陣内祐樹の事件簿

星河☆

試験

 陣内祐樹じんないゆうきは気分が高揚していた。
 明日が待ちに待った日本国際魔術学校への入学式なのだ。


 世界人口の約6割が魔法使いである。
 アジア圏では日本に魔術学校があり、アジアの殆どの魔法使いが日本国際魔術学校に入学する。






「祐樹〜、そろそろ行くぞ」
「分かったー」
 白石雄吾しらいしゆうごは祐樹の本当の親ではない。
 祐樹が1歳の時本当の両親は事故で亡くなった。
 事故に遭った当時祐樹を預かっていた雄吾はそのまま祐樹を引き取る事を決め、育ててきた。
 そしてただ育てるだけでなく魔法も教え込んだ。
 その甲斐あって祐樹は無詠唱で魔法が使えるようになったのだ。
 通常魔法は呪文を詠唱しなければならない。しかし祐樹にはそれが不要なのだ。




 今日は祐樹の入学祝いと一学期を過ごす為のお金を下ろしに魔法横丁へ行く事になっている。




 「ねぇ、おじさん何買ってくれるの?」
 祐樹は屈託のない笑顔で雄吾を見つめている。


「楽しみに待っておけ」
「ちぇ、ケチんぼ」
「そんな事言うんだったら何も買ってやらないぞ」
「冗談だよ! 全くもう」
 祐樹が頬を膨らましてふて腐れると雄吾は笑顔で祐樹の頭を撫でた。










「お前に買ってやるのはペットだ。ペットショップに行って何が良いか一緒に探そう」
「やった! でも高いんじゃないの?」
「そんな事は気にしなくて良いんだよ。行くぞ」
 二人はペットショップへ向かって歩き出した。
 祐樹にとって横丁に来るのは今日で二度目だ。
 一度目は学校用品などを買うためにやってきた。




 二人は少し早歩きで進み、『昭二ペットショップ』と書かれている店に二人揃って入った。


 「何でも良いぞ。但しねずみだけはやめてくれよな」
 雄吾はそう言うと祐樹に店内を歩かせた。
 店内には色々な魔法動物や通常動物がいる。
 ピクシー、チェリン、フォードー、ふくろう、ねずみ、猫、犬、インコ等様々な動物を見て祐樹は興奮していた。
 魔法動物は見たことあるが、野生のものばかりでこんなに人に懐いているのは始めてみるからだ。




 「ねぇ、本当にねずみ以外なら何でも良いの?」
 祐樹が雄吾に尋ねると雄吾はニッコリと笑って頷いた。






 しばらく店内の動物を見て祐樹は決心した。


「フォードーが良い!」
「うん、分かった。すみません! この子ください」
 店員を呼び、生後3ヶ月と書かれている魔法動物フォードーを指差して言った。


「かしこまりました。この子は生後3ヶ月ですので懐くのは早いですよ」
「ご飯は何食べるんですか?」
「主に生肉です。生後半年までは生肉をあげて、それ以降は骨付きの肉をあげてください」
「分かりました!」
 祐樹は元気良く返事をしてゲージから出されたフォードーを肩に乗せた。
 フォードーはふくろうに似ていて、見た目はふくろうそっくりだが火を噴き、顎がかなり頑丈で餌は骨ごと食べるのだ。
 祐樹が買ったフォードーは羽は黒く、丸い目で祐樹を見つめている。
 祐樹は嬉しそうに頭を撫でてあげた。








 ペットショップを出た二人は小さなゲージに入っているフォードーと共に銀行へ向かった。
 祐樹は何で銀行へ行くのか疑問に思っていた。しかしすぐに疑問は解決された。


 「良いか、今から銀行に行ってお前の両親が残してくれた金を見せる。自由に使いなさい」
 雄吾はそう言うと二人で銀行に入っていった。


 「陣内祐樹さんの金庫を開けてくれ。鍵はここにある」
 受付に行き、雄吾が言い、受付係員が鍵を受け取り、二人を案内し始めた。


 エレベーターで地下3階まで降り、金庫部屋が並んでいる階に降り立った。


 「陣内祐樹さんの金庫、6537番です。開けますから少し下がってください」
 係員はそう言うと鍵穴に鍵を入れて回した。
 カチッという音がすると自然にドアが開いた。
 祐樹は何があるんだろうと中を覗くとそこには金、紙幣が多くあった。
 中の様子を見た祐樹は目を丸くして雄吾を見た。
「これは全部お前の両親が残してくれた金だぞ。これからは学校生活で必要な物や自分が欲しい物はこのお金で支払うんだぞ」
「分かった!」
「すみません、ここの金庫の専用カードを作って頂けますか」
「かしこまりました」
 祐樹は金庫から紙幣の束を幾つか取り、金庫を閉めた。
 二人は再びエレベーターで地上に上がり、受付でカード発行の手続きをしてカードを受け取った。


「良いか、無駄遣いはするなよ」
「うん。分かってる」
 雄吾から受け取ったカードは金庫の中にあるお金や金の分だけ使用できるという物だ。
 祐樹はカードを財布にしまい、帰路に立った。










 翌日、今日は日本国際魔術学校の入学式だ。


「準備良いか?」
「うん! バッチリ! ロイも持ったしね」
 祐樹はペットの名をロイと名づけた。
 祐樹の好きな漫画のキャラクターの名前だ。


 二人は二人乗り用箒に乗った。勿論運転は雄吾だ。
 他の荷物は前日に学校に送っている。




 運転を二時間程続け、学校に到着した。
 学校は敷地500ヘクタールもある。
 校舎は城のような建物で西洋の建物を意識しているような建物だ。


 敷地内には様々な国の親子連れが多くいて入学式の時を待っている。




 『間もなく第1280回入学式を執り行いますので第二大広場にお集まり下さい』
 スピーカーから日本語で話された後各国の言葉で同じ放送が行われた。
 祐樹と雄吾は入学式が行われる第二大広間に向かった。








 「ただいまより日本国際魔術学校、第1280回入学式を執り行います」
 大見ケミ副校長が進行を始めた。
 そして一人ひとり新入生の名前が呼ばれ、祐樹の番になり大きく返事をした。








 「それではただいまより新入生編寮試験を始めます」
 大見副校長がそう言うと新入生からざわざわとざわめきが起こった。
 どうやら保護者は試験を教えていなかったようだ。と言うより学校から口止めを受けていたのだ。




 「今から校庭に行き魔物と対峙して下さい。そこでの内容で寮が決まります。尚安全面は保障されておりますのでご安心ください」
 大見副校長がそう言うと他の教授が新入生を校庭へ案内し始めた。








 「ただいまからF級魔物と対峙していただきます。では先生方口寄せをお願いします」
 すると校庭中にいる教授たちが魔法陣を描き、魔物を次々と口寄せした。その瞬間静寂を保っていた校庭に魔物の咆哮が鳴り響いた。
 新入生はパニックに陥っているが一部の生徒は落ち着き払っていた。祐樹もその一部だ。






 「炎の竜巻フェアリーブファイヤ!」
 祐樹は立ち向かってくる大量の魔物を大きな炎の竜巻で蹴散らした。
 祐樹の右手薬指には指輪がしてある。
 その指輪が祐樹の魔力を吸い上げ魔法を放っているのだ。




 「ファイヤ!」
 他の生徒も祐樹の魔法を見て気を取り戻したのか、攻撃をし始めた。






 20分程経過しても魔物は減らない。
 次から次へと教授が魔物を口寄せしているのだ。




 祐樹が善戦している中隣で戦っている一人の少年が転び、複数の魔物が一斉にその少年に牙むき出しで襲っていった。
 その瞬間一部の教授が杖や指輪を魔物に向け魔法を放とうとした時、祐樹が無詠唱魔法を放った。


 大きな炎の塊がいくつも魔物に襲いかかり、魔物を消し炭にした。
 しかし祐樹が目を離した隙に祐樹が戦っていた魔物が祐樹に向って襲ってきた。
 「青い稲妻ブルーサタン!」
 教授が魔法を放ち、魔物は一斉に散った。


 「他人の事より自分の事に集中しなさい。安全面は問題ないと言ったはずだよ」
 教授の一人が祐樹に駆け寄り話した。


「すみません――」
「分かれば良い」
 教授は元の位置に戻って行った。
 すると祐樹が助けた少年が祐樹のもとへやってきた。


「さっきはありがとう。僕は孝。品川孝しながわたかし。よろしくね」
「うん。俺は陣内祐樹。よろしく。怪我はない?」
「大丈夫。祐樹が助けてくれたから」
「良かった。じゃあまたね」






 その後10分程戦いを続け、笛が鳴り響いた。
 その瞬間魔物が一斉に消え、広大な敷地の校庭に静寂が戻った。
 疲れ切った生徒たちは地面に寝転がり始めた。




 「お疲れ様でした。これで編寮試験は終了です。結果はすぐに報告しますので大広間にお戻り下さい」
 大見副校長はそう言って壇上から降りた。
 生徒たちは続々と大広間に戻り、各自の椅子に座った。








 「では結果を発表します。会田有志あいだゆうし、討伐数21匹、徳川寮。アイ・メイデン、討伐数31匹、卑弥呼寮。アウ・ローシー、討伐数22匹、北斎寮。亜枝健二あえだけんじ討伐数75匹、晴明寮――」
 大見副校長が結果を告げる中次々と名前が呼ばれ、寮の上級生がいる所へ向かっていく。
 そして孝の名前が呼ばれた。
 「品川孝、討伐数34匹、晴明寮」
 孝は祐樹を見てニコッと笑い、晴明寮の方へ走って行った。


 「陣内祐樹、討伐数156匹、晴明寮。尚新入生記録更新です」
 その瞬間大広間の人全てがざわめいた。学校の新入生記録更新だ。
 祐樹は走って孝の隣に座り、話し始めた。


「祐樹って凄いんだね! 学校記録更新らしいじゃん」
「たまたまだよ」
「そんな事ないよ! だって僕を助けてくれた時無詠唱だったじゃん」
「まぁ訓練してきたからね」
「やっぱり凄いよ! 僕には全然出来ないからね」
「これからだよ。まぁこれからよろしくね」
「うん、よろしく!」
 祐樹は初めての友達が出来た。






「おじさん、今日までありがとうね。頑張るから!」
「おう。頑張れよ。これにサインしておいたから」
 雄吾から受け取ったのは外出許可書だった。
 「これ何?」
 祐樹は首を傾げて聞いた。
「これは学校が休みの日だったり放課後に学校外に出る許可書だよ。これがあれば外で息抜きが出来るからな。近くの町にはペットの餌が買えたりするし色々遊べる施設もあるから楽しみにしておけよ」
「そうなの? ありがとう!」
「但し悪さはするなよ」
「分かってるよ!」
 入学式が終わり、新入生が保護者と楽しい会話をしていた。
 祐樹はここまで育ててくれた雄吾に感謝した。
 別れの時が来た時、祐樹はルンルンとした気持ちで寮に入っていったが雄吾は少し名残惜しそうな表情で見送った。

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