魔術師ユウキ

星河☆

いきなり!?

 入院生活三日目の今日。と言うより魔術師生活三日目。昨日全身検査をして何も異常が無いと判断されて今日退院となった。しかし俺には帰る家が無い。昨日気づいた。でも退院は決まってるから出ないと仕方ない。
 でも俺にはビジョンがある。必ず芸能界に入って成功してやる。今までは何もやる気なくやってきたけどチャンスを与えられたんだからしっかりとやる。






「退院おめでとうございます! またいつかマジック見せてくださいね!」
「ありがとうございます。いつでも見せますよ」
 昨日俺がマジックを(というか魔術)見せた看護士が俺の見送りに来てくれた。
 俺は頭を下げて病院を去った。


 さぁ、どこに行こうか――。取り合えず近くの公園で魔術の練習をしよう。










 坂上公園に着きベンチに座った。公園には子供がキャッチボールをしていたりと遊んでいる。
 ここで練習するか――。


 俺の独自の魔術――。
 『独自魔術はその魔術の理論を理解することで可能となる。そして多数の魔術の理論を組み合わせる事も可能だ』
 こうなっている。まずは簡単な魔術の理論だ。


 俺は科学、化学はかなりの得意分野だった為相当強いと思う。
 炎。宙には気体が満載だ。まずはそれに空中の酸素濃度を魔術で一瞬のうちに理解し、酸素濃度にあった熱を魔術によって生み出して生み出した熱と空中の酸素を魔術の導火線で結びつけて呪文を唱える。
 これでどうだろうか――。
 呪文は――ラハーブン。
 試してみよう。


 財布の中のレシートを一枚出して手の平に乗せた。
 「ラハーブン――」
 火柱が一気に立ち上り、俺の膝の高さにあったレシートは火柱が俺の顔まで上がり、一瞬で燃え尽き、灰も残らなかった。


 酸素濃度を間違えたか――。自分で魔術を考えるってこんなに難しいのか。


 するとキャッチボールをしていた子供二人がこちらをずっと見ている。
 火柱を見られたか――。だったら――。


 「ちょっとこっちにおいで!」
 俺が呼ぶとその少年二人はお互いに顔を見合い、少し考えた後俺の前に走ってきた。


 「今からお兄さんがマジックを見せてあげるからね。このレシートをよく見て。種も仕掛けもないよね?」
 俺が財布からレシートを出し、少年二人に見せると二人は頷いて俺にレシートを渡した。


 「良い? よく見ててよ。ワン、トゥー、スリー、ラハーブン」
 その瞬間優しい炎がレシートを包み込み燃えた。
 少年二人を見てみると驚いて目を丸くして笑っている。


 「凄い! おじちゃんってマジックする人なの?」
 お、おじちゃん?
「おじちゃんじゃなくてお兄さんね。そうだよ。マジックをする人なんだ。でもただのマジックじゃなくて超能力マジシャンなんだ」
「へぇ~。おじちゃんって凄い人なんだ」
 おじちゃんじゃないって――。


 「他にも何か見せてよ!」
 少年が目を輝かせて言った。
 するとどこからか大きな声が響いた。
 「ちょっと! うちの息子達に何をするつもりですか!」
 ん? 母親か? ってか俺何もしてないけど。
 「マジックを見せてあげていたんですけど――」
 すると母親はえ? という顔をして申し訳なさそうに頭を下げた。
「すみません。さっき火が見えて何か悪いことを教えているんじゃないかと思いまして――」
「そうだったんですか。構いませんよ。お母さんも見ていきます? 即興マジックショーです。まぁ子供たちにリクエストされたんですけどね」
「是非お願いします」
 本当は母親は見たくもないと思うが失礼なことをしてしまったから見ないわけにはいかないと思っているのだろう。
 テレビではないから本に書いてあった呪文でやっていこう。


 「では浮遊の超能力マジックをお見せしましょう。ぼく、その野球ボール貸してくれる? ありがとう」
 少年から野球ボールを借りて右手に持った。左手でボールを撫で回すようにしていると三人はじっとボールを見ている。


 「ワン、トゥー、スリー、スリライアン」
 右手に持ったボールを離すとフワフワと宙に浮いている。
「すっげー! 何で?」
「凄いでしょ。何もないからボールと手の間に手を入れてごらん」
 少年二人が俺の両手とボールの間を何かないかと必死で探しているが何も見つからずにがっかりしているが、同時に物凄く喜んでいた。
 良かった――。でもまだまだこれからだ。


 「では続いて――何かコインはありますか? 小銭でもいいですが。ありがとうございます。では俺の右手にこの十円玉を入れてしっかり握ります。ぼく、お兄さんの左手の上に手を重ねて。そうそう。これから右手にある十円玉を今この子が閉じている僕の左手に移動させます」
 やべ――瞬間移動の呪文なんだっけ――。
 まずい、思い出せない――。
 気まずい雰囲気が四人の間に流れている。


 こうなったら自分で作ってしまえ。
 理論は簡単だ。物体の物質、粒子を魔力で運ぶだけだ。近い距離ならかなり簡単にできる。
 呪文は――。


 「お待たせいたしました。まだ右手に十円玉はありますね?」
 右手の十円玉を再び見せて閉じた。
 「ワン、トゥー、スリー、アランナキ・アルファデイ」
 その瞬間俺の左手を塞いでいる少年が「え?」と声を上げた。
 驚いた少年は急いで手をどかすとそこには十円玉が乗っかっていた。俺は右手に何もないことを証明し、移動させたことを分からせた。
 「どうやったの!? おじちゃん本当に凄いね!」
 おじちゃん――。
 「お兄さん・・・・はね超能力マジシャンなんだよ。お母さん、長々とありがとうございました」
 少年の母親を見て言うと先ほどまで嫌々参加しているという雰囲気が丸出しであったが、今は驚いた顔で満足げに何度も頷いていた。


「こちらこそ楽しませていただきました。今のマジックを見ていると凄腕のマジシャンとお見受けしますけどどこかの一門の方なんですか?」
「いえ、俺は独学の超能力マジシャンですよ。これからビッグになりますから応援よろしくお願いします」
「ではまだデビューとかはしていないんですか?」
「はい。デビューどころか始まってすらいないんですよ。情けないですけど」
 俺がそう言うと母親は少し考える素振りを見せ、顎に手を当てて地面を見続けている。
 少年二人は未だに目の前で起こった超常現象が信じられない様子で興奮して飛び回ってはしゃいでいた。


 どうしたんだろうか。何をそんなに考えてるの? デビューさせてくれる? んな訳ねぇよって。
 すると母親は口を開いた。
 「私の旦那が日本中央テレビの番組チーフをやっていて、今度オーディション番組をやるって言ってたんですけど出られるか旦那に相談してみませんか?」
 え? 嘘でしょ? ホンマに? って何で関西弁やねん!
「本当ですか? 良いんですか?」
「勿論です。最初に失礼な事をしてしまいましたし、子供たちも本当に喜んでいます。私自身も楽しませてもらいましたから。それにこうして出会ったのも何かの縁ですので是非相談してみましょう」
「ありがとうございます!」
 俺が深々と頭を下げると母親はいえいえと言って「では――」と切り出した。


「この公園でお待ちいただけますか? 今家に旦那がいるので相談してきます。直ぐに行ってきますので少しだけお待ちください」
「分かりました。あ、申し遅れました。俺は西条勇気です。よろしくお願いします」
「私も名乗っていなかったですね、失礼しました」
 するとポケットから財布を取り出して名刺を差し出してきた。
 「私は水面商事のCEOをしております、水面夢みなもゆめと申します。よろしくお願いします。では行ってきますね。章、柚亜、一回帰るわよ」
 嘘でしょ――。水面商事って世界中に支店がある超大企業じゃん……。そんな人と知り合えたなんてなんという幸運――。でも期待しすぎちゃだめだな。簡単にテレビになんて出れるわけがない。取り合えず今は待つか――。




 一時間程経ったがまだ公園には俺一人だけ。やはりダメだったか――。
 真冬の夕暮れはかなり堪える。俺の着ているものはロングTシャツにジーパンだからかなり寒い。
 震える体を何とか落ち着けようと必死で体を温めようとするが気温が下がっていく方が優勢となり、体温はどんどん下がっていく。


 これ以上いたら死ぬ――。そう思ったとき公園の入り口から女性の声が聞こえた。
 「すみません! 遅くなりました。紹介します、主人です」
 夢が走って俺のところに来て一緒にいる男性を紹介した。
 男性は頭を下げて名刺を取り出した。
 「私は水面芳次みなもよしつぐといいます。よろしくお願いします。ここではなんですから家に来てください。そこで話をしましょう」
 助かった――。少しは温まれる。
 「ありがとうございます。助かりました」
 俺の一言にキョトンとする夫婦。まぁ俺が助かったって言っても意味分からないだろうな。






 公園を出て三分ほどで大きな家の前に着いた。
「ここが我が家です。どうぞ」
「凄い立派なお宅ですね――。失礼します」
 門は二メートルほどあり、屋根は青、庭は芝生で覆われていて子供たちが遊ぶには十分の広さだ。家は外からの見た目だけでも相当広いことが分かる。


 玄関を入り、芳次の後に続いて中に入っていくと、一つの部屋に通された。
 電気はシャンデリア。絨毯はおそらくかなり高い。壁には絵画。どんだけ金持ちなんだよ……。
 「ここに座ってください。夢、お茶をお出しして」
 芳次は夢に言うと俺の正面に座った。


 「いきなりで申し訳ないんですが、西条さんをオーディション番組に出すことはできません」
 やっぱりそうか――。いきなり見ず知らずの奴が番組に出られる訳がない。
 しかし芳次は「ですが」と続けた。
 「実は年末特番で最強マジシャン決定戦をやることが決まったんですが、まだ出演者が決まっていません。その出演者を決めるのは私の仕事なんですが、妻が西条さんのマジックは凄いと言っていたので西条さんをこの番組に。と思っているのですがどうですか?」
 年末特番って嘘でしょ? オーディション番組より凄いじゃん。もしかしたら本当にビッグになれるかもしれない……。


 「是非よろしくお願いします!」

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