 「良いけど大丈夫なのか? 教師陣はもう中止しようとしてるんだろ?」
 そう言って眉をひそめた。


 「いや、佐藤と前田はやるべきだ! って言ってたから何とか押してもらえるように言ってみる」
 俺がそう言うと皆分かった。と頷いた。




 取り合えず今日は解散して帰ることになった。








 「まりあ、さっきは熱が入ってたね?」
先程の会議室でのまりあが言った時の事を思い出して言うと
 「からかってるの?」
まりあが頬を少し膨らませて怒った。
 俺は少し笑って
 「そんな事無いよ! まりあも花火大会楽しみにしてるんだな~と思ってね」
まりあのあんなに大勢の前で言ったのにも驚いたが、まりあが自分の意見を皆の前で言えた事に驚いていた。




 「先生になんて言うの?」
帰り道でまりあが俺の顔を見て聞いてきた。


 「う~ん……とにかくやらせて欲しい! って言うしかないかな……あの二人は開催派だったから脈はあると思うけど……」
俺は急に心配になってきた。
 格好つけて皆の前で俺に一任してくれなんて言ってしまったが、特にプランなどない……
 まりあにもカッコイイ所を見せたいがどうすれば良いんだろうか……


 「でも、応援するからね!」
まりあはニッコリと笑ってそう言ってくれた。
 まりあに応援されれば心強い!
 が、やはり何をしたらいいのか不安になる。






 「じゃあ、明日ね! ばいばい」
まりあの家の前に着き、まりあが手を振って言った。


 「ばいばい!」
そう言って俺は再び歩き始めた。






 家に着き、携帯をいじっているとまりあからメールが入った。
 「星河君なら出来るからね! 頑張ってね!」
たった一行だが俺には凄く嬉しかった。


 「ありがとう! 頑張るね!」
そう返信してプランを立て始めた……




 しかし、夜になってもプランは出来なかった……



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