霊魔操師

星河☆

黒会の刺客

 この世界の中心は俺だ。
 真っ暗な闇の中の中心に俺一人だけ。
 何を作ろうか――。城が良いな。
 大きな白いお城を作ろう。


 城のイメージを固めて俺の目の前に出現させる。
 右手を宙にかざしてイメージを乗せて前方に投げた。すると目の前に大きな城が出現した。


 うん。良い城だ。
 次に雲一つない真っ青な青空だ。


 真っ暗な世界に一気に青空が広がった。


 地面がまだ寂しいな――。じゃあどこまでも続く草原にしよう。




 景色は良くなった。
 でも何か全体的に寂しい。どうしようか――。


 『時間掛けすぎだ。今日はこれで終わりにしろ。もう十一時を回ったぞ』
 え? もう? マジか――。リューク、後何が足りないと思う?
 『止めたら教えてやる。龍から言われてるだろ六時間以上やるなって。もう七時間やってるぞ』
 分かったよケチ――。
 『お前の事を思って言ってんだよ』
 はいはい。






 極限無想を解くと、全身汗でびしょ濡れだった。
 今俺が行っていた修行は極限無想の無現化だ。
 極限無想の中で、何もない世界の中に自分のイメージを投影させてそのイメージを極限無想の世界に出現させるものだ。
 これは以前行った静香さんの除霊の時に霊穴が閉じてしまった時などに素早く極限無想の中のイメージを術として行えるようにする為の修行だ。




「やべぇ~。汗が半端ない――」
「直ぐに風呂行けよ。風邪引くし、水分も摂れよ」
「言われなくても分かってるよ」
「はいはい。龍はもう寝てるから静かにな」
「お前は保護者か」
 リュークは俺の分身のくせにあれこれ言ってくる。
 まぁ、リュークが出現してから毎日が楽しくなったのは感謝している。
 リュークが出現する前は黙想や無想の修行の時にもずっと一人で孤独を感じていたが、リュークのおかげで最近は独りと感じなくなった。
 うるさい奴だがそこそこ良い奴だ。まぁ、俺の分身だからな――。






 「気持ちい~――」
 風呂で、体を洗った後湯船に顔の半分まで浸かっている。
 気持ちよすぎる――。


 こんな人生になるなんて想像できなかったな――。占いをやっていた頃はただ単に自分の占いで人が幸せになれば良いと思ってた。
 でもあんな事件に遭遇して自分の無力さを知った。
 今こうして霊魔操師の修行をしてから全てが変わった。こんな世界があるんだと知った。
 俺は霊魔操師として人々の為に力を使えるような術者になりたい。






 「おい! 起きろ! いつまで風呂入ってるんだよ!」
 ヤバイ! 湯船に浸かりながら寝ちゃってた――。
「リューク、俺どの位入ってた?」
「一時間位だ。遅いなと思ってたらやっぱり寝てた。本当に死ぬぞ」
「気持ち良かったんだよ――。もう出るよ」
 もう日付変わってるか――。明日の朝も早いのに起きられるかな――。まぁ、リュークに起こしてもらえれば良いや。
 「起こすけどあんまり夜更かしするなよ」
 リュークは俺の化身、つまりは俺の分身だから俺の心も読める。
 面倒な事も多いが便利な事もある。


 さぁ寝よう。








 「起きろー」
 ――もう朝か……
「おはよう」
「おう」
 リュークは寝る事はあるらしいが殆ど寝ないらしい。寝なくても困らない為、リラックスする時や俺が完全昏睡になった場合には姿を消すそうだ。
 完全昏睡になる事はまずないけどな――。




「おはようございます」
「おはようございます。今日はお客が来るので駅まで迎えに行って下さい。相手様の特徴は見れば分かります。名前は蔵森真くらもりまこと様です。十時には駅に着くと思いますのでそれまでに駅に行ってて下さい」
「あ、分かりました」
「それと、今日は修行も仕事も無しです。町でも散策してリフレッシュしてきなさい」
「分かりました。ありがとうございます」
 今日は休みか――。客人が来るからか? まぁ良いや。


 


 「ごちそうさまでした」
 師匠は食事を終えるといつもは食器を洗ってから部屋を出るのに今日は食器を流し台に置いたまま部屋を出た。
 どうしたんだろう? まぁ俺が洗うから良いか――。


 師匠はいわゆる雑用のような事は一切やらせない。
 俺は修行と聞いて掃除や師匠の身の回りの世話等をさせられると思っていたが師匠はそんなのは修行にはならないから必要ないと言って、最低限自分の周りの事だけをやるようにと言われている。


 俺も食事を終え、師匠の分の食器も洗い自室に戻った。


 「リューク、一時間経ったら教えてくれ」
 部屋に戻った俺は筋トレを始めた。
 筋トレも毎日やっている。筋トレは俺の趣味でもある。
 リュークは俺の筋トレを見ながら真似したりしている。空中で(笑)。


 そういえばここに来てから半年経つけど俺の筋肉も大分付いてきたよな――。
 毎日やるってのがやっぱり大事なのか。




 「一時間経ったぞ」
 腹筋運動をしていた時にリュークが俺の目の前に飛んできて言った。
 「うい。サンキュー」
 筋トレをやめて汗を流す為にシャワーを浴びて部屋に戻った。




「もう行くのか?」
「うん。俺は時間には滅茶苦茶厳しいからね」
「つってもまだ一時間前だぞ?」
「とにかく俺は早めに行動するの。何があっても良いように」
「まぁ良いや」
 リュークは部屋の窓から外にすり抜けて先に外へ出た。


 師匠から貰った袈裟は三着で、家で着る用と外出用で分けている。
 昨日洗いたての真っ黒い袈裟に腕を通し、家を出た。






「良い天気だな~」
「秋晴れってやつだな」
 家を出て、海岸沿いの民家が並ぶ一本道を歩いているとリュークが突然空を見て言った。
 リュークはどうやら空が好きらしい。
 ここ三ヶ月リュークの観察をしてきたが、俺の分身であるにもかかわらず、俺の興味のないもの等にも興味を示したりする。
 俺は空に興味がないわけではないが好きでもない。天体は好きだが。
 そこで、俺は一つの仮説にたどり着いた。
 我化身は自分の潜在意識の塊で、潜在意識の中では自分でも知らないものが我化身の中で活発に活動しているのではないかと思い始めたのだ。
 リュークにその事を聞いても良く分からんと言われてそれまでとなった。


 でも確かに良い天気だ――。




「あら、龍河さんおはよう」
「清水さんおはようございます」
 ここに来て半年、近所の人々とはそれなりに交流がある。
 師匠がこの地に住み始めてから四十年程になるらしく、近所の人は師匠の力を知っていて、協力してくれたり依頼を頼んできたり相談をしてきたりする事があるらしい。俺が来てからも何人もの人が師匠に相談しに来ていた。
 相談されるということはそれだけ信頼されている事であり、信用されているということだ。俺もそんな人に早くなりたい。






 十五分ほどして駅に着いた。待ち合わせの時間まではまだ四十分程ある。


「やっぱり早く着きすぎじゃねぇか? やる事もないし」
「まぁな~。俺って時間は早くするんだけど待ち合わせの時とかって着いてから後悔するんだよな――」
「だから家で俺の忠告聞いておけばよかったんだよ」
「はいはい。悪うござんした」
 リュークはケタケタ笑って俺の上をクルクル回っている。勿論一般の人には見えない。
 まぁこの田舎町の駅前に人なんていないんだけどな――。


 「そういえば相手の格好は見れば分かるって言ってたけどどんな格好なんだろうな」
 リュークが駅の入り口をじっと見つめながらぼやいた。
「ん~。何か奇抜な格好してるとか――袈裟とか?」
「袈裟なら有り得るな」
 リュークはそう言うと駅の方に飛んでいってしまった。
 「おい待てよ!」
 ったく勝手な事しやがって――。






 『今電車来たけど降りてきたのは三人で全員袈裟着てるよ』
 は? 三人?
 『あぁ。三人だ』
 とりあえずその三人俺の方に案内して。
 『分かった』




 それから数十秒後にリュークが出てきた。その後ろから三度笠を被って袈裟を着た三人が俺を見るとお辞儀をして俺に近づいてきた。


 「初めまして。私、黒会実動部隊、暗行の頭兼蔵森家二十三代目の陰陽師、蔵森真です。後ろのものは付き添い者なのでお気になさらずに」
 この人が蔵森――。かなり若いけどまさか俺より年下? な訳ないよな。何かの創設者って言ってたし。
「私は霊魔操龍派第十五弟子の明日来之龍河です。よろしくお願いします。早速ですが師匠の所へご案内致します」
「よろしくお願いします。ところでこの妖魔は龍河さんの使い魔ですか?」
「いえ、そいつは私の我化身です」
「そうですか――」




 しばらく歩いて蔵森さんとは話しているが付き添いの二人は一切話そうとしない。笠を深く被って顔も見せようとしない。


「ところで師匠とはどういった知り合いなんですか?」
「私が黒会に入会したての時にというか知らぬ間に入会していたんですが、初めての任務の時に合同でお世話になりました。そこからのお付き合いです。私が暗行を立ち上げようとした時にも力を貸してくれましてね」
「そうなんですか――。黒会ってどういうところなんですか?」
「一言で言うと私であったり龍河さんのような異能者の集まりで、異能者の犯罪や妖魔の攻撃から一般人を守る為に活動をしています。そして私が設立した暗行はその中でも現場の最前線に立って活動する集まりです」
「ありがとうございます。何せ無知なもので」
 俺は無知だ。色々師匠に教えてもらっていると言ってもまだまだ教えてもらっていない事の方が多い。






 さてと――。
 「師匠! ただいま戻りました。お客人をお連れしました!」
 家に戻り、玄関を入ると奥のほうに叫んだ。
 するとトタトタとこちらに歩いてくる足音が近づいてきた。


 「真さん、お久しぶりです。どうぞ上がって下さい。龍河は外にお出かけなさい。時間になったら私の式神を送ります」
 やっぱり出て行かされるのか。俺には聞かれたくない話なんだな――。
 「分かりました。では失礼します」
 俺が外に出ると蔵森さんの二人の付き添い人も一緒に出てきた。


 「どうしたんですか? 蔵森さんは中ですよ?」
 すると二人はお互いの顔を見ると俺に向き直った。
「私共はただの付添い人なので話し合いの場に参加する事はございません。それともご一緒するのはご迷惑でしょうか?」
「いや、迷惑ではないですけど名前くらい教えてくださいよ」
 初めて声を聞いた。一方は女のようだがもう一方はまだ話もしていないし笠で顔が見えないので分からない。




 「申し訳ございません」
 女がそう言うと二人揃って笠を取って俺を正面から見た。
 もう一方は男のようだが、この二人良く似ている。
 女の方は笠を被っている時には髪の毛を笠で止めていたらしく、分からなかったが綺麗なストレートで肩まで伸びている。
 顔立ちも整っていてる。一言で言うとかなりの美人だ。
 しかし、一つだけ明らかに人とは違うところがあった。瞳の色だ。
 彼女の瞳は緑色に輝いている・・・・・


 男の方は女の方と顔は瓜二つで、髪は短く男のような髪だが女と言われても全く分からない。


「私は黒会実動部隊、暗行所属の黒騎瑠美くろきるみです。よろしくお願いします」
「僕も同じく黒会実動部隊、暗行所属の黒騎瑠威くろきるいです。よろしくお願いします」
 二人は揃って頭を下げた。
 何で駅で名乗らなかったんだろう――。


 「僕はさっき名乗ったから良いですよね。この町は何もないけど海は綺麗なので海に行きますので一緒にどうですか?」
 すると二人はお互いに顔を見合って頷いた。


「分かりました。それと、僕ら二人は明日来之様よりも年下ですので敬語はお辞めください」
「う、うん、分かった。じゃあ明日来之様って辞めてくれる? 龍河で良いからさ」
「分かりました。龍河様」
「いや、だから様は辞めて――」
「いえ、これは決まりごとなので――」
「決まりごとって? 勿論言える範囲で良いよ」
「はい。外部の者にはさん付けする。お世話になった方もしくはその関係者の方には様付けするようにという暗行の決まりごとなんです。これは別に強制ではないのですが、もう慣れてしまっているので――」
「そっか――。分かった。じゃあ海に行こうか――って目の前なんだけどね」

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