マイライフ

星河☆

オムライス

 列車が走行し始めてから丸一日が経った。窓から見える景色は先に進むにつれて田舎景色になり、山の麓を走ったり山を越えたりと色々な景色を楽しむ事ができ、飽きる事はなかった。


 列車の一室で少年二人は夕べの話し疲れでぐったりして眠っていた。しかしペットのピクシーは主人たちの貴重品などを守ろうと眠らずに番をしていた。
 少年二人をはさむテーブルには大量のお菓子のゴミや屑が散らばっていた。その散らばった屑をピクシーは度々拾って口に運んでいる。


 夕日が一人の少年の顔に照り、誠は目を覚ました。
 「おはようメロニケス。ずっと番をしてくれてたんだね」
 誠はそう言うとメロニケスを撫でた。撫でられたメロニケスは誇らしげに胸を張っている。




 「ふぁ~。誠起きてたんだね。おはよう」
 もう一人の少年シェシルも目を覚まし、大きくあくびをした。


 「もうそろそろゴミを片付けないと」
 誠はそう言ってゴミ袋を取り出してテーブルや床に散らばっているゴミを拾い始めた。
 寝起きのシェシルもまだボーっとしながらも一緒にゴミを片付けた。




 夕日が地平線に沈み始めた頃列車は速度を落として走行をしはじめた。
 「もう直ぐ着くんだね」
 誠は窓から顔を出して先の景色を見た。その先には大きな城がそびえ立っていた。
 「大きいね~」
 シェシルも城を見て呟き、座席に座りなおした。


 『まもなくギャオレルー魔術学校に到着します。生徒は制服に着替えて荷物をまとめて下さい。貴重品以外は列車内に残して置いてください。後ほど職員が荷物を各寮に運び込みます』
 アナウンスに従い、誠とシェシルは大きな鞄から制服を取り出して着替え始めた。


 程なくして二人とも着替え終わった。ギャオレルーの制服は真っ黒で左の胸元にはドラゴンの模様が入っていた。
 「この制服格好良いね」
 シェシルがそう言うと誠は同意するように頷いた。
 しかし誠はちゃんとしたものを食べてこなかったので普通の十歳と違い少し背も小さく制服が少しぶかぶかになっていた。


 そして列車は完全に停車し、列車から出るようにアナウンスが流れ、生徒は次々とコンパートメントから出て列車を降りた。


 『一年生は六年生の指示に従って先に進んでください』
 再びアナウンスが流れ、誠とシェシルは奥で一年生に指示をしている六年生らしき少年の近くへ行った。
 「一年生の皆、今から学校に入るけど絶対にはぐれないように! 森には魔物がいるけど傍についていれば安心だからね! じゃあ行くよ!」
 先頭が歩き出すと後続も歩き始め森を進みだした。
 完全に夕日が沈んでおり、道の脇にあるライトが無いと真っ暗で何も見えなくなってしまう。
 メロニケスは主人の胸ポケットにしっかり入って誠の顔を見上げている。


 十分程歩くと大きな門の前に着いた。先頭の六年生が門の内側にいる男に話しかけ、門が開いた。
 真っ黒い門がゆっくり開くと門の先にある大きなライトが光り、辺りを明るくした。


 「さぁ、もう直ぐ着くよ」
 再び歩き出した。


 「大きい城だね――」
 シェシルが目の前にある大きな城を見上げて独り言のように呟いた。誠はでかいと一言呟いて黙り込んでしまった。誠には一つ大きな障害が待っている。学校には多くの教師がいる。つまり大人だ。大人に対する恐怖を抑えられるようになったからといって恐怖が無くなったとは言えない。そして実際に大人と対峙した時どんな感情になるのか。それは誠自身も分からない。その時になってみないと分からない。しかし、努力はしてきた。シャードと共に。その思いを抱きながら誠は前に進んでいる。


 十メートルほど先には白いアーチが生徒たちを出迎えている。
 そのアーチの下に到着した先頭の六年生は立ち止まって振り返った。


 「ここからはラグーン教授にバトンタッチする。皆、入学おめでとう! ではまた中で会おう」
 六年生はそう言うとアーチの先の大きなドアに入っていった。
 残された一年生はどうして良いのか分からず辺りをキョロキョロ見回して明らかに動揺していた。


 「誠、僕たちどうなるの? 教授にバトンタッチって言ってたけどどこにもいないじゃん――。この森って魔物いるんだよね……」
 シェシルの言葉は誠に届いていなかった。誠は今から始まる学校生活のことで不安と恐怖でいっぱいだった。しかし一ヶ月前よりは良くなっていた。やはり努力があったからだ。
 誠は目を閉じ、深く深く深呼吸を繰り返し、気持ちを落ち着かせた。


「誠ってば! どうしたの? 緊張してる?」
「あ、ごめん。大人が出てくるって思うと少し緊張しちゃってさ。でももう大丈夫」
「そっか。良かった。あ、誰か来た!」
 シェシルの言葉に皆が一斉にアーチの方を見た。


 コツコツと革靴が地面とぶつかる音が響き、一人の男が現れた。
 「諸君、私はホワイト・ラグーン教授だ。今から諸君を入学の集いの儀に連れて行く。そこで入寮する寮が決まる。何か質問は?」
 ラグーンが新一年生を見渡して聞いた。すると一人の少年が手を挙げた。


「寮はどうやって決まるんですか?」
「事前に計られた実力によって均等に分けられる。中では寮の発表だけされる」
 すると少年たちはザワザワし始めた。
「いつ計られたんです? そんなのされた覚えはありません」
「そんなのは簡単だ。君たちに気づかれないように計ったんだ。魔法は色々な事ができる」
 当たり前のようにラグーンは答え、踵を返して歩き始めた。慌てて後方も歩き始め、城の中に入った。




 城の中はいかにもお城という雰囲気でシャンデリアが堂々と部屋の中心を飾っている。


 一行は部屋を次々と進んでいき、大きな階段の前に着いた。するとラグーンは少年たちに振り向き、大きな声を上げた。


 「諸君、この先で入学集いの儀を行う。三列に並んで」
 すると新一年生はばらばらながらも三列になり始め、五分ほどで整列は終わった。
 全員の整列が終わるのを確認するとラグーンは階段を上り始め、上った先にあるドアを魔法で開いて中に入った。
 一行が中に入ると先に入っていた上級生や教授陣が拍手で出迎えた。


 誠は教授陣の中にシャードがいるのを気づくと笑顔になり、手を振ろうとしたが周りの雰囲気がそうさせずに出来なかった。
 しかしシャードは誠のやろうとしたことに気づいてニコッと笑って軽く手を挙げた。


「あの人は?」
「ある意味僕のパパだよ。あの人に連れてこられたんだ」
「そうなんだ。教授なんだね」
「うん」
 全員が部屋に入ったところで自然にドアが閉まり、教授陣の椅子に座っている中心の老人が立ち上がった。


 「新一年生の諸君。入学おめでとう。今から君たちの入る寮を発表する。君たちは六年間そこで生活し、そこが家となる。良い事をすれば点を与えられ悪い事をすれば点を取られる。ではホワイト先生、始めて下さい」




 「では寮の発表をする。アビス・クレイナ。マガニケス!」
 するとマガニケス寮のテーブルの生徒たちが大きく拍手をして少年を迎えた。


 「エバルナ・サインス。キョウフィー! アクレナ・ビストル。ハンゾウ! アデルス・グレル。ロックロウ! ビルシネ・ネイガン。リョード!」
 次々と名前が呼ばれていき、寮が決まっていく。新一年生はどの寮になるのかワクワクと緊張で表情は複雑になっていた。




 「マコト・ソトイ。ハンゾウ!」
 誠は自分の名前が呼ばれ、一瞬びっくりしたが直ぐに反応して小走りでハンゾウ量のテーブルに向かった。
 ハンゾウの上級生と握手をして寮が決まった喜びを分かち合っていたが誠は緊張が勝っていて喜んではいられず教授席にいるシャードを見た。
 「良かったな」
 シャードは声には出さずそう言って誠の緊張を和らげようとした。誠は何とか緊張を抑えようと何度も深呼吸して気持ちを落ち着かせてやっと落ち着いたところでシャードに向かって軽く笑顔を作り手を振った。


 「シェシル・ホード。ハンゾウ!」
 シェシルも緊張していたのか、誠と同じ寮に決まったところで笑顔になり、誠の隣に走って座った。
 誠もシェシルと同じ寮に決まり、嬉しさがこみ上げてきてシェシルと堅く握手を交わした。






 「以上で寮決めの儀式を終了する。諸君、入学おめでとう」
 ラグーンはそう言うと教授席に座った。
 そして先ほど挨拶をした老人教授が立ち上がって話し始めた。


 「ではもう一度、入学おめでとう。上級生は知っていると思うが通常の食事は食堂で行う。しかしこういった行事のときはこの多目的講堂で食事を行う。一年生の諸君は覚えておくように。では宴だ」
 老人がそう言うと各テーブルには多くの料理が並べられた。


 すると誠の表情が和んだ。
 誠の前だけに大きなオムライスが置かれていた。



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